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2章 呪いの首輪と呪いのおパンツ
呪いの不思議⑤
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各国に一つ大きな駅があり、ドルシュターとドルギュター、ウエストウッジとギュスリー、四つの国を楕円で結ぶように、線路が通っている。そして各国にある大きな駅から国の中を走るように線路もあると聞いた。
「国を渡るのにチェックとかされないの?」
「この四カ国内に限りだけど、切符だけでいいんだよ」
「なーんか見えないお金と人の抜け道ここにありって感じだね」
「密入国や違法取引は盛んだろうね。路線に限り、各国も厳しく取り締まってないみたいだし」
「え、何で?犯罪なんでしょ?」
「さぁ、ぼくもわかんない。まっ、それで救われてるところもあるからね」
「そっか」
この二人は国内の無断乗車だけじゃなく密入国までした経験があるらしい。各国共通してバレないなら犯罪じゃないって法律があるのよ、きっと。
「それと、各国にはそれぞれ仕事や身分の特徴があるんだ。ウエストウッジは騎士や貴族が多く、ドルシュターとドルギュターは軍人や研究者が多い。ギュスリー国は職人や商人が多いね。もともと一つの国だったからそれぞれが住みやすい所に流れていったって話だよ」
「それでよく戦争にならないね。軍事力に秀でてるなら土地取り放題じゃん。職人商人は特に欲しいでしょ」
「大昔に、四つの国では戦争はしませんっていう条約を結んでるんだ」
「ふーん、何か大変だねぇ」
「微塵も思ってないくせに」
「我々庶民には関係ないこと!それよりも……」
向かいの椅子の上で四つん這いしながらしくしくと泣いているリビアに目をやる。ケツバットの痛みは凄まじいものであったと物語っている姿に、さすがに同情してしまう。
「いいの、あれは、放置で」
「でも……」
「あ!そういえばさ!きみの名前を決めようと思うんだ!例のあの名前じゃ呼びにくいし」
ジョニーは楽しそうにメモ帳を出すと、私に見せてきた。そこには、ハル、ナツ、アキ、フユ、アイ、ポチ、タマ、ハナコなどなど、たくさんの名前らしきものが書かれている。
「この中から選ぶの?」
「自分で考えてもいいよ」
「うーん」
名前を決めろといわれても何だかピンと来なくて、いっそのことタマにしようかと思ったら、「淫乱ネコ」「ネコ便器」「クソネコ」という新しいニックネーム候補をリビアが言ってきた。お礼にケツバットしてあげた。
「ぎゃああああ!!?」
「あ、でも、ハル、いいね」
「ハル?」
「春はたくさんのお花が咲く時期でしょ?お花好きだし、それに何か……懐かしい気持ちになるの。心がほっこりする」
「何が花だよ。性欲のが咲き乱れてんじゃねぇかよ」
また変に絡んでくるリビアに笑顔を向ける。
「さっきからどうしたの?」
「どうもこうも!お前のせいで俺のケツがっ!ケツがあああ!」
「それはダメよ、リビア。人のせいにするのは良くないこと」
「お前が「もっとほしい」とか言うから俺はだなぁ!俺のか細い理性の糸を切ったのはお前なんだぞ!それなのに俺だけケツバットとか納得いかねえ!」
「え、言った?」
「え、覚えてない?」
「いや何か……ずっと痺れてるっていうか、例えるなら、風船が何個も割れていくというか、その衝撃で何回も真っ白になってくというか……。そっちのが凄すぎて……ごめん、覚えてない」
「それってさ、ずっと……気持ち良かったって、こと?」
ものすっごく恥ずかしいけど、リビアの質問に小さく頷くと、満面の笑みで「よしよーし」と頭を撫で始めた。でもその手をジョニーが払い除けた。
「これ、ぼくのネコなんだけど」
この世のすべての闇を纏った救世主のお姿に、すぐに外の景色に目をやった。
「何回も言うように、ハルは無防備で無神経でバカ正直なバカネコだよ。だからって理性に負けていい理由にはならないよ」
とんでもねえもんが聞こえて、思わず会話に割り込んでしまった。
「ジョニーさんジョニーさん、私のことをそんな風に思ってたの?優しいふりをして内心真っ黒だったの?」
「違うよ。バカな子ほどかわいいっていうだろ?」
「それって褒めてる?」
「うん、めちゃくちゃ褒めてる。ハルはかわいいよ。世界一かわいい!」
「褒められた!」
「よしよし、かわいいぼくのお姫ネコ様」
頭やら耳を撫でるジョニーの手にゴロゴロが鳴り響く。頬がだらしなく緩むのは仕方がないことだ。だってジョニー、ネコの撫で方めちゃくちゃ上手いんだもの。
「掌握され過ぎだろ!何だよこの差は!何だって俺がこんな目に!」
リビアの叫びにジョニーも私も知らんふりを決め込んだ。
「そういえば、さっき……新しい名前で呼ばれたけど……」
「ハル、いいと思うよ。素敵な名前だね」
「……もっかい、呼んで?」
「んー、ハル、ハール、ハルー」
優しく頭を撫でられながらハルと呼ばれると、懐かしい気持ちになる。
幸せで、嬉しくて、花満開って感じで!
そして、猛烈に、胸が苦しい。
「……あれ?」
ポタリポタリと涙が流れる。
何度も拭っても流れ落ちる。
「ご、ごめんね!痛かった!?」
「違う違うよ」
嬉しかったの。
大好きなあなたに貰った名前。
大切に、大切に、しまってあるの。
心の奥に、それがあるの。
キレイなキレイな宝箱。
真っ青な空に、白く薄い月。
鮮やかに咲き誇るお花。
金木犀の香り。
大好きな人の愛しい名前。
大好きなヒトノナマエ
「 」
ダレカ、ワタシニ、オシエテクダサイ。
「国を渡るのにチェックとかされないの?」
「この四カ国内に限りだけど、切符だけでいいんだよ」
「なーんか見えないお金と人の抜け道ここにありって感じだね」
「密入国や違法取引は盛んだろうね。路線に限り、各国も厳しく取り締まってないみたいだし」
「え、何で?犯罪なんでしょ?」
「さぁ、ぼくもわかんない。まっ、それで救われてるところもあるからね」
「そっか」
この二人は国内の無断乗車だけじゃなく密入国までした経験があるらしい。各国共通してバレないなら犯罪じゃないって法律があるのよ、きっと。
「それと、各国にはそれぞれ仕事や身分の特徴があるんだ。ウエストウッジは騎士や貴族が多く、ドルシュターとドルギュターは軍人や研究者が多い。ギュスリー国は職人や商人が多いね。もともと一つの国だったからそれぞれが住みやすい所に流れていったって話だよ」
「それでよく戦争にならないね。軍事力に秀でてるなら土地取り放題じゃん。職人商人は特に欲しいでしょ」
「大昔に、四つの国では戦争はしませんっていう条約を結んでるんだ」
「ふーん、何か大変だねぇ」
「微塵も思ってないくせに」
「我々庶民には関係ないこと!それよりも……」
向かいの椅子の上で四つん這いしながらしくしくと泣いているリビアに目をやる。ケツバットの痛みは凄まじいものであったと物語っている姿に、さすがに同情してしまう。
「いいの、あれは、放置で」
「でも……」
「あ!そういえばさ!きみの名前を決めようと思うんだ!例のあの名前じゃ呼びにくいし」
ジョニーは楽しそうにメモ帳を出すと、私に見せてきた。そこには、ハル、ナツ、アキ、フユ、アイ、ポチ、タマ、ハナコなどなど、たくさんの名前らしきものが書かれている。
「この中から選ぶの?」
「自分で考えてもいいよ」
「うーん」
名前を決めろといわれても何だかピンと来なくて、いっそのことタマにしようかと思ったら、「淫乱ネコ」「ネコ便器」「クソネコ」という新しいニックネーム候補をリビアが言ってきた。お礼にケツバットしてあげた。
「ぎゃああああ!!?」
「あ、でも、ハル、いいね」
「ハル?」
「春はたくさんのお花が咲く時期でしょ?お花好きだし、それに何か……懐かしい気持ちになるの。心がほっこりする」
「何が花だよ。性欲のが咲き乱れてんじゃねぇかよ」
また変に絡んでくるリビアに笑顔を向ける。
「さっきからどうしたの?」
「どうもこうも!お前のせいで俺のケツがっ!ケツがあああ!」
「それはダメよ、リビア。人のせいにするのは良くないこと」
「お前が「もっとほしい」とか言うから俺はだなぁ!俺のか細い理性の糸を切ったのはお前なんだぞ!それなのに俺だけケツバットとか納得いかねえ!」
「え、言った?」
「え、覚えてない?」
「いや何か……ずっと痺れてるっていうか、例えるなら、風船が何個も割れていくというか、その衝撃で何回も真っ白になってくというか……。そっちのが凄すぎて……ごめん、覚えてない」
「それってさ、ずっと……気持ち良かったって、こと?」
ものすっごく恥ずかしいけど、リビアの質問に小さく頷くと、満面の笑みで「よしよーし」と頭を撫で始めた。でもその手をジョニーが払い除けた。
「これ、ぼくのネコなんだけど」
この世のすべての闇を纏った救世主のお姿に、すぐに外の景色に目をやった。
「何回も言うように、ハルは無防備で無神経でバカ正直なバカネコだよ。だからって理性に負けていい理由にはならないよ」
とんでもねえもんが聞こえて、思わず会話に割り込んでしまった。
「ジョニーさんジョニーさん、私のことをそんな風に思ってたの?優しいふりをして内心真っ黒だったの?」
「違うよ。バカな子ほどかわいいっていうだろ?」
「それって褒めてる?」
「うん、めちゃくちゃ褒めてる。ハルはかわいいよ。世界一かわいい!」
「褒められた!」
「よしよし、かわいいぼくのお姫ネコ様」
頭やら耳を撫でるジョニーの手にゴロゴロが鳴り響く。頬がだらしなく緩むのは仕方がないことだ。だってジョニー、ネコの撫で方めちゃくちゃ上手いんだもの。
「掌握され過ぎだろ!何だよこの差は!何だって俺がこんな目に!」
リビアの叫びにジョニーも私も知らんふりを決め込んだ。
「そういえば、さっき……新しい名前で呼ばれたけど……」
「ハル、いいと思うよ。素敵な名前だね」
「……もっかい、呼んで?」
「んー、ハル、ハール、ハルー」
優しく頭を撫でられながらハルと呼ばれると、懐かしい気持ちになる。
幸せで、嬉しくて、花満開って感じで!
そして、猛烈に、胸が苦しい。
「……あれ?」
ポタリポタリと涙が流れる。
何度も拭っても流れ落ちる。
「ご、ごめんね!痛かった!?」
「違う違うよ」
嬉しかったの。
大好きなあなたに貰った名前。
大切に、大切に、しまってあるの。
心の奥に、それがあるの。
キレイなキレイな宝箱。
真っ青な空に、白く薄い月。
鮮やかに咲き誇るお花。
金木犀の香り。
大好きな人の愛しい名前。
大好きなヒトノナマエ
「 」
ダレカ、ワタシニ、オシエテクダサイ。
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