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女魔王イブリータの奸計

女魔王イブリータ

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 魔族は魔法の生来の遣い手である。人間が到達できないレベルの魔法を易々と発動させ、魔法の発動妨害にも長けている。
「あたちはイブリータ。魔王を継ぎゅ者」
 幼女は舌足らずに名乗った。魔王の後継者。女魔王である。意外に心配性なガストンが予想していた以上の強い敵だ。封印のなかで息を潜め生命永らえていた下級魔族がいるかもとは思っていたが、魔族の頭領が出てくるとまでは思っていなかった。これじゃあ、勝ち目はねえぜとガストンは思う。生まれたばかりらしいが、殺しの腕は確かなもんだとも――しかし、ガストンは気づいた。まだまだ奴はガキだ。彼の目が光った。
「女魔王様、全員を殺したら魔王復活を伝える者がいなくなるんじゃありませんかね?」
 平静を装ってガストンは言った。
 角のある幼女が眉根を寄せてガストンを見る。
「ひょっとして、下等生物の下層階級のゴミクズが、魔族の女王である私、イブリータに話しかけておるのか?」
 目を見開き、後ろ振り返りながらイブリータがつぶやく。誰かが自分の後にいて、そいつに向けて喋ってるんじゃないだろうかと疑うポーズだ。もう舌足らずな喋りではなかった。この幼女は怒ると大人になるらしい。身の丈も少し伸びているように思われた。
 イブリータの様子をみてガストンは槍を地面に置き、ひれ伏した。顔を地面にこすりつけながらガストンは言葉を発した。
「お恐れながら、申し上げます。われらをここで殺しても何も始まりません。むしろ生かして返すが得策かと。私達はみな軽口を叩く下衆ばかりです。あなた様の復活とその強さを話してまわります。伝令がわりに宣戦布告も私達の王にお伝えします。誇り高き魔族にとって必要なことではないでしょうか…」
「殺されたくないということか?」
「はあ、さようでございます」
 平身低頭するガストンを見て、おじさんカッコ悪いなあとソフィアは思う。あんなことをしたら新調したばかりの服が汚れてしまう。彼女は本当の戦いを、そして魔族の恐ろしさを知らなかった。
「わかった。では頭が高い他の奴だけ殺すとしよう」
 つぶやくが早いか、パーテイーの面々の首筋に一陣の風が吹いた。
 赤い衣装を身に付けた若い衆たち。何が起きたのか分からず喉を触ろうとする。その途端、頸動脈から鮮血が迸った。あがった悲鳴が短かったのは、次の瞬間にはもう全員がこと切れていたからだった。首が落ちていた。
 それを見たソフィアが「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。彼女はやっと自分の陥っている窮地に気づいたのだ。冒険者に必要な状況判断の能力が彼女はまだ十分育ってはいなかった。
「分かりました。魔王様。その強さ。その早業。この老人には抜くても見えませんなんだ。そして、どうかお慈悲を。娘もお救いください」
 ガストンは言う。イブリータが何をしたか見えなかったというのは嘘だった。風属性の魔法だ。頭を伏せていてもガストンの頬は空気のゆらぎ感じることができた。彼は熟達の冒険者であったから。
「お前も頭を下げろ。下げねえと殺されるぞ」
 言われて、ソフィアも土下座をした。白いガウンに泥が染み込む。もうその汚れは絶対に落ちないだろう。そもそもを言えば、町で流行のこの服は冒険にまったく向いていないものなのだ。
 ガチャンと音をさせて甲冑姿のクラリスも膝を折った。魔の風に吹かれなかったパーティーの面々も地にひれ伏している。そのなかにはリーダーである剣士アレックスの姿もあった。
「ではお前らは助けてやろう。しかし、お前らの言いなりになるばかりではつまらぬ」
 そして、女魔王イブリータはガストンが最も恐れていた条件を突きつけてきた。
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