殺戮部隊と弟子

水無月14

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天才と呼ばれた男の末路

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 「こんなチャチなものでえええええええっ!」
 加速し光の線となったミラの体が粉々に粉砕されるか――結界を破るかの二者択一。
 衝突と同時に目を突き刺すような閃光が洞窟内を迸る。

 「マジでやりやがったのか……」

 鼓膜に響く鋭い音を立てて砕けた金色の剣。
 それに呼応するようにして洞窟内の瘴気が霧散する。
 「…………ッ」
 糸が切れたように崩れ落ちるミラ。
 背中の白翼は役目を終えたかのように消え失せた。
 「あれ、体が動かない……」
 「しまらねえ最後だな。馬鹿弟子」
 「うるさいな。なんか剣にごっそり魔力を吸われたみたい……」
 「言い訳なら後にしろよ」
 「言い訳じゃないし! 事実だし!」
 「はいはい、わかったわかった」
 「絶対信じてないでしょ」
 「さあ、どうだろうな」
 オルレアがそうであったように《選ばれし者》が必ずしも幸せだとは限らない。
 本人が気付いていないならばそれもまた一興。
 四条要はあえて今見た一切を忘れることにした。

 「地震……? それもかなり大きい……」

 次から次へと波のように押し寄せる危機的状況。
 驚きよりも先に「またか」と思ってしまったミラは自分の変化に戸惑った。
 「えぇーと……もしかしてこれはお前をおぶっていかないといけない展開?」
 「その質問は何? まさか愛弟子を見捨てる気?」
 「あっ、いや……」
 「わかってるとは思うけど、ネイロさんも一緒によろしくね」
 「マジかよ……」
 女とはいえ二人を担ぐとなるとと決して軽くはない。ましてや行きは下りだった元来た道を戻るとなるとかなりの重労働が約束される。
 加えて仰向けで転がってる瀕死の男は今回の一件の最重要人物。
 依頼内容に沿うならば連れて帰らないわけにはいかなかったが……。
 「お前の計画が失敗に終わったのは今回が初めてだな」
 「フッ、どうやらそのようだ……」
 「最後まで澄ました顔しやがって。お前が狼狽える様、一度でいいから見たかったぜ」
 洞窟の崩落が始まる中で静かに見つめ合うダヴィンチと四条要。
 道は違えど仲間だった。
 だからこそ多くを語る必要はなかった。

 「……じゃあな」

 オルレアの剣を手にした四条要はダヴィンチに近づくと心臓目掛け一気に剣を振り下ろした。
 一つの命の終焉。
 大抵の人間は死に瀕して表情を苦痛に歪ますものだったが今葬った男は違った。
 まるで憑き物が落ちたかのような安らかな表情。
 それを羨ましいと思わなかったと言えばそれは嘘になる。
 「……っと、感傷に浸ってる暇はねぇーわな」
 「痛ッ」
 「我慢しろ。痛みがあるうちにはまだ大丈夫だ」
 行きは下り坂だったが帰りは上り坂。それだけでも充分ハードなのに二人を担ぐという追加要素オプションが付与されたことで四条要の口からは渇いた笑いが込み上げそうになった。
 昔の自分ならこの二人を見捨ててさっさと自分一人だけで脱出しただろう。
 それができない今の自分を丸くなったと思う一方で少し人間に戻ったかのような温かい感覚。それはできる事なら二度と失いたくないと思えるものだった。
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