上 下
9 / 55
1章 長い長いプロローグ(後編)

初デート①

しおりを挟む
今日はジョージが出掛ける日。私がこの家に来てから初めての留守番だ。

トイレとご飯以外書斎から出ない。誰か訪ねて来ても絶対に出ない。窓から覗かない。居ないふりをする。

いつもと変わらない約束を結んで、ジョージは出掛けた。

ランディも一緒に留守番だけど、ランディには暇すぎるらしく、ジョージが出掛けて一時間で「つまらない」と言い出した。

「本でも読んだら?」
「読んだ本ばっかりだよ」
「運動でもしたら?」
「ハルも一緒にするならする」
「やだよ」

新しい名前を呼ばれるのに慣れない。こんなにも嬉しいのに、素っ気ない態度をしてしまう。

「もー……暇すぎる」

本当にやることがなくて暇なんだろう。ソファーに深くもたれ掛かる姿は、いつもピシッとしてるランディとは程遠い。

「楽しくても悲しくても時間は過ぎるものだよ」
「暇を楽しめってこと?」
「ううん、慣れろってこと」
「えー……無理だよ」

毎日こういう生活をしているから暇に慣れたけど、私よりも自由なランディにはちょっとキツイのかも。

「遊びに行っていいよ。留守番なら一人で出来るから。それこそいつもと変わらないわけだし」
「それはだめだよ。もし何かあったらどうするの?きみを守るのはぼくの仕事なんだよ」

だったらぐだぐだ言わず暇を潰せよって言いたいけど言えないから、わざとため息をこぼした。

「あ、そうだ!一緒に出掛けようよ!」

ランディの提案にひゅっと息を飲んだ。

「どうせ父さんは夜まで帰ってこないんだし、夕方までに帰ってくれば問題ないだろ」

いい提案だろって顔を向けられても何一つ賛同できないから、無言で首を振った。ジョージの約束は絶対なんだ。でもランディは私が断ることを見越してたらしい。わざとらしいため息を吐いた。

「外には楽しいことがいっぱいあるのに、ずーーーっとこの家から出られず、一生を終えるつもり?それがハルの幸せなの?色んなことを知りたいと思わないの?」

そう言われても外に何があるのか知らないし、知らないから興味もないわけで。それに外に出たら危険だ、みんなが幸せに生きる為にも約束は守るように口酸っぱく言われてる。

だからもう一度首を横に振った。

「……ハルの好きなパフェがいっぱいあるよ」
「にゃに?」

それはちょっと聞き捨てならないぞ。

「パンを売ってるお店も、アイスクリーム屋さんも、ケーキ屋さんも、何ならデザート食べ放題のお店だってあるよ。洋服だって本だってたくさんある」

外界にそんなすんげえものがあるなんて聞いたことないし、むしろ知ってたら連れて行ってって駄々捏ねるに決まってる。

外は危険どころか天国じゃないか。でも何でジョージは何も言ってくれなかったんだろ……

「父さんはハルを連れて行きたくないから内緒にしてたんだよ、きっと。変なところでケチだからなぁ、あのロリコン親父」
「にゃ!?そーいう理由にゃ!?」
「さて、ハル」

「いかがしましょう?」と言うランディの顔は勝者のそれだ。何を天秤にかけても勝つものは決まっている。

「お外に連れて行って!」
「仰せのままに、お姫様!」

ランディは私の手を取って走り出した。ジョージよりも小さいけど、私よりも大きくてドキドキする手。それとふれあってるだけで、庭も、花も、青い空も、ふわふわの雲も、いつもと違うものに見えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

処理中です...