上 下
42 / 55

第43話『魔眼の聖女』

しおりを挟む
 俺はクロトカゲを後にし、階段を駆け上がる。屋上の野外劇場まで半分くらいの場所だ。

「こんな場所でお会いするとは、奇遇ですね。クロノさん」

「おまえは、……セーラか」

奇遇もクソもねぇ。完全に待ち構えていた。つか、おまえが何でここに居るんだ? どうやって大監獄を脱獄したんだ。まあこいつに関しては、考えても無駄か。

「ここは人が多いですね。静かな場所に移動しましょうか」

 セーラの提案にのるのはシャクだ。だが、ここは一般人が多すぎるのは事実。王都の一件を思い出せ。もし、断ればここで事を始めかねない。人の少ない場所に移るのは悪い提案ではない。たとえ、罠だとしてもだ。

「ああ、立ち話もなんだ。いいぜ、連れてけよ」

「さすが、クロノさん。――賢明な判断です。それではご案内しましょうね」

セーラは無言で歩み進む。

「どうぞ。こちらへ」

セーラは立ち止まる。鍵の束から一本の鍵を抜きだす。ガチャリと音をたて、扉が開かれる。大理石造りの、荘厳な扉だ。

「ここはパノラマ島の礼拝堂です。素敵な場所ですね」

セーラに連れてこられたのは、礼拝堂。……なのだが、教会の礼拝堂とは、どこか違う。礼拝堂をマネて作った部屋という表現が一番近いか。

「クロノさんがいま感じている、その違和感は正しいですよ。そうです。ガワを模しているだけで、本物の礼拝堂のような儀式的な意味をもつ場所ではりませんよ。いずれは、来島者が結婚式をあげるようにする予定の場所。だそうですよ」

 祝いの場を戦いの舞台にするのは申し訳ないが。ぜいたくを言っている場合でもなさそうだ。それにしてもこの部屋、童話とかの礼拝堂によく似てる。

 シンの礼拝堂のイメージが反映されているんだろうか? 世界を自分の認識の通りに創り変える。つくづく魔眼ってのは、バケモノじみてるぜ。

「疑っているとは思いますが、クロノさんをこの部屋に呼んだのは罠ではありませんよ。クロノさんと二人きりで話したいことがありますので。それに、人が少ない場所の方がクロノさんにも都合がよろしいでしょうからね」

 人が多い場所だとやりにくいのは事実だ。まあ、罠が無いってのは、完全に信じてはないけどな。コイツがウソを付かないなんて、槍が降りそうだ。

 まあウソ付いた日にも、槍は降ってきたけどな? 特大の! それにしてもいまさら二人きりでしたい話しだと? 昔話って訳でもなさそうだが、思い当たるフシがねぇ。

「おまえ、大監獄にぶち込まれていたんじゃねぇのか?」

「少しばかりあそこは居心地が悪いので、抜けてきましたね」

 いや、そんな気軽に出たり入ったりされたら困るのだが。気分転換に外出みたいなノリで言われてもな。

「で、おまえは何しにきやがった」

「ピンチの仲間を助けに、ですよ。ほら、……あるじゃないですか。勇者がピンチになったときに、昔の仲間がかけつける、みたいな」

「はっ。どの口が言いやがる。おまえはそんなタマじゃねぇだろ」

「ですね。よくご存知ですね。正解ですよ」

「じゃ、いくぜ!」

「どうぞ」

 セーラがカッと目を見開く。青い瞳が光を放っている。

「セーラ。おまえのその瞳、――魔眼か! 」

「魔眼持ちはシンさんだけだと思いましたか? 」

 雷術〈紫電一閃〉。一気に間合いに入り込み、掌底。

「相変わらず、クロノさんは早いです」

「おまえこそ」

 動きをあわせていなされる。

「未来を幻視しました。私の〈占星眼〉の力です。予知の魔眼、ですね」

「また、厄介な能力を」

 俺の動きを事前に知っているかのような動きだ。そうじゃなきゃ説明できない。未来が見えるってのは、ハッタリじゃなさそうだ。

「糸目の女は実力を隠している。そういうものなのですよ。勉強になりましたね」

「だから目を隠してたのか。シン以外に魔眼持ちがいるって、どんな偶然だよ? 」

「いいえ、世の中、偶然や奇跡なんてありませんよ。必然です。シンは私の腹違いの弟ですから。母体は違いますが、タネは同じですよ。無能な司教が、私たちの父です」

「なるほどな。金色の髪、青色の瞳、整ったツラ。おまえ、どことなくシンの面影があるぜ。司教のおっさんも業が深いぜ! 」

「まったくですね。まあ、父はシンが実の息子だとは知らなかったようですが。地方巡礼で出会った女。その女が自分の子を身ごもっていた事実を知らなかったようです。火遊びくらいの意識だったのでしょうかね」

「じゃあ、司教のおっさんがシンを選んだのはどう説明する? 」

「それも必然です。私が、シンを勇者にするように父に吹き込んだのですよ。父は、私がおさない頃から難しい判断は私に聞くようになっていましたからね。あやつり人形のようなものですよ。当の本人は、まったく気づいていなかったようですが」

 自分の子供に相談って、情けないおっさんだな。まあ、それだけコイツが幼少期からずば抜けてたって事か。

「まあでも、その話を聞いて、少しだけ安心したぜ。もし、あのおっさんが知っていて、おまえとシンを結婚させようとしていたのなら、そりゃ、そっちの方がヤバいからな。業が深いなんてもんじゃねぇ」

 沈黙がおとずれる。何か思案しているようでもある。この女にしては珍しく、素の反応に思えた。なにか想うところでもあるのだろうか。セーラが沈黙を破り、何かを語りだす。

「クロノさんは、シンに私以外の兄妹がいたことをご存知でしょうか。その少女の名は、アリアと言います」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

〈本編完結〉ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編として出来るだけ端折って早々に完結予定でしたが、予想外に多くの方に読んでいただき、書いてるうちにエピソードも増えてしまった為長編に変更致しましたm(_ _)m ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいです💦 *主人公視点完結致しました。 *他者視点準備中です。 *思いがけず沢山の感想をいただき、返信が滞っております。随時させていただく予定ですが、返信のしようがないコメント/ご指摘等にはお礼のみとさせていただきます。 *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

元ヒロインだけど大好きな幼馴染ルートがないとか言われたので、悪役令嬢と手を組んでこの世界をぶっ壊す!

佐崎咲
恋愛
 私はユニカ。三歳年上のアレクが大好きで、彼にふさわしい令嬢になるために何でも頑張ってきた。  だけど押しても引いても何故か彼だけは振り向いてくれない。  そんなままならない日常を送る私はある日、意地悪をしているように見せかけられている、何やら複雑な事情をもっていそうな令嬢イリーナにこの世界の仕組みを聞かされる。  ここが乙女ゲームの世界(何それおいしいの)? 私がヒロイン(だから私だけ髪が浮いたピンクなのか!)? だけどアレクルートは存在しない(はああぁぁぁ?)、ですって?  悪役令嬢が転生してきたらそっちがヒロインになって、ヒロインはかませ犬に降格になるのが王道とかそんな話はどうでもいいわ。  アレクは決して成就しない初恋パターンで攻略対象者の嫉妬心を煽るための踏み台だとか、しかも、王子に剣術バカに優等生のかわいい後輩とか攻略対象にモテないと私が死ぬバッドエンドですって?  『面白くするため』なんかで勝手にこの世界で生きてる私たちを弄ぶな! いい加減にしろよ世界!  誰かに強制的に捻じ曲げられるそんな世界なら、(元)ヒロインの私がぶっ壊してやるわ! ※無断転載・複写はお断りいたします。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

オメガの恨みは恐ろしい!~自分だって地味顔のくせに‼

金剛@キット
BL
アルボル伯爵家の一人っ子、オメガのオルテンシアに義理の兄が出来る。義兄シプレスは将来オルテンシアと結婚し、伯爵家を継ぐために養子に迎えられた。 オルテンシアも優しい義兄をすぐに好きになるが… 田舎の領地で流行病にかかり、伯爵夫妻が亡くなり、看病をしていたオルテンシアも病に倒れる。 義兄シプレスはアルボル伯爵となり、心も身体も傷つき田舎で療養するオルテンシアに会いに来るが… シプレスは浮気相手を妊娠させ、邪魔になったオルテンシアを、一方的に婚約破棄して伯爵家を追い出した。 怒ったオルテンシアは…… 😏お話に都合の良い、ゆるゆる設定のオメガバースです。どうかご容赦を!

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...