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第1章 共和国の旅

第9話 ドウーベの魔獣2

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【カリン視点】

「おい、あいつらだろ。東の森の魔獣を一掃しちまったって奴らは」
「毎日、すごい数の魔獣を持ち込んでいたな」
「俺も運搬を手伝わされたが、一度にあんな数の魔獣を見たのは初めてだぜ」
「血まみれになっていた娘もいたな。あいつらはヤバイ奴らだ、近づかない方がいいぞ」

 ユヅキがオフロを完成させるまで、まだ時間がかかるみたいね。いつものようにギルドに来てるけど、私を見て他の冒険者が、コソコソ話をしているわ。
 まあ、私が美しいから仕方ないけど。ごめんなさいね、私はもうユヅキのお嫁さんなの。

 まあ、それはいいとして。もう少し魔獣討伐を続けないといけないんだけど、どうも森の様子が変だわ。アイシャ達と一緒に討伐できそうな依頼を窓口で聞いてみる。

「最近、森の様子が変なのよ。私達が森に入ると、熊や狼がみんな森の奥に逃げちゃうの」
「まあ、あれだけの数、討伐しちゃってますからね。魔獣に恐れられちゃってますね」
「これじゃ、倒しにくくてしょうがないわ。何かいい魔獣はいないかしら」

 アイシャもここに居る間は、稼ぎたいって言ってたものね。

「それじゃ、逃げない魔物はどうですか」
「逃げない魔物? そんなのいるの」
「西の草原の一角に、小さな森があるのをご存知ですか」

 西の草原? ええ~っと。昨日出たのが南の城門だったから、左手……いや右手の方よね。

「そういえば、草原のなかにぽつんと枯れた木が密集してた場所があったわね」
「あれ全部が木の魔物なんですよ」
「木の魔物? なにそれ。アイシャ知ってる?」
「いいえ、私も初めて聞くわ」

 魔獣と違って、魔物って色々なのがいるらしいけど、木の魔物って初めて聞くわね。まあ、昆虫の魔物じゃないならいいわ。

「寒い地方にはいないんですけど、人が近づくと魔法で攻撃してくるんですよ」
「魔法攻撃する木?」
「まあ、近づかない限り何もして来ないので、放置してますけど。そろそろ狩らないと、増え続けるばかりなので」

 そうよね。魔物ってやたらと数が多いものね。でも今回は動かない木の魔物なんでしょう。一網打尽にしてやるわ。

「魔物って言うぐらいだから、その木も魔石を持っているの」
「地上から生えている木自体には無いんですけど、全部の木は一つの根に繋がっていて、その大きな根に魔石があるんですよ」
「じゃあ、上の木は燃やしてもいいのね」
「ええ、結構ですよ。根の魔石だけ、この窓口に持ってきてもらえれば換金しますので」
「よし、その依頼を受けましょう。久しぶりに燃やし尽くせるわね」

 森は燃やしちゃダメって、ユヅキがうるさいから自重してたけど、全部が魔物なら燃やしても大丈夫よね。これは楽しみだわ。

「アイシャ、チセ。早速行きましょう」

 私達は西の門を出て、遠くに見える魔物の木に向かって歩いていく。

「アイシャ。魔物の木って、どんな攻撃をしてくるのかな」
「そうね~、だぶん枝の先から魔法でも飛ばしてくるんじゃないかしら」
「そんなの、たかが知れているわね。所詮、木よ、木! 大した事ないわ」

 そろそろ見えてきたわね。確かに普通の森とは違うわ。てっぺんにだけ緑があって、下は枯れたような木が何本も密集している。

「チセ。遠見の魔道具で、どんな様子か見てくれる」
「木の枝がウネウネと動いていて、なんだか気持ち悪いです」
「ちょっと、見せてくれるかしら」

 この遠見の魔道具は、ユヅキが作った物で遠くの物が近くにはっきりと見える。
 ほんと、枝がウネウネしている。昔ユヅキが踊っていた不思議な踊りに似てるわね。
 やっぱりユヅキって魔物の親戚なのかしら。

「まあいいわ。もう少し前に出てみましょう」

 ――カン、カン

「何の音かしら?」
「あたしの鎧に何か当たってるみたいです。木の実ですかね」

 ――カッ、カッ、カッ、カッ、カン

「うわっ、痛! なに。ア、アイスシールド」

 氷の壁を作ったけど、何なのあいつら。こっちに向かって集中攻撃してきた。

「ちょっと、退避しましょう」

 木から離れると、攻撃はぴたりと止んだ。何なのよ、あの魔物は。今のは魔法じゃないけど、狙って攻撃してきた。

「あいつら目でも付いてるの」
「それは分からないけど、私達のことは敵と認識してるみたいね」
「ねえ、カリン。この場所から魔法は撃てませんか?」
「山なりになるけど、やってみるわ。ファイヤーボール」

 炎の塊が森に向かって飛んでいく。

「なっ! 水魔法で炎を消したわ。このおっ!」

 何度も炎を撃ったけど、水の魔法で全部防がれてしまった。木の魔物が勝ち誇ったようにウネウネと枝を揺らす。変な踊りのユヅキがいっぱいいるみたいで気持ち悪いわね。

「これならどう。メテオストライク」

 今度は高速の炎と岩の合わせ技よ。水魔法で防ごうとしたけど、岩の衝撃で木が倒れて、消しきれない炎で燃えていたわね。
 この魔法なら倒せそうだわ。よ~し、一網打尽よ~。

「燃え尽きなさい。ギガメテオ!」

 炎に包まれた巨大な岩が、空高くから木の魔物の森に向かって落ちていく。轟音と共に、熱波が辺り一面を覆う。

「ハッ、ハッ、ハッ~。どうよ、私の力を思い知ったかしら。あんたら魔物なんて燃え尽きちゃえばいいのよ。ハッ、ハッ~」

 そうよ、この威力よ。やっぱり魔法といえば、これくらいのものを撃たないとね。森は跡形もなく燃えて、巨大な穴だけが残っている。

「カリン! 根まで全部燃やしたんじゃないでしょうね」
「えっ! そ、そんなことないわよ。ほら、穴の真ん中に何かあるわ」

 できた巨大な穴に近づいて行くと、魔石らしきものが落ちていた。良かったわ、魔石まで燃えていたら後で何を言われるか……。


「お疲れさまでした。木の魔物はどうでしたか?」
「苦労したわよ。木の実で攻撃されるし、火魔法が全部防がれるし」

 まったく、あんなに魔法が防がれるなんて思ってもみなかったわ。

「あ~、やっぱり。あの木の魔物はめっぽう火魔法に強くて、風か岩魔法で外から順に木を倒してから燃やすんですよ」
「えっ、そんなの聞いてないわよ」
「『燃やし尽くす』とか言って、すぐに出て行かれたんで心配してたんですよ。魔石も燃やした森の中央付近を掘れば、すぐ見つかりますし」

 なに? そんなに簡単だったの……。あれだけ苦労して、大魔術まで使ったのに……。

「今回魔石も傷ついていますし、報酬は減額ですね」

 えっ~、これだけしかもらえないの~。私達は仕方なく、減額された報酬を受け取りギルドを後にする。

「カリンはいつも、後先考えずに大きな魔法使うからダメなんですよ」
「そうよね~。そんなだからいつもユヅキさんに怒られるのよ」
「ねえ、今日の事はユヅキに内緒にしておいてね。ねっ」
「どうしようかな。それじゃパンケーキセットで手を打つわ」
「あたしはイチゴケーキセットで」
「はい、はい。分かったわよ」

 仕方ないわね、今から楽しい女子会に行きましょう。
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