47 / 83
正門の戦い
しおりを挟む
戦争を彷彿とさせる魔法の応酬。それもようやく佳境を迎えつつあった。
おおよその雌雄は決していても、それを決定打というにはまだ早い。
双方が最終的な決着をつけるべく間合いをとると小休憩を挟むようにミラと対峙する男が口を開いた。
「元聖騎士の人だけでなく女の方もなかなか強いッスね。いったい何者ッスか?」
「さあな。それは俺に聞かず本人に直接聞けばよかろう」
「それもそーっすね。殺した後だと聞けなくなりますもんね」
顔に無数の傷跡残る眼帯の大男と一見どこにでもいそうな軽薄なノリの若人。
アースガルド家の私兵を返り討ちにした上でセルヴァスとミラ相手に一歩も引かない大立ち回りを見せた殺戮部隊の生き残りは抱いた疑問をミラにぶつけた。
「お嬢さん。あんた一体何者ッスか?」
「ミラ・アースガルド」
「ああ、噂に聞くアースガルド家の養子ってやつッスね。現当主が子宝に恵まれなかったって話らしーっすけど、どうやって潜り込んだのか興味あるッスね~」
「黙って聞いてれば無礼な人ね。名乗りもせずに」
「ああ、失礼。自分はレグナ・イグニス。四条要さんとかネイロさんの後輩で序列は十二位ッス。んでもってそっちが八位のベルガさん。他にも二位の人とか五位の人がきてるんであんたらに勝ち目ないッスよ」
ヘラヘラと笑いながらミラの問いに答えるレグナ。
かつて時空牢の戦いでミラを圧倒し、アウロと互角の戦いを繰り広げた三人の殺戮部隊よりも上位の序列持ちが四人も襲来してくるなど悪い夢だと弱音を吐きたくもなる。
さらに運が悪いことにミラと対峙するレグナは水属性魔法の使い手。
ただでさえ相性の悪いというのにそれを差し引いたとしてもお釣りがくるほどの実力差。
四条要が言ったようにミラが戦って勝てるような相手ではなかった。
「……さっきの質問の答えだけど、物心つく前からここにいたから詳しくは知らない」
「へえ~それはますます気になるなぁ~」
「当時のことで知ってることが一つだけある」
「ん……?」
「ボクの本当の両親は殺戮部隊に殺された」
「あちゃー、そうだったんスか。道理で……」
――殺意を宿した敵意。
それは形として不自然なものだった。
本来ならば殺意は敵意の上位感情であり、僅かな殺意で敵意は簡単に殺意の色に染まるもの。
殺し合いが常である戦場において敵意の殺意化はより顕著なものだ。
にもかかわらず少女は敵意の中に殺意を押し殺していた。
それは二人の殺戮部隊をして違和感を覚えるほどのものだった。
「べつに恨んではいない。本当の両親の顔なんてロクに覚えていないから」
「ならば無意識のようだな。お前からは敵意のほかに殺意を感じる」
殺すつもりはない。捕えて然るべき裁きを受けてもらうだけ。
最初からそのつもりで敗色濃厚な現状においてもその考えは揺るぎないにもかかわらず敵から告げられた意外な言葉にミラは耳を疑った。
「そんな……はず……」
自分と敵――果たしてどちらが正しいのか。
その答えが出ないうちにレグナとベルガは再戦とばかりに殺意を剥き出した。
「……なめられたものだな」
「まったくッス。戦いとは命の駆け引き、究極的には殺すか殺されるかッスよ」
憤怒――それが二人の殺戮部隊がミラに対して抱いた感情だった。
強者が弱者の生殺与奪を握るのが常である戦場においてその逆などありはしない。
にもかかわらず眼前の小娘は今まさにその常識を覆そうとしている。
自分達よりも弱いにもかかわらず“不殺”を貫こうとしている。
それは二人の殺戮部隊にとって屈辱以外の何者でもなかった。
おおよその雌雄は決していても、それを決定打というにはまだ早い。
双方が最終的な決着をつけるべく間合いをとると小休憩を挟むようにミラと対峙する男が口を開いた。
「元聖騎士の人だけでなく女の方もなかなか強いッスね。いったい何者ッスか?」
「さあな。それは俺に聞かず本人に直接聞けばよかろう」
「それもそーっすね。殺した後だと聞けなくなりますもんね」
顔に無数の傷跡残る眼帯の大男と一見どこにでもいそうな軽薄なノリの若人。
アースガルド家の私兵を返り討ちにした上でセルヴァスとミラ相手に一歩も引かない大立ち回りを見せた殺戮部隊の生き残りは抱いた疑問をミラにぶつけた。
「お嬢さん。あんた一体何者ッスか?」
「ミラ・アースガルド」
「ああ、噂に聞くアースガルド家の養子ってやつッスね。現当主が子宝に恵まれなかったって話らしーっすけど、どうやって潜り込んだのか興味あるッスね~」
「黙って聞いてれば無礼な人ね。名乗りもせずに」
「ああ、失礼。自分はレグナ・イグニス。四条要さんとかネイロさんの後輩で序列は十二位ッス。んでもってそっちが八位のベルガさん。他にも二位の人とか五位の人がきてるんであんたらに勝ち目ないッスよ」
ヘラヘラと笑いながらミラの問いに答えるレグナ。
かつて時空牢の戦いでミラを圧倒し、アウロと互角の戦いを繰り広げた三人の殺戮部隊よりも上位の序列持ちが四人も襲来してくるなど悪い夢だと弱音を吐きたくもなる。
さらに運が悪いことにミラと対峙するレグナは水属性魔法の使い手。
ただでさえ相性の悪いというのにそれを差し引いたとしてもお釣りがくるほどの実力差。
四条要が言ったようにミラが戦って勝てるような相手ではなかった。
「……さっきの質問の答えだけど、物心つく前からここにいたから詳しくは知らない」
「へえ~それはますます気になるなぁ~」
「当時のことで知ってることが一つだけある」
「ん……?」
「ボクの本当の両親は殺戮部隊に殺された」
「あちゃー、そうだったんスか。道理で……」
――殺意を宿した敵意。
それは形として不自然なものだった。
本来ならば殺意は敵意の上位感情であり、僅かな殺意で敵意は簡単に殺意の色に染まるもの。
殺し合いが常である戦場において敵意の殺意化はより顕著なものだ。
にもかかわらず少女は敵意の中に殺意を押し殺していた。
それは二人の殺戮部隊をして違和感を覚えるほどのものだった。
「べつに恨んではいない。本当の両親の顔なんてロクに覚えていないから」
「ならば無意識のようだな。お前からは敵意のほかに殺意を感じる」
殺すつもりはない。捕えて然るべき裁きを受けてもらうだけ。
最初からそのつもりで敗色濃厚な現状においてもその考えは揺るぎないにもかかわらず敵から告げられた意外な言葉にミラは耳を疑った。
「そんな……はず……」
自分と敵――果たしてどちらが正しいのか。
その答えが出ないうちにレグナとベルガは再戦とばかりに殺意を剥き出した。
「……なめられたものだな」
「まったくッス。戦いとは命の駆け引き、究極的には殺すか殺されるかッスよ」
憤怒――それが二人の殺戮部隊がミラに対して抱いた感情だった。
強者が弱者の生殺与奪を握るのが常である戦場においてその逆などありはしない。
にもかかわらず眼前の小娘は今まさにその常識を覆そうとしている。
自分達よりも弱いにもかかわらず“不殺”を貫こうとしている。
それは二人の殺戮部隊にとって屈辱以外の何者でもなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる