殺戮部隊と弟子

水無月14

文字の大きさ
上 下
26 / 83

口にしてはいけない言葉

しおりを挟む
 「たぶん本当よ。カナメ君は致命傷を負っても死なない」
 「なにを馬鹿な……」
 「あなたと違って実際に戦った上で言ってるの。実力に差があればもちろん生け捕りにしたけど、残念ながらそれができなかったから私と彼の戦いは本気の殺し合いに発展した。私はカナメ君の身体に即死級の風穴を二つ開けたわ」
 決して公には記録されることがなかった殺戮部隊同士の死闘。
 怖いもの見たさから立ち会いてみたかったと思う一方で、記録や話で聞く限りの殺戮部隊の“非常識”っぷりを考えれば知りたくもないという二つの気持ち。複雑に絡み合う矛盾した感情は容易にミラの口を噤ませ、再びミラを元の空気に押し戻した。
 「ありゃ死ぬほど痛かったな。やっぱお前のことは許せねえ」
 「本当のこと言ったら許してくれるって言ったじゃない」
 「考えてやるって言ったんだ」
 「カナメ君の嘘つき~」
 「自分の都合が良いように解釈してんじゃねぇーよ」
 「じゃあ、なんでも言うこと聞いてあげるから許して! お願い!」
 大胆にも恋人のように四条要の腕に絡みつき豊満な胸を押し当てるネイロ。
 そんなネイロを見る四条要の視線は実に冷ややかなものだった。
 
 「たしか大戦時に二十歳だったよな。それから十年経った今は――……」
 「うーんとね、それ以上言ったらたとえ相手がカナメ君でも殺しちゃうかも」
 嵐の前のような静けさを醸しながらニッコリと微笑むネイロ。
 ――生殺与奪は我にあり。
 そう思わせるには十分過ぎるほどの凄味。
 四条要にとってはちょっとした冗談のつもりだったが洒落にならない空気が渦巻いていた。
 「……少し冷やかしただけだ。マジもんの殺意向けんなよ……」
 「だって本気なんだも~ん」
 ネイロに年齢の話題は禁句。それが分からない者には死あるのみ。
 目には見えない重圧に居合わせた誰もが一様に喉の渇きを覚えた。
 
 「――――ッ!」
 そんな均衡を破ったのは叩くように開かれた玄関扉。
 不穏な空気にメスを入れるように一人の男が堂々と入ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

完結 幽閉された王女

音爽(ネソウ)
ファンタジー
愛らしく育った王女には秘密があった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

因果応報以上の罰を

下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。 どこを取っても救いのない話。 ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...