殺戮部隊と弟子

水無月14

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過去と現在の優等生

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 「私もカナメ君と同じ条件でその依頼を受けたいんだけど」
 「おいおい、いくらジジイが国のお偉いさんであっても流石に二十粒なんて用意できるわけがないだろ」
 「カナメ君より私の方が欲しいんだからその依頼断ってよ」
 「やなこった。そもそもお前の魔法は殺戮専門で生け捕りには向いてないだろ」
 「失礼な。ちょっと手加減すれば……たぶんできるはず」
 人類最強レベルの戦闘力をもつがゆえに難しい力の加減。
 それは巨人が鳥の卵を潰さず手でつまむに等しい。
 事実としてネイロは今までに一度も敵を生け捕りにしたことがなった。 
 
 「それよりもさっきから言おうと思ってたんだがな……お前、臭うぞ」
 「なによそれ! これでもブランドの香水使ってんのよ! 失礼しちゃう!」
 「わざわざ言い直さなきゃならんのか。血生臭いって言ってんだよ」
 「…………ッ」
 それは感覚的なもので実際に血の臭いがするわけではない。
 つまるところ多くの人命を奪ってきたからこそ分かるものであって、この場においてはミラだけがその感覚を持ち合わせていなかった。
 「理由を話せないのなら俺はお前を信用しない」
 「だったら言う。言えばいいんでしょ?」
 「それならもったいぶらずにさっさと言え」
 なかなか話そうとはしないネイロに苛立つ四条要。
 単に人殺しといってもその性質は千差万別。
 楽しんで殺しをする者がいる一方で仕事と割り切って淡々と殺す者もいる。
 少なくてもネイロにとって殺しは手段に過ぎず、それを人に告げるというのはテストで悪い点数を取ったのを親に見せるぐらい気まずく気が進まないことだった。
 だが話さなければ信用されない。この場においてすでに答えは出ていた。
 「……ここに来る前に殺戮部隊の生き残りを三人狩ったの」
 「それってもしかして砂鉄使いとかか?」
 「うん。カナメ君のこと聞いたら襲い掛かってきたから勢い余ってつい……」
 実力的に生け捕りが可能な相手だっただけにバツが悪そうにそう答えるネイロ。
 「よくやった。これで残すは十人だな」
 四条要は手間が省けたとばかりに満足げな表情を浮かべてそう言った。
 
 「…………」
 こんなの普通じゃない。どうかしてる。
 誰かがそれを嗜めると思ったがそういった気配は一切に見えない。
 とうとう我慢の限界に達したミラは重い扉が開くように口を動かした。
 「なんで……なんであなた達は平然と人が殺せるの?」
 「あん?」
 「何も思わないの……? 人を殺すということに抵抗はないの!?」
 「まあ落ち着けよ優等生。学校では人を殺すなって教わってきたのか?」
 「そんなの当たり前のことじゃない!」
 魔法は人を守る為にあり、いかなる理由があっても人を傷付けてはならない。
 それはミラを含めた戦後世代の魔法使いが常識として教わってきたことだ。
 ゆえに殺人など論外。ミラにとってはあり得ないことだったが、時代が違えばそういった考えも今と違っていて当たり前。
 若き魔法使いはそういった意味での視野が極端に狭かった。
 「俺の頃とはだいぶデザインが異なるようが、その軍服っぽい服装はオリハルコンの生徒だな」
 「だったら何……?」
 「大戦中は軍の魔法使い養成所として散々人殺しの手段を教えてきた癖に今や不殺を推奨するとはなんともまあ変わり身の早いこった」
 「なっ……」
 「俺はそういった時代に優等生だった人間だ。ちょうど今のお前と同じようにな」
 「全然違うッ! あんたなんかと一緒にしないで!」
 自分の価値観とは決して相容れないがゆえにミラは四条要の言葉を全力で拒絶する。
 だが頭の中では分かっている。戦争だから仕方がなかったのだ。
 眼前にいる者達が望んで起こした戦争ではない。むしろそういった意味では戦争の被害者だ。
 ――対立するのは“頭”と“心”。
 自分の中で生じた矛盾をうまく処理することができず、あろうことかそれを外にぶつけてしまったミラはひどく自己嫌悪に陥り涙目になった。
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