7 / 55
閑話 運営さんは忙しい
しおりを挟む
「班長~。今日の問い合わせ、どうします~」
「どうしますって、調べるしかないだろ。チュートリアルおじさん惨殺事件もあったんだし」
賃貸ビルのワンフロア、その一室であるこの部屋にはモニタの載った事務机が並んで居る。
窓はなく、外部との接点は入口のドア一つ。そのため、常に空調が動いており、机の下にあるパソコンや、ラックに収められたサーバーのファンと合わせて、低いごうごうとした音が流れている。
ユーザーからの要望、問い合わせ、クレーム。それらは全てこのサポート部門で受け取る。要望であれば「確かに承りました」と回答を返して企画部へ回す。問い合わせは簡単なものであればサポート部門で回答するし、難しいものであれば開発部へ確認する。クレームも要望と同じように企画部へ回すが、大抵は無視される。
サポート部門にとって一番面倒なのは、難しい質問の中でも開発部から突き返されたものだ。
今日もそんな問い合わせが入った。
曰く「クエストが途中で進まなくなった」。大抵は本人の勘違いで、クエスト内容のご案内はしておりませんで片付く話だが、今回のは複数のプレイヤーから同じ問い合わせが入っている。
場所が分かり難いのか、クエストのヒントが的外れなのか、次のキーになるNPCが見つからないという。
開発部からの回答は「そんなわけがない」では話にならない。
そのままユーザーに返したら間違いなくクレームになる。
それに「チュートリアルおじさん惨殺事件」のこともある。
本来、NPCへは攻撃出来ない。正確には攻撃したところでダメージを与えることは出来ない。それなのに、新規ユーザーが初めてログインするファーストの街で、チュートリアルの案内をするNPCが殺された事件が起こったのだ。
街の中は非戦闘区域に設定されていて、攻撃をしても攻撃力ゼロの判定になる。NPCの殺害どころか、傷をつけることも出来ない仕様だ。これは建物等の破壊が行えないように、武器だけでなく魔法にも適用される。
それなのになぜかNPCがバラバラになって転がっていたという事件だ。
複数のプレイヤーからの通報で発覚。すぐにNPCの復旧が行われたものの、どうやってバラバラにしたのかは不明。
開発部の見解は「不可能」。チートの疑いありとして、ログからファーストに居た全プレイヤーのステータスをチェックをするハメになったが、何も得られない結果で終わった。
バグにしろチートにしろ、原因が分からない以上はいつか再発する。
「カメラ起動してNPCを確認してくれ」
今回のクエストNPCは昼も夜も同じ場所に居るはずだ。カメラで確認が出来れば、プレイヤーの勘違いで終わる。だが、カメラで確認したNPCは近くの路地でバラバラの死体になっていた。
「班長~」
「うるせえ、他の手がないんだからやるしかないだろ。全員でやるぞ、とっとと端末起動してログ引っ張って来い」
サービス開始から一年。やっとバグの量も落ち着き、問い合わせの量も減ったはずだが、サポート部門の仕事は一向に減らなかった。
「どうしますって、調べるしかないだろ。チュートリアルおじさん惨殺事件もあったんだし」
賃貸ビルのワンフロア、その一室であるこの部屋にはモニタの載った事務机が並んで居る。
窓はなく、外部との接点は入口のドア一つ。そのため、常に空調が動いており、机の下にあるパソコンや、ラックに収められたサーバーのファンと合わせて、低いごうごうとした音が流れている。
ユーザーからの要望、問い合わせ、クレーム。それらは全てこのサポート部門で受け取る。要望であれば「確かに承りました」と回答を返して企画部へ回す。問い合わせは簡単なものであればサポート部門で回答するし、難しいものであれば開発部へ確認する。クレームも要望と同じように企画部へ回すが、大抵は無視される。
サポート部門にとって一番面倒なのは、難しい質問の中でも開発部から突き返されたものだ。
今日もそんな問い合わせが入った。
曰く「クエストが途中で進まなくなった」。大抵は本人の勘違いで、クエスト内容のご案内はしておりませんで片付く話だが、今回のは複数のプレイヤーから同じ問い合わせが入っている。
場所が分かり難いのか、クエストのヒントが的外れなのか、次のキーになるNPCが見つからないという。
開発部からの回答は「そんなわけがない」では話にならない。
そのままユーザーに返したら間違いなくクレームになる。
それに「チュートリアルおじさん惨殺事件」のこともある。
本来、NPCへは攻撃出来ない。正確には攻撃したところでダメージを与えることは出来ない。それなのに、新規ユーザーが初めてログインするファーストの街で、チュートリアルの案内をするNPCが殺された事件が起こったのだ。
街の中は非戦闘区域に設定されていて、攻撃をしても攻撃力ゼロの判定になる。NPCの殺害どころか、傷をつけることも出来ない仕様だ。これは建物等の破壊が行えないように、武器だけでなく魔法にも適用される。
それなのになぜかNPCがバラバラになって転がっていたという事件だ。
複数のプレイヤーからの通報で発覚。すぐにNPCの復旧が行われたものの、どうやってバラバラにしたのかは不明。
開発部の見解は「不可能」。チートの疑いありとして、ログからファーストに居た全プレイヤーのステータスをチェックをするハメになったが、何も得られない結果で終わった。
バグにしろチートにしろ、原因が分からない以上はいつか再発する。
「カメラ起動してNPCを確認してくれ」
今回のクエストNPCは昼も夜も同じ場所に居るはずだ。カメラで確認が出来れば、プレイヤーの勘違いで終わる。だが、カメラで確認したNPCは近くの路地でバラバラの死体になっていた。
「班長~」
「うるせえ、他の手がないんだからやるしかないだろ。全員でやるぞ、とっとと端末起動してログ引っ張って来い」
サービス開始から一年。やっとバグの量も落ち着き、問い合わせの量も減ったはずだが、サポート部門の仕事は一向に減らなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる