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会談

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 憑炎(メラフ)と出会い、別れた三日後。私は森の中央にある古木のそばで散歩をしていた。古木は私の寝床なので、たまに周囲を散歩しつつ見回って、なわばりに危険な魔物が入り込んでいないかチェックしているのだ。
 
(憑炎(メラフ)、今頃ジーズゥのお城で勉強しながら楽しくやってるかなぁ)

 ジーズゥの王様となった憑炎(メラフ)のことを考えていたその時、突然私の大きな体が光に包まれた。

(召喚か。またリュリーだな)

 私は落ち着き払って考えた。リュリーはしょっちゅう私を呼び出すので、召喚にはすっかり慣れてしまった。
 しかし頻度こそ高いけど、リュリーは私を召喚して思う存分もふもふしたら速やかに森に送り帰してくれる。私には飼い主がいると思っているらしく、あまり長く独り占めしていたらいけないと考えているみたいだ。

 リュリーの姿を思い浮かべながら召喚された私だが、光が収まった時に目の前にいたのはリュリーではなくハロルドだった。
 しかも場所は星降る森にあるハロルドの家ではなく、ハロルドの実家――つまりオルライトの王城にある一室のようだ。シャンデリアや絵画が飾られた大きな部屋に私は呼び出された。

「ミャーン」
「突然呼び出してすまない」

 ハロルドは一応謝ってくれたが、召喚される時って毎回突然だから別にいいよ。
 用意していた対価のヤギミルクを私に飲ませた後で、ハロルドは要件を話し出す。

「実はな、これからこのオルライトの王城で大事な会議が開かれる。星降る森を囲む五つの国の王が集まって話し合いをするのだ。そこに三日月も出席してほしい」
「ミ?」

 猫が王たちの会議に出席? と私は首を傾げた。自分で言うのも何だけど、私なんて会議に呼んでも何の役にも立たないと思うよ。
 するとハロルドはこう説明する。

「場を和ませるために部屋にいてくれるだけでいいのだ。昼寝をしていても構わない。私もクローディアに呼ばれて会議に出ることになっている」

 クローディアっていうのは、ハロルドの妹でもあるオルライトの女王だ。

「今回は話し合いの流れによって、五か国の間で戦争が始まってもおかしくないような状況だからな。とても大事な会議なのだ。だからあえて冷静な第三者である私や、のんびりしている三日月のような存在を置くことが必要だと思う」
「ミャー」

 よく分からないので、私はあくびをしながら返事をした。

「三日月は賢者である私の召喚獣として会議について来てもらう。下手をすれば他国への威嚇と捉えられかねないが、竜人たちもドラゴンを連れてオルライトに来ているわけだし、私が猫一匹連れていっても問題ないだろう」

 そうか、ドラグディアの王様――レオニートも来るのか。そしたらレオニートのドラゴンのエレムも来るかなぁ。ちょっと楽しみになってきた。
 
(あれ? 星降る森を囲む五か国の王が集まるってことは、ドラグディアのレオニート以外にも、トルトイのエミリオ、パールイーズのリュリー、ジーズゥの憑炎(メラフ)も来るってこと?)

 全員私の知り合いじゃん、と気づいて少し目を見開く。リュリーはまだ王子だから来ないかもしれないけど、それだけ知り合いが多ければ何も緊張する必要なさそうだ。

(というか、憑炎(メラフ)はこの前王様になったばかりなのに、もう他国に出向いて会議に出席するとか大変だな)

 ハロルドは私の頬の下を撫でながら、呆れたようにため息をついて言う。

「先日ジーズゥのグィレロ王が、星降る森を囲むジーズゥ以外の四か国に向けて宣戦布告をしてな。使者が運んできたグィレロ王からの書簡には、『星降る森を我がジーズゥのものとするため、他の四か国は全て滅ぼす』といったことが書かれてあった。グィレロ王は元から良心のある賢い王ではなかったが、それにしても正気を疑う。大国であるオルライト、そして戦力が桁違いのドラグディアも含めた四つの国を一気に相手にしようとするなんてな」
「ミー」

 私は眉をしかめて考えた。グィレロ王が宣戦布告をしたのっていつなんだろう? きっと憑炎(メラフ)が体を乗っ取る前だよね。確かグィレロ王が星降る森に来た時に、臣下の騎士たちに向かって『戦争を始めるんだぞ!』って怒鳴っていた気がするし。

「宣戦布告された四か国は、力を合わせてジーズゥを潰すべく会議をすることになった。それが今回の会議だ」
「ミー?」

 でもさっき五か国で会議をするって言ってなかったっけ?
 私がまたもや首を傾げると、ハロルドは私の頬毛をモフモフしながら説明を続ける。

「最初は四か国で打倒ジーズゥの会議をするつもりだった。しかしグィレロ王も己の短慮に気づいたようで、再び使者を送ってきて宣戦布告を撤回したのだ。戦争を仕掛けようとしたことやそれを撤回するに至った説明と謝罪をするために、グィレロ王も今回の会議の場に来たいと言ったのだ」

 宣戦布告をしたのは本当のグィレロ王、そして今回会議にやって来るのは憑炎(メラフ)だろうから、宣戦布告の撤回をしたのも憑炎(メラフ)かな。

「グィレロ王のことだ。宣戦布告の撤回や、説明と謝罪というのも本当かは疑わしい。一応用心はしておかねば」

 ハロルドは独り言のように呟いたけど、今回来るのが憑炎(メラフ)だと分かっている私は、警戒する気持ちが起きなかった。元のグィレロ王のやらかしの後始末をつけて回っているであろう憑炎(メラフ)に同情する。

「さぁ、ではそろそろ行こうか。三日月は部屋の隅で毛づくろいでも昼寝でも何でもしていてくれ。できるだけのんきな様子を見せてくれると、ピリついている皆の心も和やかになるだろう」

 ハロルドは私を連れて部屋を出ると、会議を行う迎賓室とやらに向かった。賢者が大きな召喚獣を連れて来ることは事前に伝えてあるみたい。
 城にはあちこちに騎士が立っていて物々しい雰囲気だ。この緊張感、私一人で何とかできるか……?

 さすがに私も少し毛を逆立ててドキドキしながら、ハロルドに促されて迎賓室の扉をくぐる。扉前にはそれぞれ違う制服を着た各国の騎士たちがずらりと並んでいて、部屋の中にはすでに要人たちが集まっていた。
 オルライトの王はハロルドの妹であるクローディア、ドラグディアはレオニート、トルトイはエミリオ、パールイーズはリュリーが出席していた。みんな騎士とは別の賢そうな臣下を一人二人程度連れている。
 私が姿を現すと、クローディア以外の王たちは全員目を見開いて驚きの声を上げた。

「三日月!?」

 その反応にハロルドも驚いて、珍しくちょっと混乱している様子が見て取れる。
 一方リュリーは冷静な美貌の王子って感じの雰囲気だったのに、私を見た途端に表情が喜びで明るく緩くなる。顔つきがただの猫好きになってるけど大丈夫だろうか? こういう場では王子の顔に戻した方がいいのではないだろうか。

「賢者殿の召喚獣とは三日月のことだったのですか?」

 エミリオが目をまん丸にしながらハロルドに話しかけてくる。
 ハロルドは困惑しながら答えた。

「確かにこの子は三日月ですが……何故エミリオ殿が名前を知っておいでなのです?」
「いえ、私もこの子に三日月と名前を付けて召喚契約を結んでいまして……」
「なんと」

 びっくりしているハロルドにレオニートとリュリーも順番に言う。

「召喚契約は結んでいないが、私もこの子猫を知っていて三日月と呼んでいるぞ」
「私もこの子猫と星降る森で出会い、三日月と名付けました。召喚獣契約も結んでいます」
「三日月……いつの間に……。何という子猫だ」

 ハロルドは信じられないという目でこちらを見た。あの広大な星降る森で賢者のハロルドに出会っただけでなく、各国の王族とも顔見知りになっていたなんて、ものすごい偶然だもんね。

「こんなことがあるのね」

 クローディアも驚きながら笑って言う。
 そしてリュリーは控えめな態度でハロルドに尋ねた。
 
「三日月の本当の飼い主は賢者殿だったんですね」
「いや、私は三日月にとって飼い主というほどの存在ではないですよ。一緒に住んでいるわけではないですしね」
「そうなのですか」
「あちらこちらで懐いて可愛がられて、人たらしな子猫です」
「ミャ」 

 ハロルドの言葉に反論して鳴く私。人間が勝手に可愛がってくるだけだもん!
 ハロルドは続けてリュリーに尋ねた。

「ところで今日はお父上はどうされたのです?」
「父は今、体調を崩していまして、大事を取って国に留まっています。軽い風邪なのですぐに元気になりますよ」
「大病をされたのでないならよかった。急遽リュリー殿が出席されるということで心配していたのです。トルトイでは先代の王が今年急に亡くなられましたしね」

 そこでハロルドはエミリオに顔を向けた。

「お父上がお亡くなりになられたのは残念でしたが、エミリオ殿のような立派な後継者がいたことはトルトイにとっても喜ばしいことです。あなたが王になってから、トルトイの情勢は安定したと聞きますよ」
「ありがとうございます。まだまだ勉強することが多いですが、臣下たちが支えてくれています」

 エミリオはにっこりほほ笑んで言った。まるで好青年だけど、この人自分の手で父親殺してるんだよなぁ。
 でもエミリオは賢くて優しく、時には非情にもなれて、良い王の器ではあると思う。
 そんなことを考えている私に向かって、エミリオが話しかけてくる。

「三日月、リセが会いたがっていたよ。また召喚するから会ってあげてくれ」
「ミャーン」

 今日はリセ来てないのかぁと思いながら、私はエミリオに鼻先を撫でられた。くすぐったい。
 するとレオニートもこちらにやって来て私の頬を撫でながら言う。
 
「うちのレイラやロキともまた会ってやってくれないか? それにエレムとも。エレムは私と一緒に来たから、今は下にいる」
「ミャ~ン」

 私はご機嫌にしっぽをピンと立てて鳴く。この部屋の天井は高いとはいえ、しっぽの先が天井を擦り、シャンデリアにも軽くぶつかる。今は昼間で明るいからシャンデリアの蝋燭の火がついていなくてよかった。

(エレムも来てるんだ。後で遊んでもらお~)

 レオニートのドラゴンであるエレムは、大きいし頼りになるし優しいから好きだ。レイラもロキも元気にしてるかな。
 オルライトの女王クローディアは、みんなの様子を眺めて安心したように言う。
 
「会議の場が少しでも和めばと思ってハロルドに連れてきてもらった三日月ですけれど、予想を超えて、国同士の友好を深める手助けをしてくれそうですね」

 しかしそこで表情を引き締めると扇を口元に当てて続ける。

「けれど本題はグィレロ王が来てから。到着が遅れているようですが――」

 クローディアが探るように扉の方を見た時、ちょうど廊下から使用人が静かに、けれど迅速に部屋の中に入ってきた。
 そしてクローディアに向かって言う。

「ジーズゥのグィレロ王が到着されました」

 やがてやって来たのは、この三日で少し痩せたジーズゥの王様だった。前に星降る森で見た時より、着ている服も上品になっている。派手で豪華な感じが落ち着いて、指輪なんかの宝飾品も一切身につけていない。
 顔つきも以前は意地悪で高慢そうだったけど、今は穏やかに見えた。ただ、他国の王たちとの会議に出るということで、緊張している様子がうかがえる。

「お、遅れてすみま……申し訳ない」

 グィレロ王――憑炎(メラフ)は威圧感のない声でみんなに謝った。彼のそばには賢そうなおじさんが二人ついていて、そのうち一人は私が星降る森で助けた眼鏡のおじさんだった。木に括りつけられて放置され、死にかけていた人だ。
 このおじさん二人はグィレロ王の中身が別人であることを知っているのか、緊張している憑炎(メラフ)を気遣うように背中に手を当てたり、他の国王たちに挨拶するように耳打ちして指示を出したりしている。
 その指示に従って憑炎(メラフ)はみんなに挨拶をしようとしたが、ハロルドの後ろにいる私に気づいて、こぼれんばかりに目を見開く。

「え……? えぇ!? お前、何でここにっ!?」
「ミゥー」

 驚きと共に、知り合いを見つけて安堵したような顔をした憑炎(メラフ)は、少年みたいに私に駆け寄ってきた。

「どういうことだよ。お前、星降る森に住んでるんじゃないのか?」

 思いがけない再会に、憑炎(メラフ)は興奮して喜んでいる。

「陛下、その大きな子猫、私たちを助けてくれた子猫ですよ……」

 眼鏡のおじさんも唖然としながら言う。
 一方、ハロルドはもはや驚くことなく「またか」と呟いた。

「三日月がグィレロ王やフシャド大臣とまで知り合いだったとは」
「権力者にばかり取り入ってるんじゃないだろうな」

 リュリーは拗ねてるような顔をして私の頬をワシワシ撫でてきた。言いがかりだよ、ただの偶然だよ~。

「しかしグィレロ王の様子が何か違うな」

 レオニートがぼそっと独り言を呟く。ここにいるみんな、それに気づいているようだった。
 憑炎(メラフ)は私がこの場にいる経緯をハロルドから聞きながら、居住まいを正して何とか王としての威厳を出そうとしているようだった。年相応に落ち着いた声を出して、胸を張って弱気にならないようにしている。
 そして憑炎(メラフ)がハロルドの話に納得したところで、クローディアが全員に着席を促した。

「それでは皆さん、始めましょうか」

 部屋の中央に置かれた円卓はそれほど大きくない。お互いの話し声がきちんと聞き取れ、表情が読めるくらいの距離だ。各国の王たちはそれぞれの席に座り、その隣や後ろに、付き添うように臣下の文官たちも着席する。
 私はハロルドの背後の床に伏せの体勢で寝そべり、クアッっと大きなあくびをした。
 会議が始まると、まず憑炎(メラフ)が謝罪をする。

「あ、えーっと……最初に私から、オルライト、ドラグディア、トルトイ、パールイーズの四か国に宣戦布告をしたこと、謝罪させていただきたい。思い上がった愚かな行いだと思われても仕方のない行為です」

 椅子に座ったまま憑炎(メラフ)が頭を下げると、ハロルドと各国の王たちは驚きに目を見張った。グィレロ王が素直に頭を下げたことが信じられないのだろう。
 クローディアは威厳がありながらも母のような優しい態度で憑炎(メラフ)に尋ねる。

「一体何故、我々四か国に無謀な宣戦布告などして、そして何故それをすぐに撤回したのです? 何があったのですか?」
「説明の機会をいただけることは、あの、有り難く思います」

 緊張している憑炎(メラフ)は、言葉遣いが少したどたどしい。頑張って王様っぽい喋り方をしながら、憑炎(メラフ)は説明する。

「まず、皆さんに『魔人』という存在についてお伝えしたい。魔力星を大量に吸収した動物や植物が魔物になることは広く知られていますが、人間も魔力を取り過ぎると魔物化するのです。今回、私は魔物化した人間――魔人に操られて戦争を始めようとしてしまったのです」

 レオニートやクローディア、エミリオやリュリーはその話を聞いてお互いに顔を見合わせた。
 そしてレオニートが机の上で軽く手の指を組んだまま言う。

「人間が魔物化するというのは、理論上は理解できる話だ。だが実際、人間が魔力を取り過ぎるという状況になるだろうか? 私は魔力星を食べたことがあるが、一つ食べれば魔力というエネルギーが体に満ち溢れる。それを使い切ってしまわないと、また魔力星を口にする気にはならない。満腹の時は食べる気が起きないのと同じだ。ゆえに人間が魔物化するのは難しいと思うが」
「確かに一度に魔力星を複数口にする気にはなりませんね」

 リュリーも同意する。
 動物や植物が魔物化する場合は、本人の意思で星を体内に取り入れているのではなく、星降る森にいると勝手に取り込んでしまうのだ。半年に一度、空から星が降る前に、地上にある星は蒸発するように動植物に吸収されてしまうから。
 憑炎(メラフ)は真面目な調子で続ける。

「私が会った魔人は名をマクシムスと名乗りましたが、彼は人間も魔物化するのかを確かめるため、何十年もかけて無理やりに魔力星を食べ続けたそうです。マクシムスの正確な歳は分かりませんが、もしかしたら百歳は超えているかもしれない。見た目は美しい顔立ちの若い男でしたが」

 そのマクシムスと会ったのは、憑炎(メラフ)ではなく元のグィレロ王なのだろう。そしてグィレロ王はマクシムスにそそのかされた。憑炎(メラフ)はその時の記憶を見て話しているんだと思う。

「マクシムスは魔法で突然私の前に現れて、自分の力を私に見せつけた後、戦争を持ちかけてきました。『四つの国を相手に戦ったとしても、魔人である自分がいれば絶対に勝てる』と言って。彼は何十年もかけて溜めた膨大な魔力を体内に有しているので、いちいち魔力星を食べずとも大きな魔法が使えます。呪文や魔法陣も完璧に暗記していて、魔法の発動は驚くほど速く、人間離れした力を持っているように感じました。そして私もマクシムスに何らかの魔法をかけられ、操られて宣戦布告をしてしまった」

 元のグィレロ王の浅はかさを考えると普通にそそのかされて乗っかっちゃっただけなんじゃ? って思うけど、憑炎(メラフ)は魔法で操られたということにしたいのかな。そっちの方がまだ面目が保てるもんね。

「魔法で操られたね」

 レオニートは少し馬鹿にするように言った。憑炎(メラフ)は竜人の王の圧に怖気づきながらも、目を逸らすことなく誠実な瞳でレオニートを見つめ返している。

「ミャー」

 私は起き上がると、憑炎(メラフ)の隣に立ってレオニートに向かって鳴く。
 憑炎(メラフ)は元のグィレロ王がやらかしたことの尻ぬぐいをしてるだけなんだから、『魔法で操られて宣戦布告した』ってことで見逃してあげてよ。全部魔人が悪いってことで丸く収めよう。
 憑炎(メラフ)は嫁を七人欲しがってたし、特別真面目な人間ではないかもしれないけどさ、悪いやつでもないから。
 
「ンミー」

 お願い、とレオニートに訴えかけると、レオニートは笑って憑炎(メラフ)の方を見た。

「三日月が味方をするということは、私が思っていたよりあなたは信用できる人間だったのか。それとも魔人に魔法をかけられて人格を変えられているんじゃないか?」
「私のことをそう思うならそれで構いません。私がここに来て伝えたかったのは『戦争はしない』ということですから」
「やはり人が変わったとしか思えないな」

 憑炎(メラフ)の実直な言い方に、レオニートは片眉を上げて不可解そうな顔をする。まぁねぇ、人は変わってるんだよねぇ。
 私は憑炎(メラフ)とハロルドの間で伏せをし、テーブルに顎を乗せて、静かに会議に耳を傾ける。

「……ちょっ、笑うからやめて」

 私と目が合うと、私の正面にいるエミリオがそう言って笑いをこらえた。エミリオからは、テーブルに私の巨大な生首が乗っているように見えてるのかも。
 エミリオの隣にいるレオニートもちょっと笑ってるし、リュリーは目を細めて頬を緩ませている。リュリーはそんなへにゃへにゃな笑顔を見せていないでもう少しキリッとした方がいいと思う。
 レオニートは私から憑炎(メラフ)に視線を戻して言った。

「ま、あなたに何が起きたのか分からないが、今のグィレロ殿は誠実そうに見える。次はないが、今回は謝罪を受け入れよう。しかしそのマクシムスという魔人は今どこに?」

 謝罪が受け入れられたことで、憑炎(メラフ)やフシャド大臣たちは安堵の表情を見せた。
 そして憑炎(メラフ)は続ける。

「それが、宣戦布告をした後でマクシムスは我が王城からこつ然と姿を消したのです。マクシムスは最初から戦争でジーズゥのために戦うつもりはなかったのでしょう。ただジーズゥが戦争に負けて滅びるのを見たかっただけなのかもしれません」

 話を聞きながら、鼻がかゆかった私はテーブルに顔を乗せたままペロッと鼻を舐めた。エミリオが笑いたそうに口を歪めて、リュリーはこっちを見てにっこりほほ笑んだ。
 憑炎(メラフ)は真剣な話を続ける。

「しかしマクシムスは私やジーズゥに恨みを持っているような様子はなかった。少しの期間接しただけですが、彼は他人をおちょくって遊ぶようなところがあるし、愉快犯だったのだろうと思います。今はどこにいるか分からないし何を考えているかも分からない、危険な人物です」
「ふむ。その魔人は戦争をするのが目的ではなかったのか。気まぐれでつかみどころのない人物のようだ」

 ハロルドが顎に手を当てて言うと、クローディアも憂慮している様子で話す。

「強大な魔力を身に宿しているというのは気になるわね。その気になれば本当に国を相手に一人で勝てるほどの力を持っているのかもしれない」

 そしてエミリオとレオニートも順番にこう言った。

「そういう存在がいることを知ることができたのは良かったです。それだけでもこの会議に参加した意義があった。もちろん戦争をせずに済んだことは一番喜ばしいことですが」
「その魔人の思想は分からないが、強い力を持つというだけで危険人物だと言える。いつどこに現れるか分からないし、警戒はしておかねばな」

 そうして魔人の情報を共有した後、会議は平和に終わった。
 国王同士のいざこざも戦争も起きず、ハロルドもホッとしているようだ。

 まぁ、一つ問題があったとしたら、リュリーが猫(私)に気を取られて会議に集中してなかったことくらいだ。あの猫好き王子、会議中私ばっかり見てほとんど発言してなかったよ。
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