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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ

呪いの不思議⑧

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ようやく着いた目的地の駅は、リビアのいう通り何にもなかった。駅員さんと駅員さんがいる事務所があって、その一角に数本の飲み物やお菓子がある。外に出ると店の一つもない。だだっ広い緑の地面に一本の道が伸びているだけ。

「こういうの知ってるよ。ケモノ道っていうんでしょ?」
「いや違うし。それはもっと山奥の草がボーボーと生えてるところ。これは一応普通の道」
「これが?」
「この辺りはまだ整備されてない町や村が多いからね。ほら、国の端っこだし」
「列車は通ってるのにそこだけ発達してるの?」
「そこだけって言うな!」
「だって本当に何にもないんだもん」

見渡す限りの緑の草原。建物もない。遠くの方で家らしきものがぽつぽつと見えるくらい。六時間前まで居た町とは大違いだ。

「六時間でここまで変わるんだね」
「そらそうだろ。あちらさんはこの国の首都だかんな。お国の看板ってやつ」
「でもこっちの方が好きだよ。空気がおいしい」

思いっきり息を吸うと土や草の匂いがした。懐かしさすら感じるそれに自然と頬が緩む。

「気に入っていただけたようでなによりだけどな、多分こっから嫌いになんぞ」

その意味が分からず首を傾げた。

「ほれ、行くぞ」

こうしてようやく最終目的地であるリビアのおうを目指す。

駅に着いたとき陽が沈む前だった。夕日に照らされた細い一本道を三人で歩く。

ただ歩く。

たまにある一軒家に期待しつつ、それは違うと絶望しても、ただ歩く。

話す元気もなくなって、涼しい顔してる二人にイライラしても、まるで人生を表している苦難な道のりを、黙々と歩く。

「着いたぞ」

ようやく着いたとき、謎の達成感に襲われて気が抜けた。これでようやく休める。もうこれ以上歩かなくていいと思うと、その場に座り込みそうだった。

しかしリビアの元気は底知れず、家の中に入るなり、もう歩きたくないと突っ立ってる私の手を引いて、とある部屋へ一直線。そこは本だらけの部屋だった。

「『呪い全集』は……あった、これだ」

リビアは本を取ると、【呪いの首輪】が載っているページを捲る。破られていないそこには、見るからに私がしている首輪と同じものと少しの文字が描かれてあった。

「やっぱり、それは本物だな」
「何て書いてあるの?」
「遥か昔、魔女がこれを作った。願いが叶うとき、それは呪いへと変わるーー」
「外し方とかは?」
「載ってない」
「えー……収穫なしってことじゃん」
「んなことねぇよ。ここに来たのは、これを取りに来ただけ。ついでに本物かどうか調べたかったし」
「で、本物だったの?」
「これで俺たちの願いに一歩近づけたってわけだ。いい拾いもんしたわ」
「でもリビア」
「行くぞ」

話を遮り、本を持ったまま部屋から出て行ったから急いであとを追う。するとリビアは何を思ったのか、本をかばんに入れるや否やそれを持って玄関から出ていこうとした。

「ちょっと待って!」

止めずにはいられなかった。

「無理よ無理!これ以上は歩けない!」

私の心からの叫びを聞いたリビアは、満面の笑みで答えた。

「次の目的地に、行くぞ」

絶望だ、絶望がここにいる。

「何でそんなに行き急ぐの!?今日はもう休んで、明日出発しようよ!何事も急がば回れって言うじゃないの!」
「回る時間がないからだ。ほれ、早く」
「嫌よ、嫌!これ以上は絶対に、テコでも動かない!」

意地になってその場に座り込む。ようやく座れたと体が喜んだのもつかの間、それを見ていたリビアは「駅で待ってる」と言って鍵を置いて出て行った。

ここはリビアのおうちなのに、おうちに居たくないような感じでもあった。

それにあの顔は……

もう夜も遅いのに、リビアのおうちに光がなかった。この家に家族が居ない。死んだのか、それとも別の理由があるのかわかんないけど、寂しい悲しいと訴えてる気がした。

でもきっとリビアは家族が好きなんだと思う。玄関の壁に飾ってある古い写真がそれを物語っている。

その辺の家具は埃を被っているのに、その写真だけはキレイだ。キレイなままの家族写真、それがリビアの気持ち。

「よっこいしょ」

全力で休みたいと叫ぶ体に鞭を打つよう立ち上がり、鍵を掛けて、家を出て、走る。すぐにリビアの背中が見えた。

何も言わずに隣に並んで歩く。ふと見上げた空には三日月と星が浮かんでいた。

「何で星ってキラキラしてるの?」

何気ない質問にリビアは答えてくれた。

「燃えてるから」
「星が?」
「そっ。あれ宇宙のゴミな」
「リビアも燃えて輝くといいね!」
「どーいう意味だっ!」
「ねぇねぇ、あれ、言ってみて」
「燃えろコスって何を言わせる気だよ」

頭を小突いてきたリビアに笑った。良かった、いつものリビアだ。

「……悪いな」

その悪いに何を含んでいるのか、何も知らない私には知るよしもないけど、大丈夫だと伝えるために、ステップを刻みながら前へと進む。

何でだろう。

さっきまで重かった足が今はとても軽い。

「……ありがとうな」
「んー、何が?」
「別に」
「変なリビア」
「変なダンスしてるお前に言われたくねえ」
「変なとは失敬な!見よ、この華麗なるステップを!」
「き○ちゃん走りだろ、それ」
「きんタマ走り?」
「違ぇーよ!何でお前はそういうことを恥ずかしげもなく言うかな!」
「もっと恥ずかしいことをしたじゃん」
「そ、そうだけども!」
「私ね、リビアのこと好きだよ」

リビアの前を歩いてた私は後ろを振り返った。ポッカーンとしてるリビアが面白くてもっと教えたいと思った。

私の気持ちを、素直に。

「家族って言ってくれてありがとう!とっても寂しかったから嬉しかった!あの日からリビアは私の家族で、リビアの家族は私だよ!だからもう寂しくないの!」

スッキリした私は、またステップを刻みながら前へと進む。

「記憶がないのに怖くねぇのかよ」
「んー、怖いけど……でも、こうやって楽しく進んでれば何とかなるかなって!」
「のんきな楽天家ってわけね、真面目な俺とは大違い」
「ポジティブ精神は大事よん。明るい心は人生をも明るくするのです!」
「お前と話してると真面目に考えてる自分がアホらしく思える」
「……え、今さら何を言ってるの?リビアは元からアホだよ」
「とことん失敬なやつだよ、お前は!」
「ありがとう」
「これっぽっちも褒めてねぇ!」
「あ、でもリビアの口内細菌は好きになれないから二度とキスしないでね」
「……上げたいのか下げたいのかハッキリしてくれよ……」
「貶したいんだよ、基本的に」
「そりゃどーも!……とでも言うと思ったかあああ!」
「きゃー!リビアが怒ったー!」
「待ちやがれ、このくそネコ!」

襲い掛かってくるリビアを避けながら、二人で追いかけっこ。こんなアホみたいなことでも楽しく感じるのは、きっとリビアのおかげだ。

あの日、私に居場所を与えてくれたから。

私を家族と言ってくれたから。

「リビア、好きだよ!」
「んで、今度は何を言って俺を貶すつもりだ」
「ジョニーをおうちに忘れたの。ごめんね」
「ジョニィィィ!!?」
「呼んだ?」
「ぎゃああああ!?出たああああ!!」

ここはとても暖かい。

まるで陽のあたるあの部屋のように。


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