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第2章 街暮らし 冒険者編

第45話 町への引っ越し

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「今日は、荷馬車を出してもらって助かりました」

 御者台にいるカリンのお兄さんにお礼を言う。仕入れ用に使う少し大きめの荷馬車を、わざわざ用意してくれたようだな。

「いやいや、これぐらい何でもないよ。君には前に助けてもらったしね。それに今日はどうしてもって、カリンにものすごく頼まれちゃってね」
「兄さん! そんな事いいから、早く出してよ」

 うんうん、いい人達だ。都合がついたと言っていたが、無理言って用意してくれたようだな。少し顔を赤らめているが、ツンデレさんのカリンには感謝だな。

 御者台にカリン兄妹。俺とアイシャは護衛として荷馬車の近くを歩き町に向かう。
 街中に入り、俺達が借りた下宿屋の前に荷馬車をつける。カリン達にも手伝ってもらって、荷物を家の前に全て降ろした。

「後は俺達で運び込むよ。ありがとな、カリン」
「私も手伝ってあげるわよ。あっ、兄さんはもう帰っていいわよ。兄さん力ないしね」

 カリンだけは手伝うと残ってくれた。まあ、力がないのはカリンも一緒だが、手伝ってくれるのは助かるな。

 家の中にテーブルや椅子などの大きな家具をアイシャと一緒に運び込む。カリンには細かな食器や道具などを運んでもらおう。
 1階はかまどのある大きな部屋で、ここは食事などをするダイニングキッチンだ。持ってきたテーブルを置いたが、もう1つテーブルを置けるほど充分なスペースがある。
 かまどの横には薪やワラも置いてあり、荷物を運び込むだけですぐに生活できそうだ。

「アイシャの部屋はどうするの」
「2階の階段に近い部屋を使うつもりよ。ユヅキさんも来て」

 2階には下宿人のために用意された部屋が4つある。一番手前の部屋に入ると中はベッドと机と椅子が1つずつ置いてある。
 六畳一間といった部屋で、ひとりで住むには充分な広さだ。

「私達の部屋はここにするわ。ユヅキさんは隣からベッドをこの部屋に運んでくれる」

 えっ、なに。この部屋をふたりで使うの?

「何言ってるのアイシャ、そんなのダメよ!」
「いつもお父さんとここに居るときは、そうしていたわよ」
「いや、いや、いや、アイシャはここ! ユヅキ、あんたは隣の部屋よ! 早く行きなさい」

 そりゃそうだろう。俺は隣の部屋に荷物を下ろす。ここも隣と一緒でベッドと机と椅子が1つずつ置いてある。
 これからここで生活していくんだな。まだ実感は沸かないが椅子に座ってしみじみと部屋を見渡す。

 そろそろ夕暮れだ。俺達は1階に降りて食事の支度をする。今日は手伝ってくれたカリンも一緒に食事しようとなったが、カリンは作らなくていいぞ。うまい飯を食いたいからな。俺とアイシャだけで作ってテーブルに並べていく。

 食事は少し豪華にして、引っ越し祝いだ。

 テーブルに並んでアイシャとカリンは楽しくおしゃべりしている。これからはこういう事も増えていくんだろうなと思いつつ笑顔で眺める。

 夕食後、カリンを家まで送ろうかと言ったが、街中は明るいしそんなに離れてないから大丈夫と帰っていった。
 確かに街灯が多く明るい。あの光っている街灯も魔道具なんだろうな。
 カリンを見送って家の中に入るが、ランプは1つしかないので家の方が暗く感じる。

「ユヅキさん、こっちに来てくれる」

 俺はアイシャと一緒に2階に上がり、アイシャの部屋に入る。

「このベッドをあの壁際まで移動させたいの」

 部屋の模様替えか。好きに使っていいと言われてるので自分好みに変えるようだな。

「カリンには同じ部屋はダメって怒られたけど、ここならユヅキさんの近くにいられて安心できると思うの」

 確かに俺の部屋のベッドは、この壁の向こう側にあったな。

「アイシャが安心できるなら、俺はそれでいいよ」

 アイシャを抱き寄せて頭を撫でる。もう寂しい思いはしてほしくないからな。
 俺の部屋に戻ってベッドに入る。窓からの街の光で微かに部屋は照らされているが、俺用のランプも買わんといかんか。だがランプは高価だと言うし、もう少し金が貯まってからだな。

 ベッドの横の壁からコンコンと音がする。アイシャが壁をノックしているようだ。
 下宿屋として貸していた部屋で、壁は厚いから話し声は聞こえないが壁を叩けば音は聞こえてくる。

 俺も壁をコンコンとノックする。
 するとアイシャがコンコンコンと3回ノックする。俺もコンコンコンと3回ノックを返す。
 するとアイシャがコ、コ、コン、コンと4回ノックし、俺も4回ノックを返す。
 するとアイシャは5回ノックしてくる。すみません、もう勘弁してください。


 翌朝、朝食前に日課の鍛錬をする。家の裏手には小さな庭があり素振りや剣を振り回すにはちょうどいい広さだ。
 汗をかいたので水瓶から手桶に水を移して顔を洗う。水瓶の水が少なくなっているな。アイシャが起きて1階に降りてきたので聞いてみる。

「アイシャ。水瓶の中の水がもう無い、どうすればいい?」

 おっと、つい体をくねらせて不思議な踊りを踊ってしまいそうになる。

「裏庭の井戸から水を汲むのよ。一緒に行きましょう」

 裏庭に井戸なんてあったか? アイシャは手桶を持って、裏口を出てすぐ左にある地面から延びた、一辺が10センチ程の四角い木の柱の下に置く。
 腰ほどの柱の上には、手前に突き出した木の箱が取り付けられている。その上に手を置くとゴボゴボと水の音がして、突き出た箱の下から大量の水が溢れ出したじゃないか。

 これが井戸!? ただのでかい蛇口にしか見えんぞ。これも魔法、いや魔道具なのか? その水を手桶に入れ3回往復すると水瓶はいっぱいになった。
 この井戸は各家庭にあるそうで、川から引き込んだ水を地下の水路に流している上水道のようなものらしい。

 その水を汲んで洗い場で体を洗おうとしたが、床がひび割れていてガタガタだ。これなら裏庭で水浴びした方がましか。まあ、いずれは直さないといかんな。


 今日俺は、職人ギルドで仕事がある。アイシャはこの町に住むための手続きに行ってもらう。
 ギルドも役所も同じ街中だ、朝食を済ませても1時間以上余裕がある。山道を歩かなくていいのは助かるな~。

 ギルドの会議室。職人達が集まり新型弓クロスボウを製作するための打ち合わせが始まる。俺は前回気になっていた事を提案する。

「俺としては誤発射防止の安全装置が欲しい。俺以外の者が使うなら、通常は引き金が引けなくなる仕組みがいると思うのだが」

 新しく作った図面をみんなに見てもらい説明する。

「確かに安全性は重要だな。しかしとっさの場合に安全装置が働き、撃てない場合の方が危険じゃないか?」
「俺もその懸念があるのは分かる。急に獣に襲われた場合、発射できない方が危険だ。しかし武器を扱い慣れていない者が使う前提なら、この安全装置は必要だと思う」

 初心者が扱う殺傷能力のある武器だ。安全には配慮したい。

「それならいっそのこと、魔道部品を組み込んではどうだ。価格は多少上がるが、撃つ時に魔力を流して安全装置を外すようにすれば、緊急時にも対応できると思うぞ」

 なに! 魔道部品だと。そんなことができるのか。確かにランプなど誰でも簡単に魔道具を動作させているから可能かもしれないが……。
 それに対してエギルが口を開く。

「ボアンよ。魔術師協会に話を通さないとならんが、魔道具店はこの町に1軒しかない小さな店だ。店主に直接来てもらって話を聞けるようにしてくれんか?」
「分かった。次回は魔道具店の者にも来てもらうようにしておこう」
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