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第1章 共和国の旅

第16話 水牛魔獣との戦闘

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 アイシャ達が位置に着いたようだな。こちらに合図を送ってくれている。

「チセ。一緒に攻撃を仕掛けるぞ」
「はい」

 ふたり、魔道弓に矢を番えて同時に攻撃を仕掛けるが、魔獣までかなりの距離があるし森の中だ。これは牽制だ、当たらなくても攻撃されたと魔獣に思わせればいい。姿を隠さず、何度も矢を射る
 大概の魔獣は攻撃されると、逃げずに立ち向かってくる。ここの水牛の魔獣もこちらを見つけ河原を走って向かってきた。

「さすがに走ると速いな。チセ、奴らが川を渡ろうとしたら攻撃するぞ」

 森の奥からも魔獣が現れて、川向こうの河原で土煙を上げながらこちらに向かって走って来ているな。8頭程いるか。
 水牛の魔獣もこの川が毒の川と知っているのか、俺達に近づいてから最短距離で川を渡ろうとする。

「今だ!」

 俺の弓とチセの魔弾、上空にいるキイエも加わって総攻撃を仕掛ける。
 林からもアイシャの弓とカリンの魔法攻撃が始まった。
 やはり川を渡ろうとすると走る速度も落ちる。そこに総攻撃を受けて次々と魔獣が倒れていく。

 それでも何頭か川を越えて坂を登って来た。角から水のやいばを飛ばしてくる。だがこれなら俺とチセの鎧の魔法耐性で防ぐことができる。
 チセは坂を登って来た魔獣に、鉄拳の腕から魔弾を発射する。大きな炎が上がり魔獣が河原に転げ落ちていった。

 その炎の向こうから雄叫びを上げ、2頭の魔獣が坂を登りこちらに走って来た。
 頭を下げ鋭い角をこちらに向けてくるが、俺は横に身を躱し角の根元に向けて上段から剣を振り下ろす。
 超音波振動の剣は角ごと魔獣の頭を切り裂いた。

「せーのっ!」

 隣りにいたチセが、もう1頭の魔獣の額に鉄拳武器を叩きこむ。
 頭を割られ首の骨が折れた魔獣が、チセの頭上をスローモーションのように宙を舞う。もんどり打って腹を上にして倒れ込んだ魔獣は動く気配がない。これは即死だな。
 攻撃態勢を取りながら川を覗き込むと、6頭の水牛の魔獣が倒れていたが、その内の2頭が起き上がりこちらに向かって来る。さすがに体力のある魔獣だ。

 俺とチセが坂を下り、河原に出て止めを刺しに行く。さすがアイシャだな、牛魔獣の背中には何本もの矢が刺さり、向かって来る魔獣に力は残っていないようだ。その突進を闘牛士のようにサイドステップで横に交わし、首を断ち切る。
 もう1頭はカリンの岩魔法で横倒しになったところを、チセの鉄拳で止めを差す。

 魔獣の雄叫びや断末魔が響き渡っていた河原に、動く魔獣はもういない。静かになった河原を見渡し、全て倒せたようだとホッと息をつく。馬車が川の土手までやって来て、アイシャとカリンが河原まで降りてきてくれた。

「チセ、また返り血が付いてるわよ。綺麗にしてあげるわ」

 カリンが水魔法で全身を洗ってあげている。

「あんたら、怪我はないのか。怪我ひとつせず、これだけの魔獣を全て倒したのか……」

 ホテックさんが土手の上から河原の様子を見て絶句する。
 村の住人が騒ぎを聞きつけて、ちらほらとこちらに近づいてきたようだ。

「ホテック、冒険者を連れて来てくれたのか。よくやってくれた」
「あんた達が倒してくれたのかい。ありがたい事だ」

 魔獣は倒せたが、村には被害が出ていると聞いている。

「家が襲われたそうだが、村人に怪我人はいるのか」
「腕の骨を折った者はいるが、死人は出ていないよ。怪我人の治療は終わっている」
「それならこの魔獣の始末をしたい。ロープを持ってきてくれるか。手伝ってくれる住民も連れてきてほしい」

 このまま魔獣を野ざらしにはできない。他の魔獣が寄って来てしまう。夜までには解体を終えたい。

「ユヅキさん、この川で血抜きは無理ね。毒が付いてしまうわ」
「そうだな。内臓は土に埋めて、体は土手の坂に並べよう」

 その後、ナイフやロープを持ってやって来た村人と共に、魔獣を解体していく。
 内臓を取り出し、カリンが魔法で掘った穴に埋める。頭を落とした魔獣を逆さまにして坂に置き、ある程度の血抜きをしてから、数頭ずつ馬車で引きずって村に運び入れる。
 村にも肉などを処理する場所があり、その建物に運び込んでいく。
 夕方。大体の処理が終わった俺達に、村長の家まで来てくれと招かれた。村長は年寄りの羊の獣人で白く長いあごひげを生やし杖を突き、家の中に俺達を招き入れてくれた。

「村を救ってくれてありがとう。これは報酬の金だ、受け取ってくれ」

 革袋の中には金貨が5枚と銀貨が30枚入っていた。大型魔獣8頭分の報酬としては少しだけ多いが、相場としては合っている。冒険者への依頼を何度もしていて分かっているのだろう。

「村長、これはドラゴンの子供でキイエという俺達の仲間だ。この村で飛び回ると思うが許してくれるか」
「ドラゴンを連れた冒険者とは珍しい。もちろん自由にしてくれて結構じゃ、その者も村の恩人じゃからな」

 気さくにキイエを受け入れてくれて、俺達も歓迎してくれる。

「食事は用意できるのじゃが、家を潰された家族が寄合所を使っていて泊まれる所がない。すまんが馬車の中で休んでくれんか」
「ああ、それは構わん。何軒潰された」
「3軒の家が完全に潰された。その中のひとりが腕の骨を折って寝ておる」
「カリン、一緒に来てくれるか。少し治療をしよう」
「治癒魔法を使えるのか。それはありがたい」

 俺達は怪我人がいる寄合所に行って、光魔法で治療していく。ゲームのヒールのようにすぐ回復するわけではない。回復の手助けをする程度だが、傷が塞がり痛みはましになる。
 村長の家に戻ると、食事の用意ができていた。俺達は食事をしながら、同席していたホテックさんが村長に経緯を話す。

「街道で偶然この冒険者さん達に出会って、すぐに連れて来る事ができたんだ」
「それでこんなに早かったんじゃな。それにこれほど優秀な冒険者を連れてきてくれるとは。ホテック、よくやってくれたな」

 確かに魔獣は森の外をうろついていた。俺達の到着が遅くなれば、また村が襲われていたかもしれんな。

「街道で出会ったということは、あんたらは町の冒険者ではないのじゃな」
「俺達は王都から旅してきた。港町に行く途中だったんだ」
「そうなのか、旅の途中にすまなかったな。この村はシャウラ村と言う。わしらの村は町から離れていてな、こんな場所までよく来てくれたのう」
「この村の先に、他の町や村は無いのか」
「裏山があってその先には誰も住んでおらん。この村も魔獣が住む森に囲まれておる」

 突き当たりの小さな村か。俺達の地図にもこの近くには、広大な森があるだけで何も記入されていない空白地帯となっていた。

「あんたら、もし急ぐ旅でないなら、少し村の復旧の手伝いをしてもらえんか。追加の報酬も出すんで、家の建て直しを手伝ってほしいのじゃが」
「すまんが、仲間と相談させてくれないか」

 今回の依頼は俺が独断で、相談もせずに受けてしまった。これからの事はみんなと相談したい。

「それで構わん。本来我々だけでやる事じゃ。今日はゆっくり休んで、返事は明日にでも聞かせてくれるか」

 俺達は食事を終えて、馬車に戻った。今回の事を先ずはみんなに謝らないとな。

「俺が勝手に受けた依頼で、みんなをここに連れて来てしまった。すまなかった」
「ユヅキさん。私はこの依頼を受けて当然だと思うわ」
「私も、村が襲われたと聞いて何もしないユヅキなら軽蔑するわよ」
「あたしは、いつも師匠と一緒ですよ」

 皆は俺の取った行動を許してくれた。仲間を危険に晒して、こんな辺鄙な場所に連れて来たというのに。

「すまんな、みんな。明日以降はどうする?」
「私は少しなら、ここに留まってもいいと思うわ」
「そんなに急ぐ旅でもないしね。港町のお魚料理も少しの間ならお預けでもいいわよ」
「カリンったら、食べる事ばかりなんだから」
「あら、チセも港町のお魚食べたいって言ってたじゃん」
「それはそうですけど、今はこの村の復旧をどうするかでしょ」

 潰れた家は3軒、ある程度のめどが立つまで3、4日……それ以上は掛かるか。

「怪我人がいる中で家を建て直すのは大変だろうからな。みんなが良ければこの村にしばらく留まろうか」
「ええ、いいわよ」

 明日以降のためにも、今夜は早めに馬車の中でゆっくり休むことにした。
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