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第二十八話 シャドウゴブリン

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「よっこいしょっ、っと……これで全部ですかな?」

「えぇ、ありがとうございます。お疲れさまでした」

 俺は剥ぎ取り作業をしていた運転手さんから最後の岩盤竜の鱗を受け取った。

 鋼のロングソードを持った運転手さんは、最終的に二十七個の岩盤竜の鱗を剥ぎ取ってくれた。
 厳密に言えば、それ以上に鱗は取れたのだが、その他の鱗はひび割れていたり、砕けていて使えなかった。

 砕け散った鱗はどうやら鎧などの装飾品にすら使えないみたいで、シアk田がないので全部廃棄しておいた。

「よっと、いやぁ……中々の重労働ですなぁ」

「お疲れ様です。少し休んでは?」

 俺は全ての鱗を剥ぎ終えて岩盤竜の背中から飛び降りてきた運転手さんを労った。

「いやぁ、まだまだこれからですわ。筋力の値を上げたおかげでこんな重労働をしても、全然腰が痛みませんわ」

 運転手さんは入念な準備体操をしてから、今度は岩盤竜の肉の解体作業を始める。俺はそんな運転手さんを横目に、岩盤竜の鱗を拾い上げた。

「へぇ……岩盤竜の鱗鎧か」

 俺はクラフティングのスキルを使って、岩盤竜の鱗から鎧を作ってみた。

 岩盤竜はその全身が巨大な巌(いわお)のような硬い鱗で覆われていた。だから、その鱗を使えば強力な防具ができるのではないかと思って作ってみた。

 ただ、作ってみたは……いいが……。

「重ぉっ!? 何これっ!?」

 できあがった鎧は手で持ち上げるのが精いっぱいなほどの代物だった。

 まるで、軽自動車を持ち上げているようだ。鎧自体は小さいくせに、とんでもない超重量だ。

 確かに防具としては望んだとおりに強力な物が出来上がったが、これはとてもではないが装備できないな。

「この重さは、トロルでも……無理かな」

 俺の軍団の中で随一の怪力を持つトロルだが、流石にこの超重量の鎧を着させても無事で済むかどうか……。

 つか、普通に無理。うん、絶対に無理だと思う。

「うーん……できればこの鱗を使って鎧を造ろうと思っていたんだが……」

 当てが外れてしまった。
 まあ、とりあえず手に入れた岩盤竜の鱗はニャスコの店で売却してしまうか。

 俺は溜息を吐きながら、ショップ機能をタップする。すると、一瞬で周囲の景色が切り替わった。

「んにゃ? おぉ、お客様、またいらしたのですかニャ?」

「よう、ニャスコ。悪いな、今度はこれを全部……よっと、換金してくれ」

「ニャ、ニャ、ニャ、ニャッ!!?」

 俺はニャスコの前にあるカウンターに二十個の岩盤竜の鱗を乗せていく。

「……ちょ、ちょっと待てだニャっ!?」

 俺が次々と岩盤竜の鱗を乗せていると、ニャスコが慌てた様子でストップをかけてきた。

「そ、そんなにカウンターの上に乗せるなニャっ!
 こ、壊れるぅ~~~!!」

 ニャスコは慌てた様子で、カウンターの上に乗せられた岩盤竜の鱗を指を鳴らして、どこかへと消していく。

「ほい、ほい、ほいっと……」

 俺はニャスコが消していく傍から岩盤竜の鱗を乗せていく。そして、最後に岩盤竜の鱗から作った鎧も乗せる。

「これ、全部売却で」

「ぜ、全部で……ですか、ニャ……?」

 ニャスコは信じられない物でも見るような目で俺を見つめてきた。そんなニャスコに俺は頷いた。

「……ぜ、全部で12350エクストラクレジットになりますニャ」


「ん~~~、12350エクストラクレジットかぁ」

 流石は岩盤竜の鱗だ、かなりの大金を稼げた。

 これだけの金があれば、蘭子先生から頼まれていたクラスメイトの武器と配下全員分の武器をクラフトしてもまだ十分に余裕がある。

「ん~~~、ニャスコ。取りあえず、鉄のインゴットを45個くれ」

「はいですニャ。でも、ちょっと待つニャ。お客様のせいで店の裏側はただいま大パニック状態ですニャ。あれを分別するスタッフの身にもなって欲しいのニャ」

 ニャスコの顔を見ると、その表情は笑っていたが、よく見ると額のところにピキキっ、と青筋が浮かんでいる。

「……お待たせしましたニャ。鉄のインゴットが45個ですニャ」

 暫くその場で待っていると、ニャスコが大量の鉄のインゴットを運び込んできてくれた。

「あぁ、ありがと。いくらだ?」

「全部合わせて、900エクストラクレジットになりますニャ」

 俺は支払いを終えると、ニャスコが運び込んでくれた鉄のインゴットを全てアイテムボックスに収納した。

 これは蘭子先生から頼まれていたクラスメイト達の分だ。

 鉄製武器とはいっても、一本の剣を作るのに最低でも鉄のインゴットが三つは必要になる。

 蘭子先生から頼まれた鉄製武器の数は全部で十五本。

「ふむ、ひとまずはこれくらいで良いかな」

 俺の配下の方は合成とか何やらを全部終えてから作るつもりだ。なので、とりあえず今はこんなもので良い。

 ニャスコの店から現実世界に戻ってくるとさっそく頼まれていた武器をクラフトし始める。

「できた、できたっと」

 十五本の武器をクラフトし終えると、それらを持って蘭子先生のところへ向かう。

「……ふぅ、これで良しっと」

 湖の近くで生徒数人と何やら話し合っていた蘭子先生を見つけると、作った鉄製の剣やら、槍やらを手渡した。

 ついでに剣を収める鞘と武器を腰元に巻きつける紐もクラフトしてあげた。こちらの方はサービスだ。

 これで頼まれていた仕事は終わった。後は俺の配下の分の武器だな。

 すべての配下を集めると、ハーキュリーとメロウの二体を呼び寄せた。

「で、選別作業は?」
「残念ながら……」

 ハーキュリーには岩盤竜の縄張りでテイムした十二匹のゴブリンたちの選別作業を進めさせていた。
 けれど、残念ながらダークゴブリンにさせるような特殊な技能を持ったゴブリンはいなかったようだ。

「やはり、そう上手くはいかないか……」

 仕方がないので十二体のゴブリンは、エルゴブリンにして、さらにハイゴブリンへとしておいた。
 これで配下のハイゴブリンは全部で十四体になった。

 ただ、岩盤竜との戦いでトロル二匹とダークゴブリンを二匹失った。

 トロルの方はまだ補充が効くけれど、ダークゴブリンを二匹も失ってしまったのは痛い損失だ。

 ダークゴブリンたちは、俺の軍団のいわば生命線だ。

 ダークゴブリンになる資格のあるゴブリンは特殊な技能を持っている。

 あるゴブリンは他のゴブリンよりも優れた知能を持ち、あるいは狩りの能力が際立って高く、またある者は気配を消す能力に長けていたり。

「……やむを得なかったとはいえ、ダークゴブリンを戦闘に投入したのが不味かったか」

 けれど、あの状況では仕方がなかったと思う。

 魔法結晶(マジッククォーツ)は非常に扱いの難しいアイテムだ。少しでも力を入れ過ぎれば壊れて自爆してしまう。
 なので、魔法結晶(マジッククォーツ)を上手く扱えるのは俺以外にはダークゴブリンぐらいしかいなかった。

 普通のゴブリンに持たせても、投擲する前に自爆するのがオチだからな。トロルは言うに及ばず。

 俺が考えていたのは、俺や、グンダ率いる前衛のトロル部隊で足止めしつつ、後衛のダークゴブリンの援護で仕留めるという戦術だった。

 けれど、岩盤竜の硬さが全ての計算を狂わせた。まさか、あそこまで硬いとは。

「……まあ、過ぎたことを、やいやい言っても仕方がないか」

 問題はこれからどうするかだ。そこに全てがかかっている。

「まず、配下全員に鉄製武器を配備するところからかな」

 俺の配下にはまだ鉄製の武器がいきわたっていない。尖兵であるハイゴブリンなどは石製の手斧を振るっているような状況だ。

 だから、まずは鉄製の武器をクラフトして軍団全員に行き渡らせたい。

 俺は配下の数を計算すると、再びニャスコの元へと訪れる。

「ようっ!」
「ま、また来たニャっ!?」

 俺は驚くニャスコをよそにカタログを片手にニャスコに新しい注文を入れていく。

「じゃ、鉄のインゴットを六十九個と……鋼のインゴットを二十個でよろしく」

「ニャ゛!!?」

 俺の注文にニャスコはビクっと全身の毛を逆立たせる。心なしか、ニャスコの耳が震えているような気がする。

「あ、あのぉ……せ、せめてその半分、というわけには……?」

「ん? もしかして在庫がなかったり、する?」

 俺が尋ねるとニャスコは、その円らな瞳をそっと逸らして、

「……や、持ってくるのが凄くダル……もとい大変なので、できれば半分ぐらいで収めてくれると嬉しいかニャって、思って」

 ほうほう……。

「ぶん殴っていいか?」

「も、もう……殴ってますニャ゛」

 どうやら気づかないうちに手が出てしまっていたようだ、ニャスコは頭を両手で押さえつけながら、慌てて店内へと走っていった。

 そのまま少し待っていると、巨大な木箱を持ったニャスコが店の奥からフラフラと現れた。

「こ、これで良いですかニャっ!」

「おう、ありがとうニャスコ」

「て、鉄のインゴット六十九個と鋼のインゴット二十個で……2380エクストラクレジットになりますニャ」

 俺は言われるまま、ニャスコにエクストラクレジットを支払う。すると、会計をしていたニャスコの耳が突然ピーンと跳ね上がる。

「ムムっ! お客様、喜ぶニャ。今の会計で【鉱石】の分類の購買レベルが2へと上がったみたいだニャ」

 へぇ、購買レベルが……? 
 そいつは喜ばしいな。

「確か……購買レベルが上がると新しい商品が入荷するんだったっけか?」

「ですニャ。
 購買レベルが上がっていけば、今までには買えなかったより良いアイテムが店頭に並びますニャ。
 ただ、仕入れに少し時間がかかるので……商品が店頭に並ぶまで、尻尾をお行儀よくして待っているニャ」

 より上位のアイテムか……それは楽しみだな。

「……またのご来店をお待ちしておりますニャ」

 ニャスコの少し引き攣った声を背中で聞きながら、俺はユニークショップを後にした。

 現実世界に帰還すると、さっそく鉄製武器をクラフトして配下達に分配していく。

 ハイゴブリン達には鉄の剣や鉄の手斧を、ダークゴブリン達には、鉄の短剣を、トロル達には鉄製の大斧をそれぞれクラフトして渡してやった。

 そして、ゼクトール、グンダ、ハーキュリー、メロウの四体は特別に鋼製の武器をクラフトして渡してやった。

 ゼクトールには鋼の長剣を、グンダには鋼の大斧を、ハーキュリーには鋼の槍を、メロウには鋼のブロードソードを装備させる。

 ゼクトールとメロウには以前に鉄製武器を渡していたが、度重なる激しい戦闘で刀身が少し痛んでいたので、鋼の武器と取り換えさせる。

「ふむ……」

 これで俺の配下の全軍にとりあえず鉄製武器を配備し終えることができた。これだけでも相当な戦力強化になる。

「残りのエクストラクレジットは9120かぁ」

 これだけあればまだ色々なことができる。

 召喚石を購入すれば配下の全体数を底上げできるし、進化の証を購入すれば配下達の質を強化できる。

「……とはいえ、か」

 現状で、俺の軍団を支えているのはダークゴブリン達だ。その数が大幅に減らされてしまった今、新しくモンスターを増やす、というのは無謀だな。

 召喚石で増やしたモンスターだって飯も食うし、糞だってひねり出す必要がある。その軍勢の食糧事情を支えているのはひとえにダークゴブリン達だ。

「となると、配下の数はこれ以上増やさずに既存のモンスターの強化をしていくか」

 まあ、それが一番無難な選択かな。ということで……、

「また来ちゃったっ!」

「またぁぁっ!?」

 俺は口をあんぐりと開けたまま硬直するニャスコに、追加でゴブリンの召喚石を六十八個、トロルの召喚石を五個。それとブラックドッグの召喚石を十二個と粗野な証を十八個購入した。

「…………」

 なぜかニャスコは呆然とした表情であんぐりと口を開けたまま硬直している。

「シクシク……」

そして、俺を恨めし気に睨み付けると、涙を滂沱(ぼうだ)させながら店内へと商品を取りに行った。

 なんか、やけに哀愁感が漂っているな、まあ俺には関係ないけど。

「……合計で、9000エクストラクレジットになりますニャ」
「おう、ありがと」

 俺はニャスコから商品を受け取ると、アイテムボックスへと収納していく。そんな俺にニャスコが話しかけてきた。

「あの……お客様。【召喚石】と【進化の証】の購買レベルが上がりましたニャ。というか、召喚石の方に関しては一気にLV3になってしまいましたニャ」

 ほう?

「それは重畳(ちょうじょう)。
 やっぱり購買レベルを手っ取り早く上げるには大量に商品を買い込むのが一番速そうだな」

「……なんか、ミャーにとってはすごく不吉な言葉を聞いたような気がするニャ」

「だいじょーぶ、だいじょーぶ。こんなこと金があるときにしかしないから」

「…………お金があったらするのね」

 なぜかガックリと肩を落としたニャスコを脇目に、俺は現実世界へと戻って来た。


 さあ、ここからは楽しい合成タイムだ。


 俺はゼクトールに命じさせて、全軍を湖のほとりに集めさせる。そこで購入した召喚石を砕いて、モンスターを召喚してはモンスター合成のスキルを発動させていく。

 まずは、軍団全体の生命線を握るダークゴブリン達の強化からだ。

「メロウ」
「御前ニ」

 俺はメロウを含めた四体のダークゴブリンを呼び寄せると、その四体に目印として草を編んだ手作りの草輪を与える。
 
 モンスターはほとんど同じ見た目をしているからな。こうしておかないと、貴重な人材であるダークゴブリンを合成素材にしてしかねない。

「あとは……」

 購入した召喚石の中から、ゴブリンの召喚石を十二個、ブラックドッグの召喚石を十二個取り出してそれぞれ砕いていく。

 砕いて召喚されたモンスターを合成して、ダークゴブリンを十二体作り出す。

 新しく合成したダークゴブリンの内の四体を合成素材にして、メロウを含めた四体のダークゴブリンを進化させる。

 新しく生まれたモンスターは【デプスゴブリン】という名前の位階3のモンスターだ。

「で、デプスゴブリン同士をかけ合わせれば、いいわけか」

 俺はモンスター合成書を片手に残った八体のダークゴブリンも合成してデプスゴブリンへと変える。
 あとは、メロウたち草輪を身に着けたデプスゴブリンをベースに、素材となるデプスゴブリンを合成して進化させる。
 ヒュージゴブリンの時と同じく、粗野の証が必要になったので四個消費する。

 モンスター合成のスキルによって、メロウ達が光に包まれていく。

 新しく生まれたモンスターは【シャドウゴブリン】というモンスターだ。


=====================

ステータス

名前:シャドウゴブリン
位階:4
レベル:14

生命力:28
集中力:25
筋力:21
防御:18
知性:24
魔防:15
運:14


HP:460/460
MP:380/380
物理攻撃力:315
物理防御力:270
魔法攻撃力:360
魔法防御力:225
クリティカル率:16% + 10%

特性:

仲間意識
ダークゴブリン
隠密


スキル:

気配察知
急所攻撃
闇(ダーク)の弾(ショット)
闇針
クリティカル率上昇 (中)
影縫い



 モンスターとしての位階はヒュージゴブリンと同じ位階4。けれど、ヒュージゴブリンと比較するとそのパラメータはかなり弱めだ。

 特徴的なのは、【運】のパラメータの高さだろうか。同じ位階のヒュージゴブリンと比較しても頭一つ分飛びぬけている。

「流石はダークゴブリンの進化系統だな」

素のクリティカル率でも十分に高いが、【クリティカル率上昇 (中)】のスキルの補正でクリティカル率が26%という、少しおかしな数字になっている。
 ここまで高いクリティカル率なんて、あの岩盤竜のステータスでもあり得ない。

 それに加えて、俺も保有している闇(ダーク)の弾(ショット)のスキルを保有していることに加えて、闇針、影縫いの魔法を扱える。
 その中でも、相手の影を攻撃することで発動する束縛魔法である【影縫い】は非常に強力なスキルだ。

試しに力自慢のグンダに発動させてみたら、あのグンダの怪力ですら完全に封じ込めてしまった。

「まさに暗殺者って感じのステとスキルだな」

 さらにシャドウゴブリンに進化したことで、素の隠密能力がさらに強化されているみたいだ。

 シャドウゴブリンの強化が終わると、次はトロル達の強化に移っていく。

 トロル達の強化は至極シンプルだ。
 購入した召喚石を砕き、粗野の証を使用して、五匹のトロルたちをブルズトロルへと進化させる。

「さて、最後になっちまったが……」

 俺は主力たる十四体のハイゴブリンたちを呼び寄せる。

 残った全ての召喚石を砕いて、ゴブリンを五十六体召喚する。流石にこの数にもなると、いちいち砕くのも大変だな。

「メロウ、この中に特殊技能を持つ者がいないかの選別をしてくれ」

 俺が指示をすると、メロウを含めた四体のシャドウゴブリン達の姿が掻き消えた。

「へぇ……」

 凄いな。
 俺のすぐ目の前にいたのに、気が付くとシャドウゴブリン達がいなくなっていた。俺の動体視力を持ってしても捉えきれないほどの隠密能力だな。

 そのまま暫く待っていると、メロウ達がいきなり目の前に出現した。 

「……ご主人様、この中にご主人様が求める技能を持った者はおりません」
「こちらも同じく」

 十分ほど調べさせたが、どうやら召喚した五十六体のゴブリンは外れだったらしい。まあ、これで心置きなく合成素材に使うことができる。

 五十六体のゴブリン共を、モンスター合成のスキルで二十八体のエルゴブリンへと変える。そこからさらに合成をして十四体のハイゴブリンへと圧縮させていく。

「あとは……残った十四個の粗野の証を使って、っと」

 粗野の証を使い、十四体のハイゴブリンの全員をヒュージゴブリンへと進化させる。これで、ゼクトール、ハーキュリーを含めれば総勢十六体のヒュージゴブリンが揃った。

「ヒュージゴブリンが十五体に、ブルズトロルが三体に、シャドウゴブリンが三体か」

 これで、かなりの戦力増強ができた。

 岩盤竜の鱗を売却して手に入れたエクストラクレジットのほぼ全てを散財してしまったが、俺的にはかなり大満足のいく結果だ。
 すべての配下に鉄製の武器を分配してあるし、以前とは比べ物にならないほどに戦力強化ができた。

「ふぅ……これでひとまず今できることは終わりかな?」

 現状でやれることは全てやった。

「ご苦労様。じゃあ、各々……元の巡回作業に戻ってくれ」

 俺の命令に配下達は首を垂れると、部隊を率いて方々の森へと散っていく。

 ゼクトールとハーキュリーはそれぞれヒュージゴブリンたちを率いて東と西へ。メロウたちシャドウゴブリン達はそれぞれが四方八方へと散っていく。

「ご主人様ッ!! オデ、オデはっ!!」

 仲間たちが仕事に戻っていくのを横目で見つめて、グンダが何かを期待するような目で俺の前に跪く。

 だが、正直……今はグンダに任せるような仕事はない。

 グンダに限らずトロルという種族は基本的に怠惰だ。筋力と生命力に秀でており、戦闘になればこれほど頼れる存在はない。

 特にグンダは他のトロルと比べても筋力の値が高く、巨岩を持ち上げ、巨木ですら引っこ抜くほどの怪力を誇る。

 ただ、その分トロルという種族はおつむの方がだいぶ弱い。

 以前にまだコイツらの特性を知らない時に、周囲の警戒を任せたことがあった。

他のゼクトール隊やハーキュリー隊、メロウ隊は定時になったらきちんと報告しに来るのにグンダの隊は一向に報告に来ない。

 それで何事かと思って、警戒を任せていた地域へと行くと。まさか、その地域のど真ん中で大の字になって寝ているコイツらを見た時は、唖然としてしまった。

 なので、基本的に俺はトロルに警戒などの哨戒(しょうかい)任務は与えないことにしている。どうせ仕事を任せても、どこぞでサボって眠っているに決まっているからな。

「お前は……そこらの木でも切り倒しておけ」

「オデ、了解ッ!!」

 グンダは他のブルズトロル達を率いてさっそく近くの木々を切り倒し始める。

 まあ……木材はいくらあっても困る物ではないな。いざとなったら、たき火にくべるまきにもなるし。

「できれば一旦、向こうの拠点に帰還したくはるが……」

 恐らくは、今夜はここでクラスメイト達と仲良く野宿をする羽目になると思う。

 岩盤竜との戦闘で消耗し過ぎた。
ただ、ただ一夜を明かすにしても地面に寝るのは嫌だ。なので、簡単な仮拠点を作ることにした。

「グンダァァァァッ!!!」

 丁度、その時だった。

グンダの叫び声とともに巨大な木が地面に倒れていく。どうやら、ブルズトロルたちは俺の命令通りに木々の伐採作業に励んでいるようだ。
 彼らの足元には既に数本の巨木が伐採されて、転がっている。

「適当に命令していただけだったが、さっそく役に立ったな……」

 丁度いい。あの木材を使って、仮拠点となる家でも建ててみるか。

 俺は必要なスキルを確認すると、グンダたちの方に歩いて行った。
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