68 / 69
第六十八話 自動修復の性質珠
しおりを挟む俺が今回ニャスコの店で買ったアイテムは召喚石の他にもう一つある。
それは魔法素材だ。
ニャスコの店で、インゴットや召喚石、進化の証は狩ったことがあるが今まで俺がまったくと言ってよいほど手を付けてこなかった分類がある。
それが魔法素材だ。
「これが……氷の性質珠か」
俺がアイテムボックスの中から取り出したのは、青白く輝く性質珠だ。
ニャスコの店で売っている魔法素材のなかで、今回は俺のスキルに直結するアイテムを買ってみた。
「凄いな。触れているだけでもひんやりとする」
氷の性質珠は手に持っているだけでも、冷たい冷気が手のひらを冷たくさせる。
以前に作った炎の性質珠は触れても熱くなることはなかったのだが、なんだろうか性質珠の種類によって違うのだろうか。
「とりあえずまずは必要なスキルをセットし直して……っと」
俺は魔導武器を作るのに必要なスキルを付け替えると、適当に鋼の剣をクラフトした。
さっそくこの鋼の剣に、この氷の性質珠を組み込んでみよう。
氷の性質珠をセットすると、冷気を纏った小さな玉が鋼の剣の刀身へと吸い込まれていった。
出来上がった鋼の剣は、その刀身に白い靄を纏っている。
「なるほど? 氷の性質珠を組み込むと、冷気を纏った剣になるわけか」
ただ、この程度の冷気では大した効果はなさそうだな。
少なくとも同じ氷結系の能力なら、俺のスキルである【瞬間凍結(チリングタッチ)】の方が遥かに強力だ。
それは以前に作った炎の性質珠にも同じことが言える。
「うーん……レア度の低い性質珠ばかりを使っているから威力が低いのか……」
もし、この炎や氷の付与効果の威力を上げることができたのならばかなりの戦力になるのだが。
と、色々と試行錯誤しているとあることに気づいた。
「そうだ。そうだよっ!
武器の空きスロット全てに同じ性質珠をセットしてみれば、良いんじゃないか?」
さっそくやってみよう。
俺は再びニャスコの店に行くと、そこで氷の性質珠を追加購入してくる。
「あとはこの冷気を纏った剣に、新たに購入した氷の性質珠を組み込んで、っと」
鋼の剣の空きスロット枠は三つ。その三つすべてに氷の性質珠をセットしてみる。すると、刀身が纏う冷気の質が明らかに変化した。
「これは……」
鋼の剣の刀身は、見るからに強力な冷気を纏っており、軽く振るうだけでも冷気が空気を凍結させる。
「凄いな。これなら……」
俺は近くの木の枝で試し斬りをしてみた。すると、先ほどとは明らかに冷気の威力が上がっている。
なるほどな。
威力が低いのならば同じ種類の性質珠を重ね掛けしていけばいいのか。
これは知らなかったな。
この仕様は地味だが、非常に便利だ。
例えば空きスロット全てを【動物解体の性質珠】にした剣を作れば、動物の肉を解体する速度と能力が大幅に上昇する。
他にも空きスロット全てを【鋭利な性質珠】にして斬る能力を極限まで上げた剣とか。
変わり種でいえば【自動修復の性質珠】を空きスロット全てにセットして、折れても自然に直る剣……なんてこともできるかもしれない。
「これは、突き詰めていくともっと面白いことができそうだな」
しかし、そうなると性質珠生成のスキルレベルが低いことが少しネックになってくるか。
俺の性質珠生成のスキルレベルは2だ。
レベルが低いせいでまだ威力の低い性質珠しか作れない。
この性質珠生成のスキルレベルをもっと上げていけば、さらに強力な性質珠が作れるようになる。
それを重ね掛けすることができれば、かなり強力な魔法効果が付与された武器を作ることができるようになる。
その手ずから作った武器で俺の軍団を強化していく、というのもかなり魅力的だ。
今までは質よりも量を優先していたが、量を増やすよりも個々の質を高めていくのは全然良いと思う。
「割と消去法で選んでみたが……刻印鍛冶師(ルーン・ブラックスミス)の職業は思った以上のポテンシャルを秘めているな」
今までは金がなくてまともな性質珠を買えなかったが、進化の証に余計な出費をしなくて済んだ今はその分を思う存分に性質珠へと注ぐことができる。
「これは、次のレベルアップの時にはぜひとも刻印鍛冶師(ルーンブラックスミス)のスキルを上げていきたいな」
あと刻印鍛冶師(ルーンブラックスミス)の職業のスキルをもっと使いこなすには、ニャスコの店を活用するべきだな。
ニャスコの店では魔法素材の購買カテゴリーのところに魔導武器を作るための素材を売っている。
ニャスコに聞いた話では、ニャスコの店では、俺が性質珠生成では生み出せないレアな性質珠を売ってくれるらしい。
現に氷の性質珠も、影の性質珠も性質樹生成のスキルでは生み出せないしな。
今までは金がなくて後回しにしてきたが、この【魔法素材】の購買レベルは重点的に上げておきたいところだな。
ということで、
「来ちゃったっ!」
「ニャっ!! またですかニャッ!!」
俺はカウンターに近づいていくと、そこに置いてあったカタログを手に取った。
「……せっかく今回は普通のお取引ができたと思ったのにニャ」
俺がカタログをめくっているとニャスコがガックリと肩を落とした。
おい、失礼な奴だな。
「その言い方は少し気になるな。まるで、俺が毎度毎度無茶な買い方をしているみたいな言い草じゃないか」
「ま・さ・にッ!!
ミャーは前回のことを一生忘れないニャっ!」
俺の言葉にニャスコはフシャーと全身の毛を逆立たせた。
そんな大げさな、たかが店と倉庫を何十往復かさせただけじゃないか。
「おミャー……人から性格が悪いと言われないかニャ?」
たまに言われる。たまにな。
「安心しろって、今回は普通に魔法素材を買いに来ただけだからさ」
俺は魔法素材のカテゴリーの中から、ルーンクリスタルと幽月草を購入する。
「ニャっ! 今回は控えめだったニャ」
だろ。
俺だって良心ぐらいはある。あんな無茶な買い方はたまにしかやらんよ。
「……何だろうかニャ。
いま、とてつもない寒気が背中を駆け抜けていった気がするニャ」
「気のせいだろ」
「んニャ。それはそうと、今回のお買い上げで【魔法素材】の購買カテゴリーの購買レベルが上がりましたニャ」
だろうな。
今回の買い物は、それが目的だったからな。
「んニャ……。
お客様はお金持ちだニャ。
前回と今回のお買い上げですべてのカテゴリーの購買レベルが上がりましたニャ。
時間をおいてまた来てくれれば、新しい商品をドサっと入荷しておきますニャ」
ほう。
それは楽しみだな。
「新しい商品が入荷されるのっていつ頃だ?」
「それは難しい質問だニャ。
それはミャーではなく本部長がお決めになることだからニャ。だから、ミャーには分からないニャ。
ただ、早くても丸一日はかかると思うニャ」
一日か……。
まあ、今は買いたくても金がないしな。また、金になりそうな物を手に入れたらまた来るか。
ニャスコの店を後にすると、現実世界へと戻って来た。
「さて、と……収穫としてはまずまずだな」
ニャスコの店で魔法素材の購買レベルを上げる為にルーンクリスタルと幽月草(ゆうげつそう)の二つを買ってきた。
これはどちらも性質珠の素材になるアイテムだ。
俺はさっそく性質珠生成のスキルを発動させる。
「やっぱりルーンクリスタルがあるだけで一気に作れる性質珠の選択肢が増えるな」
基本的に性質珠生成のスキルはMP消費だけで性質珠を作ることができるが、ルーンクリスタルや幽月草などの素材アイテムがあるとより強力な性質珠を作ることができる。
「重厚の性質珠、斬撃強化の性質珠、健脚の性質珠……作れる物が色々とあるな」
重厚の性質珠は、セットした武器や防具の重量を増やす効果を持つ性質珠だ。
この性質珠は、例えば俺の白夜刀などの武器の重量が重要な武器の威力を強化することに使えると思う。
ただ、使うと武器の重量が増えてしまうためよく考えて作らないとマイナスにしかならなそうだ。
斬撃強化の性質珠は、鋭利の性質珠の上位互換となる性質珠だな。
この性質珠を剣などの斬撃武器に付与すると、文字通りに切れ味が大幅に強化される。
健脚の性質珠は、足具専用の性質珠でセットすることで走る速度を上げることのできる変わった性質珠だ。
あとは以前にも見た、武器や鎧を自動で修復してくれる【自動修復の性質珠】なんかも作ることができる。
「斬撃強化の性質珠も良いが……健脚も捨てがたいな。
いや、それともやはりここは自動修復の性質珠か……?」
悩むな。
ニャスコの店でルーンクリスタルを買ったとはいえ、作れるのは二つが限界か。
俺は悩んだ末に、【自動修復の性質珠】と【斬撃強化の性質珠】の二つをクラフトした。
機動力を強化できる健脚の性質珠も捨てがたいが、もっと直接的に役に立つ他の二つの性質珠を今回は優先した。
クラフトした二つの性質珠は、どちらも白夜刀へセットする。
「よし、っとこれで良いかな」
後はできれば配下達の武器にも性質珠を付与したいところだが……。
「MPが足りねぇな」
これだ。
これが俺が今まであまり性質珠のスキルを多用してこなかった理由でもある。
性質珠生成のスキルは便利だが、性質珠を作成する際に必ずMPを消費する。
そのせいで使う時と場所を選ばなければいけなかった。
「ただ、今が絶好のチャンスなんだよな」
今日は不覚ながら俺が暴走してしまったせいで二匹の岩盤竜と戦う羽目になってしまった。
心身ともにボロボロのこの状態では、拠点から出るに出られない。それは逆に言えばMPを気にする必要がまったくないということだ。
「普段は有事に備えてある程度のMPを温存しておかなければいけないから、大したことはできないしなぁ……」
俺の軍団全員分を強化するのは流石に無理だが、せめてゼクトールやハーキュリーなどのネームドの連中の分の武器は強化しておきたいな。
「……仕方ない。
増田さんに頼むか」
あまり気乗りはしないが、まあ仕方がない。
俺は増田さんを探して、拠点の方へと足を向けた。
10
お気に入りに追加
1,092
あなたにおすすめの小説
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件
後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。
転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。
それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。
これから零はどうなってしまうのか........。
お気に入り・感想等よろしくお願いします!!
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる