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第43話『魔眼の聖女』
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俺はクロトカゲを後にし、階段を駆け上がる。屋上の野外劇場まで半分くらいの場所だ。
「こんな場所でお会いするとは、奇遇ですね。クロノさん」
「おまえは、……セーラか」
奇遇もクソもねぇ。完全に待ち構えていた。つか、おまえが何でここに居るんだ? どうやって大監獄を脱獄したんだ。まあこいつに関しては、考えても無駄か。
「ここは人が多いですね。静かな場所に移動しましょうか」
セーラの提案にのるのはシャクだ。だが、ここは一般人が多すぎるのは事実。王都の一件を思い出せ。もし、断ればここで事を始めかねない。人の少ない場所に移るのは悪い提案ではない。たとえ、罠だとしてもだ。
「ああ、立ち話もなんだ。いいぜ、連れてけよ」
「さすが、クロノさん。――賢明な判断です。それではご案内しましょうね」
セーラは無言で歩み進む。
「どうぞ。こちらへ」
セーラは立ち止まる。鍵の束から一本の鍵を抜きだす。ガチャリと音をたて、扉が開かれる。大理石造りの、荘厳な扉だ。
「ここはパノラマ島の礼拝堂です。素敵な場所ですね」
セーラに連れてこられたのは、礼拝堂。……なのだが、教会の礼拝堂とは、どこか違う。礼拝堂をマネて作った部屋という表現が一番近いか。
「クロノさんがいま感じている、その違和感は正しいですよ。そうです。ガワを模しているだけで、本物の礼拝堂のような儀式的な意味をもつ場所ではりませんよ。いずれは、来島者が結婚式をあげるようにする予定の場所。だそうですよ」
祝いの場を戦いの舞台にするのは申し訳ないが。ぜいたくを言っている場合でもなさそうだ。それにしてもこの部屋、童話とかの礼拝堂によく似てる。
シンの礼拝堂のイメージが反映されているんだろうか? 世界を自分の認識の通りに創り変える。つくづく魔眼ってのは、バケモノじみてるぜ。
「疑っているとは思いますが、クロノさんをこの部屋に呼んだのは罠ではありませんよ。クロノさんと二人きりで話したいことがありますので。それに、人が少ない場所の方がクロノさんにも都合がよろしいでしょうからね」
人が多い場所だとやりにくいのは事実だ。まあ、罠が無いってのは、完全に信じてはないけどな。コイツがウソを付かないなんて、槍が降りそうだ。
まあウソ付いた日にも、槍は降ってきたけどな? 特大の! それにしてもいまさら二人きりでしたい話しだと? 昔話って訳でもなさそうだが、思い当たるフシがねぇ。
「おまえ、大監獄にぶち込まれていたんじゃねぇのか?」
「少しばかりあそこは居心地が悪いので、抜けてきましたね」
いや、そんな気軽に出たり入ったりされたら困るのだが。気分転換に外出みたいなノリで言われてもな。
「で、おまえは何しにきやがった」
「ピンチの仲間を助けに、ですよ。ほら、……あるじゃないですか。勇者がピンチになったときに、昔の仲間がかけつける、みたいな」
「はっ。どの口が言いやがる。おまえはそんなタマじゃねぇだろ」
「ですね。よくご存知ですね。正解ですよ」
「じゃ、いくぜ!」
「どうぞ」
セーラがカッと目を見開く。青い瞳が光を放っている。
「セーラ。おまえのその瞳、――魔眼か! 」
「魔眼持ちはシンさんだけだと思いましたか? 」
雷術〈紫電一閃〉。一気に間合いに入り込み、掌底。
「相変わらず、クロノさんは早いです」
「おまえこそ」
動きをあわせていなされる。
「未来を幻視しました。私の〈占星眼〉の力です。予知の魔眼、ですね」
「また、厄介な能力を」
俺の動きを事前に知っているかのような動きだ。そうじゃなきゃ説明できない。未来が見えるってのは、ハッタリじゃなさそうだ。
「糸目の女は実力を隠している。そういうものなのですよ。勉強になりましたね」
「だから目を隠してたのか。シン以外に魔眼持ちがいるって、どんな偶然だよ? 」
「いいえ、世の中、偶然や奇跡なんてありませんよ。必然です。シンは私の腹違いの弟ですから。母体は違いますが、タネは同じですよ。無能な司教が、私たちの父です」
「なるほどな。金色の髪、青色の瞳、整ったツラ。おまえ、どことなくシンの面影があるぜ。司教のおっさんも業が深いぜ! 」
「まったくですね。まあ、父はシンが実の息子だとは知らなかったようですが。地方巡礼で出会った女。その女が自分の子を身ごもっていた事実を知らなかったようです。火遊びくらいの意識だったのでしょうかね」
「じゃあ、司教のおっさんがシンを選んだのはどう説明する? 」
「それも必然です。私が、シンを勇者にするように父に吹き込んだのですよ。父は、私がおさない頃から難しい判断は私に聞くようになっていましたからね。あやつり人形のようなものですよ。当の本人は、まったく気づいていなかったようですが」
自分の子供に相談って、情けないおっさんだな。まあ、それだけコイツが幼少期からずば抜けてたって事か。
「まあでも、その話を聞いて、少しだけ安心したぜ。もし、あのおっさんが知っていて、おまえとシンを結婚させようとしていたのなら、そりゃ、そっちの方がヤバいからな。業が深いなんてもんじゃねぇ」
沈黙がおとずれる。何か思案しているようでもある。この女にしては珍しく、素の反応に思えた。なにか想うところでもあるのだろうか。セーラが沈黙を破り、何かを語りだす。
「クロノさんは、シンに私以外の兄妹がいたことをご存知でしょうか。その少女の名は、アリアと言います」
「こんな場所でお会いするとは、奇遇ですね。クロノさん」
「おまえは、……セーラか」
奇遇もクソもねぇ。完全に待ち構えていた。つか、おまえが何でここに居るんだ? どうやって大監獄を脱獄したんだ。まあこいつに関しては、考えても無駄か。
「ここは人が多いですね。静かな場所に移動しましょうか」
セーラの提案にのるのはシャクだ。だが、ここは一般人が多すぎるのは事実。王都の一件を思い出せ。もし、断ればここで事を始めかねない。人の少ない場所に移るのは悪い提案ではない。たとえ、罠だとしてもだ。
「ああ、立ち話もなんだ。いいぜ、連れてけよ」
「さすが、クロノさん。――賢明な判断です。それではご案内しましょうね」
セーラは無言で歩み進む。
「どうぞ。こちらへ」
セーラは立ち止まる。鍵の束から一本の鍵を抜きだす。ガチャリと音をたて、扉が開かれる。大理石造りの、荘厳な扉だ。
「ここはパノラマ島の礼拝堂です。素敵な場所ですね」
セーラに連れてこられたのは、礼拝堂。……なのだが、教会の礼拝堂とは、どこか違う。礼拝堂をマネて作った部屋という表現が一番近いか。
「クロノさんがいま感じている、その違和感は正しいですよ。そうです。ガワを模しているだけで、本物の礼拝堂のような儀式的な意味をもつ場所ではりませんよ。いずれは、来島者が結婚式をあげるようにする予定の場所。だそうですよ」
祝いの場を戦いの舞台にするのは申し訳ないが。ぜいたくを言っている場合でもなさそうだ。それにしてもこの部屋、童話とかの礼拝堂によく似てる。
シンの礼拝堂のイメージが反映されているんだろうか? 世界を自分の認識の通りに創り変える。つくづく魔眼ってのは、バケモノじみてるぜ。
「疑っているとは思いますが、クロノさんをこの部屋に呼んだのは罠ではありませんよ。クロノさんと二人きりで話したいことがありますので。それに、人が少ない場所の方がクロノさんにも都合がよろしいでしょうからね」
人が多い場所だとやりにくいのは事実だ。まあ、罠が無いってのは、完全に信じてはないけどな。コイツがウソを付かないなんて、槍が降りそうだ。
まあウソ付いた日にも、槍は降ってきたけどな? 特大の! それにしてもいまさら二人きりでしたい話しだと? 昔話って訳でもなさそうだが、思い当たるフシがねぇ。
「おまえ、大監獄にぶち込まれていたんじゃねぇのか?」
「少しばかりあそこは居心地が悪いので、抜けてきましたね」
いや、そんな気軽に出たり入ったりされたら困るのだが。気分転換に外出みたいなノリで言われてもな。
「で、おまえは何しにきやがった」
「ピンチの仲間を助けに、ですよ。ほら、……あるじゃないですか。勇者がピンチになったときに、昔の仲間がかけつける、みたいな」
「はっ。どの口が言いやがる。おまえはそんなタマじゃねぇだろ」
「ですね。よくご存知ですね。正解ですよ」
「じゃ、いくぜ!」
「どうぞ」
セーラがカッと目を見開く。青い瞳が光を放っている。
「セーラ。おまえのその瞳、――魔眼か! 」
「魔眼持ちはシンさんだけだと思いましたか? 」
雷術〈紫電一閃〉。一気に間合いに入り込み、掌底。
「相変わらず、クロノさんは早いです」
「おまえこそ」
動きをあわせていなされる。
「未来を幻視しました。私の〈占星眼〉の力です。予知の魔眼、ですね」
「また、厄介な能力を」
俺の動きを事前に知っているかのような動きだ。そうじゃなきゃ説明できない。未来が見えるってのは、ハッタリじゃなさそうだ。
「糸目の女は実力を隠している。そういうものなのですよ。勉強になりましたね」
「だから目を隠してたのか。シン以外に魔眼持ちがいるって、どんな偶然だよ? 」
「いいえ、世の中、偶然や奇跡なんてありませんよ。必然です。シンは私の腹違いの弟ですから。母体は違いますが、タネは同じですよ。無能な司教が、私たちの父です」
「なるほどな。金色の髪、青色の瞳、整ったツラ。おまえ、どことなくシンの面影があるぜ。司教のおっさんも業が深いぜ! 」
「まったくですね。まあ、父はシンが実の息子だとは知らなかったようですが。地方巡礼で出会った女。その女が自分の子を身ごもっていた事実を知らなかったようです。火遊びくらいの意識だったのでしょうかね」
「じゃあ、司教のおっさんがシンを選んだのはどう説明する? 」
「それも必然です。私が、シンを勇者にするように父に吹き込んだのですよ。父は、私がおさない頃から難しい判断は私に聞くようになっていましたからね。あやつり人形のようなものですよ。当の本人は、まったく気づいていなかったようですが」
自分の子供に相談って、情けないおっさんだな。まあ、それだけコイツが幼少期からずば抜けてたって事か。
「まあでも、その話を聞いて、少しだけ安心したぜ。もし、あのおっさんが知っていて、おまえとシンを結婚させようとしていたのなら、そりゃ、そっちの方がヤバいからな。業が深いなんてもんじゃねぇ」
沈黙がおとずれる。何か思案しているようでもある。この女にしては珍しく、素の反応に思えた。なにか想うところでもあるのだろうか。セーラが沈黙を破り、何かを語りだす。
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