殺戮部隊と弟子

水無月14

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追跡者

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 人里離れた秘境とも呼べる山奥の小さな村を前にして男は呟く。
 「まどろっこしいのは抜きにして始めるとするか……」
 どこか冷めた口調なのはこれから起こることを予期しているからだ。
 全人類の三分の一を失った世界大戦という未曽有の動乱期において人々が争うことなく平和に暮らせる安寧の地。それは羨ましくもあり同時に嫉妬を覚えるぐらいに腹立たしいものでもあった。
 
 「はいはい。どちら様――……」
 男のドアノックに応える形で扉を開けたのは限界集落には珍しい若い女。
 女は不穏な空気を纏った漆黒のローブ姿の男を一目見るなり慌てて扉を閉めた。
 「なっ……!?」
 瞬く間に砕け散る木製扉。女は驚きのあまり目を丸くして固まった。
 「嘘……でしょ……」
 砕けた木片が身体に突き刺さる痛みとは明らかに異なる痛み――。
 不意に両足が地面から離れた所で足をジタバタとさせて足掻くもその行為に意味はなく、女は苦痛に顔を歪めながら一筋の鮮血を口から垂れ流した。
 「悪く思うな」
 冷酷無比な男の手が女の心臓を貫き、弄ぶように華奢な身体を宙に浮かす。
 「そっか……。もう来たんだ……」
 断末魔を上げることもなく諦めたように瞳を閉じる女。
 儚くも呆気ない一つの生命の終焉。
 加害者である男にとってそれはもはや過ぎ去った過去の一つでしかなかった。
 
 「エリス、どうした……?」
 異変に気付き奥から出てきた男はすぐさま状況を察し臨戦態勢に入る。
 「殺戮部隊エリス・アンフルの死亡確認」
 「貴様ッ……」
 「殺戮部隊のルロイ・アンダーソンとお見受けする」
 「やはり組織の手からは逃れられんか……」
 「それが分かった上であるなら覚悟はすでにできてるな?」
 「フッ、知れたこと。妻の仇をとらせてもらうぞ!」
 「残念ながらその願いは叶わない。ここで死ぬのは貴様だ」
 ――裏切り者の粛清。
 決して気が進むものではなかったが、それがかつて哲学者を志した男に与えられた任務だった。

 「母なる大地の精よ! 今こそ我にその力を与え賜え!」

 ルロイの全身を包み込む土色の燐光。その足元は根を張るように地面と同化を始める。
 「ほう……」
 敵兵からはゴーレムと呼ばれたその姿。
 もしも一般人が見たら特大の悲鳴を上げて逃げ出しただろう。
 ルロイはその程までに化物じみていたが、男にとってそれは驚きに値しなかった。
 「それが貴様の限定魔法ソーサリーか。完全防御の二つ名の通りたしかに固そうだ」
 「地中の鉱石を練り上げて生成したこの身体は金剛石をも凌ぐ。この地の地脈に影響を与えたくはなかったが、貴様を倒す為だ。止むを得まい」
 「冴えない遺言だな。すぐに女のもとに送ってやろう」
 「やってみろ。それができるのならなッ!」
 ルロイが拳を振り下ろすと音を立てて割れる地面。それは瞬く間に村全体に広がった。
 事情を知らない村人達は即座にそれを天災だと認識して慌てふためく。
 ――地図から一つの村が消える。
 平和な時代においては国を騒がす大事件となり得たかもしれないが、戦乱の世においてそのような出来事は″よくある”些細な出来事に過ぎなかった。
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