ある魔法都市の日常

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牧場の山浦さん3

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 いつものように、全員で校庭に出る。
 その後は、魔法の種類ごとにバラバラに分かれる。
 火、風などの属性による区分や、身体強化、感覚強化などの自己強化。すべてが使える人はいなくて、使えても一種類か二種類。だから分かれて練習をする。

 それ以外に、魔法が使えない人の組がある。
 私もこの組だ。
 授業の間中、ずっと魔力を動かす練習をするだけの組。だから魔法の授業は嫌いだった。
 でも今日からは違う。
 今日は、どの魔法に適正があるのか調べる日だ。次の授業からは、魔法を使う練習が始まる。
 ……本当は、どの魔法を練習したいのか考えてきなさいって言われてる。でも、適正が分からないんだから後でもいいでしょ。

「糸野さんと、山浦さんはこちらに来てください」

 原先生から声をかけられて、少しだけ移動する。
 でもどうして山浦くんもなんだろう。山浦くんは、肉体・感覚強化の組だったはずだけど。

 不思議そうにしていたのに気づかれたのか、山浦くんが理由を教えてくれた。
 山浦くんは嗅覚の強化が使える。狼の獣人は、大人になる前に、ほとんど全員が使えるようになるらしい。でも、街の中はいろんな臭いが混じっていて、授業で嗅覚の強化をすると、気持ち悪くなってしまうのだという。
 それで授業では嗅覚の強化ではなく、別の魔法の練習をすることになったという。

「嗅覚強化はうちに帰ってから練習すればいいし」
「そういえば牧場だっけ、街の外の」

 山浦くんの家は街の外にある牧場で、学校にはそこから通っている。
 毎日、牧場から学校まで来るのは大変だと思う。前にそう聞いてみたら「走ればすぐだから」って答えだったけど、私には無理だ。走りたくない。

「牧場だと、気持ち悪くならないの?」
「うん。牧場にもいろんな臭いがあるけど、街の中ほど臭くないから」
「そうなんだ」

 街の中ってそんなに臭いかな。ごはんの匂いとか、焼き串の匂いとか、学校の帰り道には、おいしそうな匂いばかりなのに。

「それでは、この魔法道具で適正を調べます。先に山浦さんから」
「はい」

 移動した先には、変なものが置いてあった。台になっている部分と、そこから垂直に伸びているパネル。パネルには目盛りが振ってあって、身長を測る棒みたいだ。違うのは台になってる部分が、私の腰くらいの高さにあることだ。身長を測るように台に上るには、ちょっと高い。

「山浦さんは一度使ったことがあるから分かると思いますが、糸野さんは初めてですからね、使い方を説明しますよ」

 先生の話によると、台の上に手を置いて魔力を集めると、魔力の量によって目盛りの色が変わるらしい。変わる色は魔法の属性によって違って、適正を調べたい属性を意識して魔力を流すことで、属性の適正を測るそうだ。
 台の上には乗らなくていいみたい。

 山浦くんが、台に手を置く。

「山浦さんは氷属性を使いたいと聞いていますが、変更はありませんか?」
「はい」
「それでは、想像してみましょう。冬、寒い朝、水、とても冷たい水です。触れているだけで手が冷たく、痛いくらい冷たい水です。その水が少しづつ固まります。水は凍って氷に変わります。さあ、手に魔力を集めて」

 先生の声に続いて、目盛りの色が青に変わっていく。

「はい、結構です。……大丈夫そうですね。すぐに氷を出せるほどではありませんが、練習を続ければ氷を出したり、物を凍らせたり出来るようになると思いますよ。念のため、水属性も調べておきましょうか」

「さあ、水が流れることを想像してみましょう。水を出す魔法道具は分かりますね。とっても小さい魔法道具が手の下にあります。魔力を込めれば、魔法道具から水が流れ出します。さあ、手に魔力を集めて」

 今度は最初の時よりも、少し多くの目盛りが青くなった。

「水属性のほうが、氷属性よりも少しだけ適正が高いようです。始めから凍らせようとするよりも、まずは水を出す練習をして、水の温度を下げていく方が良いかもしれませんね」

 そして次は私の番になる。

「さあ、糸野さんは、どんな魔法が使いたいか、考えてきましたか?」
「えっと、よく分からなくて」
「大丈夫ですよ。では、順番に試してみましょうか」

 そうして、先生に言われるままにいろんな属性をイメージしながら魔力を集めた。
 すっごい疲れた。
 これなら、もっとちゃんと使いたい属性について、考えてくればよかった。
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