34 / 83
本来の姿
しおりを挟む「ふーん、意外ね……」
四条要が風呂に入ってから二時間ほど――。
浮浪者にしか見えなかった男の本来の姿を目の当たりにしたミラは思わずそう漏らした。
「もの珍しそうに人のことジロジロ見てんじゃねーよ」
「いや、だって……」
髪や髭が雑草のように生い茂っていた時とはだいぶ印象が異なる。
それはさながら若い狼を彷彿とさせる精悍な顔立ち。
侍女たちが騒ぐのも無理はないと思えるほどに四条要は雄々しい“雄”の存在感を放っていた。
「なんだよ。俺の顔に何かついてるのか?」
「別に……」
「それとも俺がイケメン過ぎて見惚れたとか?」
「馬鹿じゃないの。そんなわけないじゃない」
「ははは、これだから生娘はからかい甲斐がある」
そう言ってミラの頭をポンポンと叩く四条要。
「やめてよ!」
ミラは四条要の手を払いのけて不快感を露わにする。
大人に憧れる年頃のミラにとって子供扱いされることは屈辱以外の何者でもなかった。
「私も生娘なんだけどなぁ~」
不意に四条要の耳元で甘く囁く声。
「ネイロか……ビビらせるなよ……」
「私も生娘なんだけどなぁ~」
「おう、そうか……」
「ちょっと対応が全然違うじゃない! 私にもポンポンしてよ!」
四条要の胸座を掴むネイロは頬を脹らませ大層ご立腹な様子。
そんなネイロに冷ややかな視線を送る四条要は面倒臭そうに言った。
「相変わらず鬱陶しいやつだな……」
「いいから早く」
「やだよ。お前髪濡れてるし。てか、お前も風呂入ってたのかよ……」
「カナメ君と混浴しようと思ったけどダメだって。とりあえず髪を乾かせばいいのね」
ネイロがパチンと指を弾くと部屋中に吹き荒れる暴風。
室内にあるありとあらゆるものが吹き飛ばされ床に散乱した。
「お前な……」
「ほら、乾いた。ついでにあなたの髪もね」
得意げにウインクする元凶。
周囲はそんなネイロを白い眼差しで凝視する。
「ずいぶんと部屋を荒らしてくれましたが、これは誰が片付けるんですかね?」
「あっ、いけない。それは考えてなかった」
「次からは外でやってくださいね……」
「ごめんなさいね。えぇーと……クオバディスさん?」
「セルヴァスです!」
「あはは……」
執事に怒られてヘラヘラと誤魔化すように笑う元凶。
そこには世界最高賞金首ウインド・ネイロの姿はなかった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる