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第五話 初戦闘とレベルアップ
しおりを挟むソレと遭遇したのは、拠点に帰る途中だった。
森の中を歩いていると、強化された俺の鋭敏な聴覚が何かの音を捉えた。
「これは……」
聴覚だけじゃない。鼻を鳴らして意識を集中すると、焼けに獣臭い匂いが正面の方から道しるべのように漂ってきている。
「何だ……?」
この先に――何かがいる。
俺は腰元の鉄のロングソードの柄に手を添えていつでも抜刀できる準備をして、注意深く先に進んでいく。
少し進んで行くと、俺の五感が獣のような鳴き声を捉える。
「…………」
茂みに潜むようにして、その先に視線を向ける。そこには、筆舌に尽くしたい醜悪な生物がいた。
「なん、だ……あれは……」
木のすぐ傍で騒いでいるのは、人間の半分ほどの体躯に、緑色の独特の体色をした醜悪な生物だった。
「例えるのならゴブリン……って感じのモンスターだな」
俺は鑑定のスキルで、目の前の醜悪なモンスターを見つめた。
=====================
ステータス
名前:ゴブリン
位階:1
レベル:3
生命力:15
集中力:6
筋力:12
防御:11
知性:6
魔防:4
運:7
HP:200/200
MP:100/100
物理攻撃力:180
物理防御力:165
魔法攻撃力:90
魔法防御力:60
クリティカル率:2%
特性:
仲間意識
スキル:
逃げ足
どうやら俺の予想通りに、あの醜悪なモンスターはゴブリンだったらしい。しかも、意外に強い。
「……一匹、二匹……三匹か」
木のところにいたゴブリンは三匹だ。
「三匹……戦うか、逃げるか」
目の前にあんな醜悪な化け物がいるというのに、俺は怖いほど冷静だった。
普通、こんな状況に遭遇したらパニックになって冷静な判断なんて下せないと思う。でも、スキルという強力な武器があるおかげか、自分でも怖いくらいに冷静だ。
目の前のゴブリンと戦うか、それとも逃げるか、冷静にメリットとデメリットを比較していく。
そして、結論を出した。
「…………」
俺は無言のまま、腰元から鉄のロングソードを抜刀した。
ここで逃げても仕方がない。ゴブリンなんて、ファンタジーの世界では雑魚中の雑魚である。
そんな雑魚モンスターにビビっているようじゃ、この世界で生き延びていくことは不可能だ。
それにここはあの転移ポータルに近い。
可能な限り、危険の芽は摘み取っておくべきだ。
幸いなことに向こうはコチラの存在に気付いていないみたいだ。これなら十分に先手を取れる。
「……半吸血鬼(デイウォーカー)の超強化された鋭敏な感覚に感謝だな」
まずは先制攻撃を仕掛ける。そして、可能であれば一匹、できれば二匹は削っておきたい。
俺は両手を茂みの向こうに翳すと、ゴブリンの一体に狙いを定める。そして、
「闇(ダーク)の弾(ショット)ッ!!」
闇(ダーク)の弾(ショット)の魔法を放った。
放たれた闇(ダーク)の弾(ショット)は、こちらに背を向けていたゴブリンに直撃する。
「――――ッ!?」
不意打ちで後ろから闇(ダーク)の弾(ショット)を撃ち込まれたゴブリンは、緑色の血液をまき散らしながら、盛大に吹き飛んでいく。
それを合図に、俺は茂みから飛び出した。
「ぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
鉄のロングソードを両手で握りしめると気合い一閃。ゴブリンの片腕を真っ二つに切断する。
「ギャギャッ!?」
腕を切断されたゴブリンは、悲鳴を上げて後ずさる。俺は、すかさずにその顔面に膝をめり込ませる。
「ギギッ!!」
「っっ!?」
腕を切断したゴブリンにトドメを刺そうと剣を振り上げたが、もう一匹のゴブリンに体当たりされて、狙いが外れてしまう。
「この……じゃあ、手前ェからッ!!」
俺は鉄のロングソードに闇剣(ダークソード)の魔法を纏わせると、そのままゴブリンに向けて一閃する。
俺が放った剣閃は、あっさりとゴブリンの胴体を真っ二つに切断する。
「これ、でっ!!」
俺は地面を這いずっていた、最後のゴブリンに向かって闇を纏わせた鉄のロングソードを振り下ろした。
何かを斬り裂く音と共にロングソードの切っ先が、地面に突き刺さる。
「はぁ……はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は荒い息を吐きながら周囲を見渡した。周りに動いている生物はいない。
「…………」
念のため、最初に闇(ダーク)の弾(ショット)を当てたゴブリンも確認する。
闇の弾の直撃を喰らったゴブリンは、全身の肉をズタズタに引き裂かれてすでに絶命していた。
「は、ははっ……やべぇ、手が震えてら」
俺の人生において初めての実戦だった。
とにかく無我夢中で相手を殺すことしか頭になかった。終わってみると、かなり呆気なかった。
けれど、興奮が冷めてくると同時に生き物を殺したという嫌悪感と、恐怖でぶるりっと身震いをした。
「おっ……?」
その時だった。
殺した三匹のゴブリン達の死骸から、黄金色に輝く光が立ち昇る。黄金色の光は、そのまま俺の身体の中へと吸い込まれていった。
すると、今度は俺の身体が淡い光に包まれた。
これって……もしかして……、
俺はすぐにステータスを開く。
=====================
ステータス
名前:黒羽総二(くろばそうじ)
性別:男性
種族:半吸血鬼(デイウォーカー)
漆黒騎士(ブラックナイト) LV1
初級錬装師(デミ・アルケミスト) LV2
新米魔物使(ルーキーテイマー)い LV2
半吸血鬼(デイウォーカー) LV2
生命力:14
集中力:14
筋力:13
防御:7
知性:16
魔防:4
運:10
HP:180/180
MP:69/180
物理攻撃力:195 +100
物理防御力:105 +20
魔法攻撃力:240
魔法防御力:60 +15
クリティカル率:5%
【保有スキルポイント:6】
アクティブスキル:
闇(ダーク)の弾(ショット) LV2
毒霧(ポイズンミスト) LV2
闇剣(ダークソード) LV2
鑑定 LV2
クラフティング LV2
解体 LV2
テイム LV2
パッシブスキル:
吸血捕食 LV2
夜目 LV2
【保有エクステンドポイント:6】
「おぉっ!?」
ビンゴだっ!
【初級錬装師(デミ・アルケミスト)】と【新米魔物使(ルーキーテイマー)い】と【半吸血鬼(デイウォーカー)】のレベルが2へと上がっている。
先ほども言ったが、職業(ジョブ)のレベルが上がっても、パラメータが上昇することはない。
ただ、三つの職業(ジョブ)のレベルが上がったことで、スキルポイントとエクステンドポイントが6ポイントずつ獲得できている。
これを割り振れば、パラメータやスキルを強化していくことが可能になる。
「これは、どう割り振ろうか……」
俺は顎先に手を当てて、色々な考えを巡らせる。
一極集中で、特定のパラメータを上げるか、それともまたバランスよく上げていくか。
悩んだ結果、【生命力】に2ポイント。【集中力】に1ポイントを割り振り、残った3ポイントは【筋力】へと割り振ってみた。
やはり、あらゆるパラメータの中で最も重要なのは【生命力】だ。
どれほど強くなっても、死んだらそれでおしまいだ。まさかゲームのように死んだらセーブポイントからやり直しができると信じるほど俺は馬鹿じゃない。
この世界はゲームのようであって、ゲームではない。
現実だ。だから、死んだらそれで終わり。
「まず、死なないためにどうすればいいのか」
単純だ。命に関連するパラメータを上げて行けば良い。だから、生命力を重点的に、その次に火力を強化していくスタイルでやっていこうと思う。
「ただ、ゲームみたいにパラメータをスキルポイントで強化しても、HPは全快しないんだな」
俺の視線の先にあるのはHPの値だ。
HPの値は180/220となっていて、スキルポイントを割り振ることでHPの上限値は上がっているが、RPGゲームみたいにレベルアップでHPが全快するということはないみたいだ。
「うーん……いや、待てよ」
確か俺には【吸血捕食】というHPを回復させるパッシブスキルがあったな。
「血、血……ねぇ」
辺りを見渡すが、周りに転がっているのはゴブリンだけだ。見れば、ゴブリンの身体からドロリとした緑色の体液が流れ出ている。
どうやら、これがゴブリンの血液のようだ。
「正直、あんまり舐めたくはないが……」
まあ、物は試しだ。
俺は指先でゴブリンの血を掬うと、口に含んでみた。
「――――ブッ!!?」
だが、
その次の瞬間には、俺は口の中のゴブリンの血液を吐き出していた。
不味ぅっ!!?
なにこれ、凄まじく不味いんだがっ!?
生臭くて、まるで腐った牛肉の肉汁を舐めているかのようだ。しかも、それに加えて青汁を何十倍に濃縮したような舌に残る苦々しさとえぐみもある。
これはとてもではないが、飲めない。
一滴でも吐き気を催すレベルだ。こんなもんを飲んだら、死んでしまう。
「ペッ、ペッ……うぇ……まだ舌にえぐみが残ってるし」
ステータスを見ると、ほんのわずかだがHPの値が回復していた。でも、こんな思いをしてまでHPを回復したくないな。
少なくとも生死がかかっている状況ではない限り、絶対に飲みたくない。
それにHPを回復させるのなら、先ほど収穫したアリジヤの実でポーションを作っても良い。
まあ、アリジヤの実の数はかなり少なく、作れてもせいぜい2回分だが。
「はぁ……そう上手くはいかないか。気を取り直して、ステ振りの続きでもするか」
残るはエクステンドポイントの割り振りだ。
こちらもかなり悩むな。
既存のスキルをさらに強化していくか、それとも新しくスキルツリー上に出現しているスキルを習得していくか。
「とりあえず、【自己治癒】のスキルだけは取っておこうかな」
俺は夜目の上に出現している、自己治癒のスキルへ1ポイント割り振って習得してみた。
これで残りは5ポイント。さて、どうするか……。
現在、スキルツリー上に出ていて新しく習得できるスキルは、【闇(ダーク)の強化魔法(エンチャント)】、【アイテムドロップ率UP】、【麻痺(パラライズ)の霧(ミスト)】、【武具強化】、【高速採集】、【モンスター合成】、【操血】の七つのスキルがある。
俺は悩んだ結果、【操血】のスキルだけを取得して残りのエクステンドポイントは残しておくことにした。
まさか、ここで無理に使い切る必要があるわけでもあるまい。
エクステンドポイントの方に関しては無理に使い切らずに残しておいて、欲しいと思ったスキルを強化したり、習得していこう。
「新しく手に入れたスキルは……」
自己治癒
説明:
吸血鬼としての本能を呼び覚まし、吸血の能力の一端を解放する。一定時間ごとに、徐々にHPが回復し、傷口も塞がっていく。
種別:パッシブスキル
消費MP:なし
操血
説明:
吸血鬼の能力の一つ、血を操る能力を具現化したスキル。体内の血液を自由自在に操ることができる。
種別:アクティブスキル
消費MP:なし
自己治癒の方は、パッシブスキルか。時間経過でHPが徐々に回復していく、いわゆるリジェネの効果を持ったスキルだな。
もう一つの操血のスキルは、自分の体内の血を操ることができるらしいが。
「…………」
俺は自分の手のひらを見つめて、操血のスキルを発動させる。
「うー……ん?」
操れているのか、これ?
どうにも操れているような、操れていないような、微妙な感じだ。
「……試しに傷を付けてみるか」
俺は操り易いように鋼のロングソードで指先を切った。すると、指先から深紅の血液がまるで生き物のように飛び出してきた。
「おぉっ!?」
これは凄いっ!?
まるで手足を操るかのように血液を自由自在に操ることができる。
試しに血液をロープ状にして近くの木の樹上へと引っ掛ける。そのまま血液を収縮させて、木を登っていく。
「おぉ……こりゃ、便利だ」
操血のスキルのおかげで、木登りなんてほとんどしたことのない俺でも簡単に木の上に登ることができた。
このスキルはかなり便利だな。
しかも、血液自体の耐久度もかなり高いみたいだ。少なくともLV1の時点でも縄と同等くらいの耐久度はある。
「おぉ……お?」
木の上から周囲を眺めていると、遠くの方に何かが動くのが見えた。よく目を凝らしてみると、それはゴブリンの群れだった。
「一、二、三……五匹か」
五匹のゴブリン共は、森の中をこちらに向かって歩いてくる。そのまま樹上で息を殺していると、五匹のゴブリン達が俺の真下へとやって来た。
「ギ、ギギっ!?」
ゴブリン共は、木の傍に転がっている三匹を指さして、何か騒ぎ始めた。どうやら、先ほど俺が仕留めた三匹の仲間だったらしい。
「ふむ……」
俺が今いる、木は地上から十数メートルもあるかなり樹高が高い木だ。しかも、好都合なことに下の方には足場になりそうな枝がない。
ここからなら、一方的に攻撃できそうだな。
俺は、真下にいるゴブリン達に向かって闇(ダーク)の弾(ショット)を打ち込もうとして、はたとその手を止めた。
待て、待て、待て。
せっかくだ、まだ試していないスキルも試してみよう。
例えば……そうっ! 【テイム】のスキルを試してみたいな。
「その為には、殺さずに拘束する必要があるが……」
幸いに、それには今しがた習得したばかりのこの操血のスキルが利用できそうだ。
あの数を捉える為には、今さっきの小さな傷では足りないな。
俺は剣をわずかに引き抜くと、その刀身に手のひらを押し付けて、スパっと斬った。そして、溢れる大量の血を操り、真下へと殺到させる。
「ギ……?」
「ギギャっ!?」
「ギギギッ!!」
どうやらゴブリン達もまさか自分たちの真上から攻撃されるとは思っていなかったのか、五匹全員を一瞬のうちに操血で絡めとることに成功した。
そのまま空中に引き寄せるようにして、近くの枝の下に宙吊りにする。
「これで、良しっと、あとは……」
俺は一番端っこにいたゴブリンに手を翳してテイムのスキルを発動させる。
一回目は失敗し、二回目も失敗してしまう。
「……不味いな。これって同じ個体に三回までしかチャンスがないんだろ? あと一回か」
今のテイムの捕獲率は20%だ。やはりこの確率では少し厳しいものがあるな。
「……仕方ない」
俺はステータスを開くとテイムのスキルレベルを3へと上昇させた。これで捕獲率は30パーセントに上がった筈だ。
たかが10%の違いだが、果たして……。
「これで……」
俺は三度目の正直で、ゴブリンにテイムのスキルを発動させた。すると、赤い光が発生してゴブリンへと吸い込まれていく。
「おっ……?」
赤い光に包み込まれたゴブリンは、ピタリと暴れるのを止めた。どうやら、テイムが成功したみたいだ。
俺はテイムしたゴブリンの拘束を解くと、地面の上へとおろした。
「ギギ」
地面におろされたゴブリンは、忠誠を誓うようなポーズで地面に跪いた。
テイムが成功すると、こうなるのか。興味深いな。
「さて、と……あと、何匹をテイムできるかな」
俺はワクワクと胸を躍らせながら、他のゴブリン共にテイムのスキルを放った。
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