未開惑星保護機構

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街角調査隊

2.街への旅

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 翌日の朝、街へ帰る準備をする兵士たち。その隣には、旅支度をしたアリッサとアメリアが居た。
 これから彼らと共に街へ向かうのだ。
 旅支度とは言っても片道二日の旅、中央のように鞄一つに着替え数枚、とまではいかないが荷物はそれほど多くはない。

 丈夫な上着に皮のマントを身に着ける。
 マントは寝るときの敷き布代わりにも雨具代わりにも使える防水性の物だ。
 それに背負い袋と、水が入った小さな木筒を身に着ける。

 アリッサもアメリアも似たような格好だ。二人それぞれにダボダボの服を着ているから何か滑稽だ。

 アリッサは大きな服の袖や足元を折り返して、手足の動きに支障がないようにはしているものの、アリッサの腕に比べて袖は倍以上の余裕がある。
 足もそうだ。あの太さのズボンにはアリッサの足が何本通せるだろうか、ひょっとしたら片足の穴に両足を通して、腰まで入り込めるかもしれない。

 アメリアは、手足は相応の太さの服を着ている。ただ、尻尾を出すための穴と、背中の羽を入れっぱなしにしている上着とで、随分と太いシルエットになる。

 そんな二人が旅用のマントと背負い袋を身に着けると、身長の低さと相まって随分と丸く見える。

「それでは出発しよう」

 騎士の合図で、一行は村を出る。
 先頭に騎士と文官が並び、すぐ後ろに荷車を引いた兵士が、荷車の後ろにもう一人の兵士がいる。アリッサとアメリアは最後尾だ。

 荷車の上には縛られた二人の男と、手下の男達を処分した証拠が乗っている。
 縛られた男は、集団の首領と副首領にあたるらしく、街で公開処刑にするようだ。

 罪人を歩かせずに荷車に乗せていくのはこのあたりの文化だ。
 普通の旅は歩くもの、人を乗せることを目的とした馬車ならともかく、荷車に乗るのは歩くことも出来ない重病人か罪人くらいのものだ。そこには人として扱われていないという意味を含む。

 そのため魔物との戦いで怪我をした兵士や探索者は、荷馬車で運ばれるのは非常に嫌がる。それが歩けないほどの重傷であってもだ。
 大抵の場合には装備や荷物だけを荷車に乗せて、怪我人は誰かが背負って歩くことになる。

 アリッサとアメリアが彼らに同行しているのは、街に用事が出来たからだ。
 別に彼女の強さを当てにして、護衛の依頼をされたわけではない。

 用事といいうのはアメリアに関わることだ。
 村ではアメリアは迷子でそれを保護した、ということになっている。本当は勇者にどこからか連れて来られたとしても、それを表に出すわけにはいかない。

 だから村に巡回にくる商人には、付近の村で迷子が出ていないかを、形だけとは言え確認してもらったし、オーガ騒ぎで久々に村に来た兵士にもそう説明してある。
 そして今回、村に来た騎士からの提案はこうだ。「街で似顔絵を作ってはどうだ」と。

 街まで行けば、尋ね人や手配犯のための似顔絵を作る役目の者がいるのだそうだ。そこで似顔絵を作り、アメリアの特徴と合わせた資料をまとめておく。それがあれば、誰かがアメリアを探しに来たときに兵士が対応できる、と。

 あくまで対応できるのは、街までアメリアを探しに来た場合だけではある。
 しかし、迷子という以上、少女の足で移動出来る範囲だけ。探す人がいたとして、街に資料があるだけで十分と考えられる。近隣の農村をまとめる街に。

 実際はこの星の生まれかも定かではない。だが、それが分かるのは勇者が取り調べに応じてからだ。
 迷子という体裁を整えるためにも、街で、いわば迷子の証拠となる書類を作っておくのも悪くはない。

 体裁を整えるという程度の意味。その書類を作ったからと言って、アメリアの故郷が判明する可能性はほぼない。たまたま、勇者がさらった少女の生まれが、この街の近くだった。ありえないだろう。
 それでも手間を掛けて街まで往復するのはもう一つ理由がある。

 アリッサの所に住むようになってそれなりに経った。始めの頃のように夜中に目が覚めて泣くこともなくなり、昼間もずっとアリッサの服を掴んで離さないということもなくなった。
 まだアリッサが見える範囲からは離れようとしないが、少しずつ改善してきてはいる。
 しかし、まだ話せない。こちらの言葉は理解しているから、いつ話し出しても良いように思えるが、未だに会話が出来ないのだ。

 村にいると刺激が少ない。日々同じ環境でゆっくりと回復させることも必要だが、そろそろ多少の刺激があった方が回復しやすいのではないか。
 そんなわけで、アリッサはアメリアを連れて街まで行くことになったのだ。

 道をのんびりと進む。
 道行きの速度は、荷車の速度だ。荷車を引く兵士は二人が交代しながら引いている。その速度が一番遅い。
 アリッサもアメリアも平気な顔で後ろをついて歩いている速度でも、荷車を引く兵士は汗を掻いている。

 平坦な道ではあっても、整備された道ではない。
 雨がふれば水たまりになるだろう凹みが、道の至る所にある。引いている兵士にとっては、小さな坂が連続してあるようなものだ。

 交代のついでとばかりに、兵士は荷車に置いてある革袋から水を飲む。袋は数人で使いまわす大きなものだ。
 防水処理の都合なのか、革の水袋には小さいものがない。そのため、飲むにしても直接は口をつけずに、少し離したところから口に向かって注ぎ込むようにして飲む。歩きながらでは難しい飲み方だから、荷車の引き役交代で止まった時が飲みやすい。

 兵士が水を飲んでるのを見て、アリッサも自分の物を一口飲む。こちらは木筒で作られた個人用の小さなものだ。アメリアも真似するように木筒を手に取って飲む。

 探索者には木筒の個人用の水筒が人気だ。革の水袋は大きいから運ぶにも重いし、万が一破れたら全員の水がダメになる。木筒だって壊れないわけではないが、壊れても一人分だ。仲間と逸れた場合の備えも兼ねて、個々人で持ち歩くことが多い。

 革の水袋ではなく、胃袋を加工した水袋もないではないが、それらは運搬用としてよりも加工用として使われる。
 故事として伝わる「羊の胃袋にミルクを入れて運んだらチーズが生まれた」というやつだ。開拓民が伝えたのか、誰かが再発見したのか、この惑星でもチーズの作り方は広まっている。

 家畜の胃袋は大量には出回らない。そのため、胃袋は水袋としては使われず、チーズを作るための道具として扱われる。

 道の両側には畑が続いている。畑のあぜ道より多少広いくらいの街道は荷車を引くには問題ないが、二台の荷車がすれ違うほどの幅はない。その時は、街道と畑の間にある草むらに乗り込むことになるだろう。

 時折、畑仕事をしている村人や、彼らの住む家が見える。家が数軒見えたら、そこは村だ。この辺りには小さな村が点在している。
 そして家があることで村の所在は知れても、どの畑がどこの村のものなのかは判断が難しい。余所者にとっては、だが。

 いくつかの村を通り過ぎ、日暮れ前には今日泊まる村に着く。
 村には巡回兵用に小さな空き小屋がある。その小屋は今日はアリッサとアメリアの、見た目は少女の二人に提供してくれると言う。騎士と兵士は犯罪者の見張りも兼ねて、荷車の傍で寝るらしい。

 夕食と朝食は、村人が作った食事を買い取ることで得た。
 ダンジョンのある村と街の間を行き来する探索者と同じやり方だ。探索者が何度も往復する中で、村人との取り決めが出来たらしい。

 これは村人にとっても利益になる。作物は、自分たちの食べる以外は、商人に売っている。買った商人は、運ぶ手間賃をのせて街で売る。
 ところが、探索者に食事として売るならば、街で売る作物の値段よりもさらに上がる。

 料理の手間はあっても、自分たち村人の分を作るときに一緒に作るだけだ。量を増やすだけの手間で、作物をそのまま売るよりも、高く売れるのがうれしいようだ。

 翌朝、村の井戸で水を補充してから出発する。
 晴れた空、暖かい日差し。旅をするには良い気候だ。ただ、荷車を引く兵士は、恨めしそうに太陽を睨んでいた。
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