上 下
33 / 326
第1章 異世界暮らし 山の家

第31話 矢を作る1

しおりを挟む
 翌朝、木を伐るために剣を持ち、家の周りに生えている樹木の前に立つ。かまどに焚べる薪と矢を作る材料とするためだ。

 朝の鍛錬の続きとしてショートソードの超音波振動を起動させて、目の前にある木の根元を袈裟切りで斜めに斬りつける。それだけで、思っている方向に木が倒れていく。
 自分の思い通りの剣筋となっていることを確認し、次はナイフを超音波振動させ、邪魔な枝を切り払う。

 倒れた樹木は薪として使うため輪切りにするが、矢の胴体部分の材料ともなる。矢の長さに合うように長めの物も切っておくか。輪切りには唐竹割りだな。真上から真下へと剣を振るう。

「おっと、こっちの木は前にナイフの練習で切った木だな。ちょうどいい具合に乾燥してるし、これも切っておくか」

 切った丸太を入り口付近まで運んだ頃、朝食ができたとアイシャが呼びに来てくれた。

「今日、カエルを捕まえるって言ってたけど、なんでカエルが要るんだ」
「矢の後ろの葉を作るのに、カエルの皮膚を乾燥させた物を使うのよ」
「矢の羽?」
「ユヅキさん、ハネじゃなくて『ハ』ね」

 確か矢の後ろには鳥の羽が使われていたと思うのだが……。

「カエルじゃなくて鳥の羽を使わないのか?」
「トリノハネってなあに?」
「えっ。あの空を飛ぶ鳥だよ、バタバタって飛ぶ動物」
「空を飛ぶ動物って言ったらドラゴンだけでしょう。まあ、小さな昆虫も飛ぶけどせいぜい木の上までよ」

 えっ、鳥いないの!?

「ユヅキさんは時々変なことを言うわね」

 すみません。常識が無くて。
 そういやこの前、月について聞いた時もそんな反応だったな。夜空に浮かぶ丸い形で明るい物だと説明しても、見たこともない物をイメージするのは難しいようだ。全く話が合わなかったな。

 朝食後、早速カエルを捕まえに出掛ける。カエルは水があまり動かない池や沼に生息しているらしい。家から30分ほど歩いたところに小さな池がある。

「いい。ユヅキさん。できるだけ物音を立てないように注意してね。すぐ逃げちゃうから」

 俺達はゆっくりと池に近づいていく。
 さっきから「ゲコゲコ」とカエルの声が聞こえてくるので、カエルがいることは間違いない。材料としては1匹でもいいらしいから、さっさと捕まえて帰ろう。

 アイシャが弓を構えて近づいて行くが、弓で捕まえるのか? 池が見える所まで近づいて、カエルを見て声を上げてしまった。

「なんだ~、あれは!」
「しっ。静かに!」

 人の背丈の半分くらい、背中に乗ってジャンプできそうな程でかいカエルが池の周辺に沢山いるぞ。丸飲みにされそうだが、大丈夫なのか!?
 さっきまで鳴いていたカエルの声が聞こえなくなった。

「警戒されたわね」

 アイシャが静かに弓に矢をつがえる。
 矢が放たれたが警戒していたのか、矢音に気づきカエルが一斉に逃げ出した。
 畜生、俺のせいか! 剣を抜き、逃げ出すカエルに向かって飛び出した。

 ――ブゥ~ン

 超音波振動を起動させた瞬間、興奮したカエルがこちらに向かって飛びかかってきた。

「うぉ~、なんだこいつら」

 剣を振り回して2、3匹斬ったが、カエルは構わず俺の上にし掛かってくる。

「ぐえ~」
「キャー。ユヅキさん、大丈夫!」

 カエルの下敷きになった俺をアイシャが助け出してくれたが、カエルの粘液でぐちゃぐちゃだ。なんて凶暴な奴らだ。
 池で体を洗ったあと、仕留めた2匹のカエルの内臓などを取り出して下処理した物をしばらく池につける。
 さっきまで沢山いたカエルの群れは、池の中や林に逃げたのか今は1匹もいない。

「あんなに興奮したカエルを見たのは初めてだわ。体は大丈夫?」
「後ろ足で蹴られた首が少し痛むが、大丈夫だ」
「そうね、首の辺りが少し赤くなってるわね」

 アイシャが優しく手を添えさすってくれた。あ、あのちょっと顔が近いんですけど。顔まで熱くなってきた。

 カエルの血抜きはすぐ済むらしい。表面のぬめりも取れたカエル2匹を背中に担いで家路につく。カエルの肉は淡白で美味しいそうなので、今夜の夕食が楽しみだ。
 家でカエルを解体して肉と皮に分けて、肝心の皮はかまどの部屋で陰干しにする。

「中途半端な時間だから、私はウサギでも狩ってくるわ。ユヅキさんは弓を作っていて」

 お言葉に甘えさせてもらい、クロスボウの製作に取り掛かろう。
 昨日鍛冶屋で作ってもらった部品は、弓の弦を止めるストッパーと引き金だ。

 本体はほぼできていて、今は縦2つに分かれた状態だ。
 その間に金属部品を挟み込み、うまく連動するよう軸の位置を決めて本体に穴を開ける。引金や板バネなどの部品も取り付け、仮組みしてみたが、ちゃんと動作してくれた。

 実際にはもっと弦を引き絞って力が加わるので、引き金が重くなるがこの調子なら大丈夫そうだ。
 一旦本体を分解して、部品の軸をしっかりと打ち込み固定する。金属が回ったり擦れたりする部分に、獣の脂肪から作ったグリスを塗りつけて本体を合わせる。

 2つの本体を貼り合わせるのはネジではなく、木から取った樹液の接着剤と釘だ。
 この世界にまだネジは無く、一度貼り合わせると分解は難しいから一発勝負となる。接着剤を均一に塗って、本体がずれないように慎重に貼り合わせて釘を打つ。
 弓は本体先端の溝にはめ込んで、釘4本で固定する。

「お~、完成だ」

 素人の俺が作ったにしては、それなりの物ができたじゃないか。

「ただいま~」
「お帰り、アイシャ」

 ふたりニッコリと笑い合う。こんな充実した日常が送れるなんて。俺は小さな幸せを噛み締める。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...