上 下
84 / 308
第2章 街暮らし 冒険者編

第81話-2 シルスの魔道具4

しおりを挟む
 実物を確かめてもらうためドライヤーの魔道具をヘテオトルさんに渡して、審議官の机の上へと持っていってもらう。

「個人で使うことを想定し、手に持ちやすい形となっています。手元の3つの窪みに指を置くことで、出てくる温風の強さが変わるようになっています」

 その小ささに驚きながらも、審議官が手に取り動作を確かめる。

「おお、確かに温かい風が出ておるな。強さも変化するが、3番目の風はなかなか強力だ」
「側面の取っ手が蓋になっていて、内部を見るための窓を作っています。火と風の魔道部品が、同じ方向に向いて固定されているのが見れると思います」

 これはユヅキさんが今日のために作ってくれた窓。実際に内部を見れば単純な構造なのが分かると思うわ。
 総責任者のコルセイヤ様も内部を真剣な目で見ている。声には出さないけど相当驚いている様子だわ。

「す、すまないが、ワシにも見せてくれないか?」

 隣に座っていた商人が立ち上がり、ヘテオトルさんの元へと歩いていく。

「それはできません。登録申請が出された魔道具を他人に渡したり、構造を調べる等してはいけない事になっています」

 ヘテオトルさんが商人達にきっぱりと断りを入れ、会長だと言っていた人は、ばつが悪そうに自分の席に戻っていった。

 私の魔道具を見終わった審議官達が集まって協議している。顎に手をやったり、図面を指差し話しているようだけど、遠くて何を話しているのか分からないわね。
 隣の商人達もソワソワしているけど、この待っている時間は長く感じるわ。

「それでは審議の結果を、私から言い渡そう」

 総責任者のコルセイヤ様の澄んだ声が響く。

「今回の魔道具登録の不採用に対する異議申し立てを認め、新たな魔道具として登録することを許可する。既に登録されている温風装置も素晴らしい魔道具であり引き続き販売を許可したうえで、今回の魔道具についても販売の許可を与えるものとする。以上である」

 それを聞いたアイシャさんが声を上げ、喜び抱き着いてきた。

「よかった! 本当によかったね。シルスさん」
「うん、うん。ありがとう~」
「静粛に願います。これにて審議会を閉会します。皆様ありがとうございました」

 ヘテオトルさんに怒られてしまったけど、でもまあいいわ。これで私の夢が叶ったんですもの。

 審議官達が横の扉から出て行き、商人達もあの大きな箱を持ってしょげ返った様子で後ろの扉から出ていった。そうよね。私の魔道具が世に出れば、あの温風装置は全く売れなくなるもの。少し悪いことをしたかしら。

「では、登録の手続きをしますので、一緒に事務所まで来てください」

 ヘテオトルさんと一緒に事務所まで行き、正式な登録手続きを済ませる。

 私達が帰ろうとした時、ヘテオトルさんに呼び止められ応接室に通された。さすが王都協会の応接室、壁には絵画が飾られてフカフカの豪華なソファーだわ。落ち着かずソファーに座つてしばらくすると、さっきのコルセイヤ様が部屋に入ってきた。
 魔道具の最高責任者の方だわ。慌てて立ち上がろうとしたけど、手で私を制して向かい側に座る。

「こ、今回はどうもありがとうございました。審議会を早く開いていただき、登録もしていただきました。本当に感謝いたします」
「まあ、緊張せずゆっくりとしてくれたまえ。新しい魔道具なら登録するのは当たり前だ。王都まで足を運んでもらって君達には苦労をかけたな」
「いえ、そんなことないです」

 コルセイヤ様はにこやかな笑顔で、私達に話しかける。

「これからの事を少し話そう。知っての通り魔道具の製造販売は王都でのみ行なっている。君達には販売数に応じた褒章金は支給されるが、自分達で魔道具を製造してはいけない。改良した場合も王都に連絡が必要になる」

 それに対してユヅキさんが、疑問を投げかける。

「この魔道具の制御部も外枠もアルヘナの職人の手によるものだ。それらも王都の職人に渡せということか?」
「確かに見たこともない部品と斬新な外形だな。分かったアルヘナの職人ギルドと話をしよう」

 物分かりのいい人で良かったわ。これで町の職人さん達の苦労も報われるわ。

「この魔道具の動作原理は、人族の技術なのかな」
「人族というよりは、俺自身の魔法だ」
「君は魔道具と同じ魔法が使えるという事か」

 驚きの目をユヅキさんに向けると、ドライヤー魔法でコルセイヤ様の金髪を揺らす。

「これは驚いたな。この魔法はシルスさんもできるのかい」
「いえ、私にはできませんでした。それなりの修練が必要だと思います」

 コルセイヤ様は少し考えた後、提案してきた。

「ユヅキ君、君のそのような技術を王都で活かしてみようと思わないか」
「俺は連れのために、この魔道具を作ってほしいと願っただけだ。実際に作り上げたのはシルスさんの努力の結果で、俺には到底真似できない」

 きっぱりと断ったわ。この王都で働く推薦をしてくれているのに……。コルセイヤ様は話題を変えて私に尋ねてくる。

「ところでシルスさんの魔道具店に魔道部品が大量に送られているが、それも今回の魔道具に関するものなのかな」
「いいえ、あれは魔道補助具に使用されているもので、アルヘナの町で製造されている武器に使用している物です」
「その技術も、ユヅキ君の技術なのだろうか」
「違うな、既にある技術をシルスさんが応用しただけだ」
「なるほど、よく分かった。何にしても新たな魔道具の誕生は喜ばしいことだ。シルスさん、ユヅキ君、魔道具の登録おめでとう。これからも期待しているよ」

 私達はコルセイヤ様と握手をして別れた。

 その日の夜は3人でお祝いをして、翌日にはアルヘナの町へ帰る馬車に乗る。2週間程しか経っていないけど、帰って来た町はなんだか懐かしい感じがするわ。

 その数日後。私の元に王都魔術師協会の魔道具部門への勧誘の知らせが届いた。

「ユヅキさん、私に王都で働いてみないかって手紙が来たの。魔道具部門の研究員ですって」
「それはすごいな。本格的に魔道具を作っていけるじゃないか。もちろん行くんだろ」
「ええ。新しい魔道具を作るのは私の夢でしたから。でもその夢のきっかけを作ってくれたのはユヅキさん、あなたなの。感謝しても感謝しきれないわ」
「そんなことはないさ、チャンスを掴んだのは君だ」

 王都の魔術師協会で働きたいと返事を書いて10日後、王都から迎えの馬車がやって来た。
 貴族が乗るような箱型の2頭立ての立派な馬車。お世話になった職人さん達も珍しそうに近くまで寄って、馬車の細工などを興味深げに見ている。

「皆さんお世話になりました。ユヅキさんもありがとう。王都に来ることがあったら必ず連絡してくださいね」
「ああ、そうするよ。王都でもしっかり頑張るんだぞ」
「ええ、それじゃ皆さん、さようなら。ありがとう」

 のちに『魔道具の大賢者シルス』と歴史に名を刻む者の旅立ちの日であった。

           - 大賢者シルス伝記 第一章 旅立ち より -
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

男装の皇族姫

shishamo346
ファンタジー
辺境の食糧庫と呼ばれる領地の領主の息子として誕生したアーサーは、実の父、平民の義母、腹違いの義兄と義妹に嫌われていた。 領地では、妖精憑きを嫌う文化があるため、妖精憑きに愛されるアーサーは、領地民からも嫌われていた。 しかし、領地の借金返済のために、アーサーの母は持参金をもって嫁ぎ、アーサーを次期領主とすることを母の生家である男爵家と契約で約束させられていた。 だが、誕生したアーサーは女の子であった。帝国では、跡継ぎは男のみ。そのため、アーサーは男として育てられた。 そして、十年に一度、王都で行われる舞踏会で、アーサーの復讐劇が始まることとなる。 なろうで妖精憑きシリーズの一つとして書いていたものをこちらで投稿しました。

“絶対悪”の暗黒龍

alunam
ファンタジー
暗黒龍に転生した俺、今日も女勇者とキャッキャウフフ(?)した帰りにオークにからまれた幼女と出会う。  幼女と最強ドラゴンの異世界交流に趣味全開の要素をプラスして書いていきます。  似たような主人公の似たような短編書きました こちらもよろしくお願いします  オールカンストキャラシート作ったら、そのキャラが現実の俺になりました!~ダイスの女神と俺のデタラメTRPG~  http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/402051674/

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...