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第四章12 『ギルドと女神と魔女と人-2』
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最初は、好戦的な猫箱暴きの魔女デュパンであったが、
カグラ達の説得もあり、態度が軟化してきている。
「ギルドとしても世界の危機とあらば、最大限支援させていただくつもりです。ただまあ……なにぶん危険な戦いになります。作戦成功の確率を少しでも高めるためにも女神さんの持っている武器や防具をお貸しいただけませんかね?」
(……窓際族のくせになかなか交渉上手だな。おっさん)
「……今は緊急事態のため、私が管理している貯蔵庫の神話級の兵器をギルドの皆様に貸し出すことは可能です。……ですが、彼らに私の持つ兵器は有効ではありません」
「ふむ……。この世界の女神が保有する、最強の武器や防具が意味がないと仰い《おっしゃい》ますか?」
「はい――むしろ、異端審問官ハインリヒ・クラ―マー相手では逆効果です。彼はその存在自体が魔法や神秘という概念の一切を否定しています。つまり……私の保有している魔剣レーヴァティン、聖槍《せいそう》ゲイボルグ、アイギアスの盾など神話級兵器は無効と考えてください。戦いに臨むなら、聖剣や魔剣ではない、鉄で出来た武装で挑むのが最も有効です」
(レーヴァテインに、ゲイボルグ……生前にWeb小説で目にした名の武器だな)
「鉄で出来た武器か。それなら、鍛冶師の村正が今回は頼りになりそうだぞ。あいつなら、ただの鉄でも恐ろしい切れ味の刀剣を作れるぜ」
「村正、彼も私がこの世界に招いた者の一人……。今回の事情を理解した上でなおも協力してくれるでしょうか?」
「大丈夫だ。村正の件は俺に任せておけ。最近はセレネやソレイユの次に一緒の時間を過ごす時間の長い友人だ。ちゃんと説明すりゃ、協力してくれるはずだぜ」
「助かります……カグラさんにお任せします」
「それと……念のための確認ですが、報酬については考えてくれますよね? 人を動かすには莫大なお金が必要です。特に、それが危険な任務であるというならなおさらです。女神様からの依頼とはいえ、無一文で引き受けることはできません」
「……女神として、報酬の件は必ずお約束しましょう。必ずや期待以上の報酬を支払うと約束します。……まずは、これがその証し《あかし》と思ってください」
女神の神聖なる署名が施された魔術的な意匠が施された小切手。
金額は書かれていない。つまり……この小切手にはギルドが
必要とするだけの金額を書いて良いということ。
「しかと、責任を持ってその小切手を私がお預かりします。この戦争に赴く志願兵への賞与と死亡時の補償金の件は、は問題無さそうですね。それでは、私はギルドに戻ってさっそく命知らずの志願兵を募りますよ。それでは失礼」
そう言うと、ギルドの職員は一足先に
自身の職場に帰っていった。
「うまくいくでしょうか……」
「ああ、みんなで協力すれば絶対、うまく行くさ」
「……この世界と彼らとの相性は最悪です」
「あいつらと俺たちは油と水みたいな関係っていう事か?」
「いいえ……例えるなら、紙と火。彼らが火なら、私たちは紙です。火は紙を殺すことはできますが、紙は火を殺すことはできません。単純な力関係でいうなら、そのような一方的に嬲られる関係です」
「超実在存在《フラグメンツ》……という奴(やつ)か?」
「はい。神話級の兵器である聖槍(せいそう)ゲイボルグも、神秘や魔法を信じない彼らにとっては、ただの古いだけの棒きれです」
「反信仰を持つにとっては、女神の持つ神話級の武器が通じないことは分かった。だが、なんでそれがこの世界全体と相性が悪いって話になるんだ?」
「この世界の成り立ちの問題です。この世界の最小単位は、原始でも電子でも、素粒子でもなく……広義の意味での魔法です。彼らにとってはそのような魔法で構成された私たちの肉体を破壊することなど造作もないことです」
「……そんなわけで、この世界の救援の切り札としてあっちが呼ばれたにゃ。私のお師様では、ちっとばかし相性が最悪なんでねぇ」
「デュパン。お前は、1億年を超える生を生きる魔女なんだろ? それがなぜ、異端審問官と渡り合えることになるんだ? 俺たちより、魔法的な存在のお前の方が本来は相性が悪いはずだろ?」
「カグラの疑問は当然だにゃ。あっちは魔女……だけど、あたいの魔法は、魔法を否定する魔法。だから……あっちの拳はクラーマーに通じるにゃ」
「魔法を否定する魔法使い……存在自体が矛盾しているんじゃないか?」
「矛盾していないにゃ。あっちのベースはあくまで魔法、あっちは相手の魔法体系に敬意と尊厳をもって――そして否定する。魔法に対して、敬意を持たない異端審問官とあっちでは存在の在り方が全く違うにゃ」
「詳しい理屈は分からねぇ、だけど戦力として大いにあてにして良いことは間違いなさそうだな! 頼りにしてるぜ、デュパン」
「あっちも、おまえたちにほんのちょびっとだけ期待しとくにゃ」
「ほんのちょびっとかよ!」
デュパンは、にゃははと笑い一笑に付す。
「これを使うことになる事にならない事を願うけど、先に渡しておくにゃ」
そういって、猫箱暴きの魔女はその名の
元となる宝石箱をカグラ達(たち)に渡す。
これが、彼女の極めた独自の魔法体系。
(……これは、奇跡の法廷の猫箱?)
「それを使うような自体にならないことを祈るにゃ」
「この箱を俺たちが開くとどうなるんだ?」
「……存在の消失。うまくいけばあるいは……。完全な博打(ばくち)にゃ」
「分かった。デュパン、これを使う時は……いざという時に限定するさ。セレネ、ソレイユ、お前たちもよほどの事が無い限り、この箱は開けちゃだめだぞ!」
「了解にへぇ」
「ラジャ、デス」
その後も次に異端審問官ハインリヒ・クラ―マーが
襲撃する時に備えた作戦会議は夜通し続けられた。
なお、話についていけなかったセレネとソレイユは、
買い出しに出かけたり、コーヒーを作ったりと、
自分が出来る範囲で頑張っていたようだ。
カグラ達の説得もあり、態度が軟化してきている。
「ギルドとしても世界の危機とあらば、最大限支援させていただくつもりです。ただまあ……なにぶん危険な戦いになります。作戦成功の確率を少しでも高めるためにも女神さんの持っている武器や防具をお貸しいただけませんかね?」
(……窓際族のくせになかなか交渉上手だな。おっさん)
「……今は緊急事態のため、私が管理している貯蔵庫の神話級の兵器をギルドの皆様に貸し出すことは可能です。……ですが、彼らに私の持つ兵器は有効ではありません」
「ふむ……。この世界の女神が保有する、最強の武器や防具が意味がないと仰い《おっしゃい》ますか?」
「はい――むしろ、異端審問官ハインリヒ・クラ―マー相手では逆効果です。彼はその存在自体が魔法や神秘という概念の一切を否定しています。つまり……私の保有している魔剣レーヴァティン、聖槍《せいそう》ゲイボルグ、アイギアスの盾など神話級兵器は無効と考えてください。戦いに臨むなら、聖剣や魔剣ではない、鉄で出来た武装で挑むのが最も有効です」
(レーヴァテインに、ゲイボルグ……生前にWeb小説で目にした名の武器だな)
「鉄で出来た武器か。それなら、鍛冶師の村正が今回は頼りになりそうだぞ。あいつなら、ただの鉄でも恐ろしい切れ味の刀剣を作れるぜ」
「村正、彼も私がこの世界に招いた者の一人……。今回の事情を理解した上でなおも協力してくれるでしょうか?」
「大丈夫だ。村正の件は俺に任せておけ。最近はセレネやソレイユの次に一緒の時間を過ごす時間の長い友人だ。ちゃんと説明すりゃ、協力してくれるはずだぜ」
「助かります……カグラさんにお任せします」
「それと……念のための確認ですが、報酬については考えてくれますよね? 人を動かすには莫大なお金が必要です。特に、それが危険な任務であるというならなおさらです。女神様からの依頼とはいえ、無一文で引き受けることはできません」
「……女神として、報酬の件は必ずお約束しましょう。必ずや期待以上の報酬を支払うと約束します。……まずは、これがその証し《あかし》と思ってください」
女神の神聖なる署名が施された魔術的な意匠が施された小切手。
金額は書かれていない。つまり……この小切手にはギルドが
必要とするだけの金額を書いて良いということ。
「しかと、責任を持ってその小切手を私がお預かりします。この戦争に赴く志願兵への賞与と死亡時の補償金の件は、は問題無さそうですね。それでは、私はギルドに戻ってさっそく命知らずの志願兵を募りますよ。それでは失礼」
そう言うと、ギルドの職員は一足先に
自身の職場に帰っていった。
「うまくいくでしょうか……」
「ああ、みんなで協力すれば絶対、うまく行くさ」
「……この世界と彼らとの相性は最悪です」
「あいつらと俺たちは油と水みたいな関係っていう事か?」
「いいえ……例えるなら、紙と火。彼らが火なら、私たちは紙です。火は紙を殺すことはできますが、紙は火を殺すことはできません。単純な力関係でいうなら、そのような一方的に嬲られる関係です」
「超実在存在《フラグメンツ》……という奴(やつ)か?」
「はい。神話級の兵器である聖槍(せいそう)ゲイボルグも、神秘や魔法を信じない彼らにとっては、ただの古いだけの棒きれです」
「反信仰を持つにとっては、女神の持つ神話級の武器が通じないことは分かった。だが、なんでそれがこの世界全体と相性が悪いって話になるんだ?」
「この世界の成り立ちの問題です。この世界の最小単位は、原始でも電子でも、素粒子でもなく……広義の意味での魔法です。彼らにとってはそのような魔法で構成された私たちの肉体を破壊することなど造作もないことです」
「……そんなわけで、この世界の救援の切り札としてあっちが呼ばれたにゃ。私のお師様では、ちっとばかし相性が最悪なんでねぇ」
「デュパン。お前は、1億年を超える生を生きる魔女なんだろ? それがなぜ、異端審問官と渡り合えることになるんだ? 俺たちより、魔法的な存在のお前の方が本来は相性が悪いはずだろ?」
「カグラの疑問は当然だにゃ。あっちは魔女……だけど、あたいの魔法は、魔法を否定する魔法。だから……あっちの拳はクラーマーに通じるにゃ」
「魔法を否定する魔法使い……存在自体が矛盾しているんじゃないか?」
「矛盾していないにゃ。あっちのベースはあくまで魔法、あっちは相手の魔法体系に敬意と尊厳をもって――そして否定する。魔法に対して、敬意を持たない異端審問官とあっちでは存在の在り方が全く違うにゃ」
「詳しい理屈は分からねぇ、だけど戦力として大いにあてにして良いことは間違いなさそうだな! 頼りにしてるぜ、デュパン」
「あっちも、おまえたちにほんのちょびっとだけ期待しとくにゃ」
「ほんのちょびっとかよ!」
デュパンは、にゃははと笑い一笑に付す。
「これを使うことになる事にならない事を願うけど、先に渡しておくにゃ」
そういって、猫箱暴きの魔女はその名の
元となる宝石箱をカグラ達(たち)に渡す。
これが、彼女の極めた独自の魔法体系。
(……これは、奇跡の法廷の猫箱?)
「それを使うような自体にならないことを祈るにゃ」
「この箱を俺たちが開くとどうなるんだ?」
「……存在の消失。うまくいけばあるいは……。完全な博打(ばくち)にゃ」
「分かった。デュパン、これを使う時は……いざという時に限定するさ。セレネ、ソレイユ、お前たちもよほどの事が無い限り、この箱は開けちゃだめだぞ!」
「了解にへぇ」
「ラジャ、デス」
その後も次に異端審問官ハインリヒ・クラ―マーが
襲撃する時に備えた作戦会議は夜通し続けられた。
なお、話についていけなかったセレネとソレイユは、
買い出しに出かけたり、コーヒーを作ったりと、
自分が出来る範囲で頑張っていたようだ。
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