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石屋の佐藤さん2
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慎重に歩く。
下は石畳で歩きやすい。だからと言って普段通りというわけにもいかない。
それは背負った木箱があるからだ。
正確にはその中身が。
慎重に歩けば、歩くスピードも下がる。
前を歩くのが自分と同じくらいの背丈だったなら、置いて行かれたかもしれない。
だが、すぐ前を歩いている佐藤さんは、自分より一回りも二回りも体が小さい。
種族柄か、性別の違いか。
両方だろう。
自分はオーガで、この街で暮らす種族の中では体の大きい種族の一つだ。男でも女でもそう。ただ、女よりは男のほうがより大きい。多少の例外もいるが。
前を歩く佐藤さんはメデューサだ。見た目は大きく分厚い眼鏡を掛けた女性というだけで、種族がメデューサだと知ったのは割りと最近。
他にはメデューサの知り合いは居ないから、メデューサ全員が小柄なのかは分からない。ただ、佐藤さんは自分の胸くらいの背丈しかない。
後ろについて歩けば、後頭部を見下ろすことになる。
今日、二人で出歩いているのは納品のためだ。
背負った木箱には、佐藤さんが掘った神の像が入っている。
道は石畳で歩きやすいとはいえ、万が一があってはいけない。慎重に歩く。
「高田、力、入り過ぎ」
後ろから声が聞こえて「ヘイ」とだけ返す。
そう言えば、山岡さんも一緒だった。出歩いているのは二人でじゃない、三人で、だ。
山岡さんは自分と同じくらいの背丈の先輩で、力仕事ではよく一緒に作業する。無口な人で、今のように単語だけでぼそぼそと話す。あまり存在感がない人でもある。
種族はよく分からない。オーガのような角も、獣人のような耳もない、それくらいしか分からない。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。落としたって簡単には壊れないから」
佐藤さんも振り返ってそう言ってくる。
力を込めてるつもりはない。魔力の強化だって使っていない。木箱の中は石像だと言っても、背負っているから重いとは感じない。
そんなに危なっかしく見えるのだろうか。見習いで、いろいろと半人前なのは分かっている。それでも少し悲しくなる。
山岡さんが一緒なのもそうだ。
石像を彫った佐藤さんが納品に行くのは分かる。自分が荷物持ちでついていくのも問題ない。佐藤さんは小さいから、石像を持って歩かせるくらいなら自分が持ったほうがマシだ。
でも、山岡さんは後ろからついてくるだけだ。
自分と佐藤さんの二人で用事は足りるはずなのに。山岡さんがついてくるのは。自分には何か足りないのだろう。
「さあ、ここよ」
そう言って佐藤さんが立ち止まったのは大きな屋敷の、いや、門の前だった。
門の向こう、奥には前庭と馬車が通れる広い道、そして大きな屋敷が見える。
門を支える柱は石造りで、四角い石を積み重ねただけでのシンプルな構成だった。門柱から延びる、敷地を囲っているだろう壁も同じ石造り。彫刻や模様が入っているわけでもないシンプルな壁だ。
顕示欲の高い家だと模様を彫ったり、色の違う石材を組み合わせてり、もっとすごい所だと家の紋章を入れたりする。ここの門柱も壁にも、そんなものは見当たらない。同じ石材を積み上げただけのシンプルな構造だ。
門の扉だけは、開け閉めの労力の問題だろう、金属の棒を組み合わせた格子状の扉が取り付けられている。
扉を支える門柱とは別に、柱が一本だけ建っている。
それに話し掛けていた佐藤さんが一歩身を引くと、扉が開く。
「こっちよ」
扉を入って奥の屋敷ではなく、右に延びる別の道を進むと小さな礼拝堂があった。
奥に見えていた屋敷に比べれば小屋という程度の大きさだが、庶民の自分にとっては普通の家といっていいくらいの大きさがある。
白く塗られた礼拝堂は、木造のようだ、石造りの重さが感じられない。
礼拝堂の中には何もなかった。
正面の奥が一段高くなって祭壇になっているだけで、椅子も何もない。
祭壇の上に持ってきた石像を納める。
佐藤さんの指示に従って、祭壇の上に置いた石像の向きを整えればここでの作業は終わりだ。山岡さんは後ろから見ているだけ何もしていない。
石像の設置が終わり、少し離れて待つと屋敷の人が礼拝堂に入ってきた。
「やあ! これはいいね! やっと礼拝堂らしくなったよ!」
開口一番にそう言ってきた男は、身形からしてここの主人だろうか。
佐藤さんが書類を手に話し掛ける。サインを貰えばあとは帰るだけだ。
置いたままにしていた木箱を背負い、工房に帰る準備をする。
すぐにサインを貰って帰れるのかと思ったのに、なにか話が続いている。佐藤さんが書類を差し出したままの会話だ。どうしたんだろう。
すっと山岡さんが二人に近づいた。
「姉さん、仕事、まだあるんで」
山岡さんが上から圧し掛かるようにして書類を渡すと、やっとサインが貰えた。
でも時間的には、工房に帰ったら今日の仕事は終わりのはずだけど。
その疑問の答えは帰り道で教えてくれた。
「あいつ、女癖、悪い」
なるほど。山岡さんは俺の見張りについてきたわけじゃなく、佐藤さんの護衛だったらしい。
自分も佐藤さんを守れるようにならないと。
下は石畳で歩きやすい。だからと言って普段通りというわけにもいかない。
それは背負った木箱があるからだ。
正確にはその中身が。
慎重に歩けば、歩くスピードも下がる。
前を歩くのが自分と同じくらいの背丈だったなら、置いて行かれたかもしれない。
だが、すぐ前を歩いている佐藤さんは、自分より一回りも二回りも体が小さい。
種族柄か、性別の違いか。
両方だろう。
自分はオーガで、この街で暮らす種族の中では体の大きい種族の一つだ。男でも女でもそう。ただ、女よりは男のほうがより大きい。多少の例外もいるが。
前を歩く佐藤さんはメデューサだ。見た目は大きく分厚い眼鏡を掛けた女性というだけで、種族がメデューサだと知ったのは割りと最近。
他にはメデューサの知り合いは居ないから、メデューサ全員が小柄なのかは分からない。ただ、佐藤さんは自分の胸くらいの背丈しかない。
後ろについて歩けば、後頭部を見下ろすことになる。
今日、二人で出歩いているのは納品のためだ。
背負った木箱には、佐藤さんが掘った神の像が入っている。
道は石畳で歩きやすいとはいえ、万が一があってはいけない。慎重に歩く。
「高田、力、入り過ぎ」
後ろから声が聞こえて「ヘイ」とだけ返す。
そう言えば、山岡さんも一緒だった。出歩いているのは二人でじゃない、三人で、だ。
山岡さんは自分と同じくらいの背丈の先輩で、力仕事ではよく一緒に作業する。無口な人で、今のように単語だけでぼそぼそと話す。あまり存在感がない人でもある。
種族はよく分からない。オーガのような角も、獣人のような耳もない、それくらいしか分からない。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。落としたって簡単には壊れないから」
佐藤さんも振り返ってそう言ってくる。
力を込めてるつもりはない。魔力の強化だって使っていない。木箱の中は石像だと言っても、背負っているから重いとは感じない。
そんなに危なっかしく見えるのだろうか。見習いで、いろいろと半人前なのは分かっている。それでも少し悲しくなる。
山岡さんが一緒なのもそうだ。
石像を彫った佐藤さんが納品に行くのは分かる。自分が荷物持ちでついていくのも問題ない。佐藤さんは小さいから、石像を持って歩かせるくらいなら自分が持ったほうがマシだ。
でも、山岡さんは後ろからついてくるだけだ。
自分と佐藤さんの二人で用事は足りるはずなのに。山岡さんがついてくるのは。自分には何か足りないのだろう。
「さあ、ここよ」
そう言って佐藤さんが立ち止まったのは大きな屋敷の、いや、門の前だった。
門の向こう、奥には前庭と馬車が通れる広い道、そして大きな屋敷が見える。
門を支える柱は石造りで、四角い石を積み重ねただけでのシンプルな構成だった。門柱から延びる、敷地を囲っているだろう壁も同じ石造り。彫刻や模様が入っているわけでもないシンプルな壁だ。
顕示欲の高い家だと模様を彫ったり、色の違う石材を組み合わせてり、もっとすごい所だと家の紋章を入れたりする。ここの門柱も壁にも、そんなものは見当たらない。同じ石材を積み上げただけのシンプルな構造だ。
門の扉だけは、開け閉めの労力の問題だろう、金属の棒を組み合わせた格子状の扉が取り付けられている。
扉を支える門柱とは別に、柱が一本だけ建っている。
それに話し掛けていた佐藤さんが一歩身を引くと、扉が開く。
「こっちよ」
扉を入って奥の屋敷ではなく、右に延びる別の道を進むと小さな礼拝堂があった。
奥に見えていた屋敷に比べれば小屋という程度の大きさだが、庶民の自分にとっては普通の家といっていいくらいの大きさがある。
白く塗られた礼拝堂は、木造のようだ、石造りの重さが感じられない。
礼拝堂の中には何もなかった。
正面の奥が一段高くなって祭壇になっているだけで、椅子も何もない。
祭壇の上に持ってきた石像を納める。
佐藤さんの指示に従って、祭壇の上に置いた石像の向きを整えればここでの作業は終わりだ。山岡さんは後ろから見ているだけ何もしていない。
石像の設置が終わり、少し離れて待つと屋敷の人が礼拝堂に入ってきた。
「やあ! これはいいね! やっと礼拝堂らしくなったよ!」
開口一番にそう言ってきた男は、身形からしてここの主人だろうか。
佐藤さんが書類を手に話し掛ける。サインを貰えばあとは帰るだけだ。
置いたままにしていた木箱を背負い、工房に帰る準備をする。
すぐにサインを貰って帰れるのかと思ったのに、なにか話が続いている。佐藤さんが書類を差し出したままの会話だ。どうしたんだろう。
すっと山岡さんが二人に近づいた。
「姉さん、仕事、まだあるんで」
山岡さんが上から圧し掛かるようにして書類を渡すと、やっとサインが貰えた。
でも時間的には、工房に帰ったら今日の仕事は終わりのはずだけど。
その疑問の答えは帰り道で教えてくれた。
「あいつ、女癖、悪い」
なるほど。山岡さんは俺の見張りについてきたわけじゃなく、佐藤さんの護衛だったらしい。
自分も佐藤さんを守れるようにならないと。
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