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第2章 シャウラ村編

第42話 体調不良

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 ある日の夕方。仕事を終え家に帰り門を開けると、薬師のスティリアさんが家から出て来た。

「何かあったのか」
「アイシャさんの体の調子が悪いと言われて、薬を調合していました」
「アイシャが!」

 慌てて家の中に入ると、ベッドに横たわるアイシャにチセが寄り添っていた。

「アイシャ昨日から体の調子が悪くて。今、薬を飲んで楽になったそうです」
「ユヅキさん、あまり心配しないで。私は大丈夫だから」

 この村に医者はいない。もし何かあれば馬車で町まで行かないといけない。

「アイシャ、無理はするな。調子が悪ければトリマンの町へ行って、医者に診てもらおう」
「薬ももらったし、明日は家でゆっくりするようにするわ」

 翌日もアイシャの容体は悪いようだ。寝込むと言うほどでもないが、食事もあまり喉を通らない様子だ。
 町へ行こうと言うと、アイシャは医者にかかる前に物知りな村長に相談したいと言うので、俺も一緒について行く。
 部屋で待たされていた俺に、村長の奥さんがやって来た。

「ユヅキさん、おめでとう。アイシャさんのお腹の中に子供がいますよ」

 子供? 誰の?

「俺とアイシャの子か!」

 村長の奥さんと一緒に部屋に入ると、椅子に座ったアイシャがニッコリと笑いかけてくれる。

「アイシャ、子供ができたんだってな。良かったな」

 感激しアイシャの元に行き、肩をギュッと抱く。

「もう、ユヅキさんったら。やっとあなたとの子供を授かる事ができたみたい」

 その後、村長の奥さんに妊娠中どのように過ごすのかを教えてもらった。つわりが酷くて食事を吐いてもそれほど気にしなくてもいいそうだ。まだお腹も大きくなっていないし、激しくなければ今まで通り体を動かした方がいいらしい。
 村長の奥さんが定期的にアイシャを診てくれると言ってくれて安心した。

「良かったな、アイシャ。ずっと子供が欲しいと言っていたものな」

 早速家に帰りカリン達にも報告する。

「アイシャ、おめでとう」
「おめでとう、アイシャ。後でお腹見せてくださいね」

 カリンもチセもお祝いしてくれる。

「ふたりともありがとう。まだお腹も大きくないし普段通りでいいそうよ」
「そうなんですか」
「それにしても、俺にも子供ができるとはな。アイシャ、よくやった」
「何言ってんのよ。あれだけ子作りに励んでおいて」
「あ、いや、あのな……」

 何にせよ、めでたい事だ。新しい家族のためにも頑張ってみんなを守っていこう。
 数日後、森から魔獣の群れが平原に出て来た。

「アイシャ、弓を持って大丈夫か。お腹の子に何かあったら大変だぞ」

 オロオロする俺に、アイシャは気遣うように答える。

「ユヅキさん、心配ないわよ。村長の奥さんも体動かして大丈夫って言っていたでしょう」
「でもな~」
「師匠。そんなこと言ってたら魔獣が村に入ってきちゃいますよ」
「そうよ、ユヅキ。さっさと前に行きなさい。あんたがアイシャを守るんでしょう!」

 足で背中を押され、森から出てきた魔獣を俺とチセが前衛で倒していく。
 アイシャはいつものように弓で魔獣を倒して援護してくれる。
 大丈夫なんだとは思うが、やはり不安だ。前の世界でお産や妊娠の事をもっと勉強しておくんだった。

「あれ、でも人族と獣人の間の子供ってどうなるんだ?」

 カリン達に聞いてみる。

「種族が違っても、普通にどちらかの種族の子供が生まれるでしょう」
「師匠。ネクスのお父さんはドワーフ族でネクスは豹族、そしてお姉さんのレトゥナはドワーフ族でしょう。豹族とドワーフ族の子供なんですから、それが普通ですよ」

 そうなのか。じゃあアイシャとの子は狼族か人族になるのか。これは楽しみだな。

「10ヶ月後に生まれるんだな」
「あんた、何言ってるのよ。1年以上な訳ないでしょ。6ヶ月ほどよ」

 そうだった。こっちの1ヶ月は45日だった。すると来年の春の終わり頃から夏にかけて生まれるな。

「あんた、そんなんでちゃんとお父さんになれるんでしょうね」

 そんな事を言われても、俺には経験も知識も無いからな。
 そんな俺を見かねてか、チセがお産の手伝いをしたいと言って、村長の家に通うようになった。お産は村長の奥さんが受け持っていて、今までに何人もの村の子供を取り上げてきたそうだ。

「アイシャに何かあっては大変です。今から勉強して、お産もあたしが手伝えるようにしますね」

 チセは、村長の奥さんに色々と教えてもらい、実際の分娩にも立ち会うそうだ。

「チセ、すまないな。いつも近くにいるチセがお産の事を知っていてくれたら心強いよ」
「あたし頑張りますね。だから師匠もしっかりしていてください」
「はい、すみません」

 一方、アイシャはつわりも収まり元気いっぱいだ。

「今日は、自警団と狩りの練習ね。裏山に登りましょうか」
「アイシャ。無理しなくていいからな」
「大丈夫よ。みんなと一緒にちょっと鹿を狩りに行くだけですからね」

 自警団を連れて意気揚々と山に入って行った。

「だからユヅキは心配しすぎなんだって。ほら、私達は村の周りの壁を作りにいくわよ」
「はい、すみません」

 謝ってばかりの俺を引き連れ、カリンは森へと向かう。アイシャもあれだけ元気なら大丈夫か。俺は俺でみんなを守れるように頑張るしかないな。
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