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第1章 共和国の旅

第26話 マンドレイクの調査依頼1

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「自分は魔術師協会、薬師のスティリアと言います。シャウラ村産マンドレイクの調査依頼で来ました」

 リザードマンの女性が丁寧に挨拶してくれた。知的な印象を持つ人だと思っていたが、薬師の人だったのか。どうりでな。

「俺はユヅキ。こちらからアイシャ、カリン、チセだ」
「今回は、魔術師協会からの依頼で、ユヅキ様への指名依頼となります」

 マンドレイク引き渡し時に、書類にサインしているから俺の名前を知っているんだろうが、料金の高い指名依頼とはな。
 依頼内容については、ギルドの職員が説明してくれる。

「依頼内容は、シャウラ村のマンドレイク生息地の調査、および調査員の護衛となります。調査のため村に数日間の滞在を希望しております」
「俺達はこの町を見るために来ているだけで、冒険者の仕事をしに来たのではないのだがな」
「ユヅキ様。魔術師協会から是非にと要請されていまして、受けていただけないでしょうか」
「ユヅキさんが持ちこまれた大量のマンドレイク。その生息地に直接行って、土を持ち帰って調査したいのです。なんとかお願いできないでしょうか」

 ギルド職員とスティリアさんの双方から頼まれては、無下に断る訳にもいかないか。

「みんなはどう思う」
「そうね、どうしてもと言うなら仕方ないんじゃない。これから帰るところだし」
「あたしも、マンドレイク調査のための依頼なら受けてもいいと思います」
「また、この町に戻って来るのかしら」

 護衛依頼となると往復になるのかと、アイシャが疑問を口にする。

「護衛は、この町から出て、ここに戻るまでとなっています。スティリア様、それでよろしいでしょうか」
「ええ。マンドレイクの生息地に連れて行ってもらって、調査サンプルをこのカイトスに持ち帰るまでが今回の依頼となります」

 少し面倒だが、報酬の受け取りや実績を付けるためには、この町のギルドに戻らないといけないし仕方ないか。

「よし、それじゃ依頼を受けることにしよう。明日の昼前にここを出る事になるが、用意はできるか」
「ありがとうございます。自分の準備はできていますので、荷物を持ってまたこのギルドに来ますね」
「では依頼契約についてはこちらでやっておきます。ユヅキ様、事務所の方に来ていただけますか」

 やれやれ、仕事をするつもりはなかったが、依頼を受けたからにはやり遂げんとな。
 途中で野営をする場所は、来た時の1カ所しか覚えていない。明日の昼に町を出て、明後日の夕方頃村に着くことになるな。
 明日の出発までに、帰りの分の食料や水を用意すればいいか。馬車内の荷物を片付ければ、スティリアさんひとり乗ってもらうスペースは十分あるしな。

 翌日、残りの準備のため商店街に買い出しに行き、カリンはお土産を買いたいと店を回る。
 時間的には余裕がある。準備を整えてギルドで待っていると、スティリアさんが大きな旅行カバンを2つも抱えてやって来た。

「お待たせしました。すみません、これを積んでもらえますか」
「随分と大きな荷物を持ってきたんだな」
「ええ、調査用の機材もありますし……」
「ユヅキ、女性は色々と物入りなのよ。チセ、そこの木箱を積み上げて荷物を積んであげて」

 まあ、そういうものなのか。数日間宿泊すると言っていたしな。馬車は広いし、問題は無いだろう。

「まだ昼には早い時間だが、出発しようか」
「はい、よろしくお願いします」

 カリンが門に向かってゆっくり馬車を出してくれた。

「改めて、こちらがアイシャ、こっちがチセ、御者をしているのがカリンだ」
「皆さん、よろしくお願いします。薬師のスティリアといいます。急な依頼を受けていただいてありがとうございます」
「ちなみにアイシャとカリンは俺の妻だ」
「まあ、お若くてお綺麗な奥様達ですね。よろしくお願いします」
「それと、こっちがキイエだ」
「キーエ」

 御者台の横にいたキイエが一声鳴いた。

「まあ、ドラゴンですよね。すごいですね。爪で引っかいたりしませんか」
「大丈夫ですよ、この子は賢い子なので。みんな家族みたいなものですから、スティリアさんも気楽にしてくださいね」

 アイシャがキイエを抱きかかえて、スティリアさんに見せる。
 さて、城門を出たようだな。俺は御者台の横に座って警戒をするか。後ろでは女子同士、打ち解けたように話をしている。

「あの、スティリアさん。マンドレイクは育てられないって聞いたんですが、本当ですか?」
「ええ、今までの文献ではそうね。でも育てようとする努力は続いているのよ。今回の調査もその一環なの。あなたもマンドレイクを育てようとしているのかしら」
「はい、師匠……、ユヅキさんと一緒に育てようとしているので、マンドレイクの事が知りたくて」

 スティリアさんは専門家のようだし、チセが詳しく聞いてくれればいいか。後で俺がチセに教えてもらおう。前方の警戒をしつつ、後ろにも耳を傾ける。

「マンドレイクは木の魔物に分類されてますが、魔石も持たず動物のように動き回る不思議な生物です」
「やはり珍しい生き物なんですね」
「そうですね。でも群生地の場所は分かっているので、数は少ないですが、定期的に冒険者に依頼して持ってきてもらっています」
「じゃあ、今回の場所もその群生地の1つなんですか」
「いいえ、初めての場所なんですよ。なので魔術師協会に申し出て、調査してもらえる事になったんです」
「スティリアさんって、マンドレイクについて詳しいんですね」
「ほんとはもっと上の人で詳しい方がいるのですが、もうお歳ですし。それで今回の調査を自分に任されたんです」

 あの魔術師協会で会ったおじいさんが、スティリアさんの上司だったようだな。

「ところで今回大量に採られましたけど、抜く際にマンドレイクが悲鳴を上げたと思うんですが、どうやって採ったかご存じですか?」
「あのですね、実は。ゴニョゴニョ……」
「えっ、女性のおしっこ……」
「しっー! 静かに!」
「あっ、これは失礼しました。それって本当なんですか。古い本にそんなことが書かれていた記憶はあるのですが……」
「何でも、村に伝わる伝承だとかで……」
「すごいですね。自分はシャウラ村って初めてですけど、少し興味が出てきました」

 何やら後ろでコソコソと話しているようだが、これから大きな街道を逸れて森の中の小道に入って行く。

「お~い、そろそろ脇道に入るぞ。後ろの警戒頼むな」
「は~い」

 俺達は順調に、シャウラ村への道を進んでいく。


 途中で野営をして翌日。予定通り夕方前に村に到着した。まずは村長の家に俺達4人で挨拶に行き許可をもらう。

「村長。マンドレイクの調査をしたいと言う、魔術師協会の人を村に連れて来た。数日間ここで調査したいんだが、いいだろうか」
「そうか……それであんたらもここへ、帰って来たんじゃな」
「それもあるが、俺達は毒の川の調査が途中だからな」
「あの、村長さん……」

 アイシャが、この村に帰って来た理由を説明する。

「川の毒の原因が分かって、川が綺麗になったら私達4人、この村に住みたいと思っているんです」

 そのアイシャの言葉に村長は驚き、大いに喜んだ。

「実はあんたらの事を思って町に送り出したんじゃが、毒の川を何とかしてくれるのはあんたらしかいないと思っておったんじゃよ。それに港町で商人に騙されていたことを教えてくれたと、一緒に行ったカネイラ達が感謝しておった」

 長年の付き合いだと、今までそんな商人と取引してきたのは村長自らの責任だと悔やんでいた。この村の者達だけでは、できない事も多いと村長は話す。やはり外部の者の助けが必要なようだ。

「もしも、あんたらがこの村に住んでくれるなら、こんな喜ばしい事はない。村のみんなも歓迎するじゃろう」
「だが、毒の川のままでは長く住むことはできない」
「そうじゃな。最悪、ここを分村させる事も考えようかのう。随分前から計画しておったんじゃが、鐘1つ下流に綺麗な川が流れておる。そこへ集団移住するのも良いじゃろう」

 鐘1つ先というと、毎日水を汲みにっている場所だな。俺達のために、そこに新しい村を造ると言うのか。
 ここの川が毒に侵されて以降、この村自体を移動させる計画があったようだ。だが故郷を離れたくないと言う住民もいて、新しい村を造り出す労働力も無く、計画は頓挫したままになっていたようだ。

「もし、あんたらが手伝ってくれるなら、移住しようという村民も出てくるじゃろう。あんたらはそれだけ頼りにされておるようじゃしな」
「そうなのか。だがまずは、スティリアさんとマンドレイクの調査をして、その後川の毒の原因を探ってからだな。それでいいか、村長」
「ああ、よろしく頼むよ」

 その後、スティリアさんを村長に引き合わせ挨拶してもらう。
 俺達がまたここに滞在すると聞いて、村民達が寄合所に集まって歓迎してくれる。

「あなた達、帰ってきてくれたのね」
「村に住んでくれると聞いたぞ。ありがたいことだ」

 集まった村の人達も口々に歓迎の言葉をかけてくれた。何か誤解もあるようで、一緒に来てくれた村長が、移住計画も含めみんなに説明してくれた。

「それなら、俺達と一緒に住むことに変わりないじゃないか。家も建てんといかんが、まずはこの寄合所に部屋を作らないとな」
「そうね。食事もまだでしょう。今から作るわね」

 やはり、俺達が帰って来ないものだと思っていたんだな。ここに作っていた仮の部屋も撤去されていた。
 村の移住計画もある。最低でも半年以上はこの村に暮らす事になりそうだ。そのための家も村民が建ててくれると言う。

「みんな、ありがとう。これからは俺達もみんなと同じ村民だ。気兼ねなくやろう」

 アイシャ達も一緒になって、食事を作ってくれる。今チセが、スティリアさんの荷物を降ろしてくれている。
 スティリアさん用の部屋も作ってくれて、一緒に寄合所で歓迎会をしてくれるそうだ。
 村民のみんなと楽しく夜を過ごす。やはりこの村に帰ってきて良かった。
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