上 下
33 / 107

第33話『星穿つ竜星』

しおりを挟む
「いったい……いつまで、遊んでる……おまえは……城をも落とせる力を持つ……相手はBランク…………ええぃ……調《ブリ》ィ……、えっ」



 声を発した男の右肩が爆ぜた。
 俺は適当な小石を投げただけだ。

 だが、それで十分。
 の鳴き声はおさまった。

 親子水入らずのジャマをするな。
 焦るな、礼儀正しく順番を待て。

 おまえは、ちゃんと殺してやるから。
 そこで、おとなしく待っていろ。



「あたい……やっぱり、パパに、全然勝てないや」

「諦めるのはまだ早いぞ」


 ルナがふるふると小さく首を振るう。


「ムリ……だって、パパ……あたいに……一度も攻撃してない……受けてるだけ」


 俺は頭をポリポリと掻く。


「そりゃ、そうだろ。父親が、自分の娘に手を上げたりするもんかよ」

「あははっ……そっか……そうだよね、……パパっ!」

「そうだ。そんなことはなぁ、当たり前のことなんだぜ!」



 ルナは連撃を止める。
 拳圧によって巻き起こっていた暴風は止まる。
 そして、闇夜に静寂が訪れる。

 ルナは目をつぶり、深く息を吸う。
 体を最善の状態に整えている。



「パパ……次が、……正真、正銘、全身、全霊、究極、本気、最後の一撃っ!」

「そうか、ドンとこいッ!」

「うん、それじゃ――いくよっ! 星を穿つ竜星トゥインクル・スター!!!」


 太陽のような黄金の輝きがより一層激しくなる。
 黄金の輝きは徐々に光を増し、やがて穏やかな白になる。
 今のオーラは白金《プラチナ》、更に体内に収束《しゅうれん》。


 ルナの背中の翼の色も白金色に変わる。
 まるで……その姿は。



「はは……すげぇ。ルナ、まるで天使だ」


 ルナが白金色のオーラに包まれる。
 そして更にそれを覆うように、七色のオーラが包む。

 幾層の色が重なりあいオーロラのように光り輝く。
 強化付与魔術《エンチャント・パワー》、属性付与魔術《エンチャント・エレメント》でもない。

 これはマナそのもの。
 魔力に変換される前の、純粋なマナ。



「はは……っキレイじゃんか。これで、最後と思うともったいない気すらするぜ」



 ルナの背中の左右の翼は、水平方向に最大展開。

 トッ――、ルナはつま先で軽く地面を蹴る。
 超低空、超高速、直線的飛行。

 そういえば一番初めに使ったのがこの技だったな。
 規模が違いすぎるけど。



 直線状には、俺が立ちふさがっている。



 体の重心を下げる。
 靴底を地面にがっしりと構える。
 相撲の四股の構えがこんな感じだったかな。


 左右の腕はルナを受け止めるために前へ。


 前方から超エネルギー体。
 流れ星を受け止めるようなものだ。
 そんなこと……できるか?


「できるに決まってるだろぅおおおおッ!!!」





 ――超弩級の衝撃。




 足もとの大地がえぐれる。大気が爆発する。
 まるで朝が訪れたかのような激しい、光。




「掴まえたぜ」



 ルナの両手、俺の両手ががっちりかみ合う。
 あとは、ただの力比べ。意地の張り合い。

 俺は、まだ一歩も後退していない。
 だが、ルナの勢いも止められていない。


 白金色に輝く両翼がルナに推進力を与えているのだろう。
 靴底から根が生えているイメージを、想像しろ。
 一歩も譲らない。後退なんて許さない。




「ぬらぁあああああああああああああああっ!!!!!」




 押し戻す。左足を一歩、前へ。
 押し戻せ。右足を一歩、前へ。
 一歩、一歩、前進――、前へ。




 七色の光をまとったルナがゆっくり押し返されていく。



 まとっていた七色の光が消えてゆく。
 黄金の光もやがて消えた。


 翼も角も消え、元のルナの姿に戻った。
 力を失い、倒れかけた体を両腕で強く抱きしめる。



「はは……っ……やっぱり……パパには勝てなかった」

「当たり前だ。おまえの親なんだからな」

「うん……、そうだったね」



 ルナは安心し、俺の胸で眠りについた。
 こうやって寝顔を見れば、本当にただの子供だ。




「ルナの本当の親の仇は、俺がきっちり取る」




 俺の胸で眠っているルナをアルテに預ける。
 自壊式《オーバー・クロック》も解除。


 アルテの胸でルナが眠っているのを確認する。
 俺の仕事は、子供の情操教育に良くない。




「ここから先は、――大人の時間だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
【更新をやめております。外部URLの作品3章から読み直していただければ一応完結までお読みいただけます】 https://ncode.syosetu.com/n1436fa/ アウロス暦1280年、この世界は大きな二つの勢力に分かれこの後20年に渡る長き戦の時代へと移っていった リチャード=アウロス国王率いる王国騎士団、周辺の多種族を率いて大帝国を名乗っていた帝国軍 長き戦は、皇帝ジークフリードが崩御されたことにより決着がつき 後に帝国に組していた複数の種族がその種を絶やすことになっていった アウロス暦1400年、長き戦から100年の月日が流れ 世界はサルヴァン=アウロス国王に統治され、魔物達の闊歩するこの世界は複数のダンジョンと冒険者ギルドによって均衡が保たれていた

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

処理中です...