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彼女は笑顔で即答した。……この女は何を言っているんだ?俺はそう思って首を傾げたのだが、すぐに理解した。……ああ、そういうことか。つまり二人はこの女のことが好きなんだな。それで、わざわざ会いに来てくれたってことか。俺はそう理解すると、嬉しくなって微笑んだ。すると、彼女は驚いたように目を見開くと、顔を真っ赤にして俯いてしまった。……あれ?なんか変なこと言ったかな?俺はそう思ったのだが、どうやら違ったようだ。なぜなら、彼女は俺の視線から逃れるかのように部屋の隅に移動すると、壁に向かってブツブツと独り言を言い始めたからだ。
「うぅ……。いきなりあんなことを言われるなんて思わなかったわ。……どうしましょう。でも、ここで逃げたらダメよね。うん、頑張ろう!」
俺は彼女の様子を見つめていると、やがてこちらを向くと、照れ臭そうに話しかけてきた。
「えっと、何かしら?」
「いえ、特に用事があるわけではないんですけど」
「そう……」
それからしばらくの間、俺とリュカさんの間には沈黙が訪れた。そして、お互いに気まずくなってきた頃になって、ようやく彼女が口を開いた。
「ねえ、レイフォン」
「はい?」
「さっきのことは忘れてくれるとありがたいんだけど……」
「さっきのことって?」
「……私の気持ちよ」
彼女は恥ずかしそうにそう言うと、また黙ってしまった。……は?この人、一体何言ってるの?俺は彼女の発言の意味が理解できずに困惑すると、慌てて聞き返した。
「あの、すいません。もう一度だけ言ってくれますか?」
「私のことは気にしないで」
彼女はそう言うと、プイッとそっぽを向いてしまった。……いやいや、気になるだろ!俺は心の中でツッコミを入れると、なんとか会話を続けようと試みることにする。
「あのですね、俺が言いたかったのはですね、リュカさんの想いというのは、その、仲間としての好意ですかね?」
俺がそう問いかけると、彼女は首を左右に振った。
「違うわ」
「え?」
俺は予想外の返答に戸惑ってしまうと、さらに追い打ちをかけるような言葉が続く。
「私はあなたのことを愛しているの」
……はい? 俺は彼女の言葉を理解することができずに呆然としてしまう。
そんな俺の態度を見て、リュカさんは悲しそうな表情を浮かべた。
「やっぱり迷惑だったかしら?」
俺はその言葉を聞いて我を取り戻すと、慌てて首を横に振る。
「いえ、そんなことはありません!」
俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「そう、良かった」
彼女はそれだけを言うと満足したようで、それ以降は何も言わなかった。俺はというと、未だに混乱しており上手く言葉を発することができない状態だった。……俺のことを好き?マジかよ……。だって相手はこの国の王女様なんだぞ?それに容姿だって悪くないと思うし……。俺がそう考えていると、彼女が優しく微笑んできた。
「レイフォン、あなたが私を受け入れられない理由を聞かせてもらえるかしら?」
「それは……」俺はそこで躊躇してしまった。その理由を話すということは、俺の正体について話さなければならないということだからだ。しかし、このままではいけないこともわかっている。……よし、決めた。俺は覚悟を決めると、ゆっくりと口を開く。「実はですね…………というわけなんですよ」……これでいいだろう。後は適当に誤魔化せばいいはずだ。俺はそう判断すると、彼女の様子を窺う。
すると、なぜか彼女は真剣な眼差しで俺の顔を見つめていた。
「……嘘ね」
「……へ?」
俺は彼女の反応に驚いてしまうと、思わず間抜けな声を出してしまう。……いやいや、なんでだよ!?どうしてそんなこと言えるんだよ!?俺は動揺しながら彼女の顔を見ると、質問をぶつけてみる。
「どうしてそう思うんですか?」
「そうね。……強いて言うなら勘ね」
「……勘ですか」
「ええ、そうよ」
彼女はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。……なんなんだ、この人は?もしかすると、俺の予想以上に頭のネジが緩んでいるのかもしれない。俺はそう思うと、大きく溜息を吐き出した。……どうしようか?本当のことを言うべきか?いや、それは無理だな。じゃあ、どうすればいいんだ?俺はそう考えると、頭を悩ませる。
すると、彼女はクスリと笑うと、優しい口調で問いかけてくる。
「あなたは自分が何者かわからないの?」
「はい」
俺は素直に答えると、少しだけ肩を落とした。……もしかして、俺の悩みに気がついてくれたのか?
「そう……」
彼女はそう呟くと、少しの間考え事をしているようだった。そして、何かを決めたのか、真剣な瞳で俺のことを見つめると、ゆっくりと語りかけてきた。
「あなたの力になりたいんだけど、ダメかしら?」
「え?」
俺は彼女の言葉に戸惑いながら聞き返すと、彼女は真剣な様子で語り始める。
「あなたはきっと自分の正体を隠し通すつもりでしょう?」
「まぁ、そうですね」
俺はそう答えながらも、どうしたら良いのかを考えていた。すると、彼女はそんな俺の様子に苦笑すると、諭すように告げる。「別に私はこのことを誰かに話すつもりはないから安心していいわよ」
「本当ですか?」
「ええ、もちろんよ」
彼女はそう言うと、俺に向かって微笑んでくれた。……どうしようか?正直、この人の申し出はかなり魅力的だ。だけど、まだ信用できないな。俺はそう思い直すと、どうするべきなのかを考える。
すると、彼女はそんな俺の考えを読んだかのように、楽しげに問いかけてきた。
「それで、どうするの?」
どうするって言われてもな……。俺は困り果ててしまうと、とりあえず質問をしてみた。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
すると、彼女は楽しげに笑い出した。「そんなの決まっているじゃない。私があなたを愛しているからよ」
彼女はそう言うと、俺の頬に手を伸ばしてきた。そして、そのまま顔を近づけてくると、耳元で囁いた。
「ねえ、私のことを信じてくれるかしら?」
俺はその言葉で完全に堕ちてしまった。
「はい、信じます!」
こうして俺はあっさりと彼女に騙されてしまったのだった。
俺は彼女の指示通りに行動を開始した。まずは変装して街に出ることにしたのだ。
ちなみに服装は彼女のお古を借りることになった。なんでも、昔に着ていた服が残っていたらしい。
俺は彼女の部屋に入ると、渡された服を着ることにした。
「着替え終わったら呼んでくれるかしら?」
俺は彼女の言葉に従うと、しばらくしてから部屋を出た。すると、そこにはリュカさんの姿があった。
彼女は俺の姿をまじまじと見つめると、嬉しそうに話しかけてくる。
「似合っているわよ」
「ありがとうございます」
俺はそう言うと、軽く頭を下げた。すると、彼女は笑顔で俺の手を取ると、そのまま歩き始めた。
俺は手を引かれるがままに歩いていくと、やがて大きな建物の前で立ち止まった。
「ここがギルドよ」
彼女はそう言うと、建物の中へと入っていく。
中へ入ると、そこは多くの人々で賑わっていた。
俺は初めて見る光景に圧倒されてしまうと、キョロキョロと周囲を見回してしまう。
すると、彼女は不思議そうに尋ねてきた。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません……」
俺は慌てて首を振ると、慌てて視線を逸らす。……危ないところだったぜ!まさか、こんなところでボロを出す訳にはいかないもんな。気をつけないと……。俺は気を引き締めると、再び視線を戻した。
どうやらここは酒場にもなっているらしく、多くの冒険者達が酒を飲んでいる姿が見えた。そして、受付らしき場所に行くと、彼女は俺のことを引き連れたまま真っ直ぐに進んでいく。
俺はどうすべきかわからずに戸惑っていると、突然背後から声を掛けられた。
「おい、そこの女!俺達と一緒に飲まないか?」
振り返ると、そこに立っていたのはいかにもガラの悪そうな男だった。
男はニヤついた笑みを浮かべると、リュカさんのことを見つめている。
すると、彼女は不快そうに眉間にシワを寄せた。
「私はこの人と話しているのよ。消えてくれるかしら?」
「ああん?俺達が誰だか知ってんのか?」
男がそう言うと、リュカさんは冷たい眼差しで睨みつける。
「知らないわよ」
「はっはー、そうかそうか。なら教えてやるよ。俺達はな、この辺りで最強と言われているチーム、黒猫団のメンバーだ!」
彼はそう言うと、自慢げな態度で胸を張る。しかし、それを聞いたリュカさんの表情は冷めていく一方だ。
「あら、それは凄いわね。でも、それが何か関係あるの?」
「な、なんだと!お前、俺達のことをバカにしているのか!?」
「いえ、全然」
彼女はそう言い切ると、俺の方に向き直った。
「ごめんなさいね。私の知り合いが失礼なことをしたわ」
「いや、気にしないでください」
俺はそう言いながらも、内心では冷や汗を流していた。……やばいな。さすがにここまで来ると、俺の正体がバレる可能性があるぞ。俺はなんとか誤魔化せないかと考えると、ふとあることを思い出した。……そうだ、あの技を使えばなんとかなるかもしれない。俺はそう判断すると、早速試してみることにした。
俺は深呼吸をすると同時に、精神を集中させる。すると、全身が熱くなり始め、力が湧き上がってきた。
俺はその感覚を確かめてから、ゆっくりと口を開いた。
「……俺がこの人達をぶっ飛ばしてもいいんですよ?」
俺がそう言うと、周囲の空気が一変した。
先ほどまで騒いでいたはずの冒険者たちが全員黙り込むと、俺達の会話に注目し始める。すると、男は慌てた様子で俺の肩を掴んだ。
「じょ、冗談だよな?」
「えっと……」
俺はそう呟くと、チラッとリュカさんの方を見る。すると、彼女は呆れた表情で溜息をつくと、口を開く。
「あなたたち、迷惑だからもう帰りなさい」
「な、なんだと!」
彼女はそう言うと、俺の背中を押して強引に外へと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
後ろから男の叫び声が聞こえてきたが、俺は無視することにした。
外に出ると、彼女は疲れ切った様子で溜息を吐き出す。
「はぁ……まったく。……あなたはもう少し自分の力を自覚しなさい」
「すいません」
俺は素直に謝ると、彼女の後に続いて歩き出す。
しばらく歩いていると、ようやく人気のない場所にたどり着いた。
すると、彼女はクルリと振り向いた。
「それで、どういうつもりなのかしら?」
「え?」
俺はいきなりの質問に困惑すると、首を傾げる。
「とぼけないでくれるかしら?……あなたが使った力のことよ」
「あ~」
俺はそこでようやく理解すると、頭を掻いた。
「あれって何なんですか?」
「それはこっちのセリフなんだけどね」
彼女はそう言うと、ジト目で俺のことを見つめてくる。
俺はどうしたものかと頭を悩ませると、諦めて全てを話すことにした。
「実は俺って記憶喪失なんです」
「へぇ……」
彼女はそう呟くと、興味津々といった感じで見つめてくる。
「それで?」
「それで、俺の力について調べたいと思ったんですけど、なかなか情報が集まらなくて困っていたんです。……なので、あなたに手伝ってもらえたらと思って……」
俺は恥ずかしさを堪えながら説明すると、恐る恐る彼女の顔色を窺う。すると、何故か嬉しそうな笑みを浮かべていた。……もしかすると、怒られると思っていたのかな? 「なぁんだ。そういうことだったの」
「はい」
俺はそう答えると、ホッと安堵の息を吐き出す。
すると、彼女は俺の両手を掴むと、満面の笑みで話しかけてきた。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「え?ああ、こちらこそ」
俺は戸惑いながら答えると、彼女と握手を交わす。
こうして俺は彼女と共に行動することになった。
「え?え?え?」
俺は混乱しながら周囲を見回すと、どうしてこんなことになっているのかを考える。
確か俺はリュカさんと一緒にギルドに向かっていたはずだ。……なのに、どうしてこんなところにいるんだ?しかも、周囲には誰もいないし……。俺はそう思いながら、不安に駆られていた。すると、背後から足音が近づいてくるのが分かった。
振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。
彼女は銀色の髪をしており、頭に角のようなものが見える。……鬼族か。
俺はそう思うと、すぐに身構えた。
すると、彼女は驚いたような表情を浮かべている。
「え?」
彼女はそう言うと、戸惑ったように周囲をキョロキョロと見回している。
「どうかしたんですか?」
俺は不思議そうに声をかけると、彼女の顔を覗き込んだ。
「……ひゃい!」
彼女は悲鳴を上げると、そのまま尻餅をついてしまう。
「大丈夫ですか?」
俺は慌てて駆け寄ると、手を差し伸べる。
彼女はおずおずと俺の手を取ると、立ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、頬を赤く染める。
「怪我はありませんか?」
「は、はい!だ、だいじょうぶです」
彼女はそう言いながらも、視線を合わせようとはしなかった。
俺はそんな彼女の態度に違和感を覚えると、改めて彼女を観察してみる。……綺麗な子だな。年齢は俺と同じくらいか。
俺はそう考えると、彼女が着ている服に視線を向ける。
白を基調とした服で、スカートの丈はかなり短い。
どう見ても冒険者というよりは、貴族の令嬢が着るような服だ。「あの、リュカさんはどこにいますか?」
「リュカさん?」
彼女はそう言うと、不思議そうに首を傾げた。
「私の名前はミーアですよ?」
「……すみません。まだ名前を覚えていないもので……」
俺は申し訳なさそうに頭を下げると、再び視線を戻す。
「そうだったんですね……」
彼女はそう言うと、残念そうに落ち込んでしまう。……しまったな。
俺はそう思うと、慌てて話題を変えることにする。
「ところで、ここはどこなのでしょうか?」
「ここは私の家だよ」
「そうだったんですね」
俺はそう言いながらも、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。「ところで、どうして俺はここにいるんでしょうか?」
俺がそう尋ねると、ミーアさんの視線が鋭くなった気がした。……もしかして、俺が記憶喪失だということを忘れていたのか?だとしたら、少しまずいな。俺はそう思いながらも、どうにか誤魔化そうと必死になって言葉を探す。そして、なんとか言い逃れることができそうな言葉を思いついた。
「実は俺、目が覚めたら森の中にいたんですよ。それで、森から出ようとしたら迷ってしまったみたいなんです」
俺はそう言い切ると、彼女の反応を伺う。
すると、彼女は納得したのか、大きく首を縦に振っている。
「なるほど。そういうことだったのですね」
「はい」
俺はそう返事をすると、内心でホッと胸を撫で下ろす。
どうやら上手く誤魔化せたようだな。……危ないところだったぜ。
「それなら仕方がないよね」
「はい。本当に助かりました」
俺はそう言うと、感謝を込めて頭を下げた。
「気にしないでいいよ。困っている人を助けるのは当然だからね」
彼女はそう言い切ると、笑顔を浮かべた。……なんて優しい人なんだ。この人なら信用できるかもしれないな。
俺はそう判断すると、彼女に頼み事をすることにした。
「それならお願いがあるのですが、俺の記憶を取り戻すのを手伝ってもらえますか?」
「もちろんだよ」
彼女はそう言うと、ニッコリと微笑む。
「ありがとうございます」
俺はそう言いながらも、内心では安堵していた。
これでなんとかリュカさんに会えるかもしれな――。
そこで俺はあることに気がついた。……あれ?そういえば、俺ってどうやってここに来たんだっけ?それに、どうして俺はこんなところにいるんだ?俺はそう思った瞬間、激しい頭痛に襲われた。
「うぐッ!?」
俺は思わず膝をつくと、額に手を当てる。「ど、どうしたの!?」
「わ、分かりません。急に頭が痛くなって……」
俺はそう言うと、歯を食いしばる。
「大丈夫?」
彼女は心配そうに俺の肩に触れると、優しく声をかけてくれる。
「はい……」
俺はそう答えたものの、痛みは全く治まる気配がなかった。……くそ。一体どうなっているんだよ。
俺はそう思いながらも、意識を保つので精一杯になっていた。
それからしばらく時間が経つと、ようやく落ち着いてきた。
「もう大丈夫ですか?」
「ええ。なんとか」
俺はそう言って立ち上がると、苦笑いを浮かべる。
「無理だけは絶対にダメだからね」
彼女は真剣な眼差しで見つめてくると、念を押してくる。
「はい」
俺は素直に答えると、小さく息を吐き出す。……ふぅ。まさかこんなことになるとは思わなかったな。でも、今は記憶を失っていることを悟られるわけにはいかない。……これからは慎重に行動しないとな。
俺はそう決意すると、ゆっくりと深呼吸をする。
「それじゃあ、早速だけど記憶を取り戻しに行こうか」
「はい」
俺はそう答えると、彼女の後に続いて歩き出した。
「うぅ……。いきなりあんなことを言われるなんて思わなかったわ。……どうしましょう。でも、ここで逃げたらダメよね。うん、頑張ろう!」
俺は彼女の様子を見つめていると、やがてこちらを向くと、照れ臭そうに話しかけてきた。
「えっと、何かしら?」
「いえ、特に用事があるわけではないんですけど」
「そう……」
それからしばらくの間、俺とリュカさんの間には沈黙が訪れた。そして、お互いに気まずくなってきた頃になって、ようやく彼女が口を開いた。
「ねえ、レイフォン」
「はい?」
「さっきのことは忘れてくれるとありがたいんだけど……」
「さっきのことって?」
「……私の気持ちよ」
彼女は恥ずかしそうにそう言うと、また黙ってしまった。……は?この人、一体何言ってるの?俺は彼女の発言の意味が理解できずに困惑すると、慌てて聞き返した。
「あの、すいません。もう一度だけ言ってくれますか?」
「私のことは気にしないで」
彼女はそう言うと、プイッとそっぽを向いてしまった。……いやいや、気になるだろ!俺は心の中でツッコミを入れると、なんとか会話を続けようと試みることにする。
「あのですね、俺が言いたかったのはですね、リュカさんの想いというのは、その、仲間としての好意ですかね?」
俺がそう問いかけると、彼女は首を左右に振った。
「違うわ」
「え?」
俺は予想外の返答に戸惑ってしまうと、さらに追い打ちをかけるような言葉が続く。
「私はあなたのことを愛しているの」
……はい? 俺は彼女の言葉を理解することができずに呆然としてしまう。
そんな俺の態度を見て、リュカさんは悲しそうな表情を浮かべた。
「やっぱり迷惑だったかしら?」
俺はその言葉を聞いて我を取り戻すと、慌てて首を横に振る。
「いえ、そんなことはありません!」
俺がそう言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた。
「そう、良かった」
彼女はそれだけを言うと満足したようで、それ以降は何も言わなかった。俺はというと、未だに混乱しており上手く言葉を発することができない状態だった。……俺のことを好き?マジかよ……。だって相手はこの国の王女様なんだぞ?それに容姿だって悪くないと思うし……。俺がそう考えていると、彼女が優しく微笑んできた。
「レイフォン、あなたが私を受け入れられない理由を聞かせてもらえるかしら?」
「それは……」俺はそこで躊躇してしまった。その理由を話すということは、俺の正体について話さなければならないということだからだ。しかし、このままではいけないこともわかっている。……よし、決めた。俺は覚悟を決めると、ゆっくりと口を開く。「実はですね…………というわけなんですよ」……これでいいだろう。後は適当に誤魔化せばいいはずだ。俺はそう判断すると、彼女の様子を窺う。
すると、なぜか彼女は真剣な眼差しで俺の顔を見つめていた。
「……嘘ね」
「……へ?」
俺は彼女の反応に驚いてしまうと、思わず間抜けな声を出してしまう。……いやいや、なんでだよ!?どうしてそんなこと言えるんだよ!?俺は動揺しながら彼女の顔を見ると、質問をぶつけてみる。
「どうしてそう思うんですか?」
「そうね。……強いて言うなら勘ね」
「……勘ですか」
「ええ、そうよ」
彼女はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。……なんなんだ、この人は?もしかすると、俺の予想以上に頭のネジが緩んでいるのかもしれない。俺はそう思うと、大きく溜息を吐き出した。……どうしようか?本当のことを言うべきか?いや、それは無理だな。じゃあ、どうすればいいんだ?俺はそう考えると、頭を悩ませる。
すると、彼女はクスリと笑うと、優しい口調で問いかけてくる。
「あなたは自分が何者かわからないの?」
「はい」
俺は素直に答えると、少しだけ肩を落とした。……もしかして、俺の悩みに気がついてくれたのか?
「そう……」
彼女はそう呟くと、少しの間考え事をしているようだった。そして、何かを決めたのか、真剣な瞳で俺のことを見つめると、ゆっくりと語りかけてきた。
「あなたの力になりたいんだけど、ダメかしら?」
「え?」
俺は彼女の言葉に戸惑いながら聞き返すと、彼女は真剣な様子で語り始める。
「あなたはきっと自分の正体を隠し通すつもりでしょう?」
「まぁ、そうですね」
俺はそう答えながらも、どうしたら良いのかを考えていた。すると、彼女はそんな俺の様子に苦笑すると、諭すように告げる。「別に私はこのことを誰かに話すつもりはないから安心していいわよ」
「本当ですか?」
「ええ、もちろんよ」
彼女はそう言うと、俺に向かって微笑んでくれた。……どうしようか?正直、この人の申し出はかなり魅力的だ。だけど、まだ信用できないな。俺はそう思い直すと、どうするべきなのかを考える。
すると、彼女はそんな俺の考えを読んだかのように、楽しげに問いかけてきた。
「それで、どうするの?」
どうするって言われてもな……。俺は困り果ててしまうと、とりあえず質問をしてみた。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
すると、彼女は楽しげに笑い出した。「そんなの決まっているじゃない。私があなたを愛しているからよ」
彼女はそう言うと、俺の頬に手を伸ばしてきた。そして、そのまま顔を近づけてくると、耳元で囁いた。
「ねえ、私のことを信じてくれるかしら?」
俺はその言葉で完全に堕ちてしまった。
「はい、信じます!」
こうして俺はあっさりと彼女に騙されてしまったのだった。
俺は彼女の指示通りに行動を開始した。まずは変装して街に出ることにしたのだ。
ちなみに服装は彼女のお古を借りることになった。なんでも、昔に着ていた服が残っていたらしい。
俺は彼女の部屋に入ると、渡された服を着ることにした。
「着替え終わったら呼んでくれるかしら?」
俺は彼女の言葉に従うと、しばらくしてから部屋を出た。すると、そこにはリュカさんの姿があった。
彼女は俺の姿をまじまじと見つめると、嬉しそうに話しかけてくる。
「似合っているわよ」
「ありがとうございます」
俺はそう言うと、軽く頭を下げた。すると、彼女は笑顔で俺の手を取ると、そのまま歩き始めた。
俺は手を引かれるがままに歩いていくと、やがて大きな建物の前で立ち止まった。
「ここがギルドよ」
彼女はそう言うと、建物の中へと入っていく。
中へ入ると、そこは多くの人々で賑わっていた。
俺は初めて見る光景に圧倒されてしまうと、キョロキョロと周囲を見回してしまう。
すると、彼女は不思議そうに尋ねてきた。
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません……」
俺は慌てて首を振ると、慌てて視線を逸らす。……危ないところだったぜ!まさか、こんなところでボロを出す訳にはいかないもんな。気をつけないと……。俺は気を引き締めると、再び視線を戻した。
どうやらここは酒場にもなっているらしく、多くの冒険者達が酒を飲んでいる姿が見えた。そして、受付らしき場所に行くと、彼女は俺のことを引き連れたまま真っ直ぐに進んでいく。
俺はどうすべきかわからずに戸惑っていると、突然背後から声を掛けられた。
「おい、そこの女!俺達と一緒に飲まないか?」
振り返ると、そこに立っていたのはいかにもガラの悪そうな男だった。
男はニヤついた笑みを浮かべると、リュカさんのことを見つめている。
すると、彼女は不快そうに眉間にシワを寄せた。
「私はこの人と話しているのよ。消えてくれるかしら?」
「ああん?俺達が誰だか知ってんのか?」
男がそう言うと、リュカさんは冷たい眼差しで睨みつける。
「知らないわよ」
「はっはー、そうかそうか。なら教えてやるよ。俺達はな、この辺りで最強と言われているチーム、黒猫団のメンバーだ!」
彼はそう言うと、自慢げな態度で胸を張る。しかし、それを聞いたリュカさんの表情は冷めていく一方だ。
「あら、それは凄いわね。でも、それが何か関係あるの?」
「な、なんだと!お前、俺達のことをバカにしているのか!?」
「いえ、全然」
彼女はそう言い切ると、俺の方に向き直った。
「ごめんなさいね。私の知り合いが失礼なことをしたわ」
「いや、気にしないでください」
俺はそう言いながらも、内心では冷や汗を流していた。……やばいな。さすがにここまで来ると、俺の正体がバレる可能性があるぞ。俺はなんとか誤魔化せないかと考えると、ふとあることを思い出した。……そうだ、あの技を使えばなんとかなるかもしれない。俺はそう判断すると、早速試してみることにした。
俺は深呼吸をすると同時に、精神を集中させる。すると、全身が熱くなり始め、力が湧き上がってきた。
俺はその感覚を確かめてから、ゆっくりと口を開いた。
「……俺がこの人達をぶっ飛ばしてもいいんですよ?」
俺がそう言うと、周囲の空気が一変した。
先ほどまで騒いでいたはずの冒険者たちが全員黙り込むと、俺達の会話に注目し始める。すると、男は慌てた様子で俺の肩を掴んだ。
「じょ、冗談だよな?」
「えっと……」
俺はそう呟くと、チラッとリュカさんの方を見る。すると、彼女は呆れた表情で溜息をつくと、口を開く。
「あなたたち、迷惑だからもう帰りなさい」
「な、なんだと!」
彼女はそう言うと、俺の背中を押して強引に外へと向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
後ろから男の叫び声が聞こえてきたが、俺は無視することにした。
外に出ると、彼女は疲れ切った様子で溜息を吐き出す。
「はぁ……まったく。……あなたはもう少し自分の力を自覚しなさい」
「すいません」
俺は素直に謝ると、彼女の後に続いて歩き出す。
しばらく歩いていると、ようやく人気のない場所にたどり着いた。
すると、彼女はクルリと振り向いた。
「それで、どういうつもりなのかしら?」
「え?」
俺はいきなりの質問に困惑すると、首を傾げる。
「とぼけないでくれるかしら?……あなたが使った力のことよ」
「あ~」
俺はそこでようやく理解すると、頭を掻いた。
「あれって何なんですか?」
「それはこっちのセリフなんだけどね」
彼女はそう言うと、ジト目で俺のことを見つめてくる。
俺はどうしたものかと頭を悩ませると、諦めて全てを話すことにした。
「実は俺って記憶喪失なんです」
「へぇ……」
彼女はそう呟くと、興味津々といった感じで見つめてくる。
「それで?」
「それで、俺の力について調べたいと思ったんですけど、なかなか情報が集まらなくて困っていたんです。……なので、あなたに手伝ってもらえたらと思って……」
俺は恥ずかしさを堪えながら説明すると、恐る恐る彼女の顔色を窺う。すると、何故か嬉しそうな笑みを浮かべていた。……もしかすると、怒られると思っていたのかな? 「なぁんだ。そういうことだったの」
「はい」
俺はそう答えると、ホッと安堵の息を吐き出す。
すると、彼女は俺の両手を掴むと、満面の笑みで話しかけてきた。
「それじゃあ、これからもよろしくね」
「え?ああ、こちらこそ」
俺は戸惑いながら答えると、彼女と握手を交わす。
こうして俺は彼女と共に行動することになった。
「え?え?え?」
俺は混乱しながら周囲を見回すと、どうしてこんなことになっているのかを考える。
確か俺はリュカさんと一緒にギルドに向かっていたはずだ。……なのに、どうしてこんなところにいるんだ?しかも、周囲には誰もいないし……。俺はそう思いながら、不安に駆られていた。すると、背後から足音が近づいてくるのが分かった。
振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。
彼女は銀色の髪をしており、頭に角のようなものが見える。……鬼族か。
俺はそう思うと、すぐに身構えた。
すると、彼女は驚いたような表情を浮かべている。
「え?」
彼女はそう言うと、戸惑ったように周囲をキョロキョロと見回している。
「どうかしたんですか?」
俺は不思議そうに声をかけると、彼女の顔を覗き込んだ。
「……ひゃい!」
彼女は悲鳴を上げると、そのまま尻餅をついてしまう。
「大丈夫ですか?」
俺は慌てて駆け寄ると、手を差し伸べる。
彼女はおずおずと俺の手を取ると、立ち上がる。
「あ、ありがとうございます」
彼女はそう言うと、頬を赤く染める。
「怪我はありませんか?」
「は、はい!だ、だいじょうぶです」
彼女はそう言いながらも、視線を合わせようとはしなかった。
俺はそんな彼女の態度に違和感を覚えると、改めて彼女を観察してみる。……綺麗な子だな。年齢は俺と同じくらいか。
俺はそう考えると、彼女が着ている服に視線を向ける。
白を基調とした服で、スカートの丈はかなり短い。
どう見ても冒険者というよりは、貴族の令嬢が着るような服だ。「あの、リュカさんはどこにいますか?」
「リュカさん?」
彼女はそう言うと、不思議そうに首を傾げた。
「私の名前はミーアですよ?」
「……すみません。まだ名前を覚えていないもので……」
俺は申し訳なさそうに頭を下げると、再び視線を戻す。
「そうだったんですね……」
彼女はそう言うと、残念そうに落ち込んでしまう。……しまったな。
俺はそう思うと、慌てて話題を変えることにする。
「ところで、ここはどこなのでしょうか?」
「ここは私の家だよ」
「そうだったんですね」
俺はそう言いながらも、疑問に思っていたことを聞いてみることにした。「ところで、どうして俺はここにいるんでしょうか?」
俺がそう尋ねると、ミーアさんの視線が鋭くなった気がした。……もしかして、俺が記憶喪失だということを忘れていたのか?だとしたら、少しまずいな。俺はそう思いながらも、どうにか誤魔化そうと必死になって言葉を探す。そして、なんとか言い逃れることができそうな言葉を思いついた。
「実は俺、目が覚めたら森の中にいたんですよ。それで、森から出ようとしたら迷ってしまったみたいなんです」
俺はそう言い切ると、彼女の反応を伺う。
すると、彼女は納得したのか、大きく首を縦に振っている。
「なるほど。そういうことだったのですね」
「はい」
俺はそう返事をすると、内心でホッと胸を撫で下ろす。
どうやら上手く誤魔化せたようだな。……危ないところだったぜ。
「それなら仕方がないよね」
「はい。本当に助かりました」
俺はそう言うと、感謝を込めて頭を下げた。
「気にしないでいいよ。困っている人を助けるのは当然だからね」
彼女はそう言い切ると、笑顔を浮かべた。……なんて優しい人なんだ。この人なら信用できるかもしれないな。
俺はそう判断すると、彼女に頼み事をすることにした。
「それならお願いがあるのですが、俺の記憶を取り戻すのを手伝ってもらえますか?」
「もちろんだよ」
彼女はそう言うと、ニッコリと微笑む。
「ありがとうございます」
俺はそう言いながらも、内心では安堵していた。
これでなんとかリュカさんに会えるかもしれな――。
そこで俺はあることに気がついた。……あれ?そういえば、俺ってどうやってここに来たんだっけ?それに、どうして俺はこんなところにいるんだ?俺はそう思った瞬間、激しい頭痛に襲われた。
「うぐッ!?」
俺は思わず膝をつくと、額に手を当てる。「ど、どうしたの!?」
「わ、分かりません。急に頭が痛くなって……」
俺はそう言うと、歯を食いしばる。
「大丈夫?」
彼女は心配そうに俺の肩に触れると、優しく声をかけてくれる。
「はい……」
俺はそう答えたものの、痛みは全く治まる気配がなかった。……くそ。一体どうなっているんだよ。
俺はそう思いながらも、意識を保つので精一杯になっていた。
それからしばらく時間が経つと、ようやく落ち着いてきた。
「もう大丈夫ですか?」
「ええ。なんとか」
俺はそう言って立ち上がると、苦笑いを浮かべる。
「無理だけは絶対にダメだからね」
彼女は真剣な眼差しで見つめてくると、念を押してくる。
「はい」
俺は素直に答えると、小さく息を吐き出す。……ふぅ。まさかこんなことになるとは思わなかったな。でも、今は記憶を失っていることを悟られるわけにはいかない。……これからは慎重に行動しないとな。
俺はそう決意すると、ゆっくりと深呼吸をする。
「それじゃあ、早速だけど記憶を取り戻しに行こうか」
「はい」
俺はそう答えると、彼女の後に続いて歩き出した。
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