1 / 91
街角の石井さん
しおりを挟む
毎日、仕事で街に出る。灯りを灯しに街へ出る。
この街はインフラが整っていて暮らしやすい。そう聞いている。そう言っているのは他の街から移り住んで来た者達だ。
昔は日が沈むと共に街は暗闇に包まれていた。今でも、この街を離れれば真っ暗なのだそうだ。
暗闇の中を出歩く人は少なく、わずかに出歩く人は自分で明かりを携えていたという。
真っ暗な中で、明かりを持って歩くのは、自分から目印を付けて歩いているようなものだ。それはとても物騒で、余計、出歩く者は少ない。
今の街は、至る所に街灯が灯されて明るい。
街灯が出来てからは物取りが潜む暗闇も少なくなり、治安も随分と良くなったそうだ。治安については、街灯だけの功績でもない。だが、その一端を担うのが自分のお仕事。街灯の点灯員だ。
いつもと同じ街灯の点灯業務。今日はいつもと少し違う。新人が入ってきたので、業務の説明をしながら街灯を回る。。
街灯は基本的に毎晩点灯させるが、一人で毎日回るのはハード過ぎる。体力的にも魔力的にも、労働法にも引っかかる。だから、不定期ながらも新人を入れて業務を分担する。
今日案内する新人もそうだ。先月、一人が怪我を理由に退職したから、その補充人員になる。
巡回ルートの一つを新人に説明しながら歩く。
街灯は一定量の魔力を注ぐことで、朝まで光続ける魔法道具だ。魔力を注げばいいだけなので、灯りの魔法が使える必要はない。それに、灯りの魔法を使うよりも、少ない魔力で朝まで光続ける、らしい。灯りの魔法は使えないから、聞いた話だ。
「ここの街灯はちょっと暗めにしといて」
街灯には明るさ調整のツマミが付けられている。そこを操作するには、カギを開ける必要はあるが、魔法道具の劣化や、設置されている場所に応じて明るさを調整するのも仕事のうちだ。
「えっ? なんでっすか?」
「治安上の理由」
「えっ、意味分かんないっす。暗いとヤバくないっすか」
普通ならそうだ。暗い場所には物取りが潜んだり、性犯罪者が誰かを引きずり込んだりする。だから街灯の灯りは毎日灯さなければならない。
石井さんが向こうから来た。丁度仕事を始める時間か。
「やあ、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です。こいつ新人で、今日から入りますんで」
「おや、そうですか、よろしくお願いしますね。明るさの話は……」
「今してたところです」
「分かりました。よろしくお願いしますね」
すれ違う中で挨拶を交わす。普段ならもう少し話していくところだが、今日は新人への説明があるから、時間が取れない。新人に説明しながら、時間内に回り切るには、あまり余裕がない。
「んじゃ次いくぞー」
「あ、はい、あの人なんすか」
「ん? ああ、あれは石井さん」
青白い顔のまま、石井さんは暗めに点灯した街灯の影に佇む。
街灯の光が差す道路側ではなく、街灯の支柱で陰が出来る道路の外側だ。わざと光を抑えた街灯であることもあって、石井さんの姿は薄ぼんやりと景色に溶け込む。
「石井さん?」
「そ、石井さん」
「あの、石井さん?って何やってる人なんすか?」
「治安維持」
「治安維持?」
「さっきの暗めの街灯。あそこに待機しててな、何か後ろ暗いやつとかいるだろ、そういうのって暗い所探してくるからさ。んで、石井さんが対応するんだ」
「あー、そういう、すごい人なんすね、石井さん」
「違うよ?」
「え? すごくないっすか?」
「いや、人じゃない」
「え?」
「石井さん、レイスだから」
「え? いやレイスって、えっ? ヤバくないっすか。アンデットっすよね?」
「衛兵の資格持ってるし平気だよ」
「衛兵なんすか?」
「そ、衛兵」
「レイスっすよね?」
「そ、レイスの石井さん」
「意味わかんねーっすけど」
石井さんはすごいぞ。暗がりに連れ込まれそうになった女性を保護したり、家出してきた子供の話を聞いて、家まで送ったり。
一晩中、街灯の下に立ってる仕事を、ずっと何年も続けてる。
女性を連れ込もうとした奴は、石井さんに生気を吸われて二度と立たなくなったとか。本当かどうか知らないが。
「石井さんはすごいぞ」
「意味わかんねーんすけど」
新人にはまだ早かったかな?
ここは魔法都市。
多くの魔法と、様々な種族が行き交う街。
この街はインフラが整っていて暮らしやすい。そう聞いている。そう言っているのは他の街から移り住んで来た者達だ。
昔は日が沈むと共に街は暗闇に包まれていた。今でも、この街を離れれば真っ暗なのだそうだ。
暗闇の中を出歩く人は少なく、わずかに出歩く人は自分で明かりを携えていたという。
真っ暗な中で、明かりを持って歩くのは、自分から目印を付けて歩いているようなものだ。それはとても物騒で、余計、出歩く者は少ない。
今の街は、至る所に街灯が灯されて明るい。
街灯が出来てからは物取りが潜む暗闇も少なくなり、治安も随分と良くなったそうだ。治安については、街灯だけの功績でもない。だが、その一端を担うのが自分のお仕事。街灯の点灯員だ。
いつもと同じ街灯の点灯業務。今日はいつもと少し違う。新人が入ってきたので、業務の説明をしながら街灯を回る。。
街灯は基本的に毎晩点灯させるが、一人で毎日回るのはハード過ぎる。体力的にも魔力的にも、労働法にも引っかかる。だから、不定期ながらも新人を入れて業務を分担する。
今日案内する新人もそうだ。先月、一人が怪我を理由に退職したから、その補充人員になる。
巡回ルートの一つを新人に説明しながら歩く。
街灯は一定量の魔力を注ぐことで、朝まで光続ける魔法道具だ。魔力を注げばいいだけなので、灯りの魔法が使える必要はない。それに、灯りの魔法を使うよりも、少ない魔力で朝まで光続ける、らしい。灯りの魔法は使えないから、聞いた話だ。
「ここの街灯はちょっと暗めにしといて」
街灯には明るさ調整のツマミが付けられている。そこを操作するには、カギを開ける必要はあるが、魔法道具の劣化や、設置されている場所に応じて明るさを調整するのも仕事のうちだ。
「えっ? なんでっすか?」
「治安上の理由」
「えっ、意味分かんないっす。暗いとヤバくないっすか」
普通ならそうだ。暗い場所には物取りが潜んだり、性犯罪者が誰かを引きずり込んだりする。だから街灯の灯りは毎日灯さなければならない。
石井さんが向こうから来た。丁度仕事を始める時間か。
「やあ、お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です。こいつ新人で、今日から入りますんで」
「おや、そうですか、よろしくお願いしますね。明るさの話は……」
「今してたところです」
「分かりました。よろしくお願いしますね」
すれ違う中で挨拶を交わす。普段ならもう少し話していくところだが、今日は新人への説明があるから、時間が取れない。新人に説明しながら、時間内に回り切るには、あまり余裕がない。
「んじゃ次いくぞー」
「あ、はい、あの人なんすか」
「ん? ああ、あれは石井さん」
青白い顔のまま、石井さんは暗めに点灯した街灯の影に佇む。
街灯の光が差す道路側ではなく、街灯の支柱で陰が出来る道路の外側だ。わざと光を抑えた街灯であることもあって、石井さんの姿は薄ぼんやりと景色に溶け込む。
「石井さん?」
「そ、石井さん」
「あの、石井さん?って何やってる人なんすか?」
「治安維持」
「治安維持?」
「さっきの暗めの街灯。あそこに待機しててな、何か後ろ暗いやつとかいるだろ、そういうのって暗い所探してくるからさ。んで、石井さんが対応するんだ」
「あー、そういう、すごい人なんすね、石井さん」
「違うよ?」
「え? すごくないっすか?」
「いや、人じゃない」
「え?」
「石井さん、レイスだから」
「え? いやレイスって、えっ? ヤバくないっすか。アンデットっすよね?」
「衛兵の資格持ってるし平気だよ」
「衛兵なんすか?」
「そ、衛兵」
「レイスっすよね?」
「そ、レイスの石井さん」
「意味わかんねーっすけど」
石井さんはすごいぞ。暗がりに連れ込まれそうになった女性を保護したり、家出してきた子供の話を聞いて、家まで送ったり。
一晩中、街灯の下に立ってる仕事を、ずっと何年も続けてる。
女性を連れ込もうとした奴は、石井さんに生気を吸われて二度と立たなくなったとか。本当かどうか知らないが。
「石井さんはすごいぞ」
「意味わかんねーんすけど」
新人にはまだ早かったかな?
ここは魔法都市。
多くの魔法と、様々な種族が行き交う街。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる