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女魔王イブリータの奸計

黒騎士団との晩餐

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 白獅子が変化した猫が目の前に積まれた大きな肉を「ウマイマイマイ…」と鳴きながら喰らう音が響いている。猫族は喋れないはずだが、美味い飯にありついたときだけ、こうした甘えた声を出す。目の前の白い猫が食べている肉の量はすでに自分自身の体積を遥かに超えていた。魔獣でしかありえない大食である。
 どんどん食えよ。今日はオレも懐が暖かいし、うまくいけば、目の前のこいつらがメシ代を出してくれるかもしれない。ガストンは思う。彼の前には黒騎士団たちがいた。上座に座れと言われたのを、食事はもう始まっているからそれには及ばぬと断り、入り口のすぐ近くに座らせてもらっていた。その場所に陣取れば逃げるのも容易だ。知性の欠片かけらもないようにみえるガストンも少しは頭を働かせているのである。
「今日は食事にお招きいただきありがとう。あなたたちに、それぞれの神の加護と祝福を!」
 ガストンが言うと、
「加護と祝福を!」
 と黒騎士団員たちが即座に返す。皆が右手を上げていた。常套句を使った挨拶からでさえ、よく訓練された軍人たちだとガストンには分かる。この町にいる冒険者たちなら挨拶を返すどころか、話を聞きもせず飯を食い続けている。即座に右手をあげることなどできるはずがない。
「挨拶はこのぐらいで。あとはみなさん、お食事しながら聞いてください。私は根っからの冒険者です。いろいろ礼儀を外れることもあろうかと思いますが、ひらにご容赦を」
 丁寧な言葉遣いをしていると自分が自分でないみたいだとガストンは思う。冒険者以外の仕事は知らないし、礼節などお構いなしにガサツに生きてきたガストンだが、よわい六〇ともなれば、耳学問でそれっぽいことが言えるようにはなっていた。
「こたびの魔王との戦いはいかがなものでしたかな。ご心配には及びませぬ。口外するなと箝口令をひいたのは私どもです。報奨金が減ることはございませんから、少しお話しいただけませんでしょうか」
 団長のギルバートが言う。そのとたん黒騎士たちが前のめりになってガストンのほうを見た。皆が話を聞きたがっているのは嘘でも嫌味でもないらしい。一同が目の前にいる小柄な老人の言葉を待っていた。
「ああ。あれは、魔王そのものではなかった、とオレは思っている。本当の魔王だったら、オレなんかいま、生きてないはずだ」
 既に丁寧な口調ではなくなっていることに自分でも気づいたが、付け焼き刃はほどがしれている。地金じがねがでちまうのはしょうがねえし、こいつらも分かってるだろうよ、とガストンは諦めて続けることにした。
「魔王ってのはもっと、もっと、おっかないもんだ。人間なんてすぐにかっさばかれてステーキにされちまう」
 黒騎士団の皆の食事の手がまた止まった。みんな揃って血の滴るようなステーキを食っていたので、気分が悪くなったのだ。せめて、飲み物だけでも、それぞれがカップに入っていた赤いワインに手を伸ばす。
「前の戦いのとき、魔王は人間を潰して血を絞りとっていた。ワインのような赤い血を撒き散らして多くの人間が死んだ」
 ガストンは何も考えずに言う。もう黒騎士団員たちはワインも飲みたくない気分だった。ガストンは注文していた冷たいエールで喉をうるおした。
「かつての魔王との戦いで、あなたが生き延びられたのはなぜでしょう。気をつけていたことはありますか」
 ギルバートが尋ねる。戦訓を得たかったのだ。
「逃げていただけだ」
 ガストンは言う。
「はっ?」
 ギルバートが目を見張って言う。
「オレは戦わなかった。あんなデカブツと槍一本でどう戦うっていうんだ」
 こいつら、言いたくないことを言わせやがるぜ、とガストンは思う。当然、そうなるとは思っていたのだが。魔王の直前、パーティリーダーであった『双剣遣いのエルマー』がガストンに下した命令によるものだった。
「誰かが死ななきゃいけなかったし、誰から生き延びなきゃいけなかった。死ぬ奴らにも家族がいてな。オレたちゃ絶対に死ぬなと命令されたんだ。だから一目散に撤退した。いつも冒険に命を掛けるって言ったのにカッコ悪いったらありゃしないぜ」
 ガストンはあの恐ろしくつらい魔王戦を思い出していた。
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