上 下
68 / 308
第2章 街暮らし 冒険者編

第66話 フレイムドッグ1

しおりを挟む
「ねえ、ねえ、ユヅキさん。これを見て」

 冒険者ギルドの掲示板。その依頼書には☆2つの鉄ランクで、犬か狼のような絵が描いてある。討伐数は『1~』となっている依頼書が何枚も重ねて貼られている。どういうことだ。

「狼1匹なら私達だけでも倒せると思うんだけど、どうかな?」
「そうだな、受付で詳しく聞いてみようか」

 俺達は慣れ親しんだ狐獣人の受付嬢の列に並んで待つ。最初にギルド登録をしてくれた人で、アドバイスもよくしてくれる。

「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あっ、アイシャさんにユヅキさん。今日はどんなご用ですか?」
「この依頼なんですけど、私達にできるかな?」
「フレイムドッグの討伐ですね。これはこの時期に出される領主様からの依頼で、今回は総数120匹の討伐になっています。皆さんで討伐して、その数に応じた報酬が出るんですよ」

 だから討伐数が『1~』になっていたんだな。

「まず3日間で何匹討伐するか決めてもらって、依頼を開始するんです。今回は依頼数が達成できなくても評価は下がりません。だけど続けて依頼を受けれなくなるので注意してくださいね」

 なるほど、1匹申請して倒せば次も受けられるけど、3匹申請して2匹しか討伐できなかったら、それで終わりになるようだな。逆に多く倒しても申告数の報酬しか出ないそうだ。

「ギルド全体で120匹討伐できた時点でこの依頼は終了となります。いつもは2週間ぐらいで終わるので、それまでに沢山討伐してくださいね」

 鉄ランクを中心としたパーティーによるチーム戦といった感じか。それなら挑戦してみてもいいかもしれんな。

「このフレイムドッグというのは、どんな奴だ」
「口から炎を吐く野犬の魔獣ですね。魔の森の奥では群れを成していますが、この時期群れに入れなかった個体が森から平原に出てくるんですよ」
「俺達に倒せそうか?」
「狼を倒す実力があるなら大丈夫ですけど、炎対策の装備をしておいた方がいいですね。水属性を付与された盾かマントなら防げますよ」

 それなら色々と準備が必要だな。今日は準備に当てて、明日からこの依頼を受けようとアイシャと話をする。

「準備ができたら、午後に来てくれてもいいですよ。明日からの討伐を予約できますから」

 なるほど、それなら明日朝からすぐに出発できるな。
 初めての魔獣だ。ここの2階にある図書室の図鑑で調べておこう。
 依頼書に書いてあった『フレイムドッグ』の文字を図鑑で探す。そこには赤茶けた色の中型犬のような魔獣が、口から炎を吐いている絵が描かれている。

「狼と違って、なんだかかわいい感じの魔獣ね」
「でも炎を吐くんだから、注意しないとな」

 その後は、専門店街にある防具専門の店に行って防具を探す。
 店員さんに聞いてみると、この時期、炎耐性の防具を買う人が多く品数を増やしているそうだ。
 安い物も多い。基本的には盾かマントやローブになるらしい。

「防具は接近するユヅキさんだけで、いいと思うんだけど、どうかな?」

 確かにふたり分用意する必要はないな。俺だけなら盾かマントになるか。

「盾は相手を見ながら防ぎますので、ある程度の技術が必要ですが走りながら防御し攻撃もできます。一方マントなどは防いでいる間は移動や攻撃はできませんが、不意打ちや背後からの攻撃でも防ぐことができます」

 なるほど。俺の場合は、遠距離から弓で攻撃して相手が近づいたときに剣での攻撃となる。炎攻撃が止むまで待つことになるか。

「マントは使っている生地が少ない分お安くなっています」

 値段を聞くと安い物だとローブと盾が銀貨24枚、マントが銀貨16枚だそうだ。俺の戦闘スタイルなら、邪魔にならないマントでいいか。安いしな。
  マントは黒く薄い生地で本当に炎を防ぐのか心配だが、店員さんの説明ではフレイムドッグ程度の炎なら、これで完全に防いでくれるそうだ。

「買っていただけるなら、ここで試してもらって結構ですよ」

 俺とアイシャの火魔法をマントにぶつけてみたが、ちゃんと表面で炎を弾いて霧散させていたな。
 俺はそのマントを1枚購入してから、冒険者ギルドに戻りフレイムドッグ討伐の予約を取る。

「はい、明日から3日間、フレイムドッグ1匹の討伐予約を承りました。頑張ってくださいね」

 笑顔で応えてくれた受付嬢の期待を裏切る訳にはいかんな。頑張らねば。


 翌朝、家から直接フレイムドッグの討伐に向かう。
 初めての魔獣だし、倒し方も分からないのだから時間は有効に使いたい。朝食を食べてすぐに魔の森へと向かう。

 俺は炎に耐性のあるマントと魔道弓とショートソードを装備する。アイシャはいつもの弓である。
 アイシャと話し合って、森から平原に出てきたところを弓主体で長距離から倒そうということになった。

「アイシャは炎耐性の防具がないんだから、絶対に接近しないようにしてくれよ」
「ええ。ユヅキさんもマントがあるからといって油断しないでね」

 魔の森に近い平原の岩陰に隠れて、森の中を観察する。時々何か獣が歩いているのが見えるが、フレイムドッグかどうか見分けがつかないな。
 昼頃まで森の近くで待ってみたが、フレイムドッグは現れなかった。

 俺達は一旦川辺に戻って軽い食事をする。

「何組かの冒険者が、森の中に入っていったわよね」
「そうだな、外で待っていても出てこないかもしれんな」
「ユヅキさん。危険かもだけど、森に入ってみましょうか」

 森にはフレイムドッグ以外にも危険な魔獣がいる。アイシャが言うには森の周辺部であれば魔獣は少なく普通の獣が多いそうだ。

「そうだな森の奥に入らないようにして足跡を探ってみよう。前にニックさんと狼狩りをした時のように、森の奥に逃げても追わないようにすれば大丈夫だろう」
「そうね。身を隠す木も多いし、少し探りを入れた方がいいと思うわ」

 魔の森周辺部を調査したが、鹿らしき足跡はあるものの犬の足跡はまだ見つからない。
 木が少ない岩場の方に行ってみると、岩場の上に獣が動いている気配がする。森の木に隠れて岩場の上を見るとフレイムドッグがいた。

「少しここで観察しよう」
「ええ。そうね」

 フレイムドッグは何か食べているようだ。肉食だから獲物を捕って岩場で食べるのだろう。近くに巣があるのかもしれんな。
 しばらくすると、フレイムドッグは岩場を降りて森の中に入っていった。その跡を追うと、足跡は森の奥へと続いている。

 周囲を警戒しながら岩場を登る。さっきフレイムドッグがいた辺りに鹿の骨があった。やはりここで食事をしていたようだな。
 俺達は一旦森を抜けて、安全な平原に出る。

「アイシャ、どう思う」
「森の奥で狩りをして開けた場所で食べているのね。多分広い場所の方が敵から身を守れるんだと思うわ」

 魔法の炎を飛ばす魔獣だ。遠くの敵を倒す自信があるんだろうな。

「そうなると餌を岩場近くに置いて、おびき寄せる方法かしらね。ウサギか鹿の肉を置いて、岩場で食べているところを弓で仕留めるのはどうかしら」

 なるほど、だが今からでは時間がないな。

「一旦帰って、明日その作戦をしてみよう」
「そうね、日が暮れるとこの辺りも危険だわ」

 家に帰って夕食後、もう一度しっかりと作戦を練って、その日は眠りにつく。


 翌日、森に行く前に林の中でウサギを狩って革袋に入れる。昨日行った魔の森の岩場近くにそのウサギを置き、離れた場所から岩場を観察する。
 しばらくするとフレイムドッグが岩場に現れた。餌のウサギか何かをくわえている。その餌を食べ始めた時に俺が弓を放つが、フレイムドッグが飛び跳ねた。躱されたか!

 フレイムドッグがこちらに向かって走ってくる。俺が横に走りながらもう一射放つが、それも躱される。
 俺の方に向かって炎を吐いてきた。マントで頭をかばって膝を突き防御する。

 これからは接近戦だ。炎の攻撃が止んだところでショートソードを抜けるように柄に手をかけておく。

「ギャゥン」

 フレイムドッグの悲鳴!! アイシャの攻撃か? 前方からの炎攻撃が止んだのを機に、ショートソードを抜いて前に走り出す。
 フレイムドッグの背中には矢が刺さっていて、矢が飛んできた方向に体を向けている。今だ! 横向きになったフレイムドッグがこちらに気付いたがもう遅い。奴の首を切り落として、これで決着だ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太
ファンタジー
エイワス王国の四大貴族、ヴァンガード家の末子アリストンには特殊な能力があった。霊が見える力だ。しかし、この能力のせいで家族や周囲から疎まれ、孤独な日々を送っていた。 そんな中、アリストンの成人の儀が近づく。この儀式で彼の真価が問われ、家での立場が決まるのだ。必死に準備するアリストンだったが、結果は散々なものだった。「能力不足」の烙印を押され、辺境の領地ヴェイルミストへの追放が言い渡される。 絶望の淵に立たされたアリストンだが、祖母の励ましを胸に、新天地での再出発を決意する。しかし、ヴェイルミストで彼を待っていたのは、荒廃した領地と敵意に満ちた住民たちだった。 そんな中、アリストンは思いがけない協力者を得る。かつての王国の宰相の霊、ヴァルデマールだ。彼の助言を得ながら、アリストンは霊感能力を活かした独自の統治方法を模索し始める。果たして彼は、自身の能力を証明し、領地を再興できるのか――。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...