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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ

逃げられなかった運命③

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おじいちゃんとお姉さんが亡くなった事件は、次の日の新聞の端っこに小さく載っていた。やっぱり死因は自殺だった。

二人の死因は私だ。【呪いのおパンツ】について聞いたから殺されたんだ。

リビアとジョニーにそう言うと、前に訪れた骨董屋の店主も亡くなったと新聞に載っていたと。死因は自殺と書いてあったと教えてくれた。

私の存在は危険だと何となく知っていたけど、人の命を奪う程とは……。

三人で話し合った結果、とにもかくにも今はお金がないので、しばらくバイト中心の生活。その間、私は宿から出ない方がいいだろうという判断に至った。

それからについては、まだ未定だ。ウエストウッジの骨董屋に手掛かりがありそうだけど、呪いについて調べても、今回みたいなことになるのなら……と思う。

きっと一番安全な方法は、記憶の鍵を握るマントの下が全裸のおっさんに会いに行くこと。そしておっさんからの保護を素直に受け入れること。二人とお別れすること。

すぐそこまで危険が迫ってるのに、ここまで来ても覚悟が決まらず、その事をなあなあにして、二人の帰りを宿で待つ日々だ。


今日はリビアの帰りも早く、一緒にご飯を済ませてソファーに座ってタウン情報誌を読んでいた。このモナカ美味しそうだなぁと考えていれば、バスルームのドアが開いた。

湯上がりのリビアだ。髪の毛をごしごし拭いてた。たまたま目が合って、お弁当用ウインナーを思い出した。すぐ本に目を落としたけど、こっちに歩いてきた。

「よっ、クソネコ。何読んでんの?」

わざわざ後ろに回り込んで、首に抱きついてくる。例のあの日でもないのにスキンシップが過剰だ。セクハラだ。こうも簡単に理性が負けている。

「これまたうまそうな食いもんだな。ってかどこで情報誌手に入れたんだよ。しかも付箋だらけじゃん」
「ジョニーが買ってきてくれたの。食べたい物があるなら付箋をしてって。リビアが全部買ってくれるって」
「いやいや、初耳だけど。付箋だらけの情報誌が怖いんだけど。これ何日分の給料だよ」
「あとで計算しておくね」
「いやいや、いいよ、そういう現実を数値化するのやめて。せめて想像で食べてくれると大助かり」
「買ってくれないの!?」
「ジョニーが勝手に言ってるだけで俺は買うとか言ってねぇだろ」
「うそつき!」
「ぷぷっ、拗ねた拗ねた、クソネコが拗ねた」

意地悪を気にしたら負けだ。そう心に決めて情報誌を読み進めていくことにした。

「何か冷たくね?そんなに嫌い?」
「あーん、これ美味しそう。いちごのパフェかぁ」
「二千……高っ!俺の日給の……うわ、現実を考えたくねぇ。せめてもう少し俺の財布に見合う値段を考えてあげて。つーか本当に切実に俺のことが嫌いなの?」
「あ、これ!これ食べたい!いちご大福!私の為に買えよ!そしたら嫌いって言わないから!むしろ好きって言ってやるから!」
「マジ?仕方ねぇなぁ、いくらだよ。千……高っ!?いちご大福一個で高過ぎだろ!どんだけ高級志向だよ!」
「だって高いんだよ?どんな味か気になるじゃん」
「……あのね、……俺もね、一応お手伝いと称したバイトしてるけどさ、そこまで稼げてるわけじゃないからね。ほとんど生活費で消えるからね。……いや、買えんこともないけどさ、……うーん」

食べたい物に間違いないけど、買えるわけないって知ってるから言っただけだ。腕を組んで悩みだしたリビアのおかげで、ようやく首が軽くなった。

解放された今のうちに移動しようと立ち上がったら、入れ替わるようにリビアがソファーに座った。腕を組んで唸りながら情報誌片手に悩んでる。

「いちご大福か、好きか」

そんなに真剣に考えることなの?いちご大福と好きって言われたい気持ちがイコールとか、私の好きって言葉は安いの?それとも高いから悩んでるの?どっちにしろ、いちご大福くらいポンッと買わないからリビアはモテないんだ。

でもそうだよね、一緒に居るようになってまだ少しだけど、女の子にモテる気配も出会いもなかった。むしろ理性が簡単に負ける負け犬だ。だからいつまでたっても童貞なんだ。ああ、おかわいそうに。

でも、私は諦めない。いちご大福を食べるまでは!

「リビアさん、リビアさん」

リビアの前に正座して膝を軽く叩いたら、その手を握ってきた。めちゃくちゃ笑顔な辺り、イケる気がする。

「好きって言ってあげるので、いちご大福を買ってください」
「コラコラ、そんなモンなくても言えただろ?ウソがつけない素直な口があるんだから無償でもっと言いたまえ、このクソネコめ。全部聞こえてんぞ」
「そんなこと言っていいの?例のあの日でもないのにセクハラしてくるって、ジョニーにあることないこと言っちゃうよ?」
「んじゃ、いちご大福は買ってやる。ただし、しばらく晩飯の時のデザート抜きな」
「はあ!?何でデザート抜きなの!?」
「ジョニーにうそつくんだろ?その罰だな」
「ひどい!横暴よ!」
「これが権力の差ですよ、クソネコ様」
「もう要らない!」
「そら良かった。ただで好きって聞けたし得したわ~」

余裕ぶっこいて偉そうに座るリビアの脚の間に座って、情報誌に載ってある占いコーナーを読む。

「占いって……お前誕生日覚えてんの?」
「たんじょーび……?」
「お前が生まれた日だよ」
「はて?たんじょーび……」

その時は突然やってきた。

「誕生日ってだけで占いが出来るくらいだもんなぁ。でも、2月22日もいいと思うけど。ほら、ニャンニャンニャンって意味で」
「おお!それは何ともお猫様にピッタリの可愛らしい誕生日だな。では、2月22日のニャンニャンニャン、猫の日がお猫様の誕生日ってことにしよう!」

耳の奥の、もっと奥の奥の方で、誰か、知らない人の声がする。

「怖くないよ、何も、怖くない。よしよし、もう大丈夫だ。きみはもうずっと、……自由だよ」

そう言って、優しく遠慮がちに頭を撫でてくる大きな手。

「……これからも、ずっとずっと一緒にお祝いしよう。二人で、ずっと」

誰かの脚の間に私が座ってる。振り返ると穏やかな顔を私に向けてる……

「    」

一瞬で浮かんだ光景に後ろを振り向いたら驚いてるリビアと目が合った。

あの人じゃない。

あの人がいない。

あの人……

あの人の、ナマエ……

ワタシノスキナヒト

タカラバコノ、ナカニアル

コロゲオチタ、クビノヒト


「っ」

グルンと目が回った。グルグル回る。冷や汗と悪寒が止まらない。呼吸がうまく出来ない。

気持ち悪い。

気持ち悪い。

キモチワルイ

「俺が見える?」

視界にリビアが映る。小さく頷くとゆっくりと背中を擦ってくれた。

「深呼吸しようか」

優しい声色に導かれるように、深呼吸を数回やると少し落ち着いた。

まだ震えてるけど、大丈夫、気持ち悪いけど、大丈夫。

大丈夫、まだ、大丈夫。

何度も何度も心の中で呪文のように繰り返して、ゆっくり目を開けた。

あの人が私を見つめていた。

薄く白い月が浮かぶ真っ青な空の下、

鮮やかに咲く花壇の前で、

金木犀の香りに包まれながら、

あの人は、そこにいた。

そこに、いる。

「    」

そして私の意識は、

プツンと切れた。

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