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二章
零話 過去の呪縛
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「姉貴、なんで…」
少年は両膝をついた。
目の前で姉がうつ伏せで倒れている。
腹部辺りから流れ出る血がアスファルトを見る見るうちに赤く染めていった。
「ぎゃははー!!」
背後で男の高笑いが聞こえた。
呆然とした表情のまま後ろ振り向くと、血で濡れたナイフを持った男が2人の通行人に取り押さえられている。
男の目は焦点が定まっておらず、涎を垂らしながらイカれたように笑い続けている。
(何を…笑っていやがるんだ…?)
少年は途端に怒りがこみあげて、一気に頭に血が上った。
無言で立ち上がり、ナイフを持った男に近づく。
「あん?」
間抜けな声を出した男の顔面に、少年は渾身の一撃を食らわせた。
男は白目を向いて、後ろに大きく仰け反った。その拍子に欠けた前歯が宙を飛ぶ。
そのまま背中からアスファルトに倒れ込んだ。
さっきまで取り押えていた通行人たちが唖然とした顔で伸びた男を見た。
「………り」
姉の微かに発した声に、少年はハッと我に返った。
急いで駆け寄り、姉の体を起こして仰向けに寝せる。
腹部から血が滲み出ていて、白いセーラー服を真っ赤に染めていた。
「姉貴、しっかりしろよ!」
少年は姉の肩を揺らして必死に呼びかけた。
姉は光を失いつつある瞳で少年の顔を見つめる。
「…けが…は?」
「大丈夫だよ、姉貴が庇ってくれたから…」
「そ、か」
姉は安心したように笑みを浮かべると、ゆっくりと瞼を閉じた。
・
・
・
「っ!!」
黒羽根友成はベッドから飛び起きた。
まだ長袖でも肌寒いと感じる季節にかかわらず着ているシャツは、肌に吸い付くようにぐっしょりと汗で湿っている。
「…………」
シャツを脱ぎ捨てて、黒羽根は無言で洗面台に向かう。
そして考えを遮断するように、ただ無心で熱いシャワーを浴びた。
しばらくして、浴室から出てきた黒羽根は濡れた髪のままリビングに向かった。
カーテンを開けると春の柔らかな朝日が差し込んでくる。
直視できずに黒羽根は思わず目を背けた。
その視線の先に卓上カレンダーがあった。
印などなくても覚えている。
ー…今日は姉の命日だ。
少年は両膝をついた。
目の前で姉がうつ伏せで倒れている。
腹部辺りから流れ出る血がアスファルトを見る見るうちに赤く染めていった。
「ぎゃははー!!」
背後で男の高笑いが聞こえた。
呆然とした表情のまま後ろ振り向くと、血で濡れたナイフを持った男が2人の通行人に取り押さえられている。
男の目は焦点が定まっておらず、涎を垂らしながらイカれたように笑い続けている。
(何を…笑っていやがるんだ…?)
少年は途端に怒りがこみあげて、一気に頭に血が上った。
無言で立ち上がり、ナイフを持った男に近づく。
「あん?」
間抜けな声を出した男の顔面に、少年は渾身の一撃を食らわせた。
男は白目を向いて、後ろに大きく仰け反った。その拍子に欠けた前歯が宙を飛ぶ。
そのまま背中からアスファルトに倒れ込んだ。
さっきまで取り押えていた通行人たちが唖然とした顔で伸びた男を見た。
「………り」
姉の微かに発した声に、少年はハッと我に返った。
急いで駆け寄り、姉の体を起こして仰向けに寝せる。
腹部から血が滲み出ていて、白いセーラー服を真っ赤に染めていた。
「姉貴、しっかりしろよ!」
少年は姉の肩を揺らして必死に呼びかけた。
姉は光を失いつつある瞳で少年の顔を見つめる。
「…けが…は?」
「大丈夫だよ、姉貴が庇ってくれたから…」
「そ、か」
姉は安心したように笑みを浮かべると、ゆっくりと瞼を閉じた。
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「っ!!」
黒羽根友成はベッドから飛び起きた。
まだ長袖でも肌寒いと感じる季節にかかわらず着ているシャツは、肌に吸い付くようにぐっしょりと汗で湿っている。
「…………」
シャツを脱ぎ捨てて、黒羽根は無言で洗面台に向かう。
そして考えを遮断するように、ただ無心で熱いシャワーを浴びた。
しばらくして、浴室から出てきた黒羽根は濡れた髪のままリビングに向かった。
カーテンを開けると春の柔らかな朝日が差し込んでくる。
直視できずに黒羽根は思わず目を背けた。
その視線の先に卓上カレンダーがあった。
印などなくても覚えている。
ー…今日は姉の命日だ。
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