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勇者捜索隊
3.皆の集まる宿屋
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日が暮れるころには、この村唯一の宿に人が集まる。
とは言っても小さな、村というのもはばかるような小さな村である。なにしろ、建物というものが宿屋と雑貨屋の二軒しかない。それ以外には住宅すらない、僅かに、ダンジョンに来た探索者の中で、宿代をケチった者がテントを張っているくらいだ。
そんな宿屋だから、食事を保存食で済ませるのでもなければ、村に居る人々は全員が宿屋に集まることになる。
その日も街から来た商人が居たこともあり、宿屋は盛況と言って良いだけの人々をその狭い食堂に集めていた。そして雑貨屋に居た二人も夕食を取りに食堂に入る。
「あっちゃー。席が一杯じゃねーか」
その言葉の通り、テーブル二つとカウンター席があるだけの狭い食堂は、全ての席が埋まっていた。
食堂は魔法の明かりに照らされて、昼間と遜色ない明るさとなっている。そこでは注意深く探す必要もなく、全ての席が見渡せる。
「おや、アリッサにアーロン、今日は遅いじゃないかい。見ての通り席が足りないから、予備を椅子を出してちょうだい」
料理を運んでいた女性は二人に声を掛けると、壁際に重ねてある予備の椅子を顎で示す。
整った顔立ちではあるがツリ目のその女性は、店員と客の立場なんて気にもせず他人を顎で使うのに躊躇がない。
褐色の肌と尖った耳は、この惑星ではダークエルフと呼ばれる部族、に似ている。
似ているだけで彼女はこの惑星の生まれではないため、ダークエルフと呼ぶのは本来なら間違いなのだろう。ただ、この惑星の生まれでないということはアリッサとアーロン同様に隠しているため、ダークエルフだということになっている。
スレンダーな体形をしたスピードファイターでもある。この惑星のダークエルフは凹凸の激しい体形の者が多いらしく、森を出てこんな所で宿屋をやっていることも含め『変り者』という扱いをされている。
「おら、詰めろ詰めろ」
「おいおい嬢ちゃん、こっち来るのかよ。しゃーねーなー」
「うっせ、美少女が隣に座るんだ、喜べ」
「美少女を名乗るんなら、その言葉使いをどうにかしろや」
のアリッサはそんな会話を交わしながら、カウンターの端に椅子を追加する。
カウンターに座っていた探索者の二人組は、文句を言いながらも、席をずらしてスペースを作る。
常連の二人はアリッサとも知り合いだ。小人系の血が混じる小柄な男と、巨人系の血が混じる大男。文字通りの凸凹コンビである。
商人が来るだけで、商人とその護衛で半分は埋まる小さな食堂だ。
探索者が何人居るかはその時々とは言え、席が無くなることもたまにはある。椅子を持って来て自分のスペースを確保するのも手慣れたものだ。
もう一人の大男のアーロンは、同じ護衛仲間のテーブルに行ったようだ。商人も護衛も、探索者も、食堂にいる全員が顔見知りだからこそ、調整も簡単にすむ。
席についてすぐに食事が配膳される。ここでの食事は日替わり一択だ。メニューはない。
今日はシチュー。暖かく湯気があがる白いスープには、握りこぶし程のサイズの丸いパンが添えられている。
(味は悪くないんだがな)
現地に合わせたメニューになるため、どうしても種類が偏る。主に材料の問題で。
いくら過去の開拓者たちが、様々な作物を持ち込んだとは言え、一年中新鮮な野菜が手に入るわけでもなく、季節によって手に入るものは変わる。
別のチームが行った事前調査では、移動手段は馬車などの動物を動力としたものしかなかったし、ビニールやプラスチックなどの合成樹脂を素材とした物も確認できていない。
魔力の圧縮や蓄積についても、子供の工作レベルでしかないという。
確かにそれでは流通速度も限られるし、原始的な環境制御であるビニールハウスすら作れない。
かろうじて、開拓団が残した広域環境制御装置は生きているらしく、テラフォーミングされた環境は維持出来てはいる。それはかつての開拓団の子孫である現地人や、この惑星に配属された保護官が普通に生活出来ていることからも明らかだ。
だが、生活出来ることと、快適に過ごせることには、大きな大きな溝がある。
雑貨屋に品切れで商品が何もないように、宿屋で買い込んである食品にだって限りはあるし、注文したからと言って直ぐに届くわけでもない。
その結果、どうしても宿屋のメニューは日替わりと言いつつそれほどの種類はなくなる。料理をしてもらっておいて悪いが、食べ飽きてしまう。
そんなことを思いながらも、食事は綺麗に食べきる。皿に残ったスープもパンで拭い、食べ残しもない綺麗な皿が出来上がる。
「相変わらず食べるの早いわね。はい、お茶」
「おう、ありがとうクロエ」
お茶を受け取ると、代わりとばかりに皿が下げられる。
何のハーブを使っているのかは知らないが、さっぱりとしたお茶は、この宿屋の食後の定番だ。
お茶をゆっくりと飲む間に、先に食事を始めていた面々は食堂を出ていく。
護衛、探索者、それぞれのチームで出ていくのは三々五々という言葉が近いが、生憎、三、三、五、五と並べるには人数が足りない。そんな人数はこの食堂には入りきらない。
食堂をでた人たちは、明日の準備をしてすぐ眠りにつくだろう。
この惑星の夜は早い。未だに明かりと言えば動物性の油を使ったものか、初歩的な魔法を使った小さな明かりが中心だ。
魔力を封じ込めた魔道具での明かりは、金持ちの屋敷でしか使われていないらしい。そのため、夜暗くなったら寝て、朝明るくなったら起きる、というのが庶民の生活になる。
この宿屋のように、主人夫婦が昼間と同じくらいの明かりを魔法で点けているというのは、実は少数派だ。
料理を運んでいたダークエルフ擬きのクロエ、そして食堂の中には滅多に顔を出さないが、料理を担当しているエリックの夫婦はアリッサやアーロンと同じ保護官だ。
現地惑星での架空の身分としてエリックとクロエは夫婦で宿屋の主人をしている。この二人は本当に夫婦で、夫婦揃って保護官をしている。
実のところ、夫婦で保護官というのはそれほど珍しくはない。現地惑星で秘密を抱えたまま過ごす保護官にとって、気が許せるのは同僚の保護官くらいしかいない。そして現地の任期は数年に渡る。
そのため、チームの中でくっつく奴はそれなりに居るのだ。もっとも、この二人が夫婦になったのは、今のチームに入るより前の話で、どういう経緯だったのかアリッサは知らない。
お茶を飲み終わるとクロエに礼を言って食堂を出る。
アーロンはとっくに護衛仲間と一緒に宿の部屋へ戻っている。明日の朝からこの村を出て街まで商人の護衛と決まっているからだ。
荷物はアリッサの店から仕入れた魔物素材と、他の村から仕入れた野菜などの作物。この野菜については、いくらか宿屋に卸してもいる。
そんなわけで朝から出発が決まっているアーロンはすぐに寝るだろう。
アリッサも普通の雑貨屋の主人であれば、すぐに寝るところだ。ただ保護官としてのアリッサにはもう少しだけ仕事が残っている。
自身の店に戻り、店舗から私室へ。その更に奥、寝室の隠し扉を抜けてダンジョンの最深部へと進む。
この惑星でダンジョンと言われる場所。それは古代文明の遺跡、と認識されている。
現代では解析すらままならないオーバーテクノロジーを持ち、かつて栄華を極めた古代文明、それが滅びた後の遺跡なのだと。
その推測は半分は合っている。かつての大開拓時代、この惑星に降り立った開拓民達は、現在の惑星文明から見ればオーバーテクノロジーを持っていたし、その後、中央から孤立することで衰退していったのだから。
しかし、開拓民は滅びたわけではない。
補給が途絶えたことで、住処としていた都市や、移民船の維持が困難となった。しかし、最低限、テラフォーミングのための機能は存続させる必要があった。少ないリソースを集約し、テラフォーミングを維持するためには居住区を停止させる必要があった。
開拓民は居住を外部、原始的な手段で作られた集落に移していった。環境が定着する前にテラフォーミングが停止すれば、開拓民たちの全滅は免れない。便利で慣れた生活を捨てる決断は、苦渋に満ちたものだったことだろう。
その後、世代が交代するにつれてかつての都市の知識は失われていく。
新しく装置を作ろうにも、設備も部品もなく、部品を作るための設備もなく、設備を作るための材料すら用意出来ないとあっては、それらの技術は失われる以外になかった。
そうして長い年月を掛けて、集落に移動した人々は自らの出自を忘れた。ダンジョンは滅びた遺跡、古代文明の遺跡と認識されるに至ったのだ。
そういう意味ではアリッサの歩くダンジョンは少し異なる。
このダンジョンが生まれたのは、ほんの数カ月前であり、その設備は全て生きている。なにしろ、ダンジョンの核になっているのは、アリッサたち保護官が、この惑星に来るために使用した宇宙船だからだ。
とは言っても小さな、村というのもはばかるような小さな村である。なにしろ、建物というものが宿屋と雑貨屋の二軒しかない。それ以外には住宅すらない、僅かに、ダンジョンに来た探索者の中で、宿代をケチった者がテントを張っているくらいだ。
そんな宿屋だから、食事を保存食で済ませるのでもなければ、村に居る人々は全員が宿屋に集まることになる。
その日も街から来た商人が居たこともあり、宿屋は盛況と言って良いだけの人々をその狭い食堂に集めていた。そして雑貨屋に居た二人も夕食を取りに食堂に入る。
「あっちゃー。席が一杯じゃねーか」
その言葉の通り、テーブル二つとカウンター席があるだけの狭い食堂は、全ての席が埋まっていた。
食堂は魔法の明かりに照らされて、昼間と遜色ない明るさとなっている。そこでは注意深く探す必要もなく、全ての席が見渡せる。
「おや、アリッサにアーロン、今日は遅いじゃないかい。見ての通り席が足りないから、予備を椅子を出してちょうだい」
料理を運んでいた女性は二人に声を掛けると、壁際に重ねてある予備の椅子を顎で示す。
整った顔立ちではあるがツリ目のその女性は、店員と客の立場なんて気にもせず他人を顎で使うのに躊躇がない。
褐色の肌と尖った耳は、この惑星ではダークエルフと呼ばれる部族、に似ている。
似ているだけで彼女はこの惑星の生まれではないため、ダークエルフと呼ぶのは本来なら間違いなのだろう。ただ、この惑星の生まれでないということはアリッサとアーロン同様に隠しているため、ダークエルフだということになっている。
スレンダーな体形をしたスピードファイターでもある。この惑星のダークエルフは凹凸の激しい体形の者が多いらしく、森を出てこんな所で宿屋をやっていることも含め『変り者』という扱いをされている。
「おら、詰めろ詰めろ」
「おいおい嬢ちゃん、こっち来るのかよ。しゃーねーなー」
「うっせ、美少女が隣に座るんだ、喜べ」
「美少女を名乗るんなら、その言葉使いをどうにかしろや」
のアリッサはそんな会話を交わしながら、カウンターの端に椅子を追加する。
カウンターに座っていた探索者の二人組は、文句を言いながらも、席をずらしてスペースを作る。
常連の二人はアリッサとも知り合いだ。小人系の血が混じる小柄な男と、巨人系の血が混じる大男。文字通りの凸凹コンビである。
商人が来るだけで、商人とその護衛で半分は埋まる小さな食堂だ。
探索者が何人居るかはその時々とは言え、席が無くなることもたまにはある。椅子を持って来て自分のスペースを確保するのも手慣れたものだ。
もう一人の大男のアーロンは、同じ護衛仲間のテーブルに行ったようだ。商人も護衛も、探索者も、食堂にいる全員が顔見知りだからこそ、調整も簡単にすむ。
席についてすぐに食事が配膳される。ここでの食事は日替わり一択だ。メニューはない。
今日はシチュー。暖かく湯気があがる白いスープには、握りこぶし程のサイズの丸いパンが添えられている。
(味は悪くないんだがな)
現地に合わせたメニューになるため、どうしても種類が偏る。主に材料の問題で。
いくら過去の開拓者たちが、様々な作物を持ち込んだとは言え、一年中新鮮な野菜が手に入るわけでもなく、季節によって手に入るものは変わる。
別のチームが行った事前調査では、移動手段は馬車などの動物を動力としたものしかなかったし、ビニールやプラスチックなどの合成樹脂を素材とした物も確認できていない。
魔力の圧縮や蓄積についても、子供の工作レベルでしかないという。
確かにそれでは流通速度も限られるし、原始的な環境制御であるビニールハウスすら作れない。
かろうじて、開拓団が残した広域環境制御装置は生きているらしく、テラフォーミングされた環境は維持出来てはいる。それはかつての開拓団の子孫である現地人や、この惑星に配属された保護官が普通に生活出来ていることからも明らかだ。
だが、生活出来ることと、快適に過ごせることには、大きな大きな溝がある。
雑貨屋に品切れで商品が何もないように、宿屋で買い込んである食品にだって限りはあるし、注文したからと言って直ぐに届くわけでもない。
その結果、どうしても宿屋のメニューは日替わりと言いつつそれほどの種類はなくなる。料理をしてもらっておいて悪いが、食べ飽きてしまう。
そんなことを思いながらも、食事は綺麗に食べきる。皿に残ったスープもパンで拭い、食べ残しもない綺麗な皿が出来上がる。
「相変わらず食べるの早いわね。はい、お茶」
「おう、ありがとうクロエ」
お茶を受け取ると、代わりとばかりに皿が下げられる。
何のハーブを使っているのかは知らないが、さっぱりとしたお茶は、この宿屋の食後の定番だ。
お茶をゆっくりと飲む間に、先に食事を始めていた面々は食堂を出ていく。
護衛、探索者、それぞれのチームで出ていくのは三々五々という言葉が近いが、生憎、三、三、五、五と並べるには人数が足りない。そんな人数はこの食堂には入りきらない。
食堂をでた人たちは、明日の準備をしてすぐ眠りにつくだろう。
この惑星の夜は早い。未だに明かりと言えば動物性の油を使ったものか、初歩的な魔法を使った小さな明かりが中心だ。
魔力を封じ込めた魔道具での明かりは、金持ちの屋敷でしか使われていないらしい。そのため、夜暗くなったら寝て、朝明るくなったら起きる、というのが庶民の生活になる。
この宿屋のように、主人夫婦が昼間と同じくらいの明かりを魔法で点けているというのは、実は少数派だ。
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実のところ、夫婦で保護官というのはそれほど珍しくはない。現地惑星で秘密を抱えたまま過ごす保護官にとって、気が許せるのは同僚の保護官くらいしかいない。そして現地の任期は数年に渡る。
そのため、チームの中でくっつく奴はそれなりに居るのだ。もっとも、この二人が夫婦になったのは、今のチームに入るより前の話で、どういう経緯だったのかアリッサは知らない。
お茶を飲み終わるとクロエに礼を言って食堂を出る。
アーロンはとっくに護衛仲間と一緒に宿の部屋へ戻っている。明日の朝からこの村を出て街まで商人の護衛と決まっているからだ。
荷物はアリッサの店から仕入れた魔物素材と、他の村から仕入れた野菜などの作物。この野菜については、いくらか宿屋に卸してもいる。
そんなわけで朝から出発が決まっているアーロンはすぐに寝るだろう。
アリッサも普通の雑貨屋の主人であれば、すぐに寝るところだ。ただ保護官としてのアリッサにはもう少しだけ仕事が残っている。
自身の店に戻り、店舗から私室へ。その更に奥、寝室の隠し扉を抜けてダンジョンの最深部へと進む。
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現代では解析すらままならないオーバーテクノロジーを持ち、かつて栄華を極めた古代文明、それが滅びた後の遺跡なのだと。
その推測は半分は合っている。かつての大開拓時代、この惑星に降り立った開拓民達は、現在の惑星文明から見ればオーバーテクノロジーを持っていたし、その後、中央から孤立することで衰退していったのだから。
しかし、開拓民は滅びたわけではない。
補給が途絶えたことで、住処としていた都市や、移民船の維持が困難となった。しかし、最低限、テラフォーミングのための機能は存続させる必要があった。少ないリソースを集約し、テラフォーミングを維持するためには居住区を停止させる必要があった。
開拓民は居住を外部、原始的な手段で作られた集落に移していった。環境が定着する前にテラフォーミングが停止すれば、開拓民たちの全滅は免れない。便利で慣れた生活を捨てる決断は、苦渋に満ちたものだったことだろう。
その後、世代が交代するにつれてかつての都市の知識は失われていく。
新しく装置を作ろうにも、設備も部品もなく、部品を作るための設備もなく、設備を作るための材料すら用意出来ないとあっては、それらの技術は失われる以外になかった。
そうして長い年月を掛けて、集落に移動した人々は自らの出自を忘れた。ダンジョンは滅びた遺跡、古代文明の遺跡と認識されるに至ったのだ。
そういう意味ではアリッサの歩くダンジョンは少し異なる。
このダンジョンが生まれたのは、ほんの数カ月前であり、その設備は全て生きている。なにしろ、ダンジョンの核になっているのは、アリッサたち保護官が、この惑星に来るために使用した宇宙船だからだ。
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