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メイドの細川さん
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明かりに照らされた部屋。
中央には大きなテーブルが置かれ、その上だけが綺麗に片付けられている。
それ以外は床の上と言わず、壁際のキャビネットと言わず、全ての場所に得体の知れないものが転がっている。いや、ほとんどのものは転がっているわけではなく、雑多にまとめられた箱や棚から飛び出て見えるというのが正しいか。
片付ける気持ちはあっても、片付くほどには少なくない。
それは決壊寸前の防波堤の上から顔を覗かせる波のように、多くのものが溢れていた。
得体の知れない物の中には、ただの石にしか見えないものから、魔獣の牙らしきものもある。ある箱からは、人の手にしか見えないものが何本も飛び出している。
そんな得体の知れない物に溢れた工房では、一人の男がひたすらに図面を注視していた。
周囲のものなど目に入らないとばかりに、図面だけを一心に見続ける。その男のくすんだ金色の髪からは、僅かに尖った耳が覗く。
顔の横に僅かに尖った耳。それは妖精属と呼ばれるいくつかの種族の特徴だ。男は、妖精属の一つ、エルフであった。
かつては森の民と呼ばれ、森の中に結界を張って隠れ住んでいた種族。今はどこにでもいる種族の一つ。この魔法都市でも雑多な種族の一つとして、普通に暮らしているだけの人である。
カツン、カツン、カツン。
遠くから、男のいる部屋に足音が近づく。
カツン。
部屋の前で足音が止まる。
キィ。
わずかな音を立てて扉が開く。男は図面を見たまま気づかない。
カツン、カツン、カツン。
足音が男のすぐ側まで迫る。男はまだ図面を見たままで動かない。
パカンッ。
軽快な音が響いて、男は机に突っ伏した。
「痛った。なにをする!」
後頭部をさすりながら机から身を起こせば、隣にはいつの間にか、メイドのオートマタが立っていた。
脛丈のエプロンドレス、私と同じくすんだ金髪の上にはホワイトブリム。顔の造形も私と同じエルフに近く作り込んであるため、初対面でオートマタと気づく者は少ない。
「食事ノ用意ガ出来ました。お父様」
「なら始めからそう言え、なぜ叩く!」
「お父様ハ耳ノ機能が劣化シテイマスので」
「私はまだ若い!」
オートマタはこてりと首を傾げて不思議そうに見てくる。
何十年も前に、初めて作ったオートマタだとは言え、この性格の悪さはどうにかならないものか。手直ししようとすると「お父様ハ私ヲ黒歴史トシテ闇ニ葬り去ろうト言うのデスネ」とか言い出して拒否する。そのせいで、もう何年も簡単なメンテナンスしか出来ていない。
しかも、屋敷の掃除を任せるつもりでメイドとして製造したはずが、なぜか私の娘を名乗っている。
そのせいで、師匠はおろか兄弟弟子からも随分と揶揄われたものだ。
「立てないホド老化ガ進行シマシタカ? トットト食堂マデお越しください」
本当、こいつの言語回路はどうなっているんだ。全部バラして作り直したい。
師匠から独立して個人で工房を構えた後は、料理や洗濯も含めた家事の全て任せて開発に没頭出来るかと思いきや、この言葉使いのせいで食材の買い出しなどは私の仕事になってしまった。
カツン、カツン、カツン。
言うだけ言って背を向けたオートマタを追いかけるように立ち上がる。
幸いにも料理の機能については問題ない。毒舌に加えて毒料理となったら目も当てられないが、普通に食べれる料理を作ってくれる。どこから仕入れてきているのか、たまに新しい料理のレパートリーも増える。
「時ニお父様」
不意に立ち止まったオートマタの言葉に身構える。
「次ハ弟デスカ妹デスカ」
そうだ。こいつは、自分を娘と言い張るだけでなく、新しく作られたものは全て弟妹だと言い張るのだ。
確かに今さっきまで見ていたのは新しい設計図だが、弟でも妹でもない。
「今度作るのははガーゴイル型だ。男でも女でもないぞ」
ソウデスカ、と言って歩き出したオートマタは、なんてことないように言葉を続ける。
「デハ妹ニしましょう」
勝手に性別を付けるんじゃない。
中央には大きなテーブルが置かれ、その上だけが綺麗に片付けられている。
それ以外は床の上と言わず、壁際のキャビネットと言わず、全ての場所に得体の知れないものが転がっている。いや、ほとんどのものは転がっているわけではなく、雑多にまとめられた箱や棚から飛び出て見えるというのが正しいか。
片付ける気持ちはあっても、片付くほどには少なくない。
それは決壊寸前の防波堤の上から顔を覗かせる波のように、多くのものが溢れていた。
得体の知れない物の中には、ただの石にしか見えないものから、魔獣の牙らしきものもある。ある箱からは、人の手にしか見えないものが何本も飛び出している。
そんな得体の知れない物に溢れた工房では、一人の男がひたすらに図面を注視していた。
周囲のものなど目に入らないとばかりに、図面だけを一心に見続ける。その男のくすんだ金色の髪からは、僅かに尖った耳が覗く。
顔の横に僅かに尖った耳。それは妖精属と呼ばれるいくつかの種族の特徴だ。男は、妖精属の一つ、エルフであった。
かつては森の民と呼ばれ、森の中に結界を張って隠れ住んでいた種族。今はどこにでもいる種族の一つ。この魔法都市でも雑多な種族の一つとして、普通に暮らしているだけの人である。
カツン、カツン、カツン。
遠くから、男のいる部屋に足音が近づく。
カツン。
部屋の前で足音が止まる。
キィ。
わずかな音を立てて扉が開く。男は図面を見たまま気づかない。
カツン、カツン、カツン。
足音が男のすぐ側まで迫る。男はまだ図面を見たままで動かない。
パカンッ。
軽快な音が響いて、男は机に突っ伏した。
「痛った。なにをする!」
後頭部をさすりながら机から身を起こせば、隣にはいつの間にか、メイドのオートマタが立っていた。
脛丈のエプロンドレス、私と同じくすんだ金髪の上にはホワイトブリム。顔の造形も私と同じエルフに近く作り込んであるため、初対面でオートマタと気づく者は少ない。
「食事ノ用意ガ出来ました。お父様」
「なら始めからそう言え、なぜ叩く!」
「お父様ハ耳ノ機能が劣化シテイマスので」
「私はまだ若い!」
オートマタはこてりと首を傾げて不思議そうに見てくる。
何十年も前に、初めて作ったオートマタだとは言え、この性格の悪さはどうにかならないものか。手直ししようとすると「お父様ハ私ヲ黒歴史トシテ闇ニ葬り去ろうト言うのデスネ」とか言い出して拒否する。そのせいで、もう何年も簡単なメンテナンスしか出来ていない。
しかも、屋敷の掃除を任せるつもりでメイドとして製造したはずが、なぜか私の娘を名乗っている。
そのせいで、師匠はおろか兄弟弟子からも随分と揶揄われたものだ。
「立てないホド老化ガ進行シマシタカ? トットト食堂マデお越しください」
本当、こいつの言語回路はどうなっているんだ。全部バラして作り直したい。
師匠から独立して個人で工房を構えた後は、料理や洗濯も含めた家事の全て任せて開発に没頭出来るかと思いきや、この言葉使いのせいで食材の買い出しなどは私の仕事になってしまった。
カツン、カツン、カツン。
言うだけ言って背を向けたオートマタを追いかけるように立ち上がる。
幸いにも料理の機能については問題ない。毒舌に加えて毒料理となったら目も当てられないが、普通に食べれる料理を作ってくれる。どこから仕入れてきているのか、たまに新しい料理のレパートリーも増える。
「時ニお父様」
不意に立ち止まったオートマタの言葉に身構える。
「次ハ弟デスカ妹デスカ」
そうだ。こいつは、自分を娘と言い張るだけでなく、新しく作られたものは全て弟妹だと言い張るのだ。
確かに今さっきまで見ていたのは新しい設計図だが、弟でも妹でもない。
「今度作るのははガーゴイル型だ。男でも女でもないぞ」
ソウデスカ、と言って歩き出したオートマタは、なんてことないように言葉を続ける。
「デハ妹ニしましょう」
勝手に性別を付けるんじゃない。
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