ある魔法都市の日常

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酒場の尾華さん4

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 カランコロン。
 ベルが扉が開くのに合わせて軽い音をたてる。
 入ってすぐにカウンター。木で統一された内装が、少し暗い照明に照らされている。
 他にお客の姿はないのも含めて、いつも通りの店内。カウンターの内側にあるキッチンでは、尾華さんが何か作業をしている。

「あら、いらっしゃい」
「こんばんわ」

 いつもの挨拶を交わして、席に座る。

「濃いほうのワインと食事をお願いします」
「鳥肉でいいかしら?」
「ええ」
「ニンニクはどうする?」
「なしでお願いします」

 簡単なやりとりの後で、ワインが入ったコップが出て来る。
 チビチビと舐めるように飲みながら、鳥肉を焼く尾華さんを、なんとなく眺める。

 ニンニクは、最近この店で扱い始めた調味料だ。
 肉の味を引き立てて、今までよりも美味しくはなるのだが、如何せん臭いがキツい。以前にそれと知らずに食べてしまって、翌日は工房の皆から距離を置かれてしまった。
 私が知ったのはこの店で扱い出してからだが、あるパン屋ではガーリックトーストという名前でニンニクを塗ったパンが売られているらしい。それを教えてくれた同僚は、わざわざニンニクという言葉を使わないのは、パン屋の罠に違いないと言っていた。

「はいどうぞ」
「ああ、どうも」

 カタンと音を立てて置かれた皿には、焼き立ての鳥肉ステーキが、パチパチと音を立てている。
 今日のステーキも美味しそうだ。

 食べ終えて、残りのワインを飲みながら、少しゆったりとする。
 一食分の時間が経っても、他の客は入って来ない。
 客がいないのだから、注文が入っていない状態だ。それでも、店主の尾華さんはキッチンで何か作業をしている。

「尾華さん、ワインをもう一杯頂けますか」
「はーい、ちょっと待ってね」

 ワインをついでもらい、空のお皿が下げられる。

「それは、なにかの仕込みですか?」

 作業を続ける尾華さんに話し掛ける。

「ええ、そうよー。ニンニクをね。保存用に加工するの」

 そう言って見せてくれたのは、薄く切られた何かだった。言葉から推測するに、ニンニクを切ったものなのだろう。
 尾華さんは切ったニンニク片を、魔法道具の中に並べていく。
 テーブルに乗る大きさだが、結構大振りな魔法道具だ。見覚えがない。あれは何をする魔法道具だろうか。

「それは、何をする道具なんです?」

 分からなければ聞くのが早い。

「これはね。乾燥させる道具なの。干し肉とか、乾燥野菜とかね。便利なのよ」

 乾燥か。
 糸や布を扱う商売をしているから、乾燥室には馴染みがある。もっとも、急ぎの時や、雨の日にしか使われない乾燥室がほとんどだ。一部屋乾かすのは、結構な魔力を使う。
 これだけ小さければ、魔力消費も少なくて済むのだろう。
 布を広げるほどの大きさはないけど、今入れているニンニク片くらいなら、大量に並べられる。

「乾燥させると長持ちするんですか」
「そうよ。大抵の食べ物は、乾燥させれば長持ちするの。でも、大きいの内側の水分が抜けないままで、表面だけ固くなるからね。こうやって薄く切ってあげるか、塩で水分を抜かないといけないのよ」
「へー」

 途切れ途切れの雑談の後で、ワインを飲み干して席を立つ。
 結局、店を出るまで、他の客が入ってくることはなかった。この店は大丈夫なのかね。
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