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ある雨の日
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その日は朝から雨だった。
朝から? いや、正確には前日の夜からだ。
シトシトと、時にはゴウゴウと降る雨音で夜中に何度か目が覚めた。
雨音のせいなのか、それとも悪夢のせいなのか。
朝ご飯を食べて、歯を磨いて、着替えて、鞄を持って玄関に向かう。そこまで経っても眠気が消えない。明らかな寝不足だ。
傘立てにさしてある傘を手に取ってドアを開ける。
すると外の冷たい空気が流れ込んできた。まだ6月に入ったばかりだというのにこの寒さ。
梅雨明けはまだ先かぁ……なんて思いながら私は学校に向かった。
だが、結果として学校に辿り着くことは出来なかった。
「現在、〇〇川の水位が規定値を超えましたため、運転を見合わせております」
びしょ濡れになって辿り着いた駅では、無情なアナウンスが繰り返されていた。
どうやら大雨の影響で電車が止まっているらしい。ホームには立ち尽くす大勢の人。私と同じ制服を着た学生もちらほらといる。
スーツ姿の人は誰もかれもがスマホを手に持って、どこかに電話をかけている。きっと職場への連絡だろう。遅刻すると言うのか、今日は休むと言うのか。
学生は誰もスマホを持っていない。学校にスマホの持ち込みは禁止だからだ。
なのでみんな不安そうに、あるいは不機嫌そうな顔をしながら電車が来るのを待つことしか出来ない。
そんな中、私は一人俯いていた。
(……寒い)
体が震える。
なんだか、頭もボーっとしてくる。
雨に濡れた衣服がまとわりついて、ここから一歩も動くなとばかりに体を拘束している。
ホームの上の水たまり。それは吹き込んだ雨なのか、誰かから滴った雫なのか。
ドサリ。
雨音とは違う、重い音がした。
思わずそちらを見る。
そこにいたのは、頭から血を流して倒れている人だった。
悲鳴が上がる。
人が倒れる光景というのは、こんなにも簡単に人の心に恐怖を植え付けるものなのだと知った。
私の足は動かない。
周りの人も動けない。
ただただ目の前で倒れ伏す人を眺めることしか出来なかった。
救急隊員らしき人たちが駆け寄ってきて、倒れた人に応急処置を施していく。
その人たちは何度も何度も声をかけ続けていた。
「大丈夫ですか!? 聞こえますか!? 救急車まで頑張ってください!!」
あれ? どうしてそんなことを言っているんだろう。だってあの人はもう……。
そこでふと思った。
私は一体何をしているのだろうと。
何故ここに立っているのだろうかと。
重い手から雫が落ちる。
ああそうか。私が殺したんだ。
私と同じ制服の誰かが担架で運ばれていく。それを見ながら、ようやく私は自分の罪を理解したのだ。
寝ては目覚め、目覚めては寝るその隙間に入り込んできた赤い夢。
「あれ? 〇△じゃん」
声に顔を上げると、そこには殺したクラスメイトの顔があった。
どうしてここにいるんだろう。さっき担架で運ばれていったはずなのに。
違う、私が殺したんだ。死んでいるはずだから、これは夢なんだ。
死んだはずのクラスメイトが話しかけてくる。
それがおかしいことだという自覚はあるけれど、今更だ。
死んだ人間が生きて動いている時点で何もかも狂っている。
それにここは夢の中。なんでもありなんだろう。
じゃあ殺さなきゃ。
殺さないと目が覚めない。
だから殺さなきゃ。
「さっみいな。雨ひどすぎじゃね。なあ、コーヒー買ってきてよ。暖かいやつな」
一方的に言うとクラスメイトはスマホをいじり出す。
バックの中からナイフを取り出しても、スマホだけを見てるクラスメイトは気づかない。
早く起きないと遅刻してしまう。
朝から? いや、正確には前日の夜からだ。
シトシトと、時にはゴウゴウと降る雨音で夜中に何度か目が覚めた。
雨音のせいなのか、それとも悪夢のせいなのか。
朝ご飯を食べて、歯を磨いて、着替えて、鞄を持って玄関に向かう。そこまで経っても眠気が消えない。明らかな寝不足だ。
傘立てにさしてある傘を手に取ってドアを開ける。
すると外の冷たい空気が流れ込んできた。まだ6月に入ったばかりだというのにこの寒さ。
梅雨明けはまだ先かぁ……なんて思いながら私は学校に向かった。
だが、結果として学校に辿り着くことは出来なかった。
「現在、〇〇川の水位が規定値を超えましたため、運転を見合わせております」
びしょ濡れになって辿り着いた駅では、無情なアナウンスが繰り返されていた。
どうやら大雨の影響で電車が止まっているらしい。ホームには立ち尽くす大勢の人。私と同じ制服を着た学生もちらほらといる。
スーツ姿の人は誰もかれもがスマホを手に持って、どこかに電話をかけている。きっと職場への連絡だろう。遅刻すると言うのか、今日は休むと言うのか。
学生は誰もスマホを持っていない。学校にスマホの持ち込みは禁止だからだ。
なのでみんな不安そうに、あるいは不機嫌そうな顔をしながら電車が来るのを待つことしか出来ない。
そんな中、私は一人俯いていた。
(……寒い)
体が震える。
なんだか、頭もボーっとしてくる。
雨に濡れた衣服がまとわりついて、ここから一歩も動くなとばかりに体を拘束している。
ホームの上の水たまり。それは吹き込んだ雨なのか、誰かから滴った雫なのか。
ドサリ。
雨音とは違う、重い音がした。
思わずそちらを見る。
そこにいたのは、頭から血を流して倒れている人だった。
悲鳴が上がる。
人が倒れる光景というのは、こんなにも簡単に人の心に恐怖を植え付けるものなのだと知った。
私の足は動かない。
周りの人も動けない。
ただただ目の前で倒れ伏す人を眺めることしか出来なかった。
救急隊員らしき人たちが駆け寄ってきて、倒れた人に応急処置を施していく。
その人たちは何度も何度も声をかけ続けていた。
「大丈夫ですか!? 聞こえますか!? 救急車まで頑張ってください!!」
あれ? どうしてそんなことを言っているんだろう。だってあの人はもう……。
そこでふと思った。
私は一体何をしているのだろうと。
何故ここに立っているのだろうかと。
重い手から雫が落ちる。
ああそうか。私が殺したんだ。
私と同じ制服の誰かが担架で運ばれていく。それを見ながら、ようやく私は自分の罪を理解したのだ。
寝ては目覚め、目覚めては寝るその隙間に入り込んできた赤い夢。
「あれ? 〇△じゃん」
声に顔を上げると、そこには殺したクラスメイトの顔があった。
どうしてここにいるんだろう。さっき担架で運ばれていったはずなのに。
違う、私が殺したんだ。死んでいるはずだから、これは夢なんだ。
死んだはずのクラスメイトが話しかけてくる。
それがおかしいことだという自覚はあるけれど、今更だ。
死んだ人間が生きて動いている時点で何もかも狂っている。
それにここは夢の中。なんでもありなんだろう。
じゃあ殺さなきゃ。
殺さないと目が覚めない。
だから殺さなきゃ。
「さっみいな。雨ひどすぎじゃね。なあ、コーヒー買ってきてよ。暖かいやつな」
一方的に言うとクラスメイトはスマホをいじり出す。
バックの中からナイフを取り出しても、スマホだけを見てるクラスメイトは気づかない。
早く起きないと遅刻してしまう。
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