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宣託と選択

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「あれま、このお方も騎士様ではないかい」
 造り酒屋が言う。
「騎士をお探しか」
 と、黒騎士。
「いかにも。街を救う騎士様がやってくると御宣託がありましてな」
 言いながら、元金貸しは黒騎士を顔をじっと見据えた。
「拙者はこの地のご領主に呼ばれて駆けつけた者。領民であるおまえたちの願いを聞くまでもなく、皆を救うから安心せよ。悪人は全員斬る!」
 黒騎士は言った。
「魔族やら魔物はどうです?」
 造り酒屋が訊ねる。
「専門外だ」
 黒騎士は即座に断言した。
「あらら、こっちの騎士様は魔物退治は無理かあ。難しいもんだなあ」
 造り酒屋は感嘆する。
「無論、行きがかり上、倒さねばならなら魔物でも魔人でも倒すがな。わざわざ奴らの醜い面は見たくない」
 黒騎士はニヤリと笑って言った。
「エルフは男も女も上玉揃いだがね」
 婆さんが呟く。
「本当はな、魔界の奴らの血で剣を
汚したくないのだ。奴らに触るのもまっぴらだ」
黒騎士は顔をしかめる。
「婆さん、エルフとヤッたことがあるような口ぶりだなあ。金さえ払えば魔族の客もとってたかい」
 元金貸しが口を挟んだ。
「まさか、魔族なんぞ女の子が嫌がるよ」
 婆さんは口を尖らせて言う。
「ごちゃごちゃと…。先にも言った通り、ご領主のところへ急いでいる身だ。そろそろ行かさせてもらうぞ」
 言うなり、黒騎士は馬の脇腹に踵を当てた。それを合図に馬は嘶きと共に駆けだした。
 後には三人の老人と姫騎士が残った。
「あんれまあ、これじゃ、二人の騎士様のうちお一人をわしらが選んだようなもんじゃ。姫騎士様、本当にあんたがこの町を救いに来た騎士様であってるんだべか。後になったら面倒だ。違うんなら今すぐ言ってください」
 造り酒屋が言う。
「なんだそれは。分からぬな。当たるもご宣託。当たらぬもご宣託だろう。私には分からぬ。分からぬのだ」
 姫騎士はうつむいて、含み笑いしながら言った。愚かだが、善良そうな老人たちだ。旅の途中の道草に悪くない。そう思っていた。
「あとで、シスターに報告しようや。騎士様が来た、その顛末を」
 老婆が言い、姫騎士は老婆の家に案内される。
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