ぼくのうた きみのこえ～発情期を抑えるために番になることは許されますか？～

21-3

「璃玖って……本当にいい子なんだな」

　目を輝かせながら恥ずかしがる様子もなく言葉にする璃玖に隼人は感嘆し、ついつい聖の髪にヘアクリップをセットしようとしていた手を止めてしまう。

「ほら、隼人。さっさと仕事しろ」

　手を止めている隼人に聖は催促するように机を指で叩き、苛立ちを伝えた。

「わかったよ。それじゃあ始めますか」

　隼人はそう言って聖の前髪をヘアクリップで留め終えると、集中するように両目をゆっくりと瞑った。

　数秒後、隼人は目を開けるとその表情は凛とした真剣なものにガラリと変わり、空気は張り詰めたものになった。

　そのまま隼人は一言も喋らず、迷うことのない手つきで聖にメイクをしていった。

　聖の顔にちょっとした陰影や色を入れていくことによって、聖の整ったパーツはさらに際立たされていった。

　また、聖は穏やかな印象だったが、だんだんと男の色気がより感じられる印象に変わっていき、その工程は、まるで隼人が魔法でも使っているように璃玖の目には映った。

（これがプロ……）

　その様子を璃玖は時間も忘れて感動しながら見入っているうちに、無駄な動き一つない隼人は聖の髪のセットまであっという間に終わらせた。

「はい、完成。どう？　文句は？」

　出来上がりに満足そうな顔をした隼人は、大きな二面鏡を聖に向けて開き、合わせ鏡にしてセットされた髪全体を聖に確認させる。

　聖は襟足の仕上がり具合までしっかり確認し、その出来栄えに満足したのか聖もにやりと笑った。

「問題ないな」

「それは何より」

　聖の一言に安堵したのか、隼人は息をつくように空いていた椅子に座り、胸ポケットからタバコを取り出し火をつけた。