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第十話 罠とレベルアップ

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 ゆったりとした微睡の中で、俺はゆっくりと目を開けた。

「……朝、か」

 俺はゴツゴツとした硬い感触を背中に感じながら、ゆっくりと目覚めた。

「ぅ、ぁ……痛つつ……」

 俺は背中に鈍い痛みを感じながらゆっくりと上体を起こした。

 欠伸をしながら周囲を見渡した。俺の周りには豪奢な大広間の光景が広がっている。

「あぁ……ベッドが恋しい」

 寝る時は、赤いカーペットが敷かれている場所の上で寝たのだが、それでも背中が痛くなってしまった。

「ん~~~、綿花か何かが見つかれば簡易ベッドを作れるんだけどな」

 俺は両手を伸ばすと、軽く伸びをした。

 今日で、この世界に迷い込んでから三日目だ。
 周囲の探索はあまり進んでおらず、未だにはぐれてしまったクラスメイト達の安否は不明のまま。

「ゴシュジンサマ、オハヨウゴザイマス」

「あぁ、おはよう……その剣と腕章は、ゼクトールか」

 昨日の内に、俺はリーダーであるゼクトールを判別できるように腕章を作った。そのおかげで学生服の左腕の布地がなくなってしまったが。

 何せ、コイツらゴブリンは見た目が全く同じだからな。ゼクトールだって、剣を手放したらもう他のゴブリンと判別不可能になってしまう。

「ゼクトール……結局、アイツは?」

 俺は昨日の内に拠点の外に探索に出たダークゴブリンのことを尋ねる。けれど、ゼクトールは静かに首を振った。

「……ワレラデ、コウタイシテ、ミハリヲシテオリマシタガ……」

 どうやらあのダークゴブリンは帰って来なかったみたいだ。

「あの……馬鹿が……」

 俺はちゃんと言ったはずだ。
 夜までには必ず帰って来いと。

「……捜索しようにも、あいつがどこに行ったかも分からないしな」

 失敗した。

 やはり行かせるべきじゃなかった。いや、あるいは最低でもどこらへんに行くのかを確かめておくべきだった。

 と、その時に俺の腹の音が鳴った。

「……飯にするか」

 俺はゼクトールに命じると、他のゴブリン共を叩き起こして、転移ポータルを使って樹海へと移動する。

 昨日のうちに作っておいた公衆トイレで用を澄ますと、さっそく朝食の準備を進める。

「もぐっ……これなら当面は……食事には困らないかもな」

 俺は昨日の内に捌いておいた鹿肉をたき火で焼いて、その肉に齧り付いた。一口噛むだけで口の中にジューシーな肉の味が広がっていく。

 二匹分の鹿肉と、ルコスの果実があるおかげで、今のところは食料には困らない。ただ、それは今のこの人数での話だ。

 俺のテイムのスキルは簡単に野生のモンスターをテイムして仲間にし、戦力に変えることができる。
 でも、それは逆に言えば養うべき配下がその分だけ増えるということだ。

 配下を増やしたら、その分だけ多くの食料が必要になる。

「とはいえ、現状では配下を増やすことが一番手っ取り早く戦力を増やせるしなぁ」

 戦える戦力が増えるということは、それすなわち俺の安全に直結する。

 戦える配下が多ければ多いほど、俺はこの危険な森のなかで長く生き延びることができるだろう。

 最悪は、配下を囮にして俺が逃げるという手だって打てる。使える駒は多いに越したことはない。

 けれど、無計画に数を増やし過ぎれば、今度は食料難が振りかかってくる。

 あるいは、モンスター合成のスキルであれば、無駄に数を増やさずに戦力増強と配下圧縮を同時に図れるが、そのためには特別なアイテムが必要になる。

「難儀な話だな……」

 ゲームみたいに配下が食料も、水も必要としないクリーチャーであればどれほど楽だったか。

 そこでふと妙案を思いついた。

 そうだ。
 そうだよ、配下のゴブリン共にも狩りをさせればいいだけの話じゃないか。

 今いる配下はハイゴブリンが七体、ヘルハウンドが一体、そして今は居ないがダークゴブリンが一体の九体だ。

 その内の半分ほどを割いて、食糧調達班にすればいい。


 俺はさっそく手下のハイゴブリン全員を集める。

「オヨビデショウカ、ゴシュジンサマ」

 ハイゴブリン達のリーダーであるゼクトールが、俺の前に跪き、その後に六体のハイゴブリン達が跪いていく。

「うむ、今日は今後のために色々な役割を決めようと思ってな」

 俺は配下のハイゴブリン達にさっき考えていたことを話して、戦時護衛班と食糧調達班に分けようと思うと告げた。

 我ながら悪くない案だと思っていたのだが……何だろうか、ハイゴブリン達の反応があまり芳しくない。

「恐レナガラ……発言シテモ?」

 そう言って手を上げたのは、ゼクトールの背後にいた六体のうちの一体だ。ソイツは他のハイゴブリン達と比較してもかなりスリムな体系をしていて、よく通る声の持ち主だった。

「確カニ、ゴシュジン様のオ考エハ、スバラシイコトとゾンジマス、デスガ問題ガ」

 問題?
 俺がその問題とは何だと問うと、スリムな体形のハイゴブリンは目を伏せながら、

「ワレラは、敵トタタカウことは得意デスガ、狩リハ、デキマセン」

 狩りができない……?
 そんな馬鹿なっ!?

「待て。
 いや、それはおかしいだろう? だって、お前たちを捕まえた時にも動物を仕留めていただろ?」

 俺はそう問うたが、スリムな体形のハイゴブリンは静かに首を横に振った。

「ワレラには、ソレゾレに得手不得手ガアリマス。ココニ、イル者ハ戦闘ハ得意デスガ、狩リは……」

 スリムな体形のハイゴブリンの話によれば、一言にゴブリンと言ってもそれぞれに個性があり、得意な分野と苦手な分野があるらしい。

 俺が初めてコイツらと出会った時に獲物の肉を持っていたのは、たまたま狩りが得意なゴブリンがいて、そいつ一人が仕留めてしまったらしい。

「ふぅん? で、その狩りが得意という奴は?」

 俺が尋ねると、配下のゴブリン達は揃って視線を逸らしてしまった。
 俺はゼクトールを見つめた。すると、ゼクトールすらも視線を泳がせて、そっぽを向いてしまった。

 もしかして、殺っちまったゴブリンの中にいた……とか?

 俺が恐る恐る尋ねてみると、ゴブリン達は揃って首を横に振った。

 良かった。

 どうやらその狩りが得意なゴブリンはテイムした中に混じっていたみたいだ。けれど、おかしいな。

 さっき、コイツらは自分たちの中に狩りが上手な奴は居ないって、言っていたような……。

 と、そこで俺はある恐ろしいことに気づいてしまった。

「もしかして……合成素材になった奴のなかに……いたとか?」

 俺が尋ねると、ハイゴブリン達は一斉に……頷いた。


 嘘。
 あれ……もしかして、これって……やっちまった系?


「嘘だろおおおおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!?」


 まさか、そんなことがっ!?
 
 いや、でも待て。
 まさか、普通は思わないだろっ! 捕まえたゴブリンに個性があるなんてさっ!!

 などと言い訳じみた弁明をしてみるが、俺がその狩りが得意なゴブリンを合成素材にしてしまった事実は変わらない。

「あぁ……クソ……マジかよ……」

 やっちまった。
 どうやら、知らずの内にやらかしてしまっていたみたいだ。

「あ~~~……えっと、で? その狩りが特異な奴は完全に消えちまった、と」

「イエ、ソノ者の記憶ダケハ、ワレラに引キ継ガレテイキマス」

 スリムな体形のハイゴブリンによれば、モンスター合成のスキルで合成素材となったモンスターの記憶と感情は、残った方に全て受け継がれるらしい。

「なるほど? で、その記憶を持つ奴は?」

「ワタシデス」

 俺の言葉に手を上げたのは、スリムな体形のゴブリンだった。

 どうやら、狩りが得意だったゴブリンは知能も高かったらしく、その記憶を継承しているおかげでスリムな体形のゴブリンは少し流暢に言葉を喋ることができるみたいだ。

「で? 本当にお前じゃ狩りはできないのか?」

「記憶がアルトハイエ、技術マデハ継承サレマセン。私ダケデ、狩リをスルノハ不可能カト」

 なるほどね。
 しかし、そうか。

 まさか、思いもしなかったよ。
 モンスターに個性があるなんてさ。

 ゴブリンというとゲームでは容姿もステータスもまったく同じで、同じ種族のカテゴリーのモンスターとしてしか扱われない。
 だから、俺もてっきりそうなのだと思い込んでいた。

 やれやれ、だ。

 気を付けてはいたのだが、早速やらかしてしまったな。

「ふぅむ……」

 俺は腕を組んで考え込む。

 個性、ね……。
 待てよ。それなら。

「罠を使えばいい」

 罠ならば、例え狩りが苦手な奴であっても動物を狩ることができる。

「よし、お前たちついて来い」

 俺はさっそく罠を作る為に、ハイゴブリン達を引き連れて森の中へと入っていった。

 俺はハイゴブリン達を連れて、近くの川へとやってくる。

 澄み切った綺麗な水が流れる川の中をよく見れば、大小無数の魚が泳いでいるのが分かる。

 罠と聞けば真っ先に思い浮かぶのが、動物を捕まえる用の罠だが、作り方が分からない。なので、今回は簡単に作れる魚用の罠を作ろうと思う。

 魚を捕らえる方法として一般的なのは「釣り」だ。

 釣り竿と、糸と、針と餌さえあればだれでも簡単に魚を釣ることができる。ただ、釣り竿や、針や、餌は何とかできるかもしれないが肝心の糸がない。

 木の蔓で代用しても良いのだが、それだと耐久力に難がある。

 なので、今回は魚を捕まえる罠を造ろうと思う。罠と言ってもそこまで複雑な作りのものじゃない。

 言うて俺はプロのサバイバリストではないからな、仕組みが単純な小型のフィッシュトラップをクラフティングのスキルを駆使して何個か作ってみた。

 仕組みも単純で、非常にシンプルな罠だ。

 これを川の上流、中流、下流に分けて、いくつか設置しておく。

 設置作業を進めていると、スリムな体形のゴブリンが不思議そうに尋ねてきた。

「ゴシュジンサマ、ヒトツ、疑問ガ」

「何だ?」

「ナゼ、入リ口ヲ、コチラ向キにシナイノデ?」

 スリム型のゴブリンが指摘したのは、罠の置き方だ。俺は罠の入り口を川が流れていく方――つまり川下に向けている。

 スリムなゴブリンはそれが疑問だったらしい。

「川ニハ、流レガゴザイマス。ソノ流レニ沿ッテ罠ヲ作レバ、ヨロシイノデハ?」

「良い質問だな」

 確かに川の流れに沿うようにして川上に向けて罠の入り口を向ければ、川の流れに沿って泳いできた魚が勝手に入ってくれると……そう思うかも知れない。

「川の魚の泳ぐ向きをよく見てみろ」

 俺はスリムな体形のゴブリンを川の中に連れて行き、そこで川の中を泳ぐ魚の動きをよく観察させる。
 すると、川の中の魚は流れに逆らう様に泳いでいるのが分かる。

「これは河川に生きる魚の特徴でな。川に生きる魚は必ず川の流れに逆らう様に泳ぐんだ」

 どんなに大きな川も、その流れつく先は海だ。

 淡水性である川の魚は川の流れに沿って生きていると、いずれは海に流れ着き死んでしまう、と話を聞いたことがある。

 まあ、それは極端な例だろうが、それでも川の流れに沿って泳いでいると住み慣れた自分の縄張りからは流されてしまう。
 だから、こうして川の魚は自らの生活圏を守る為に、必死に川の流れに逆らうようにして泳いでいるのだとか。

 その事を教えてやると、スリムな体形のゴブリンは何度も頷き、川の魚を興味深そうに観察している。

「良し……っと、これでいい後は……」

 何とか、全ての罠を設置し終えた。あとは、この罠を管理する人員が必要だな。

「そうだな……お前と、お前でいいか」

 俺が選んだのは比較的流暢な口調で話すスリムな体形のハイゴブリンと、やけに身体が大きなハイゴブリンの二体だ。

「お前たち二人で、この罠を管理しろ。毎日、朝と晩にこの罠を見に来て、魚を捕って、新しい餌を入れるんだ。
 もし罠に異常があればすぐに俺に知らせろ、良いな?」

「ハハッ!」
「ハッ!!」

 俺が命じると、二体のハイゴブリンは恭しく頷くとさっそく罠の方に駆けていった。

 さて、やっつけで作った罠だが、果たしてうまく機能してくれるかどうか……。

 これで、少しでも食糧事情が改善されるといいのだが。

「ゴシュジンサマ、ワレワレは?」

 二体のハイゴブリン達を見送った後で、ゼクトールが尋ねてきた。

「お前たちは俺の護衛だ」

 俺はゼクトールと、配下のハイゴブリン達を連れて、樹海の中へと入っていく。

 俺がやるべき仕事は多い。

 ルコスの果実や、他の有用な木の実の採集は俺にしかできないし、その他にもモンスターをテイムしたり、殺してレベルアップさせる作業も積極的に進めていく必要もある。

 俺はヘルハウンドに騎乗し、周りに護衛のハイゴブリンを引き連れながら、慎重に森の中を進んでいく。

 そのまま暫く進むと、ヘルハウンドが鼻を鳴らして、低い唸り声を上げはじめた。

 どうやら近くに敵がいるみたいだな。

「止まれ。ここからは、さらに慎重に行くぞ」

 俺はヘルハウンドから降りると、いつでも腰元のブロードソードを抜刀できるようにしておく。

 慎重に森の中を進むと、茂みの向こうにモンスターを見つけた。

「あれは……」

 森の開けた場所で、巨大な人型のモンスターが大の字で眠っているのが見える。


=====================

ステータス

名前:トロル
位階:3
レベル:11

生命力:32
集中力:0
筋力:25
防御:22
知性:9
魔防:15 
運:6


HP:540/540
MP:0/0
物理攻撃力:375
物理防御力:330
魔法攻撃力:135
魔法防御力:225
クリティカル率:4%

特性:

トロル
分厚い脂肪


スキル:

筋力強化 (中)
野生の本能
パワークラッシュ
物理耐性UP (小)



「トロルっ!?」

 どうやらあの巨大なモンスターはトロルという種類のモンスターみたいだ。ハイゴブリンと比べるとかなりの巨体だ。
 そんな巨大なモンスターが目の前に六体いる。

 トロル達はその脂肪まみれの大きなお腹をボリボリと掻きながら、いびきを立てて眠っている。

 俺は気づかれないようにそっと近づいていき、トロルに向かってテイムのスキルを発動させる。

「フゴッ!」

 テイムのスキルを発動させると、赤い光が一体のトロルに吸い込まれていく。やがて、トロルは起き上がるとキョロキョロと辺りを見渡し始める。

 他のトロルにもテイムのスキルを使いたかったが、テイムした一体が起き上がったことで他のトロル共ものっそりと起き上がってくる。

「チッ……流石にそこまで上手くはいかねぇか」

 こうなったら戦うしかなさそうだ。
 俺はゼクトール達に、まだテイムがかかっていないトロルを制圧するように指示する。そして、俺達は茂みの中から飛び出した。

「できるだけ、殺すなよッ! 生かして捕らえろッ!!」

 叫ぶと俺は腰元からブロードソードを抜刀すると、闇剣のスキルを発動させて、野生のトロルへと斬りかかる。
 
 ブロードソードを振ると、赤い鮮血が迸り、トロルが悲鳴を上げる。

「流石に……凄い切れ味だな」

 伊達に鋼石で+2まで強化されてはいない。

 純粋な鋼のブロードソード+2の切れ味に加えて闇剣のスキルの効果も相まってとんでもない切れ味になっている。

 それに、鋼のロングソードとは違って、斬ることに主眼を置いた剣だけあって非常に使いやすい。

 この剣があれば、トロルの分厚い脂肪であっても問題なく斬り裂くことができる。

 むしろ、切れ味が良すぎて誤って斬り殺してしまわないかが心配なくらいだ。

「トドメだっ!!」

 俺は腹を斬ったトロルを気絶させようと間合いを詰める。

「――くっ!!?」

 だが、横合いから別のトロルが殴りかかってきて、俺は吹き飛ばされる。すぐに体勢を立て直して、トロルの方を見た。

「フンガァーーッ!!!」

 すると、テイムしたトロルが俺を殴りつけたトロルへと殴りかかり、そのまま羽交い絞めにしているところだった。

「ナイスだっ! だが、殺すなよッ!!」

 俺の言葉が伝わったかどうかは知らないが、テイムしたトロルはそのままトロルの首絞めを止めると、その巨体を持ち上げた。

「……は?」

 俺が茫然と見上げる先で、トロルが同胞の巨体を地面へと叩きつけた。

「づっ、おぉぉ……」

 トロルの巨体が地面に激突して、パラパラと細かい砂塵が飛んでくる。

「なん……つー……」

 馬鹿力だ。
 テイムしたトロルは、ぐったりと地面に倒れているトロルを足蹴にすると全身の筋肉を膨張させて咆哮する。

 咆哮でビリビリとした振動が、俺の全身を震わせる。

「はっ……」

 俺も負けていられないな。

「闇(ダーク)の弾(ショット)ッ!」

 俺はトロルの腹部に向かって闇(ダーク)の弾(ショット)の魔法を放った。すると、俺の手のひらから巨大な闇(ダーク)の弾(ショット)が放たれる。

 放たれた闇(ダーク)の弾(ショット)は、そのままトロルへと殺到して、その巨体を吹き飛ばす。

「おっ……おぉぉおっ!?」

 凄まじい威力だ。

 放たれた闇(ダーク)の弾(ショット)はトロルの四肢を吹き飛ばして、そのまま空中を滞空したまま地面へと激しく打ち付ける。

「凄ぇ……これが……LV5のスキルの威力かよ……」

 放った俺自身が思わず驚いてしまうほど高威力だ。

 闇(ダーク)の弾(ショット)が直撃したトロルは、両足が千切れ飛び、辛うじて生きてはいるものの半死半生といった感じでピクピクと痙攣している。

「う、うむ……まあ生きているから、良しとするか」

 テイムのスキルは、テイムが成功するとその前に受けていたダメージが完治する仕様だ。なので、手足が千切れようが半身が千切れようが、生きてさえいればいい。

 俺は殺さないように注意しながら闇(ダーク)の弾(ショット)を放っていく。恐ろしいことに、あの巨体を持つトロルが、闇(ダーク)の弾(ショット)の衝撃とダメージで次々と宙を舞っていく。

 これほどの高威力なんて、下手をすれば闇剣(ダークソード)よりも強いかもしれないレベルだ。

 スキルレベルを上げるだけで、ここまでスキルの威力に差が出るのか。

 こちらの戦闘は終了したので、他に加勢しようと辺りを見渡した。けれど、どうやら他の戦闘も終了したみたいだ。

 俺が仕留めたトロルは三体、つまり残った二体は配下のハイゴブリン達が仕留めたことになる。

「やるじゃないか」

 数で勝っていたとはいえ、中々どうして……ハイゴブリンまで進化させればゴブリンでも十分過ぎる戦力になるな。

 戦闘が終了すると、俺はさっそくトロル共にテイムのスキルをかけていく。その結果、三匹のトロルをテイムすることができた。

「良いな。テイムのスキルもカンストさせたおかげで、テイム確率が大きく上昇している」

 テイムのスキルをLV5までカンストさせたおかげで、今は50%の確率でテイムができる。これはかなりデカい。

 テイムできなかった二匹のトロルは、闇剣(ダークソード)のスキルで強化したブロードソードで首を跳ね飛ばして殺しておいた。

「おっ……レベルアップだ」

 二匹のトロルを仕留めると、俺の身体が淡い光に包まれる。

 ステータスを見ると、【新米魔物使(ルーキーテイマー)い】と【半吸血鬼(デイウォーカー)】の職業(ジョブ)がLV4へと上がっている。

「ふむ……」

 今回のレベルアップで入手したスキルポイントは4ポイント。
 その内、1ポイントを【生命力】に、1ポイントを【筋力】へ、残った2ポイントは【防御】へと割り振ってみた。

「こうしてみるとやはり俺は防御力が全般的に低いな……」

 強力な武器を手に入れたこともあるが、火力と防御のバランスが悪すぎる。

「まあ、こうやってちまちまと上げていくしかないか」

 エクステンドポイントの方は、今回はスキルツリーを進めてみようと思う。
 なので、まだLV1である【アイテムドロップ率UP】と【操血】と【自己治癒】のスキルのレベルを2へと上昇させる。

 さらに、残った1ポイントを使って闇剣(ダークソード)の上にある【闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント)】というスキルを新たに取得した。


闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント)

説明:

 自らの肉体に闇のオーラを纏い、防御力を大幅に上昇させる。さらに闇のオーラを纏っている間は少しだけ走る速度が上昇する。

種別:アクティブスキル

消費MP:6


「防御力と、走る速度を強化するスキルか……」

 早速、試してみる。
 【闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント)】のスキルを発動させると、俺の身体に闇剣(ダークソード)を発動させた時のような黒い闇のオーラが纏わりつく。

「お、おぉ……」

 闇のオーラを纏ったまま近くの岩を殴ってみる。すると、確かに直に殴るよりは格段に傷みが抑えられている。

「これは、良いなっ!」

 しかも、副次的な能力として走る速度も速くなっている。まあ、こちらの効果はわずかだが。
 それでも俺の弱点である防御力を補うことのできるスキルを手に入れられたのは大きいな。

「問題は……どれを外すか、だな」

 俺のアクティブスキル欄はもうすでに十個のスキルがセットされてしまっている。なので、この【闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント)】のスキルをセットするためには何かを外す必要がある。

「うーん……」

 俺は少し悩んでから、武具強化のスキルを外した。このスキルは常にセットし続けておく必要があまりない。
 必要になったら、その時にまたセットし直せば良い。

 三つのスキルのレベルを2へと上昇させたおかげで、それらのスキルの上に新しいスキルが派生した。

 アイテムドロップ率UPのスキルの上には、【アイテムボックス】のスキルが。

 操血のスキルの上には、【血濡(ブラディー)れの鋭爪(クロー)】のスキルが。

 自己治癒のスキルの上には、【状態異常耐性 (小)】のスキルがそれぞれ出現した。

 どれも興味をそそられるが、特に気になるのはアイテムボックスのスキルだな。

「アイテムボックスか……」

 RPGゲームでは定番中の定番のスキルだな。

 次にエクステンドポイントを手に入れたら、最優先で取得してみよう。

「ふむ……まあ、こんなものか」


=====================

ステータス

名前:黒羽総二(くろばそうじ)
性別:男性
種族:半吸血鬼(デイウォーカー)

漆黒騎士(ブラックナイト) LV3
初級錬装師(デミ・アルケミスト) LV4
新米魔物使(ルーキーテイマー)い LV4
半吸血鬼(デイウォーカー) LV4


生命力:21
集中力:17
筋力:17
防御:10
知性:22
魔防:4
運:10


HP:310/320
MP:228/240
物理攻撃力:255 +260
物理防御力:150 +20
魔法攻撃力:330
魔法防御力:60 +15
クリティカル率:5%


【保有スキルポイント:0】


アクティブスキル:

闇(ダーク)の弾(ショット) LV5
毒霧(ポイズンミスト) LV5
闇剣(ダークソード) LV3
鑑定 LV2
クラフティング LV5 
解体 LV2
テイム LV5
操血 LV2
モンスター合成 LV1
闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント) LV1


パッシブスキル:

吸血捕食 LV2
夜目 LV2
自己治癒 LV2
アイテムドロップ率UP LV2


【保有エクステンドポイント:0】


 俺は自分のステータスを眺め、不備がないことを確認して、ステータスウィンドウを閉じた。


 と、視線をトロルの死体に向けると、その傍に何かが落ちていることに気づいた。拾い上げてみると、それは小さな石碑のようなものだった。

「何だ……これ」

 拾い上げて、小さな石碑を鑑定のスキルで見てみる。すると、


粗野な証

説明:

 モンスターを進化させる不思議な石碑の欠片。
 人鬼族専用アイテム。


「粗野の証っ!?」

 そこには俺が欲しかったアイテムがあった。これがあれば位階3のモンスターを位階4へと進化させることができる。

「…………」

 これは使いどころに悩むな。

 正直、さきほどの話の直後だからすぐに誰かに使うということは考えられないな。使いどころはよくよく考えて使わなければな。
 辺りを確認してみると、もう一匹のトロルの足元にも粗野の証が落ちていた。

 これで粗野の証が二つか……。

 俺は手に入れた二つの粗野の証をポケットに入れると、配下に指示を出して、歩き出した。
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今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

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