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第1章 異世界暮らし 山の家
第31話 矢を作る1
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翌朝、木を伐るために剣を持ち、家の周りに生えている樹木の前に立つ。かまどに焚べる薪と矢を作る材料とするためだ。
朝の鍛錬の続きとしてショートソードの超音波振動を起動させて、目の前にある木の根元を袈裟切りで斜めに斬りつける。それだけで、思っている方向に木が倒れていく。
自分の思い通りの剣筋となっていることを確認し、次はナイフを超音波振動させ、邪魔な枝を切り払う。
倒れた樹木は薪として使うため輪切りにするが、矢の胴体部分の材料ともなる。矢の長さに合うように長めの物も切っておくか。輪切りには唐竹割りだな。真上から真下へと剣を振るう。
「おっと、こっちの木は前にナイフの練習で切った木だな。ちょうどいい具合に乾燥してるし、これも切っておくか」
切った丸太を入り口付近まで運んだ頃、朝食ができたとアイシャが呼びに来てくれた。
「今日、カエルを捕まえるって言ってたけど、なんでカエルが要るんだ」
「矢の後ろの葉を作るのに、カエルの皮膚を乾燥させた物を使うのよ」
「矢の羽?」
「ユヅキさん、ハネじゃなくて『ハ』ね」
確か矢の後ろには鳥の羽が使われていたと思うのだが……。
「カエルじゃなくて鳥の羽を使わないのか?」
「トリノハネってなあに?」
「えっ。あの空を飛ぶ鳥だよ、バタバタって飛ぶ動物」
「空を飛ぶ動物って言ったらドラゴンだけでしょう。まあ、小さな昆虫も飛ぶけどせいぜい木の上までよ」
えっ、鳥いないの!?
「ユヅキさんは時々変なことを言うわね」
すみません。常識が無くて。
そういやこの前、月について聞いた時もそんな反応だったな。夜空に浮かぶ丸い形で明るい物だと説明しても、見たこともない物をイメージするのは難しいようだ。全く話が合わなかったな。
朝食後、早速カエルを捕まえに出掛ける。カエルは水があまり動かない池や沼に生息しているらしい。家から30分ほど歩いたところに小さな池がある。
「いい。ユヅキさん。できるだけ物音を立てないように注意してね。すぐ逃げちゃうから」
俺達はゆっくりと池に近づいていく。
さっきから「ゲコゲコ」とカエルの声が聞こえてくるので、カエルがいることは間違いない。材料としては1匹でもいいらしいから、さっさと捕まえて帰ろう。
アイシャが弓を構えて近づいて行くが、弓で捕まえるのか? 池が見える所まで近づいて、カエルを見て声を上げてしまった。
「なんだ~、あれは!」
「しっ。静かに!」
人の背丈の半分くらい、背中に乗ってジャンプできそうな程でかいカエルが池の周辺に沢山いるぞ。丸飲みにされそうだが、大丈夫なのか!?
さっきまで鳴いていたカエルの声が聞こえなくなった。
「警戒されたわね」
アイシャが静かに弓に矢をつがえる。
矢が放たれたが警戒していたのか、矢音に気づきカエルが一斉に逃げ出した。
畜生、俺のせいか! 剣を抜き、逃げ出すカエルに向かって飛び出した。
――ブゥ~ン
超音波振動を起動させた瞬間、興奮したカエルがこちらに向かって飛びかかってきた。
「うぉ~、なんだこいつら」
剣を振り回して2、3匹斬ったが、カエルは構わず俺の上に圧し掛かってくる。
「ぐえ~」
「キャー。ユヅキさん、大丈夫!」
カエルの下敷きになった俺をアイシャが助け出してくれたが、カエルの粘液でぐちゃぐちゃだ。なんて凶暴な奴らだ。
池で体を洗ったあと、仕留めた2匹のカエルの内臓などを取り出して下処理した物をしばらく池につける。
さっきまで沢山いたカエルの群れは、池の中や林に逃げたのか今は1匹もいない。
「あんなに興奮したカエルを見たのは初めてだわ。体は大丈夫?」
「後ろ足で蹴られた首が少し痛むが、大丈夫だ」
「そうね、首の辺りが少し赤くなってるわね」
アイシャが優しく手を添え摩ってくれた。あ、あのちょっと顔が近いんですけど。顔まで熱くなってきた。
カエルの血抜きはすぐ済むらしい。表面のぬめりも取れたカエル2匹を背中に担いで家路につく。カエルの肉は淡白で美味しいそうなので、今夜の夕食が楽しみだ。
家でカエルを解体して肉と皮に分けて、肝心の皮はかまどの部屋で陰干しにする。
「中途半端な時間だから、私はウサギでも狩ってくるわ。ユヅキさんは弓を作っていて」
お言葉に甘えさせてもらい、クロスボウの製作に取り掛かろう。
昨日鍛冶屋で作ってもらった部品は、弓の弦を止めるストッパーと引き金だ。
本体はほぼできていて、今は縦2つに分かれた状態だ。
その間に金属部品を挟み込み、うまく連動するよう軸の位置を決めて本体に穴を開ける。引金や板バネなどの部品も取り付け、仮組みしてみたが、ちゃんと動作してくれた。
実際にはもっと弦を引き絞って力が加わるので、引き金が重くなるがこの調子なら大丈夫そうだ。
一旦本体を分解して、部品の軸をしっかりと打ち込み固定する。金属が回ったり擦れたりする部分に、獣の脂肪から作った油を塗りつけて本体を合わせる。
2つの本体を貼り合わせるのはネジではなく、木から取った樹液の接着剤と釘だ。
この世界にまだネジは無く、一度貼り合わせると分解は難しいから一発勝負となる。接着剤を均一に塗って、本体がずれないように慎重に貼り合わせて釘を打つ。
弓は本体先端の溝にはめ込んで、釘4本で固定する。
「お~、完成だ」
素人の俺が作ったにしては、それなりの物ができたじゃないか。
「ただいま~」
「お帰り、アイシャ」
ふたりニッコリと笑い合う。こんな充実した日常が送れるなんて。俺は小さな幸せを噛み締める。
朝の鍛錬の続きとしてショートソードの超音波振動を起動させて、目の前にある木の根元を袈裟切りで斜めに斬りつける。それだけで、思っている方向に木が倒れていく。
自分の思い通りの剣筋となっていることを確認し、次はナイフを超音波振動させ、邪魔な枝を切り払う。
倒れた樹木は薪として使うため輪切りにするが、矢の胴体部分の材料ともなる。矢の長さに合うように長めの物も切っておくか。輪切りには唐竹割りだな。真上から真下へと剣を振るう。
「おっと、こっちの木は前にナイフの練習で切った木だな。ちょうどいい具合に乾燥してるし、これも切っておくか」
切った丸太を入り口付近まで運んだ頃、朝食ができたとアイシャが呼びに来てくれた。
「今日、カエルを捕まえるって言ってたけど、なんでカエルが要るんだ」
「矢の後ろの葉を作るのに、カエルの皮膚を乾燥させた物を使うのよ」
「矢の羽?」
「ユヅキさん、ハネじゃなくて『ハ』ね」
確か矢の後ろには鳥の羽が使われていたと思うのだが……。
「カエルじゃなくて鳥の羽を使わないのか?」
「トリノハネってなあに?」
「えっ。あの空を飛ぶ鳥だよ、バタバタって飛ぶ動物」
「空を飛ぶ動物って言ったらドラゴンだけでしょう。まあ、小さな昆虫も飛ぶけどせいぜい木の上までよ」
えっ、鳥いないの!?
「ユヅキさんは時々変なことを言うわね」
すみません。常識が無くて。
そういやこの前、月について聞いた時もそんな反応だったな。夜空に浮かぶ丸い形で明るい物だと説明しても、見たこともない物をイメージするのは難しいようだ。全く話が合わなかったな。
朝食後、早速カエルを捕まえに出掛ける。カエルは水があまり動かない池や沼に生息しているらしい。家から30分ほど歩いたところに小さな池がある。
「いい。ユヅキさん。できるだけ物音を立てないように注意してね。すぐ逃げちゃうから」
俺達はゆっくりと池に近づいていく。
さっきから「ゲコゲコ」とカエルの声が聞こえてくるので、カエルがいることは間違いない。材料としては1匹でもいいらしいから、さっさと捕まえて帰ろう。
アイシャが弓を構えて近づいて行くが、弓で捕まえるのか? 池が見える所まで近づいて、カエルを見て声を上げてしまった。
「なんだ~、あれは!」
「しっ。静かに!」
人の背丈の半分くらい、背中に乗ってジャンプできそうな程でかいカエルが池の周辺に沢山いるぞ。丸飲みにされそうだが、大丈夫なのか!?
さっきまで鳴いていたカエルの声が聞こえなくなった。
「警戒されたわね」
アイシャが静かに弓に矢をつがえる。
矢が放たれたが警戒していたのか、矢音に気づきカエルが一斉に逃げ出した。
畜生、俺のせいか! 剣を抜き、逃げ出すカエルに向かって飛び出した。
――ブゥ~ン
超音波振動を起動させた瞬間、興奮したカエルがこちらに向かって飛びかかってきた。
「うぉ~、なんだこいつら」
剣を振り回して2、3匹斬ったが、カエルは構わず俺の上に圧し掛かってくる。
「ぐえ~」
「キャー。ユヅキさん、大丈夫!」
カエルの下敷きになった俺をアイシャが助け出してくれたが、カエルの粘液でぐちゃぐちゃだ。なんて凶暴な奴らだ。
池で体を洗ったあと、仕留めた2匹のカエルの内臓などを取り出して下処理した物をしばらく池につける。
さっきまで沢山いたカエルの群れは、池の中や林に逃げたのか今は1匹もいない。
「あんなに興奮したカエルを見たのは初めてだわ。体は大丈夫?」
「後ろ足で蹴られた首が少し痛むが、大丈夫だ」
「そうね、首の辺りが少し赤くなってるわね」
アイシャが優しく手を添え摩ってくれた。あ、あのちょっと顔が近いんですけど。顔まで熱くなってきた。
カエルの血抜きはすぐ済むらしい。表面のぬめりも取れたカエル2匹を背中に担いで家路につく。カエルの肉は淡白で美味しいそうなので、今夜の夕食が楽しみだ。
家でカエルを解体して肉と皮に分けて、肝心の皮はかまどの部屋で陰干しにする。
「中途半端な時間だから、私はウサギでも狩ってくるわ。ユヅキさんは弓を作っていて」
お言葉に甘えさせてもらい、クロスボウの製作に取り掛かろう。
昨日鍛冶屋で作ってもらった部品は、弓の弦を止めるストッパーと引き金だ。
本体はほぼできていて、今は縦2つに分かれた状態だ。
その間に金属部品を挟み込み、うまく連動するよう軸の位置を決めて本体に穴を開ける。引金や板バネなどの部品も取り付け、仮組みしてみたが、ちゃんと動作してくれた。
実際にはもっと弦を引き絞って力が加わるので、引き金が重くなるがこの調子なら大丈夫そうだ。
一旦本体を分解して、部品の軸をしっかりと打ち込み固定する。金属が回ったり擦れたりする部分に、獣の脂肪から作った油を塗りつけて本体を合わせる。
2つの本体を貼り合わせるのはネジではなく、木から取った樹液の接着剤と釘だ。
この世界にまだネジは無く、一度貼り合わせると分解は難しいから一発勝負となる。接着剤を均一に塗って、本体がずれないように慎重に貼り合わせて釘を打つ。
弓は本体先端の溝にはめ込んで、釘4本で固定する。
「お~、完成だ」
素人の俺が作ったにしては、それなりの物ができたじゃないか。
「ただいま~」
「お帰り、アイシャ」
ふたりニッコリと笑い合う。こんな充実した日常が送れるなんて。俺は小さな幸せを噛み締める。
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