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第二話
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昔、ソシャゲと呼ばれたゲームジャンルがあった。
語源から言えばソーシャルネットワークサービスをベースとしたゲーム、のはずだが、ユーザー同士のつながりは助っ人キャラの貸し出しや、多人数で倒すレイド戦と呼ばれるものがあったりなかったりと、ユーザー同士の繋がりはとても緩い。
むしろ、ユーザー同士のつながりよりは、ガチャを引いてキャラや装備を整えるという、ガチャゲーと言われるほうが実情に近かった。
ゲーム本体は無料。わずかな課金アイテムと、ガチャを引くための課金で運営されるソシャゲは、実質的にガチャによって運営されていた。
しかしガチャは重課金ユーザーの存在や、射幸心を煽るいくつかのやり方によって度々批判され、ついにはギャンブルと認定されるに至った。
ギャンブル認定により、ガチャを含むゲームは一律に18禁とされ、ソシャゲの市場は縮小した。だが、ガチャというやり方が完全に消えることはなかった。
そしてVR普及に伴って、ガチャを含んだ新しいゲームが誕生した。
しかし、新しいゲームが注目されるにはガチャだけでは弱く、もう一つ、ソシャゲの頃のコンテンツを組み合わせる必要があった。
それがエロだった。
かつてのソシャゲの中には、ダメージを受けたことを服の破れで示すものがあった。それらは際どい絵で表現されて、ガチャを引かせる要因の一つであった。
それはVRならばどうか。
完全3Dモデルで動くVRでは、服の破れは非常にセンシティブな問題だ。
動けば、見える。
当然といえば当然の話で、際どい衣装は見える衣装と同義とされたのだ。
見える。よろしいならば18禁だ。とばかりに破れた衣装を含めたゲームの尽くが18禁となることで、過去にギャンブルとして18禁の扱いになっていたガチャに再び注目が集まった。
ガチャ+エロの組み合わせは、かつてのソシャゲと同じ構造ながらも、VR空間内で大勢のキャラに囲まれる体験は多くのユーザーを虜にした。
そのゲームジャンルはハーレムゲーと呼ばれるようになった。
パッキーンと甲高い音を残して、水晶の敵が砕け散る。
金色の髪をたなびかせた女騎士は、振り切った剣をそのままにしばし佇む。その綺麗な横顔は凛とした瞳と相まって、一枚の絵画のようだ。
しばらくの後、やっと技後の硬直が解けた女騎士は剣を戻し、俺のほうを振り返えろうとして、すっ転ぶ。
「あ痛!」
振り返ろうとして転んだ女騎士の名前はアリス。何度目か、そうたったの何度かだ、何十回も引いていない、俺の記憶が確かなら。ガチャで引いた今回のピックアップキャラがアリスだ。
鍵の剣と鏡の盾を持つ、凛として美しい女性ながら、ドジっ子属性で不器用さが際立つ。
「あー、大丈夫かい、アリス。さあつかまって」
軽く駆け寄って手を差し伸べる。
ガチャで引いてからレベル上げに連れ出して、既に何日も経つ。キャラ毎の疲労があるから一日中ずっと戦いに出すことはないが、レベルは相応に上がっている。
それでも不器用なのはどうしようもないらしい。攻撃はクリティカルかミスのどちらかになることが多くて、通常のヒットが一番少ない有様だ。
「主様ー、痛いですー」
半べそのアリスを立てせてやってから、俺の後ろに控える仲間に頼む。
「オタケさん。回復お願い」
「はいはい、分かってますよ坊ちゃん」
すぐにオタケさんからお札が飛んで、アリスの服についていた土が消える。HPの回復と同時に鎧や衣服も治る面白仕様の魔法は、ダメージで服が破ける仕様から逆説的に発生したものらしい。
「ありがとうございます。オタケさん」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ。でもアリスちゃんもあんまり転ばないようにね。女性の肌に傷がついてはいけませんからね」
狐の耳と尻尾を持つオタケさんは、サポート主体の魔法キャラだ。お札を飛ばす通り、日本的なキャラ付けがされているらしく、着物の上に割烹着を着ている。
俺の手持ちのキャラの中ではかなりの古株だ。新しいキャラが加入する度にレベル上げに協力してもらっている。
敵の動きを止めたり、攻撃力を下げたりといったデバフ魔法も、今アリスを癒したような回復魔法も使えることから、新キャラのサポートにはとても便利だ。
なにしろ、このゲームはレベルを上げたいキャラをパーティーに入れるだけでは、あまり経験が入らない。敵に剣を振るったり、魔法を使ったりと行動を起こすことで経験が分配される仕組みだ。弱いからと言って、後ろで見させているだけでは成長できない。
背中に感触を覚えて、首だけで振り返る。
肩越しに不満そうな目が見える。
「どうしたレナ。オタケさん、レナにも回復をお願い」
「はいはい」と魔法を使うオタケさん。レナはその間ずっと口まで尖らせた不満そうな顔でこっちを見ている。
レナは戦闘では、攻撃力が弱いためにアリスのサポートに回ってもらうことが多い。
今回も次に倒す敵一体だけをアリスが相手をし、他の敵はレナがかく乱して時間を稼ぐ。回避盾の役割になる。アリスはドジだから、複数の敵に囲まれてはまともに攻撃をすることが出来ない。
レナはその役割を十分に果たしているし、回避行動や、攻撃力が弱くても攻撃を当てることで十分に経験値は手に入っているはずだ。実際、俺の眼で見るステータスウィンドウでは、アリスと比べてもレベルに遜色はない。
それに、このゲームでは上がった親密度が下がることはない。一度、親密度を最大まで上げてベタ惚れ状態にしてしまえば、指示を無視することもなくなる。
不満そうなのはそういうキャラなんだろうか。ツンデレ的な。
ツリ目気味の顔立ちは、ツンデレキャラで通しても変ではない。ただ、他にはそういうキャラがおらず、親密度さえ上げておけば、全員がデレデレの甘々で不満一つ洩らすことがなかった。ある意味、新鮮なキャラだ。
語源から言えばソーシャルネットワークサービスをベースとしたゲーム、のはずだが、ユーザー同士のつながりは助っ人キャラの貸し出しや、多人数で倒すレイド戦と呼ばれるものがあったりなかったりと、ユーザー同士の繋がりはとても緩い。
むしろ、ユーザー同士のつながりよりは、ガチャを引いてキャラや装備を整えるという、ガチャゲーと言われるほうが実情に近かった。
ゲーム本体は無料。わずかな課金アイテムと、ガチャを引くための課金で運営されるソシャゲは、実質的にガチャによって運営されていた。
しかしガチャは重課金ユーザーの存在や、射幸心を煽るいくつかのやり方によって度々批判され、ついにはギャンブルと認定されるに至った。
ギャンブル認定により、ガチャを含むゲームは一律に18禁とされ、ソシャゲの市場は縮小した。だが、ガチャというやり方が完全に消えることはなかった。
そしてVR普及に伴って、ガチャを含んだ新しいゲームが誕生した。
しかし、新しいゲームが注目されるにはガチャだけでは弱く、もう一つ、ソシャゲの頃のコンテンツを組み合わせる必要があった。
それがエロだった。
かつてのソシャゲの中には、ダメージを受けたことを服の破れで示すものがあった。それらは際どい絵で表現されて、ガチャを引かせる要因の一つであった。
それはVRならばどうか。
完全3Dモデルで動くVRでは、服の破れは非常にセンシティブな問題だ。
動けば、見える。
当然といえば当然の話で、際どい衣装は見える衣装と同義とされたのだ。
見える。よろしいならば18禁だ。とばかりに破れた衣装を含めたゲームの尽くが18禁となることで、過去にギャンブルとして18禁の扱いになっていたガチャに再び注目が集まった。
ガチャ+エロの組み合わせは、かつてのソシャゲと同じ構造ながらも、VR空間内で大勢のキャラに囲まれる体験は多くのユーザーを虜にした。
そのゲームジャンルはハーレムゲーと呼ばれるようになった。
パッキーンと甲高い音を残して、水晶の敵が砕け散る。
金色の髪をたなびかせた女騎士は、振り切った剣をそのままにしばし佇む。その綺麗な横顔は凛とした瞳と相まって、一枚の絵画のようだ。
しばらくの後、やっと技後の硬直が解けた女騎士は剣を戻し、俺のほうを振り返えろうとして、すっ転ぶ。
「あ痛!」
振り返ろうとして転んだ女騎士の名前はアリス。何度目か、そうたったの何度かだ、何十回も引いていない、俺の記憶が確かなら。ガチャで引いた今回のピックアップキャラがアリスだ。
鍵の剣と鏡の盾を持つ、凛として美しい女性ながら、ドジっ子属性で不器用さが際立つ。
「あー、大丈夫かい、アリス。さあつかまって」
軽く駆け寄って手を差し伸べる。
ガチャで引いてからレベル上げに連れ出して、既に何日も経つ。キャラ毎の疲労があるから一日中ずっと戦いに出すことはないが、レベルは相応に上がっている。
それでも不器用なのはどうしようもないらしい。攻撃はクリティカルかミスのどちらかになることが多くて、通常のヒットが一番少ない有様だ。
「主様ー、痛いですー」
半べそのアリスを立てせてやってから、俺の後ろに控える仲間に頼む。
「オタケさん。回復お願い」
「はいはい、分かってますよ坊ちゃん」
すぐにオタケさんからお札が飛んで、アリスの服についていた土が消える。HPの回復と同時に鎧や衣服も治る面白仕様の魔法は、ダメージで服が破ける仕様から逆説的に発生したものらしい。
「ありがとうございます。オタケさん」
「ええ、ええ、大丈夫ですよ。でもアリスちゃんもあんまり転ばないようにね。女性の肌に傷がついてはいけませんからね」
狐の耳と尻尾を持つオタケさんは、サポート主体の魔法キャラだ。お札を飛ばす通り、日本的なキャラ付けがされているらしく、着物の上に割烹着を着ている。
俺の手持ちのキャラの中ではかなりの古株だ。新しいキャラが加入する度にレベル上げに協力してもらっている。
敵の動きを止めたり、攻撃力を下げたりといったデバフ魔法も、今アリスを癒したような回復魔法も使えることから、新キャラのサポートにはとても便利だ。
なにしろ、このゲームはレベルを上げたいキャラをパーティーに入れるだけでは、あまり経験が入らない。敵に剣を振るったり、魔法を使ったりと行動を起こすことで経験が分配される仕組みだ。弱いからと言って、後ろで見させているだけでは成長できない。
背中に感触を覚えて、首だけで振り返る。
肩越しに不満そうな目が見える。
「どうしたレナ。オタケさん、レナにも回復をお願い」
「はいはい」と魔法を使うオタケさん。レナはその間ずっと口まで尖らせた不満そうな顔でこっちを見ている。
レナは戦闘では、攻撃力が弱いためにアリスのサポートに回ってもらうことが多い。
今回も次に倒す敵一体だけをアリスが相手をし、他の敵はレナがかく乱して時間を稼ぐ。回避盾の役割になる。アリスはドジだから、複数の敵に囲まれてはまともに攻撃をすることが出来ない。
レナはその役割を十分に果たしているし、回避行動や、攻撃力が弱くても攻撃を当てることで十分に経験値は手に入っているはずだ。実際、俺の眼で見るステータスウィンドウでは、アリスと比べてもレベルに遜色はない。
それに、このゲームでは上がった親密度が下がることはない。一度、親密度を最大まで上げてベタ惚れ状態にしてしまえば、指示を無視することもなくなる。
不満そうなのはそういうキャラなんだろうか。ツンデレ的な。
ツリ目気味の顔立ちは、ツンデレキャラで通しても変ではない。ただ、他にはそういうキャラがおらず、親密度さえ上げておけば、全員がデレデレの甘々で不満一つ洩らすことがなかった。ある意味、新鮮なキャラだ。
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