ある魔法都市の日常

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幼稚園の如月さん

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「「「わーーーー」」」

 歓声を上げて子供達が走り回る。

「いい加減にしないと吸いとるわよ!」
「先生がおこったーーーー」

 自由時間だから、好きに遊べば良いとも思うけど、歯止めなく騒いでいると事故に繋がりかねない。それに、静かに本を読んだり、ブロックを組み立てて遊んでいる子もいるのだから、それなりに兼ね合いは必要だし。
 怒られてもまだはしゃいでいる子供達を、重ねて叱りつけて、少しだけ静かになる。
 まあ、ほんの少しだけだけど。
 それでも、この調子ならお昼までは持つかな。そんなことを思いながら、危ないことをしないように目を配る。

 ここは幼稚園。子供達を預かる場所だ。
 三歳から六歳までの子供を全部で十一人を預かっている。
 年少組が六人。年長組が五人。どちらも定員は六人となっているから、今は一人だけ少ないことになる。
 じゃあ少ない分、楽なのかと聞かれると、まったくそんな気はしない。
 人数よりも、騒がしい子がいるかどうかが大きいんじゃないかと思う。

「夢咲先生、お昼の準備が出来ましたよ」

 声を掛けてきたのは、年少組を担当している如月先生だ。
 おっとりした人で、胸が大きくて、とても保母さんらしい。いや、私だって保母さんらしいけど。
 それでも、鳥に似た羽は柔らかくて、そこはちょっと羨ましい。私のは羽毛のようなふさふさの羽じゃなく、蝙蝠みたいな皮だけの羽だから、柔らかくもないし、羽を開いた時のふわりとした見栄えがしない。

「はーい、みんなおもちゃを片付けて、お昼にしますよー」

 子供たちにブロックを片付けさせ、本にしがみつく子をなんとか本から引き剥がしたら、全員を連れて順番に手を洗わせる。
 適当に済ませようとする子の手を取って、年長組なんだからと言いながら石鹸を塗りたくるうちに、全員の手洗いが終わる。
 その後は昼食用のテーブルを子供達と一緒に並べる。
 昼食だけは、年長組も年少組も一緒に食べるから、このときだけは十一人の子供達が勢ぞろいだ。
 頂きますの号令の後に、一斉に食べ始める。
 流石に年長組は一人で食べているが、年少組にはまだ食べ方が怪しい子が多い。こぼさないようにサポートしたり、好き嫌いが激しい子を諭したりと、食事の間も気が抜けない。
 どうしたって目を離すわけにはいかないから、私達、先生の食事は後回しになってしまう。年長組と年少組が一緒に食べるのは、先生が交代で食事をするためでもある。

 時間になったら子供達と一緒に食器をまとめて片付ける。
 この時間までに食べ終わらない子は、どちらかが付き添って食べ終わるのを待つか、残ったままで下げるかになる。
 好き嫌いでの食べ残しも少なくはない。
 でもそれを無理に食べさせるかどうかは、ご両親との相談だ、無理に食べさせて嫌いな食べ物が決定的にダメになったり、逆に、こっちが虐待と思われたりと、とても面倒が多かったりする。

 食事が終わるとお昼寝の時間だ。
 マットとタオルを並べて、子供達を寝かしつける。
 他の幼稚園では、寝ない子が居たりして、お昼寝の時間も結構気が抜けないらしい。
 でも、この幼稚園は大丈夫。如月先生がいるし。

 子供達が横になると、如月先生は鍵のかかったケースから小さいハープを取り出す。
 人の背丈もあるような大きなハープではなく、膝の上に乗せて引く小さなものだ。
 ゆったりとした音色が流れると、子供達はすぐに眠りにつく。
 魔力を弱めにしてあると聞いたことがあるけど、私も少し眠くなる。
 でもまだ寝てしまうわけにはいかない。
 子供達の間を回って、みんな寝ているのか確かめる。

 やっぱり、一人、薄目を開けて寝ないようにがんばっている子がいた。この子は昨日もそうだった。
 なんで寝ないようにがんばってるのか聞いたら「負けない」とか答えてたけど、何と勝負しているのかさっぱり分からない。
 一人で何かと戦ってる子の、目を覆うように手をかざす。
 軽く「吸う」と今度はちゃんと寝てくれた。
 それを見届けてから、子供達の端っこで横になる。
 私も少し休憩をしよう。ゆったりとした音色に身を任せて目を閉じる。
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