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かぐや姫は竹を割る
しおりを挟む太陽の光をほとんど通さないほどうっそうとした森に、一定のリズムで小気味の良い音が響いている。
「ふぅ、木一本切るのにこんなに時間がかかるとはの……」
そう掠れた声で呟くのは、斧を杖の代わりにして立つおじいさんだ。おじいさんの目の前には、表面に僅かに切り傷のついた太い木がそびえ立っている。
それからしばらく斧を振っていたおじいさんだったが、ついに諦めたのか帰り支度をして早々と帰ってしまった。
近くに生えていた竹から聞こえる、小さな少女の声に気づくことなく。
「ちょっと! あのおじいさん耳遠すぎない!?」
竹の中という狭すぎる空間の中で、一人の少女が寝転がって手足をバタバタさせていた。
「このままじゃ何も出来ずに天国行きだわ……」
暴れまわって疲れたのか、肩で息をする少女。しばらく目を閉じて何かを考えていた様子だったが、突然起き上がり、壁を軽く叩き始めた。
「この厚さなら……でももう少し待ってみても……いやでも……」
ぶつぶつと呟く少女の口に、段々と笑みが浮かんでいく。どうやらこの竹から出ていくかどうか迷っているようだ。
「うん! 考えたって仕方ないわ!」
右手の拳を固く握り、深く深呼吸をする。結局、竹から出ることにしたらしい。
かなり雑な方法で……
「はぁぁぁ……おりゃ!!」
冷静に考えて、少女の力で竹を素手で割ることができると思うだろうか。
漫画とかならあり得る? 残念、ここはリアリティーを追及します。
「いったぁぁぁぁ!!」
傷一つさえつかない竹。少女は赤くなった自分の手を優しく撫でながら、必死で涙をこらえる。
「や、やっぱりか弱い乙女に素手は無理ね……」
どうしようかと再び考え始めるが、良い考えは浮かんでこない。
「ここで……死んじゃうのかな……」
少女の目に涙が浮かぶ。
しかし、神様は少女を見捨てていなかった。
「中に誰かいるのかい……?」
少女はパッと顔を上げた。今の声は――
「おじいさん!」
その声は、しっかりとおじいさんの耳に届いた。
「少し待っておれ」
掠れ気味の低い声。おじいさんのその一言だけで、少女は言葉に表せない安心感に包まれていく。
「っ! うん!」
竹の外で、おじいさんが肩にかついでいた斧を振り上げた。
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