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ケンタウロスの子供(1)
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木のおじさんと楽しく遊んだ私は、ランランと頭の中で歌を歌いながら森を走っていた。
すると、視界に流れる景色の中にキラッと光る物を見つけた。
(きっと〝星〟だ)
近づいて確認してみると、やはり凸凹しながらも丸みを帯びた星だった。
(紫色だから、魔力星だ。命星は金色だし)
魔力星は命星ほど目立たないけど、ちょうど木漏れ日が当たる場所にあったのできらりと光っている。
(でもこれを食べても、魔力を使うことなんてないしなぁ)
魔力星を前足でちょいちょいと転がしながら考える。
そしてせっかく見つけたけど私に星は必要ないという結論を出し、顔を上げたところで、またもや視界の端に光る何かを見つけた。そちらを見れば、今度は命星が地面に転がっていた。
(こんな近くに二個も見つけた!)
一瞬ラッキーと思うも、やっぱり私には必要ないものなのでそれほどラッキーでもないなと思い直す。
しかもこの付近にある星はこの二つだけではなかったようで、小さな女の子の妖精が三人、ひらひらと羽を羽ばたかせてこちらに近づいてきたかと思えば、『あそこにもあるよ』と言うように木の上を指差した。
すると、木の枝の上、密集した木の葉にひっかかって確かに命星が一つ乗っている。
誰かに拾われたり食べられたりすることなく、森の中に残った星は、半年ほどはそのままそこにある。そして半年が経つと地面や植物に吸収されて消え、その後また空から星が降ってくる。
生まれて半年になる私も、近いうちに星が降る光景を見られるだろうから楽しみだ。
(妖精たち、教えてくれてありがとう。でもこんなに見つけても仕方ないんだよ)
小さな妖精に心の中でそう言い、しっぽを振ってお別れする。人間だったらこの森に降る星は喉から手が出るほど欲しいだろうけど。
実際、森の端の方に落ちた星は、人間たちに拾われてもうほとんど残ってないと思う。普通じゃないこの森では人間たちは簡単に遭難してしまうから、命知らずの冒険者でない限り中心部まで入ってこない。だから人間たちは比較的安全な森の端で星を集めるのだ。
そして翌日、私は三度(みたび)、木のおじさんのところに遊びに行った。
おじさんは私を見ると嫌そうに悲鳴を上げる。
「ギャアアア! また来やがった! クソ猫ッ! 帰れ!」
ひどい言われようだ。
そんなに嫌わなくてもいいのに。
(遊ぼうよ!)
私が瞳孔全開で目をらんらんとさせ、いつでも飛びかかれるように姿勢を低くすると、おじさんは慌てて言い聞かせてくる。
「ワシはお前の友だちじゃないんだってーの! 懐いてるんじゃねぇ! ワシは猫と遊んだりしないの!」
おじさんには悪いけど、一旦〝遊びモード〟に入ると自分でも自分を律するのが難しい。それでも小さな相手に飛びかかったりはしないけど、木のおじさんなら大きいし頑丈そうだから私が多少やんちゃしても受け止めてくれるかなって、勝手な期待を抱いてしまってる。
「もう他の遊び相手を見つけろよォ! 竜の国にでも行ってドラゴンに遊んでもらえ! ワシはお前の相手してるほど暇じゃないんだから!」
いや、ずっとここで獲物が通りかかるのを待ってるだけなら暇じゃないの? と思いつつ、タイミングを計るようにしっぽを左右に振っていると、
(ん? なんだ、あれ)
木のおじさんの頭の部分――つまり葉っぱがわさわさと生い茂っている部分に、奇妙な影を見つけた。あそこに枝に包まれた何かがある。
目を凝らしてよく見てみると馬の足みたいなものが確認できたので、そこでやっと、あれは木のおじさんが捕まえた獲物なんだと気づく。
馬の体に枝がぐるぐる巻き付いていて、上まで持ち上げているみたい。
(まだミイラにはなってないけど、生きてるのかな?)
私がじっと馬を見ていると、おじさんは厳しい顔をして言う。
「これはワシの獲物だぞ。お前にはやらんからな!」
心配しなくたって私は馬なんて食べないよ、と心の中で言った時だ。
その馬が身じろぎしたかと思うと、「うう……」と人間の子供みたいな声が漏れ聞こえてきた。そして残った力を振り絞るかのように暴れ始める。
「グァハハハ! 暴れても無駄だ。お前はワシが喰ってやる。子供でも容赦はしちゃならんと、このクソ猫に出会って学んだのだ! 助けを乞うても絶対に逃がさんぞ!」
「助け、て……っ」
そこで一瞬見えた馬の上半身は、なんと人間だった。褐色の肌にくせ毛の黒髪の少年が、馬の下半身にくっついている。
(あれはケンタウロスの子供?)
私はそう予想した。この森には様々な生き物がいるけれど、知能の高い生き物の中には、村を作って人間的な生活をしている者もいる。それがエルフとドワーフ、ケンタウロスだ。
このケンタウロスの子供は仲間からはぐれて木のおじさんに捕まってしまったのだろう。
「助けて……!」
子供は私を見て必死で叫んでいるけど、木の枝の拘束が強まると苦しげに呻いて黙る。
「あんまりうるさくすると、一気に気を吸い取っちまうぞ」
「う、うぅ……」
私は気まぐれで面倒くさがりな子猫なので、助けを求められても正義感に駆られることはない。
だけど力なくぐったりしてしまったケンタウロスの子を見ると、さすがにちょっと可哀想になった。あのままだと死んじゃうもんなぁ。
助けようかなどうしようかなとしばらく考え、このまま見殺しにするのは後味が悪いという結論に達し、やれやれと動き出す。
素早く走って木のおじさんに飛びつき、爪を立てて全力で幹を引っ掻いたのだ。
「痛ぇ! クソ猫めッ!」
けれどこれくらいの攻撃ではおじさんは倒せない。逆にうねうねと枝が伸びてきて私まで捕まりそうになる。
(どうしようかな)
私はピョンピョンと華麗なステップを踏んで枝を避け、おじさんから一旦離れた。
そしてハッとある事を閃くと、急いで踵を返す。
「逃げるのか? グァハハハ!」
木のおじさんの高笑いが後ろから聞こえてきたけど、私は足を止めなかった。急いでいるので目測を誤り、時々木と木の間に挟まってしまったりしながらも森の中を疾走し、目的の場所に到着する。
ここは昨日、星を三つ見つけた場所だ。確か命星が二つと魔力星が一つあったはず。
(魔力星、魔力星)
地面を探せば、昨日と同じところに紫色の魔力星は落っこちていた。私がそれを口に入れると、舌の上でホロホロ崩れて溶けていく。
それと同時に、命星を食べてしまった時と似たような感じでエネルギーが体の中に満ちていった。これが魔力なのだろう。
ただ、命星を食べた時は生命力が体中に溢れて元気がみなぎったが、今はそれとはちょっと違う感覚がある。密度のある謎のパワーがただ体を包んでいて、肉体には特に変化はない。
ともかく魔力星を食べた私は、また急いで木のおじさんとケンタウロスの子どものところに戻った。走っている最中に、この魔力を使っておじさんをどう倒そうか考えながら。
「げッ! 戻ってきやがった」
そして再び木のおじさんと対峙すると、私はぷくっと口を膨らませた。体に渦巻く魔力を口の中に集め、激しく燃え盛る炎をイメージする。
そして強く息を吐き出すと――
「グァアアア! 熱い!」
魔法を使ったのは初めてだけど、上手く行き過ぎて想像していたより三倍くらい激しく大きな炎が木のおじさんを襲った。それだけ魔力星の魔力ってすごいのかも。
火の勢いの激しさに、攻撃した私までびっくりしてしまう。私が少し上を向いて炎を吐いたから、おじさんの顔がある幹の方はそうでもないけど、葉が茂っている上の方がすごく燃えている。
(やばい、ケンタウロスの子供も燃えちゃう!)
私は慌てて子供を助けようとしたが、それより早く、同じく慌てている木のおじさんがケンタウロスの子どもを放り出した。そして手の代わりに全ての枝を使って火を消そうとしていた。
「も、燃えるッ! 燃えてるッ……!」
おじさんが必死に火を消している隙に、私は地面に落ちたケンタウロスの子供を回収する。裸の上半身――肩のところをなるべく優しく噛んで、炎の熱が届かないところまでズルズル引きずっていく。
私の大きさと力があればケンタウロスの子供でも咥えて持ち上げられるかもしれないけど、そうすると牙が子供に食い込みそうだから加減した。
そうやってやんわり噛んで引きずり、燃える木のおじさんから離れたところで口を離す。
(だいじょぶー?)
気を失っている子供の褐色の頬を、大きな肉球でぷにぷにしてみるが、「うう」と呻くだけで目を覚まさない。ミイラにこそなっていないけど、かなり気を吸われてしまったのかも。それとも炎の煙をたくさん吸い込んじゃったのかな?
(見たところ火傷はしてないみたいだけど……。でも何にしろ、命星を食べさせれば助かるはず)
魔力星があった場所に命星も二つ残っている。私に人間みたいな手があれば命星をここまで持ってこられるけど、猫だから口に入れて運ぶ以外の方法が思いつかない。でも星は口に入れればすぐに溶けて吸収されてしまうのだ。
だからこの子をあの場所まで運ぶしかない。ちょっと大変だけど、ここからそんなに離れてはいないからやってみよう。
私はまたケンタウロスの子どもをそっと噛んで、ズルズルと森の中を引きずっていった。
その去り際にちらりと木のおじさんを見ると、すでに炎は消えていたが、代わりにたくさんあった枝や葉っぱを失っていた。残ったのは幹だけだが、その幹の上半分も黒く焦げてボロボロになってしまっている。
「ああ……なんてこった……」
おじさんはもう私の方を見ておらず、焦げ臭い匂いを漂わせながら、ただしょんぼりしていた。その悲しそうな顔を見ていると罪悪感を感じる。
でもおじさんがこの子どもを食べようとしていたから私は助けただけで、悪くない。
でも必要以上に激しい炎で攻撃してしまったのは悪かったかもしれない。でもやっぱりおじさんが悪い。いや、でも私も……。
と、色々考えながら、おじさんを倒したというのにいまいちすっきりしない気持ちで、私はとりあえずケンタウロスの子どもを運ぶことに集中したのだった。
すると、視界に流れる景色の中にキラッと光る物を見つけた。
(きっと〝星〟だ)
近づいて確認してみると、やはり凸凹しながらも丸みを帯びた星だった。
(紫色だから、魔力星だ。命星は金色だし)
魔力星は命星ほど目立たないけど、ちょうど木漏れ日が当たる場所にあったのできらりと光っている。
(でもこれを食べても、魔力を使うことなんてないしなぁ)
魔力星を前足でちょいちょいと転がしながら考える。
そしてせっかく見つけたけど私に星は必要ないという結論を出し、顔を上げたところで、またもや視界の端に光る何かを見つけた。そちらを見れば、今度は命星が地面に転がっていた。
(こんな近くに二個も見つけた!)
一瞬ラッキーと思うも、やっぱり私には必要ないものなのでそれほどラッキーでもないなと思い直す。
しかもこの付近にある星はこの二つだけではなかったようで、小さな女の子の妖精が三人、ひらひらと羽を羽ばたかせてこちらに近づいてきたかと思えば、『あそこにもあるよ』と言うように木の上を指差した。
すると、木の枝の上、密集した木の葉にひっかかって確かに命星が一つ乗っている。
誰かに拾われたり食べられたりすることなく、森の中に残った星は、半年ほどはそのままそこにある。そして半年が経つと地面や植物に吸収されて消え、その後また空から星が降ってくる。
生まれて半年になる私も、近いうちに星が降る光景を見られるだろうから楽しみだ。
(妖精たち、教えてくれてありがとう。でもこんなに見つけても仕方ないんだよ)
小さな妖精に心の中でそう言い、しっぽを振ってお別れする。人間だったらこの森に降る星は喉から手が出るほど欲しいだろうけど。
実際、森の端の方に落ちた星は、人間たちに拾われてもうほとんど残ってないと思う。普通じゃないこの森では人間たちは簡単に遭難してしまうから、命知らずの冒険者でない限り中心部まで入ってこない。だから人間たちは比較的安全な森の端で星を集めるのだ。
そして翌日、私は三度(みたび)、木のおじさんのところに遊びに行った。
おじさんは私を見ると嫌そうに悲鳴を上げる。
「ギャアアア! また来やがった! クソ猫ッ! 帰れ!」
ひどい言われようだ。
そんなに嫌わなくてもいいのに。
(遊ぼうよ!)
私が瞳孔全開で目をらんらんとさせ、いつでも飛びかかれるように姿勢を低くすると、おじさんは慌てて言い聞かせてくる。
「ワシはお前の友だちじゃないんだってーの! 懐いてるんじゃねぇ! ワシは猫と遊んだりしないの!」
おじさんには悪いけど、一旦〝遊びモード〟に入ると自分でも自分を律するのが難しい。それでも小さな相手に飛びかかったりはしないけど、木のおじさんなら大きいし頑丈そうだから私が多少やんちゃしても受け止めてくれるかなって、勝手な期待を抱いてしまってる。
「もう他の遊び相手を見つけろよォ! 竜の国にでも行ってドラゴンに遊んでもらえ! ワシはお前の相手してるほど暇じゃないんだから!」
いや、ずっとここで獲物が通りかかるのを待ってるだけなら暇じゃないの? と思いつつ、タイミングを計るようにしっぽを左右に振っていると、
(ん? なんだ、あれ)
木のおじさんの頭の部分――つまり葉っぱがわさわさと生い茂っている部分に、奇妙な影を見つけた。あそこに枝に包まれた何かがある。
目を凝らしてよく見てみると馬の足みたいなものが確認できたので、そこでやっと、あれは木のおじさんが捕まえた獲物なんだと気づく。
馬の体に枝がぐるぐる巻き付いていて、上まで持ち上げているみたい。
(まだミイラにはなってないけど、生きてるのかな?)
私がじっと馬を見ていると、おじさんは厳しい顔をして言う。
「これはワシの獲物だぞ。お前にはやらんからな!」
心配しなくたって私は馬なんて食べないよ、と心の中で言った時だ。
その馬が身じろぎしたかと思うと、「うう……」と人間の子供みたいな声が漏れ聞こえてきた。そして残った力を振り絞るかのように暴れ始める。
「グァハハハ! 暴れても無駄だ。お前はワシが喰ってやる。子供でも容赦はしちゃならんと、このクソ猫に出会って学んだのだ! 助けを乞うても絶対に逃がさんぞ!」
「助け、て……っ」
そこで一瞬見えた馬の上半身は、なんと人間だった。褐色の肌にくせ毛の黒髪の少年が、馬の下半身にくっついている。
(あれはケンタウロスの子供?)
私はそう予想した。この森には様々な生き物がいるけれど、知能の高い生き物の中には、村を作って人間的な生活をしている者もいる。それがエルフとドワーフ、ケンタウロスだ。
このケンタウロスの子供は仲間からはぐれて木のおじさんに捕まってしまったのだろう。
「助けて……!」
子供は私を見て必死で叫んでいるけど、木の枝の拘束が強まると苦しげに呻いて黙る。
「あんまりうるさくすると、一気に気を吸い取っちまうぞ」
「う、うぅ……」
私は気まぐれで面倒くさがりな子猫なので、助けを求められても正義感に駆られることはない。
だけど力なくぐったりしてしまったケンタウロスの子を見ると、さすがにちょっと可哀想になった。あのままだと死んじゃうもんなぁ。
助けようかなどうしようかなとしばらく考え、このまま見殺しにするのは後味が悪いという結論に達し、やれやれと動き出す。
素早く走って木のおじさんに飛びつき、爪を立てて全力で幹を引っ掻いたのだ。
「痛ぇ! クソ猫めッ!」
けれどこれくらいの攻撃ではおじさんは倒せない。逆にうねうねと枝が伸びてきて私まで捕まりそうになる。
(どうしようかな)
私はピョンピョンと華麗なステップを踏んで枝を避け、おじさんから一旦離れた。
そしてハッとある事を閃くと、急いで踵を返す。
「逃げるのか? グァハハハ!」
木のおじさんの高笑いが後ろから聞こえてきたけど、私は足を止めなかった。急いでいるので目測を誤り、時々木と木の間に挟まってしまったりしながらも森の中を疾走し、目的の場所に到着する。
ここは昨日、星を三つ見つけた場所だ。確か命星が二つと魔力星が一つあったはず。
(魔力星、魔力星)
地面を探せば、昨日と同じところに紫色の魔力星は落っこちていた。私がそれを口に入れると、舌の上でホロホロ崩れて溶けていく。
それと同時に、命星を食べてしまった時と似たような感じでエネルギーが体の中に満ちていった。これが魔力なのだろう。
ただ、命星を食べた時は生命力が体中に溢れて元気がみなぎったが、今はそれとはちょっと違う感覚がある。密度のある謎のパワーがただ体を包んでいて、肉体には特に変化はない。
ともかく魔力星を食べた私は、また急いで木のおじさんとケンタウロスの子どものところに戻った。走っている最中に、この魔力を使っておじさんをどう倒そうか考えながら。
「げッ! 戻ってきやがった」
そして再び木のおじさんと対峙すると、私はぷくっと口を膨らませた。体に渦巻く魔力を口の中に集め、激しく燃え盛る炎をイメージする。
そして強く息を吐き出すと――
「グァアアア! 熱い!」
魔法を使ったのは初めてだけど、上手く行き過ぎて想像していたより三倍くらい激しく大きな炎が木のおじさんを襲った。それだけ魔力星の魔力ってすごいのかも。
火の勢いの激しさに、攻撃した私までびっくりしてしまう。私が少し上を向いて炎を吐いたから、おじさんの顔がある幹の方はそうでもないけど、葉が茂っている上の方がすごく燃えている。
(やばい、ケンタウロスの子供も燃えちゃう!)
私は慌てて子供を助けようとしたが、それより早く、同じく慌てている木のおじさんがケンタウロスの子どもを放り出した。そして手の代わりに全ての枝を使って火を消そうとしていた。
「も、燃えるッ! 燃えてるッ……!」
おじさんが必死に火を消している隙に、私は地面に落ちたケンタウロスの子供を回収する。裸の上半身――肩のところをなるべく優しく噛んで、炎の熱が届かないところまでズルズル引きずっていく。
私の大きさと力があればケンタウロスの子供でも咥えて持ち上げられるかもしれないけど、そうすると牙が子供に食い込みそうだから加減した。
そうやってやんわり噛んで引きずり、燃える木のおじさんから離れたところで口を離す。
(だいじょぶー?)
気を失っている子供の褐色の頬を、大きな肉球でぷにぷにしてみるが、「うう」と呻くだけで目を覚まさない。ミイラにこそなっていないけど、かなり気を吸われてしまったのかも。それとも炎の煙をたくさん吸い込んじゃったのかな?
(見たところ火傷はしてないみたいだけど……。でも何にしろ、命星を食べさせれば助かるはず)
魔力星があった場所に命星も二つ残っている。私に人間みたいな手があれば命星をここまで持ってこられるけど、猫だから口に入れて運ぶ以外の方法が思いつかない。でも星は口に入れればすぐに溶けて吸収されてしまうのだ。
だからこの子をあの場所まで運ぶしかない。ちょっと大変だけど、ここからそんなに離れてはいないからやってみよう。
私はまたケンタウロスの子どもをそっと噛んで、ズルズルと森の中を引きずっていった。
その去り際にちらりと木のおじさんを見ると、すでに炎は消えていたが、代わりにたくさんあった枝や葉っぱを失っていた。残ったのは幹だけだが、その幹の上半分も黒く焦げてボロボロになってしまっている。
「ああ……なんてこった……」
おじさんはもう私の方を見ておらず、焦げ臭い匂いを漂わせながら、ただしょんぼりしていた。その悲しそうな顔を見ていると罪悪感を感じる。
でもおじさんがこの子どもを食べようとしていたから私は助けただけで、悪くない。
でも必要以上に激しい炎で攻撃してしまったのは悪かったかもしれない。でもやっぱりおじさんが悪い。いや、でも私も……。
と、色々考えながら、おじさんを倒したというのにいまいちすっきりしない気持ちで、私はとりあえずケンタウロスの子どもを運ぶことに集中したのだった。
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