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第19話『曇りのち、死』

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 目の前の女は俺を称えるように手を叩いている。 まるで他人ごとのように、だ。 気味の悪いヤツだ。  聖女と呼ばれる糸目の女は微笑みをたやさない。

 まったく表情が動かない。まるで、ロウで作られたデスマスクのようだな。 表情だけじゃない。 からだの動きからも感情がよめない。爬虫類を相手にしている気分だ。女は金色の長髪を整え、何かを語りだした。

「あらあら。ナイフに反魔法を付与するなんて。クロノさんは発想がバケモノじみていますね。がんばって展開した魔法陣があっけなく砕けちりましたよ。こうなると魔法しか使えない私は不利ですね」

「もはや万策尽きました。これ以上の争いはなんの意味もありませんね。あきらめて投降しましょうか。シンさんいっしょに罰を受けましょう。でもやっぱりいやですね。それでは串刺しになって死んでください。神話級マジックアイテム。城落としの槍。――トラップです」

「伏せろッ、ルル!」

 目の前に槍。ルルの頭をおさえ、初撃を回避。 ルルの頭があったその場所を槍が通り過ぎる。

「あっ、あ……。ありがっ、な、のじゃっ!」

 見渡すかぎり槍、槍、槍、……無数の槍。 百をこえる槍が音もなくあらわれる。 何のまえぶれもなく。一瞬で。 理不尽とも言えるほどの数の暴力。

 攻城用の神話級マジックアイテム。 本来、対人相手での使用はありえない。 使い切り道具なのにずいぶん気前よく、まぁ。

「雷術〈身体強化〉〈視覚強化〉」

 次々と射出される槍を迎え撃つ。 違和感。槍は俺を狙っていない。 狙っているのはルルだけだ。

「……。外道が」

 ルルを狙うことで俺が回避に専念することを封じている。 これは、まっとうな人間の戦い方じゃねえな。 暗殺者、野盗、根っからの悪党のやり口だ。

 広域大魔法で、王都の人間の命を盾に。 魔道具で標的の俺ではなく、ルルを狙う。

「ルル、しばらく伏せてろ」

「あるじ様、すまぬっ……。助かるのじゃっ!」

  攻める戦いより守る戦いの方が難しい。 理屈で知っている冒険者はいるだろう。 だが、行動に移せるのはムコウ側の奴らだけだ。 ソレを実践できるのは、決して強さじゃない。 ソレは、……。

「ちょいとばかり、殺しになれすぎてんな」

 弾き、砕き、いなし、へし折る。 よし、槍の数はあと2つ。 つかみ、砕く。槍の雨はしのぎ切った。

「教会の秘蔵品つーところか。残念だったな。無駄だ」

「おやまあ。確実に殺せると思っていたのですが。クロノさんはダメでもせめて魔族の子くらいは。ところでまったく関係ありませんがその子かわいらしいですね。少しだけ嫉妬してしまいましたよ。むごたらしくひき肉になって咲いてくれたら楽しかったんですけどね。美しいものが見るも無残な姿になるのは良いものですよ」

「とても耽美的ですからね。芸術です。それにしてもなかなかうまくはいかないものですね。なぜでしょうか。ミステリーです。興がのって神話級のマジックアイテム使ってしまいました。お父様は怒られるでしょうかね。責任を取るために処刑されるかもしれませんね。自業自得です。さてさて切り札も通用しないとなるといよいよ詰みですね」

「私にはまったく勝ち目がありませんよ。そろそろクロノさんの側に寝返ったほうがよさそうでしょうかね。でもやっぱりいやですね。私の格が落ちますから。ところでそろそろアンチマジックの効果が切れるころじゃないでしょうか。逝きなさい神の御元へ。ティアーレイン。虐殺魔法です」

 超上空に極大の魔法陣が展開。 灰色の雨雲が王都を覆わんとしていた。
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