ある魔法都市の日常

工事帽

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御者の秋山さん3

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 ガタン、ガタンと荷車が進む。
 ゆっくりと進む荷車には、いくつもの木箱が載せられていて、とても重そうに見える。
 少しだけはみ出して見えるのは、野菜の葉。
 木箱には、一杯に農家から買い取った野菜が詰められていた。

 ガタン、ガタンと荷車が進む。
 ゆっくりと進む荷車は、牛が引いていた。
 御者台の上には鎧姿。その頭は小脇に抱えられていて、首の上には何も乗っていない。
 木箱の量だけでなく、そのせいもあるのか、荷車はとても重そうに見える。

 見た目の印象が真実なのかどうか。それは荷車を引いている牛だけが知っている。
 御者台にいる男は、ただ手綱をさばくのみだ。

 荷車は街道を通り、街へ入る。
 さらに進んで大きな敷地へ。
 そこは、野菜や果物の卸売りをしている商会の敷地だった。

 そこは多くの荷車が所狭しと並んでいた。
 荷車の大半は、柱と屋根だけの建物の下に置かれている。そして、荷車から木箱を下ろす人達。逆に木箱を積み込む人達。
 その敷地は喧騒に包まれていた。

 農家から引き取って来た荷物は倉庫へ、倉庫から取り出した荷物はお客の店へ。
 朝市に並ぶものもあるが、それを積み込むのは時間帯が違う。昼を過ぎたこの時間に運び込むのは、夜に店を開く飲み屋や、宿付きの食堂だ。

「おう、秋山、戻ったか」

 荷車を止めるなり、目ざとく声をかけてくる者がいる。

「ええ。忙しそうですね」
「おおよ。今日出す分が足りなくてな。一度倉庫に入れて検品したら、すぐに出荷だ」
「え、本当に?」
「嘘ついてどうする。急いで下ろしてくれ。おーい、手を貸してくれ、二人でいい」

 そうして、人を呼んですぐに荷物を運び始める。
 御者台にいた鎧姿の男は、慌てて小脇に抱えていた頭を、兜ごと首の上に固定する。

 この御者はデュラハンであり、頭は普段、小脇に抱えている。
 兜と鎧の首元につけられた金具を固定すれば、他の多くの種族のように、首の上に頭をのせることは出来る。
 だが、高いところに頭を置くのは、どうにも危険に思えて必要なときにしか行わない。必要な時というのは、今のように両手を使わなければいけない時だ。

 急いで頭を固定している間に。手伝いの二人も荷物を抱えて歩きだす。
 今は収穫される野菜が多い時期だ。普段は見かけない日雇いも多い。
 知らない顔だなと目をやれば、身に着けた手袋に隠れるようにして、手首に腕輪が見えた。

「あちゃ」

 御者の男も荷物を抱えて歩き出すが、先の二人とは微妙に距離を取る。
 荷車いっぱいの荷物は、四人で運んでも一往復した程度ではなくならない。荷車から検品の場所まで、何往復も歩く、その間、御者の男はずっと二人から距離を取って運んでいた。

「よし、あんがとな。次はあっちを手伝ってやってくれ」

 荷物を運び終わって、手伝いの二人が検品場所を離れる。

「じゃあ、荷車片付けてきますので」
「秋山、お前はちょっと待て」

 男が御者の男を呼び止める。

「お前、あの二人から離れて運んでただろ。どういうつもりだ」
「え、いや、あの、腕輪が……」

 怯えたように御者の男が言う。

「お前なー、凶悪犯じゃあるまいし、腕輪程度でビビッてんじゃねえ!」
「でも、もしかしたら……」
「もしかも何も、お前みたいな全身鎧のやつに絡んでくるヤツなんていねえよ!」

 騒々しい倉庫に、怒鳴り声が一つ加わった。
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