ザ・キャッチ

ぼんげ

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第12球「佐伯 vs ギン」

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 初回の攻防はお互い無風に終わり、二回オモテ。白組の攻撃。

 しかし、佐伯の調子は相変わらずだ。

 四番の原田は、外に逃げるスライダーをおっつけて捉えるも、力のないライトフライに終わる。

「五番 ファースト 金子君」 
 
 名前が呼ばれ、ギンが右打席へと向かう。ギンは周太や蓮とは小中からのチームメイトで、その中でも打撃センスについては頭一つ、いやそれ以上に抜けている存在でもあった。中学でも不動の四番を務め、超中学級とも評されたその実力は、よく県外の強豪校からもスカウトを受けるほどだったらしい。

 周太や蓮からも、スカウトを受けることを親友ながらに勧めたこともあった。しかし、ギンには県外には出たくない事情があったらしく、こうして一緒に南学でプレイすることになったのだった。

 打席での威圧感さえも感じるゆったりとした構えは、その鍛え上げられた180センチ超の肉体を、より大きいものに見せていた。

 だが、そんなことは意にも介さぬと言わんばかりに、佐伯の放った1球目はインハイにを貫いていった。タイミングを取るように足こそ上げたものの、ギンのバットは動かぬままだった。

「ストライーク!」

 間髪入れずの2球目。佐伯・坂田のバッテリーは、1球目に対しての何かゆとりを持ったかのような見逃し方を不気味に感じたのか、ブレーキの効いた緩いカーブを選択し、ギンのタイミングを狂わせにかかる。

「ファールボール!」

 バッテリーの策は見事にはまり、速球に合わせていたギンのタイミングを狂わせることに成功した。ギンもすぐさまスイングの調整を図ったが間に合わず、何とか捉えた打球も三塁線から大きく切れるファールライナーとなった。

 結果的にはあっさりと追い込まれる形となったギン。ストレートだけでも捉えるのが難しい状況で、それぞれが十分に一級品たり得るスライダー・カーブ・フォークの全てに対応しなければならない状況となってしまう。

「一番体感速度の速いインハイのストレートに対応できるようタイミングを取りながら、他の球が来たら反応でくらいついて行くしかない」

 ギンは思考を落ち着かせ、来うる球全てに対応するべく覚悟を決める。

 バッテリーが3球目に選んだのは、そんなギンの心理を逆手にとるような、真ん中から落ちていくフォークボール。誘いには乗らぬと、ギンは回りかけていたバットを何とか止め、見送る。

「ストライーク!バッターアウト!」

 しかし、そのフォークの落ちはストライクゾーンのギリギリで踏みとどまるものであり、裏の裏をつかれた形となったギンは、敢え無く見逃し三振に倒れてしまった。

 続く六番の梅田は、ストレート3球で空振り三振に討ち取られてしまい、結局この回も白組の攻撃は見せ場なく終わったのだった……。

         ***

「五番の彼。結果こそ3球三振だけど、よくボールが見えてたね。決め球も紙一重だったし。佐伯の出番は次までだからもう回ってはこないだろうけど、もし二打席目があったらちょっと嫌だったかもね?」

 マウンドを降りる佐伯の元に、女房役の坂田誠二《せいじ》が駆け寄り、先の回の攻防を振り返る。

「……」

 佐伯は何も話さないながらも、小さく坂田の言うことに同意したようだった。
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