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十年前の亡霊
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その正式名称をロンヴァルディア魔法化第四独立部隊。
所属人数は全盛期でたったの四十四名とされ頭数的にはせいぜい小隊規模に過ぎない彼らが“普通”と違ったのは一人一人が強大な力をもつ魔法使いで構成されていたという事であり、事実として対峙した敵は例外なく必滅した。
結果として多くの国が彼らの手によって滅び――人々はいつしか戦場で屍の山を築く彼らに畏敬と畏怖の念を込めて“殺戮部隊”と呼び、彼らもまた自嘲気味に自らをそう名乗り始め、やがてはその通称が定着して世に広く知れ渡った。
「まさか生き残りがいようとは……」
「ずいぶんな言い草だな。今のロンヴァルディアがあるのは一体誰のおかげだと思っている?」
「その傲慢さが自らを滅ぼしたのだ」
「国は我々を見捨てた。大戦における最大の功労者である我等を裏切った」
「本国からの命令を無視して戦火を拡大させ、あまつさえそれを止める為に差し向けた友軍を殲滅し、最終的には反乱まで起こした。粛清されるのは当然であろうが!」
「先に裏切ったのはお前らだ。続けていれば完勝できるにもかかわらず臆病風に吹かれたお前たちはあろうことか和平の道を選び我々の首を手土産に戦争を終結させた」
決して相容れない両者の主張。それは今から十年前に遡る。
大戦末期――国は多大な犠牲を払いながらも殺戮部隊を粛清した。
少なくても公式記録において殺戮部隊全員が死亡し反乱は失敗とある。
ミラが知る限り四条要という男を除いてそれは概ね正しいと思っていた。
しかし、実際は――……。
「よせ、カーチェス。無意味な問答だ」
達観した様子で言い争い止める男。
男は話を進めるべく纏っていたローブを脱ぎ捨てた。
「殺戮部隊序列二十五位……ルゴフ・アンバーか……」
「久しいな。かつての友よ」
大戦がいかに凄惨だったのかを見せつけるように歴戦の傷跡残る壮年の男。
アウロにとっては共にいくつもの作戦を成功させてきた旧知の仲。
すでに死して久しいと思っていただけにその衝撃は大きかった。
「それに序列二十九位のターニャ・メルヘス……」
ルゴフに続く形で底知れない暗い雰囲気を醸す女がローブを脱ぎ捨てる。
どちらもミラにとって異質な存在。
普通は敵対すれば敵意や焦燥といった感情を少なからず感じとれるものだが、ミラはどうゆうわけか眼前の敵からそういった感情の一切を感じ取ることができなかった。
「そして……やはりそうか。序列三十三位のカーチェス・ヘブンズ……」
最後にアウロと言い争いをしていた人物がローブを投げ捨てる。
喧嘩っ早い性分。それは十年の月日が流れようとも決して変わりはしない。
「アンタとはできれば一対一でやりたかったんだがな……」
「フッ、卑怯とは言わんよ。戦場ではそう珍しいことでもあるまい」
「まあ、それもそうか。だったら悪く思うなよ」
アウロとカーチェスのやり取りの中でミラは一つの疑問を抱いた。
殺戮部隊の三人と対峙しているのはアウロとその護衛の聖騎士、そして自分を含めた三人のはず。にもかかわらず一対一が成立しないというのはつまり――……。
「ターニャはヘマをした学長と護衛の聖騎士を狩れ。俺とルゴフでアウロを狩る!」
カーチェスの言葉でミラの疑問が確信に変わる。
迫り来る殺戮部隊を相手に迎え撃つのは二人の聖騎士。
同じ空間にいるにもかかわらずミラはその存在を認識されていなかった。
所属人数は全盛期でたったの四十四名とされ頭数的にはせいぜい小隊規模に過ぎない彼らが“普通”と違ったのは一人一人が強大な力をもつ魔法使いで構成されていたという事であり、事実として対峙した敵は例外なく必滅した。
結果として多くの国が彼らの手によって滅び――人々はいつしか戦場で屍の山を築く彼らに畏敬と畏怖の念を込めて“殺戮部隊”と呼び、彼らもまた自嘲気味に自らをそう名乗り始め、やがてはその通称が定着して世に広く知れ渡った。
「まさか生き残りがいようとは……」
「ずいぶんな言い草だな。今のロンヴァルディアがあるのは一体誰のおかげだと思っている?」
「その傲慢さが自らを滅ぼしたのだ」
「国は我々を見捨てた。大戦における最大の功労者である我等を裏切った」
「本国からの命令を無視して戦火を拡大させ、あまつさえそれを止める為に差し向けた友軍を殲滅し、最終的には反乱まで起こした。粛清されるのは当然であろうが!」
「先に裏切ったのはお前らだ。続けていれば完勝できるにもかかわらず臆病風に吹かれたお前たちはあろうことか和平の道を選び我々の首を手土産に戦争を終結させた」
決して相容れない両者の主張。それは今から十年前に遡る。
大戦末期――国は多大な犠牲を払いながらも殺戮部隊を粛清した。
少なくても公式記録において殺戮部隊全員が死亡し反乱は失敗とある。
ミラが知る限り四条要という男を除いてそれは概ね正しいと思っていた。
しかし、実際は――……。
「よせ、カーチェス。無意味な問答だ」
達観した様子で言い争い止める男。
男は話を進めるべく纏っていたローブを脱ぎ捨てた。
「殺戮部隊序列二十五位……ルゴフ・アンバーか……」
「久しいな。かつての友よ」
大戦がいかに凄惨だったのかを見せつけるように歴戦の傷跡残る壮年の男。
アウロにとっては共にいくつもの作戦を成功させてきた旧知の仲。
すでに死して久しいと思っていただけにその衝撃は大きかった。
「それに序列二十九位のターニャ・メルヘス……」
ルゴフに続く形で底知れない暗い雰囲気を醸す女がローブを脱ぎ捨てる。
どちらもミラにとって異質な存在。
普通は敵対すれば敵意や焦燥といった感情を少なからず感じとれるものだが、ミラはどうゆうわけか眼前の敵からそういった感情の一切を感じ取ることができなかった。
「そして……やはりそうか。序列三十三位のカーチェス・ヘブンズ……」
最後にアウロと言い争いをしていた人物がローブを投げ捨てる。
喧嘩っ早い性分。それは十年の月日が流れようとも決して変わりはしない。
「アンタとはできれば一対一でやりたかったんだがな……」
「フッ、卑怯とは言わんよ。戦場ではそう珍しいことでもあるまい」
「まあ、それもそうか。だったら悪く思うなよ」
アウロとカーチェスのやり取りの中でミラは一つの疑問を抱いた。
殺戮部隊の三人と対峙しているのはアウロとその護衛の聖騎士、そして自分を含めた三人のはず。にもかかわらず一対一が成立しないというのはつまり――……。
「ターニャはヘマをした学長と護衛の聖騎士を狩れ。俺とルゴフでアウロを狩る!」
カーチェスの言葉でミラの疑問が確信に変わる。
迫り来る殺戮部隊を相手に迎え撃つのは二人の聖騎士。
同じ空間にいるにもかかわらずミラはその存在を認識されていなかった。
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