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第4章 アルヘナ動乱
第126話 スタンピード
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翌日。朝日が昇った頃、冒険者と兵士達が最前線に集合する。
300名を超える俺達の前には、最前線指揮官のシルマーンが一段高い台に立つ。両脇には側近らしき獣人がふたり付いていて、シルマーンは報告書だろう紙を受け取り俺達と向き合う。
「報告によると、魔獣は足の速い狼類を先頭にこちらに向かっている。昼前にはこの最前線に来るのは確実だ」
昨日の情報と同じようなものだな。それに対する俺達の準備は既にできている。
「数は多いが、オレ達が日頃してる魔獣討伐となんら変わらん。町に親や子供、恋人を残している者も多いだろう。オレ達で魔獣どもを食い止め、大切な家族を守れ。この戦いに町の命運がかかっている。お前達の奮起に期待している。さあ、魔獣どもを狩り尽くすぞ」
シルマーンが腰の剣を抜き高々と掲げる。
それに応えるように、ここに集まった冒険者と兵士が拳を突き上げて怒号のような雄叫びを上げる。
俺の性には合わんが、こうして士気を高揚させるのも指揮官の務めなんだろう。俺は俺のやれる事をするだけだ。
「チセ。お前のいる場所は、この最前線でも一番安全な場所だ。落ち着いて魔獣の監視をしてくれ」
「はい、師匠」
「撤退するときは指揮官の指示に従って、すぐ行動だ。俺達の事は気にするな。チセが遅れると俺達まで遅れてしまうからな」
「はい」
チセがここで直接魔獣と戦うことはない。第2防衛線までの撤退が決断されれば、非戦闘員のチセ達が最初に避難することになる。
「魔弾銃とナイフは持ったな。ない事だと思うが魔獣に襲われそうなときは、それを使え」
「はい、分かりました。師匠達も怪我をしないでくださいね」
「任せておけ。俺達が強いことはチセも知っているだろう」
「はい、頑張ってください」
元気よく返事するチセと別れて、配属された部隊の者達と合流し現地に向かう。
俺達遊撃隊は、頻繁に移動しながらの攻撃となるため、6台の荷馬車が用意され専任の衛兵が御者として就いてくれる。
少数精鋭のこの部隊で、魔獣に対して側面から攻撃を仕掛けることになる。
俺達が乗る荷馬車に、でかい盾を持ち鎖かたびらに部分鎧をまとった白銀ランクの冒険者と、鉄ランク冒険者が乗り込んできた。
「やあ、ユヅキ。俺はレリックだ。君達の噂は聞いている。遠隔攻撃を得意とした優秀なパーティーなんだってな」
顔を見たことはあるが、あまり話した事のない羊族の人だ。もうひとりは同じパーティーメンバーの前衛だそうだ。馬車に揺られながら打ち合わせをする。
「君達に鉄ランクの弓使いと魔術師を任せたい。俺は兵士と共に前に出て盾になる」
この人が先輩であるはずだが、主力の攻撃部隊を俺達が、守りをレリックが分担すると言う。
「その方がお互いやりやすいだろ。お前達とは生き延びて、酒を酌み交わしたいものだな」
湖近くに到着しレリックは手を振り、前衛となる兵士達の所に向って行った。俺達も、配属された鉄ランクの冒険者達を集め打ち合わせをしよう。
「俺はユヅキ、こっちはアイシャだ。君達と一緒に遊撃部隊として戦う。この手に持っているのは魔弾という武器だ」
金属製の魔弾をみんなに見せる。
「この中には中級魔法に匹敵する魔力が封じ込められている。これを矢の先端に付けたもので攻撃してもらう」
弓を扱う8人は全員魔道弓を持っていて、その者達に魔弾付きの矢を渡す。
「但し、魔弾の数が少ない。無駄撃ちしないように頼む。魔獣は3つの集団に分かれて来ると予想される。第1波に3分の1を使い、第2波に残りの3分の2を使ってくれ」
「第3波の攻撃に使わなくてもいいんですか?」
「最後は巨大魔獣が来る。君達では太刀打ちできない」
巨大魔獣と聞き、皆が息を呑む。今まで倒して来た魔獣とは全く別物の怪物だ。
「君達はそれまでに襲来する通常の魔獣の数を減らして、支援するのが役目だ」
「私達、魔術師はどうするんですか?」
配属された魔術師はカリンの他に5人いる。中級魔法を使うことができる上位の魔術師もふたり含まれている。
「第1波は弓だけで対応する。第2波まで魔力を温存しておいてくれ。1波の数が多い時は加勢してもらうが、その時はこちらから指示する」
「ユヅキ。私は第1波から攻撃してもいいんでしょう」
「カリンはそうしてくれ。だがお前は巨大魔獣戦に参加するんだから、それを考えてくれよ」
「任せなさい」
周りがどよめいた。鉄ランクで最終戦まで参加するのはカリンだけだ。他の者とは魔力量が違うからな。
「君達の前には、兵士ら前衛が壁となって守ってくれる。魔獣に矢や魔法を確実に当てることに集中して戦ってくれ」
普段の魔獣討伐と同じように、落ち着いて攻撃するように指示をする。このような大きな戦いに初めて参加する者も多い。俺の言葉に平常心を取り戻した者もいるようだ。
「怪我の無いように、まして死ぬようなことは決してあってはならない。俺達の指示に従えば大丈夫だから、冷静に行動してくれ」
「はい!」
「では、持ち場につこうか」
湖を背に指定された位置に部隊を展開ししばらくすると、太陽が昇った方向に土煙が見える。魔獣が群れを成してやって来たようだ。
いよいよ戦いが始まる。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
【設定集】目指せ遥かなるスローライフ! を更新しています。
(第1部 第3章 126話以降) 地図(アルヘナ西部)
小説の参考にしていただけたら幸いです。
300名を超える俺達の前には、最前線指揮官のシルマーンが一段高い台に立つ。両脇には側近らしき獣人がふたり付いていて、シルマーンは報告書だろう紙を受け取り俺達と向き合う。
「報告によると、魔獣は足の速い狼類を先頭にこちらに向かっている。昼前にはこの最前線に来るのは確実だ」
昨日の情報と同じようなものだな。それに対する俺達の準備は既にできている。
「数は多いが、オレ達が日頃してる魔獣討伐となんら変わらん。町に親や子供、恋人を残している者も多いだろう。オレ達で魔獣どもを食い止め、大切な家族を守れ。この戦いに町の命運がかかっている。お前達の奮起に期待している。さあ、魔獣どもを狩り尽くすぞ」
シルマーンが腰の剣を抜き高々と掲げる。
それに応えるように、ここに集まった冒険者と兵士が拳を突き上げて怒号のような雄叫びを上げる。
俺の性には合わんが、こうして士気を高揚させるのも指揮官の務めなんだろう。俺は俺のやれる事をするだけだ。
「チセ。お前のいる場所は、この最前線でも一番安全な場所だ。落ち着いて魔獣の監視をしてくれ」
「はい、師匠」
「撤退するときは指揮官の指示に従って、すぐ行動だ。俺達の事は気にするな。チセが遅れると俺達まで遅れてしまうからな」
「はい」
チセがここで直接魔獣と戦うことはない。第2防衛線までの撤退が決断されれば、非戦闘員のチセ達が最初に避難することになる。
「魔弾銃とナイフは持ったな。ない事だと思うが魔獣に襲われそうなときは、それを使え」
「はい、分かりました。師匠達も怪我をしないでくださいね」
「任せておけ。俺達が強いことはチセも知っているだろう」
「はい、頑張ってください」
元気よく返事するチセと別れて、配属された部隊の者達と合流し現地に向かう。
俺達遊撃隊は、頻繁に移動しながらの攻撃となるため、6台の荷馬車が用意され専任の衛兵が御者として就いてくれる。
少数精鋭のこの部隊で、魔獣に対して側面から攻撃を仕掛けることになる。
俺達が乗る荷馬車に、でかい盾を持ち鎖かたびらに部分鎧をまとった白銀ランクの冒険者と、鉄ランク冒険者が乗り込んできた。
「やあ、ユヅキ。俺はレリックだ。君達の噂は聞いている。遠隔攻撃を得意とした優秀なパーティーなんだってな」
顔を見たことはあるが、あまり話した事のない羊族の人だ。もうひとりは同じパーティーメンバーの前衛だそうだ。馬車に揺られながら打ち合わせをする。
「君達に鉄ランクの弓使いと魔術師を任せたい。俺は兵士と共に前に出て盾になる」
この人が先輩であるはずだが、主力の攻撃部隊を俺達が、守りをレリックが分担すると言う。
「その方がお互いやりやすいだろ。お前達とは生き延びて、酒を酌み交わしたいものだな」
湖近くに到着しレリックは手を振り、前衛となる兵士達の所に向って行った。俺達も、配属された鉄ランクの冒険者達を集め打ち合わせをしよう。
「俺はユヅキ、こっちはアイシャだ。君達と一緒に遊撃部隊として戦う。この手に持っているのは魔弾という武器だ」
金属製の魔弾をみんなに見せる。
「この中には中級魔法に匹敵する魔力が封じ込められている。これを矢の先端に付けたもので攻撃してもらう」
弓を扱う8人は全員魔道弓を持っていて、その者達に魔弾付きの矢を渡す。
「但し、魔弾の数が少ない。無駄撃ちしないように頼む。魔獣は3つの集団に分かれて来ると予想される。第1波に3分の1を使い、第2波に残りの3分の2を使ってくれ」
「第3波の攻撃に使わなくてもいいんですか?」
「最後は巨大魔獣が来る。君達では太刀打ちできない」
巨大魔獣と聞き、皆が息を呑む。今まで倒して来た魔獣とは全く別物の怪物だ。
「君達はそれまでに襲来する通常の魔獣の数を減らして、支援するのが役目だ」
「私達、魔術師はどうするんですか?」
配属された魔術師はカリンの他に5人いる。中級魔法を使うことができる上位の魔術師もふたり含まれている。
「第1波は弓だけで対応する。第2波まで魔力を温存しておいてくれ。1波の数が多い時は加勢してもらうが、その時はこちらから指示する」
「ユヅキ。私は第1波から攻撃してもいいんでしょう」
「カリンはそうしてくれ。だがお前は巨大魔獣戦に参加するんだから、それを考えてくれよ」
「任せなさい」
周りがどよめいた。鉄ランクで最終戦まで参加するのはカリンだけだ。他の者とは魔力量が違うからな。
「君達の前には、兵士ら前衛が壁となって守ってくれる。魔獣に矢や魔法を確実に当てることに集中して戦ってくれ」
普段の魔獣討伐と同じように、落ち着いて攻撃するように指示をする。このような大きな戦いに初めて参加する者も多い。俺の言葉に平常心を取り戻した者もいるようだ。
「怪我の無いように、まして死ぬようなことは決してあってはならない。俺達の指示に従えば大丈夫だから、冷静に行動してくれ」
「はい!」
「では、持ち場につこうか」
湖を背に指定された位置に部隊を展開ししばらくすると、太陽が昇った方向に土煙が見える。魔獣が群れを成してやって来たようだ。
いよいよ戦いが始まる。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
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(第1部 第3章 126話以降) 地図(アルヘナ西部)
小説の参考にしていただけたら幸いです。
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